何故……?
何はともあれ、今回もよろしくお願いします!
ドドドドドドドドド…
薫の後ろで、音が遠のいていくのがわかる。
(やっと撒けた…これで暫くは大丈夫だろう。やれやれ、勘弁してくれ)
薫が安心したのも束の間、さっき知り合った霊圧を近くに感じた。
(先回りのつもりか?今日はまだ業務が残ってるッて言ってるのに、何で彼らは人の話を黙って聞けないんだッ!)
現在彼は、十一番隊隊長、副隊長、及び三、五席に勝負を吹っ掛けられて追われているのである。
十一番隊隊長更木剣八及び、副隊長草鹿八千流には、霊圧知覚の能力が乏しいらしい。二人は薫の後ろを全速力で駆け抜けて行った。
そういうわけで、目下最大の問題は、霊圧知覚の
――――以前の隊長巡りで薫は十一番隊に軽いトラウマを覚えていた。鬼道衆との協力関係の提案をしに行くと、何でもいいと一蹴された挙句、「お前は強いのか?」と剣八が聞いてきたのだ。何でもいいとは、適当なことを言ってくれるものだと思いつつ、「程々には」と答えると、「なら、暇つぶしに戦おうぜ」…ということになった。
(えェ⁉何でそうなる?)
と薫が思うや否や、答えてもいない薫に剣八はいきなり切りかかってきたのだ。スレスレで躱せたのはいいが、その動きを見て余計剣八が熱くなったのは想像に難くないことだろう。
その時は一角と弓親がいなかったからあっという間に逃げ切った。
こういう経緯があったから、薫は十一番隊に行かないようにしていた。十一番隊の席官以上に用事があるときも、代わりの鬼道衆の者に頼んで行ってもらっていた程だ。だが、今はそうもいかない。
(はァ、柄にもなく親切をするからこんなことになる。いや、でも、あれはやっぱり僕が行くべきだったしなァ)
――三十分前――
「薫さんはいらっしゃいますか?」
七緒が届け物だと書類を持ってきてくれた。十三番隊と五番隊との合同演習が思いのほか好評だったようで、その噂を聞いて京楽隊長が‘‘僕ンとこでもやりたい!‘‘と言ってくれたそうだ。結果、次は八番隊と演習を行うことになった。その関係書類だろう。なんでも、噂を聞いた隊長は、「そんなの聞いてないよ⁉何で僕も混ぜてくれなかったのさ~?」とちょっと怒ったらしい。兎も角、そういう機会が広がっていくのは良いことだ。
書類に不備がないことを確認し終えると、七緒は鬼道について二、三質問をしてきた。彼女は今でも霊術院の図書を読み漁っているようで、その解説を頼まれた。こんなに熱心に勉強している者は、鬼道衆にも少なかろう。
解説を終えると、七緒が深くため息をついた。解説が解りにくかったかと聞くと、どうやら違うらしい。
「実は、これから十一番隊に書類を届けなければいけないんです」
おおゥ、こんな小さな子供に十一番隊は刺激が強すぎるだろう。書類を届けるだけとはいえ、京楽隊長ももう少し配慮してあげればいいものを…
というようなことを呟くと、違うんです、と七緒が首を横に振った。
「実は、間違って持ってきちゃったのは私なんです。昼までには届けるように書いてあるので、もうここから直接届けないといけなくて…」
十一番隊に時間厳守なんてものは有るのだろうか?正直、隊舎内に未処理の書類が溜まりに溜まっているのを薫は知っていたからそんな必要はないと思ったのだが…真面目な彼女のことだ。きっと届けなかった方が引きずるだろう。
「なら、僕が届けに行きましょう。丁度この後、あそこに用がありますから」
「本当ですか!…でも、やっぱり自分のミスなのに…」
「良いんですよ。こういう時は大人に頼るものです。それに、元々はここだけに届ける予定だったのでしょう?それなら、回り道などさせると僕が京楽隊長に怒られてしまいますよ。彼を心配させちゃァいけない」
「……ありがとうございます」
申し訳なさそうに頭を下げる七緒に、真面目も程々にと注意しておく。例え死神でも、彼女はまだ子供だ。どうしても嫌な時は大人に甘えられるようにならなくては、いつかどうしようもないことに直面した時にうまく割り切れなくなる。そういう意味では、彼女はしっかりしすぎていて心配だ。
と、呑気に薫が考えていられたのも、十一番隊に足を踏み入れる前までなのだった。
十一番隊に入ってすぐに目に入ったのは、スキンヘッドで目つきの悪いのと、おかっぱ頭でまつ毛に装飾をした二人の死神だった。
「そこの方、どなたか席官の方はいらっしゃいますか」
「あぁん?何だお前、席官に用があるのにその顔も調べずに来たのかよ。嘗めてんのか?どこの所属だ?」
「どうもすみません。僕ァ鬼道衆の「鬼道衆だと?」…えェ。書類を届けに参りました。これなんですが」
と書類を差し出すと、おかっぱ頭の方が受け取ってくれた。
「わざわざどうも。僕は五席の綾瀬川弓親だ。隊長の部屋に置いておくよ」
「よろしくお願いします。では、失礼しました」
剣八に見つかる前に逃げようとすると、スキンヘッドの方に肩を掴まれた。
「ちょっと待てよ。お前、鬼道衆っつったな。副鬼道長が今どこにいるか知んねーか?」
よりにもよってソレを薫に訊くとは。
ついさっき自分で言った言葉を思い出してほしいものだ。
「…知りません。言伝があれば伺っておきますよ。お名前を先に伺っても?」
「ああ。俺は十一番隊第三席、班目一角だ!お前んとこの副鬼道長に、‘‘ちょろちょろ逃げねぇで、堂々と勝負しに来い‘‘っつっといてくれ。今あいつは隊長の獲物だが、俺も一戦交えてみたいんでな」
そう言うセリフは正式に勝負を受けた者に対して言ってほしい。薫は一言だってそんな事を受諾した覚えはない。
「はァ、分かりました。百目鬼副鬼道長に必ずお伝えしておきます。それでは」
「ねぇ、百目鬼さん」
「はい?…あ」
早く逃げようと会話の終息を急いだのが運の尽き。弓親のカマかけにうっかり返事をしてしまった。弓親は‘‘やっぱり‘‘という風に肩をすくめ、一角は‘‘馬鹿にしやがって‘‘と言わんばかりに俯いて肩を震わせ始めた。
「縛道の六十三、
「あっ、てめえっ!離せこらッ!」
一角に縛道をかけ、薫が全速力で脱出しようとすると、目の端で、剣八が動いたのが見えた。
ドゴゴゴッ!と剣八の剣が薫の立っていた地面に連続でめり込む。三連続で回避行動をすることになるとは。剣八の反応速度は速すぎる。
「チッ、ちょろちょろすんじゃねえ!」
「馬鹿言わないでください!帰るところなんですから!僕ァこの後も仕事があるんですから、余計な体力を使わせないでください!」
「怪我の心配をしないたぁ余裕有んじゃねえか!楽しめそうだぜ!」
「そう来たか!勘弁してくださいよォ!」
結局、薫は世界で一番物騒な鬼ごっこに巻き込まれてしまったのである。
「伸びろ、〈鬼灯丸〉!」
「ッ!」
薫は後ろからの突きをしゃがみながら躱し、低く回し蹴りを入れて一角の足を払いに行った。一角はそれを高く飛んで躱した。空中に逃げるとは、安易な考えだ。
「縛道の三十七、
霊圧をハンモックのように出現させるこの鬼道は、本来使用者が落下時に空中から放つことで、周りにある物へ使用者を支える為の腕を伸ばして使用者を受け止める。それを、空中に飛び上がっている者に使うとどうなるか?実は――
「うおっ⁉何じゃこりゃあぁ!」
――支えを見つけられない吊星の腕は、地面に衝突しても使用された者に衝撃が加わらないように、巻き付いてクッションのようになる。試してみると、かなりのエネルギーを吸収できることが分かったが、一角のように初見で使われたらきっと怖いだろう。何せ、巻き付いた腕はガッチリと一角を捉えていて、彼の腕も足も動かせないのが表情でわかる。顔が見えているなら、頭の衝撃は吸収できないな。やはり、この方法は術の掛かり方にムラがある。
自由落下してくる一角が落ちてくる地点で刀をバットのように構える。勿論鞘に入ったままだ。
「さらばだ、班目三席。どこに飛んでも、顔以外は打ち身一つしないことをお約束しよう」
「てめぇ、まさか…おいッ、やめろぉ~!」
ブンッ!
思い切り斬魄刀を振ったが空を斬った。
…空振り?
「流石にこれは手を出させてもらうよ、一角。大方、彼に追いついてテンション上がって何も考えずにちょっかい掛けたんでしょ」
声のした方を見ると、弓親が一角を脇に抱えて立っていた。緑色のクッションから頭を出したみたいになっている一角を。
「チッ、その通りだけどよ」
「綾瀬川五席…早かったですね。他の隊の五席ではこうはいかない。十一番隊は喧嘩っ早い人が多いが、隊の能力も高いというのは本当のようだ」
「それはどうも。ところでこの一角を縛ってるもの、取ってくれませんか?一角が飛び出さないように見張ってますんで」
「…うーん」
俯き気味に顎に手を当てて何かを考えていた薫は、顔を上げるとにこりと微笑んだ。
「では、綾瀬川五席が班目三席を覆っているそれの正体が解ったら解いて差し上げます」
「あっ、てめえっ!」
一角が何か言おうとしたのを無視して弓親は思案した。この色、この感触…どこかで…
「えっ、まさかこれって、吊星?」
「御明察!一回で当ててしまうなんて凄いですね」
一瞬固まった後、弓親は笑い転げた。
「あははは!一角、君ったら、最初の縛道よりも番号の低いのを食らって戦闘不能になっちゃったの⁉一角の方が不意打ち仕掛けたのに⁉」
「うるっせぇぞ、弓親あぁ!百目鬼、お前も可哀相なものを見る目すんな!お前が誘導したんだろうが!そういうとこ、本当に浦原喜助にそっくりか⁉」
刹那、薫は動きを止めた。何故そこで喜助の名が出てくる?
薫の気配の変化に気付いたのだろう。一角と弓親も、もう表情はなく、真剣そのものだ。
「…はァ、昴が教えちゃったのか。班目三席が僕と戦いたい理由はそれですか?」
「ああ。あの人に師事してた奴なんて他にいないが、あの人の戦闘能力は凄まじかった。そんな人に――浦原喜助に仕込んでもらってた奴がどれほどのモンなのか、知りたくなっちまう気持ち、分かってくれるよなぁ?」
「わかりませんね。というか、貴方はあの人を分かっていない。あの人の凄いところは―――恐れるべきところは、戦闘能力じゃァない。千手先をも見通す、その頭脳なんですよ。貴方が今そんな状態になっている時点で、貴方の負けなんですよ。――色々とね」
はんッ、と小馬鹿にした風に薫が息を吐くと、一角は顔を真っ赤にして怒った。
「屁理屈ばっか並べてんじゃねえ!取り合えず、これを外せよっ」
「これは失礼、約束でしたね。綾瀬川五席も、約束守ってくださいね」
「ええ。でも百目鬼副鬼道長、どうか一角と一戦交えてやってくれませんか?一角が言葉で諦めるタイプじゃないのは、見ててわかるでしょ」
それはまあ。弓親のしてみればいつものことなのだろう。諦め顔で薫に言ってくる。そこまで言われたら、受けざるを得ないじゃないか。
「…やるにしても、今すぐには駄目です。仕事がありますから。今日の午後七時に鬼道衆の道場でどうです」
「「!」…ありがとうございます」
「綾瀬川五席、いつも大変そうですね」
「そうでもありませんよ。自分で選んでつるんでますから」
どういう意味だ⁉と薫に掴みかかろうとした一角を、弓親は約束通り止めてくれた。
(鬼道は無し、斬魄刀の開放もなし、使えるのは白打と剣術のみ、か。剣術って言っても木刀だから、純粋に身体能力の競い合いだな)
(来るッ)
「しゃおらぁッ!」
一角が大きく一歩を踏み込んでくる。荒いが隙の少ない型だ。見たことのない流派だが、我流だろうか。これでもう少し静かに戦えたら言うことはないのだが…
カンッ!カッカッカッカンッ!
木と木が弾き合う音が道場に木霊する。上段の構えから一角が振り下ろした刀を薫が横薙ぎに払うと、今度は剣を真横に持ち、短い突きで距離を詰めてくる。鋭い突きだが、まだ一角は本気ではないのだろう。様子見はお互い様だ。
(そろそろテンポを変えてみるか)
カァン!
突きを弾く力を強めると、切っ先が大きく横に流れた。薫は一角の木刀の流れた方に低姿勢で踏み込むと、一角の木刀を持っている方の腕に自分の木刀を下から上に振り上げた。
(気に食わねぇ)
一角はさっきから突きの速度を少しずつ上げているのに、平然と薫はそれを捌いていく。
(いつまでも涼しい顔をしてんな!)
一瞬乱れた剣筋を力を込めて弾かれた。と同時に薫が木刀を持っている方に踏み込んでくる。
(まずいッ、このままじゃ腕が――)
咄嗟に薫の木刀が振り上がるのと同じ方へ飛び上がり、薫の一斬を回避する。すると薫が鬼道を放つポーズをとった。
(また吊星か!)
吊星に備えて両腕を顎のあたりで交差させて一角が身構えると同時に薫の姿が視界から掻き消えた。かと思うが早いか、
薫が真下から一角の鳩尾に白打で突きを入れたのだ。鬼道はルール上禁止していたのを今更ながら思い出す。
「ど…めき…てめ、フェ、と…タねぇ…」
「フェイントが汚い?馬鹿言っちゃァいけない。これは立派な戦術だよ。というか、君は咄嗟に高く飛びすぎる。直したほうが良い」
そこまでは聞こえたが、それ以上は意識が遠のいて一角には聞こえなくなった。
完全に伸びてしまった一角を見て、やっちまったと薫は思った。
(どうしよう、これァ僕が十一番隊に運ぶのが礼儀なんだろうが、更木隊長にだけは捕まりたくない。いっそここの客人用の寝室でも貸しておくか?)
「終わったみたいですね。なら僕が連れて帰りますよ」
慣れた口調でいう弓親に、薫が掛けた言葉以上の感謝が入っていたことを、弓親は何となく察していたらしかった。
「では、また(どうせ一角が負けたことを聞いたら隊長も来るのでその時はよろしくお願いします)」
弓親が去り際に残していった笑みの意味に数秒後気付いた薫は、
(もォ二度とお節介しない!)
と、項垂れながら出来もしない誓いを立てた。
最後まで読んでくださってありがとうございます!
今回は本気で‘‘閑話‘‘って書こうか迷いました。
分量的にも内容的にも完全にそうとは言えないのですが…
更木隊長に追われたら逃げますよね。
正面切って戦うとか…
やるとしても、主人公は原作主人公、一護みたいに派手には出来なさそうです。
ちなみに、吊星の設定も独自のものです。
普通は…上に打ちませんよね。
描写が分かりにくかったらすみません…
寝袋に入ってるみたいになってるイメージです。