科名:ツツジ科
大きさ:背丈1.0~1.5m 横幅0.6~1.5m
”あなたと二人で旅しましょう”
尸魂界に帰還するや否や、馨は五番隊に向かった。
隊長二人にはもう帰って休むように言われたが、何もしていないまま帰るのが落ち着かないと言って押し切って来たのだ。
執務室の戸を叩くと、中からキレ気味の声がした。その喋り方は、現世で会ったひよ里とそっくりだった。
「ハイハーイ! もぉ、なんやねん次から次にぃ!」
「失礼します……」
恐る恐る室内に入ると、中には既に何人か死神がいた。
「あ、なんや馨チャンかいな! 喜助から話は来てんでェ! ちょっと待っとってな」
へらッと馨に笑いかけた彼は所謂おかっぱと言うヤツで、髪の色は金色、前髪を斜めに切りそろえてある。五番隊の隊長羽織を羽織った彼の名前は――何だったか……
馨が戸の隣に立つと、隊長以外の視線が馨に刺さった。
(おい、あれって……)
(ああ、マジかよ……そっくりだ)
ひそひそと聞こえてくる声に不快感を覚えながら馨が黙って立っていると、一人の男性死神が彼女の前に立った。
「多分隊長の仕事はもうちょっと掛かるっす。良かったらこっちに座って待ってたらどうっすか?」
他意のない声に顔を上げると、少しいかつそうな、でも優しそうな顔があった。
「ありがとうございます。あのォ、貴方は……?」
「五番隊第四席の
そう言いながら彼は馨を椅子の方に案内してくれた。二人ほどが優に座れる長椅子が向かい合っておかれており、膝上ほどの高さの机がその間に鎮座している。取り敢えず一人分のスペースに座ると、副官章を付けた女性死神がお茶を出してくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます!」
「あっ、すんません、副隊長! オレがやる仕事だったっすよね」
「えへへ、大丈夫! あたしもお世話になった内の一人だから、これくらいさせてほしいんだ」
そう言いながら彼女は馨の隣に座った。笑った彼女は花が咲いたように柔らかい顔で、馨の不快感は拭い去られた。馨の斜向かいに日下が腰を下ろした。
「あたしは雛森桃! 昴さん……じゃなくて百目鬼さんか。に、入隊時から指導してもらってたの」
「オレもっす! 森田三席とかもなんすけど、今は丁度いないんで」
「そうなんですか」
「せやったら、ここで知らんのんは俺だけかいな」
いつの間にか部屋には四人だけになっており、隊長は日下の隣に座った。正面に馨を見据えた彼は、ゆっくりと口を開いた。
「入隊時以来やんな? 改めまして、俺の名前は平子真子。五番隊隊長や。よろしゅうな」
「十番隊第三席、立花馨です。こちらこそよろしくお願いします!」
そういえば日下と雛森に名乗っていなかったことを思い出し、急いで二人にも頭を下げた。
二人は笑顔で会釈してくれた。
「ほんで馨チャン、虚化しとんのやって? どないな感じなんや?」
「どないな……?」
「どんなッちゅーこっちゃ。もう一人の自分の夢見たり声聞いたりしよるか?」
手を唇に当てて考えてみたが、丸一日そういうものを見たり聞いたりしていない。
そう伝えると、平子は背もたれにギシギシ凭れかかって腕を組んだ。
「せやったら、まだそないに進行しとらんみたいやな。そういうのが増えてきたらすぐ言いや。虚化は始まったらあっちゅー間に進むさかい」
「はい! 増えるって、どのくらいになるんですか?」
「せやな……俺の場合、回数もそうやったが一回当たりの時間が日に日に伸びた。最後の方は、殆ど丸一日もう一人の自分の気配がしとったわ。我慢せんと、ちょっと回数増えたり時間伸びたりしたら相談しぃ。いつでも聞いたる」
「ありがとうございます!」
二人の会話を横から聞いて居た日下が、会話が終わったのを見計らって切り出した。
「立花三席! 斬魄刀を見せてもらってもいいっすか?」
「斬魄刀? 何でですか?」
「だって、あの百目鬼さんの斬魄刀ですよ⁉ 町一つ潰せる破壊力ってカッコ良く無いっすか⁉」
「日下お前、そーゆー話は今度にせぇッちゅーたやろが」
”町一つ潰せる”というのに引っ掛かったが、師匠に好感のあるヒトに悪いヒトはいない、と馨は鞘に入れたまま笑顔で斬魄刀を抜いた。
平子が日下を窘めたのをにこやかに聞いていた馨が刀を前に出した。
「いいんです。それくらいのお願い」
(ええ子やなあ……)
自分が常に比較されていることに嫌な顔一つせずに受け答えしている馨を見て、平子は嘆息した。
(ったく、日下ももぉ少し時と場所を選ばんかい!)
虚化という、魂を根底から揺るがしかねないものに関して相談に来ている彼女はきっと心底怖い筈だ。それを表に出さない馨の心の強さに、平子は正直言うと驚いていた。進行の程度の差こそあれ、ビビりまくっていた一護とは大違いだ。
ただ、馨のは虚化とは少し感触が違う気がする。喜助に聞いてみなければ。
ガシャン、と斬魄刀が乱雑に落ちる音がして平子は我に返った。
目の前で馨が耳を塞ぎ目を固く閉じている。
「ぅ………ぁっ……」
苦しそうな彼女を見て、後の三人が立ち上がった。
「どうしたんすか、立花三席⁉」
「立花さんしっかりして!」
「雛森ちゃん、今すぐ四番隊に連絡しぃ‼」
「はい!」
雛森が執務室を飛び出した直後、馨は気絶した。
平子はそっと彼女を抱えると、四番隊へ駆け出した。
タァンッ
軽い音と共に戸が勢い良く開く。そこから顔を出したのは、一目で不機嫌と分かる顔をした冬獅郎だった。
「立花ァ! だから休んでから行動しろって――」
「日番谷隊長、お静かにお願いいたします」
救護詰め所に飛び込んだ冬獅郎に、卯の花が微笑んだ。勢いを削がれた冬獅郎は、そっぽを向きながら”スマン”、と呟いた。
「立花さんなら、突き当りの個室です。まだ意識が回復していらっしゃいません」
「‼ ――分かった」
長い廊下を進んで冬獅郎が戸を開くと、風が頬を撫でた。
病室の窓が全開になっており、カーテンが風に合わせてひらひらと舞っている。よくある風景だ。
しかしその寝台に――馨の姿は無かった。
「隊長、遅れてスミマセーン! 馨の様子、どぉですか?」
乱菊が呑気にそう言いながら遅れて病室に入ってきた。振り返った冬獅郎の表情を見て、乱菊の顔色が変わる。
「立花が、居ねぇ」
「⁉ 確か今、馨の意識は無かった筈じゃ……」
「ああ。松本は卯の花隊長に連絡してくれ。俺は少しココを調べる」
「分かりました!」
この状況、普通ならちょっとした脱走か何かだと思うだろうが、冬獅郎は念のために喜助に渡された通信機の通話ボタンにかかる親指に力を込めた。
乱菊が部屋を出ようと戸を開いた瞬間――
「うわあっ!」「え、ちょ」「キャッ!」
ドドドッ!
人の倒れこむ音がして冬獅郎がボタンから指を離した。駆け寄ると、乱菊が部屋の方に、二人の人影が廊下の方に倒れている。
「あたた……だ、大丈夫ですか⁉ 立花さん!」
「い
「もお、誰よう?」
「オメーら何やってんだ」
憤怒の表情で冬獅郎は
「あ、隊ちょ「馬鹿野郎‼」――ッッ⁉」
ゴチン
馨の頭上に冬獅郎の拳骨が落ちた。
声も上げられずに馨が殴られた個所を抱えている。
「心配しただろうが! 何処に行ってやがった⁉」
「おおお、落ち着いて下さい、日番谷隊長!」
馨に駆け寄った花太郎が両手を左右にバタつかせながら言った。
「立花さんはつい先ほどお目覚めになったばかりなんです! 報告前に彼女を
終いには両手をついて頭を下げた花太郎を見て冬獅郎は長々と溜息を吐くと、幾分か眼光を和らげた。
「……立花」
「ハイ」
「倒れる前、何があった」
彼の質問に答える為、馨はおずおずと視線を冬獅郎の方に向けた。
その目が揺れているのを見て、冬獅郎は彼女の答えを自ずと知った。
「…………そのォ、実は覚えていないんです」
「なら、何処までの記憶がある」
「えェと、日下さんに僕の斬魄刀を見せようとしたところまでは覚えているんですが、斬魄刀を机に置こうとした後、気が付いたらこの寝台の上に居ました」
「……分かった。兎に角暫くここで寝とけ。仕事は当分やらなくていい」
「ッ! ……はい」
今回ばかりは、馨が口を挟む余地など無い。
しょんぼりとしょげ返った馨を見て可哀相に思ったのだろう。乱菊は冬獅郎に耳打ちした。
(隊長、暫く馨を休ませるなら、明日……いえ、やっぱり明後日くらいに借りてっていいですか)
(理由は)
(明後日、二人で――――)
乱菊の言葉に冬獅郎は思わず乱菊を見つめ直した。彼女の表情はかたくなで、どうせ彼が許可しなくても実行するのは目に見えていた。
彼は悲し気な表情を一瞬した後、それを隠して頷いた。
乱菊の顔がパッと明るくなる。
「ありがとうございます、隊長!」
「声がデケエ!」
急に大きな声を出した二人に馨と花太郎は大きく身体を震わせたが、乱菊はそれに構わず馨に「明後日、出かけるわよぉ!」と言いながら肩を叩いた。
その日、彼女は夢を見た。
何時のかは分からないが、過去の記憶だ。
「たーしーろっ! どうだったよ、首尾は?」
思い切り背を叩きながら言った自分の声に、”田代”が嫌そうに振り返った。
『水島か……声は、掛けた』
「おお! ついにか! ……なら、何でそんな顔なんだよ」
『急にこんな任務が入って拗ねてんだよ』
聞いてるだけで運気の下がりそうな溜息を吐く田代を横目に、その隣を走っていた蔭島が同情したように水島に返した。
『しょうがねえだろって俺も言ったんだぜ?折角昼飯一緒に食う約束取り付けられたってのに気の毒だとは思うけど』
田代は根は良い奴なのだが、こういう所は直してほしい。
「ま、そうそう上手くはいかねえよな。でも最初が何とかなったなら次もあるって。にしても橘十席か~! 実際、どうなんだろうな?」
『どうって?』 『ああ、アレねえ!』
「ほら、百目鬼副鬼道長との噂! お前だって聞いてんだろ? 確かにアヤシイよな。幼馴染にしたって――なあ?」
『う……まあ』
苦虫を嚙み潰した様、というのは将にこんな顔なんだろう。田代が不機嫌そうに向こうを向いたのに対し、後の二人が面白がって追い打ちをかける。
「今日の出撃って確か、――――――だったよな」
『……』
『そんな顔すんなって! 逆にこれはチャンスだろ』
『チャンス?』
「そうそう! 比較対象がすぐ近くにいるんだぜ? 十席に良いとこ見せられるだろ」
『いや、演習通りなら比較は無理だろ……』
『悲観的に考えるのヤメロよ! 上手くいくもんも行かなくなるぜ?』
『うぐ……』
努力は認めるが、相変わらず田代の眉間の皺が深いままだ。
水島は蔭島の方を向くと、やれやれと首を振った。
「田代、折角だから小野原に御高説賜って来いよ。女性の扱いに関しちゃあ、アイツがウチの班で一番だろ」
『アイツ、嫌いだ』
『だろうな! アイツが班で一番、橘十席に話しかけてる!』
『そ、そういう意味じゃねえよ⁉』
「『あはははは!』」
『笑うなあああ‼』
顔を真っ赤にした田代は、なんだかんだ言って怒っているわけではないようで、だからこそいじり甲斐が有ると思うのだった。
――そして、また一つ、溶けてゆく――
あァ、もう
大丈夫。
きっとうまくいく。
なァ、お前だって、そう思ってくれるだろう?
違うなんて寂しいことは言わないでくれよ。
だって――――
そうでも思わなければ、狂ってしまいそうだろう?
最近風邪をひきました。
こんな時期に……
最近の薬は凄いですね。本調子ではないにしろ、一日でかなり調子が良くなりました。
風邪菌には生き難い世の中です。
――何の話だ。
作者は疲れているようです。
この連休で休まないとですね。
皆様も良い休日になりますように!
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!