紫苑に誓う   作:みーごれん

9 / 56
今回も読んでくださってありがとうございます!

投稿する度に、‘‘今回の話は受け入れて貰えるだろうか‘‘とビビりながら寝てます。
このメンタル、何とかならないものか……

そしていつも思うのは、各話の題名決めるのって大変だという事です。
今回は作者の謎のこだわりで決めました。
変える可能性もあるかもです。



実戦

「何か、弁明は有るかな?橘昴十三番隊第十席殿?」

「いやあ、だって教えてあげたくなっちゃったんだから仕方ないだろ⁉」

 

薫の昴に対する質問は、勿論――‘‘誰に、何故、薫が喜助に戦術の手解きを受けていたことを教えたのか‘‘だ。無表情で誰に教えたかを問い詰めたら、やちる・七緒・ギンの三名だったことが発覚した。明らかに相手が子供だったから口を滑らせたことがわかる面子だ。

 

「というより、何であの人に教えてもらってたこと隠すんだよ⁉ケチケチすんなよな。一々怒っちゃってさ」

「この前そのせいで班目三席に勝負を吹っ掛けられたんだぞ?七緒殿と市丸三席はともかく、草鹿副隊長に教えるのは止めてほしかった…」

「わ…悪かったって!あ~、それなら薫、この任務が終わったら奢る!何がいいかな。やっぱ酒かな」

「完全におっさんの償い方だな」

 

あ、これはおっさん方に失礼か、と言うと昴の突きが脇腹に刺さった。

 

「グフッ…まァ、取り合えず今は任務に集中だな」

 

現在、薫率いる鬼道衆計五名と昴率いる十三番隊隊士六名は南流魂街に向かっていた。どうやらそこで、三体の(ホロウ)が発見されたそうなのだ。それだけでも普通より多いのだが、今回薫たち鬼道衆まで派遣されたのには理由があった。―――町の非常に近くで虚が発見されたのだ。合同演習の成果を示す意味で、十三番隊と組んで行動することになった。

 

 

 

 

 

 

目的地に着いた昴は目を疑った。虚の数が報告と違う。5、いや6体か。鬼道衆は基本、結界用の要員で、戦力にならないだろう。虚の数の倍戦力を連れてきたはずが、同じ数になるとは。状況次第で薫の力を借りることになるかもしれない。

 

「結界配置を急げ!一匹たりとも町の土を踏ませるな!」

 

薫の号令が聞こえる。

 

「鬼道衆に続け!演習通り、結界が張れるように虚を誘導するぞ!」

 

鬼道衆が配置を終えた合図が出た。

 

「全員、結界内での戦闘配置!」

 

昴の指示で昴の他の五人も体制を整える。と同時に結界が張られた。これで虚が町を襲う心配は無いわけだ。

 

「掛かれ!」

 

戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

(昴…押されているな)

 

元々、虚に対して倍の人数で対応するつもりだったのだ。当然と言えば当然の結果だが、加勢に行くべきか薫は考えあぐねていた。

 

(これは元々この布陣を前提とした戦い方だ。副鬼道長なんてイレギュラーな勢力はそうそう現れない。見たところ死者が出るような状況でもないし、待っていたほうがいいか…?)

 

などと考えていると、彼の斬魄刀が耳打ちした。

 

『薫様、決して振り向かないで聞いてくださいまし。後方にある針葉樹の後ろに三人おります。姿も霊圧も隠しておりますが、わたくしは誤魔化せません』

 

「⁉」

 

薫には全く気付けなかった。そこまでして隠れているのだ、偶々ここに居合わせたなんてわけはない。

 

「ここは一旦任せて、僕は周りを警戒してくる。結界を切らさぬように。何かあったら連絡してくれ」

 

結界の四隅のうち一角を担っている者に言伝(ことづて)て、何気なく辺りを見回しているふりをする。例の針葉樹まで、あと一歩―――

 

「グアアァァァァ!」

 

凄まじい叫び声がした方を向くと、そこから結界が解け始めている。

 

(あそこの担当は、水上⁉今の悲鳴は一体……)

 

気が付くと、もう一角も解けていく。

 

「まずいッ―――四獣塞門(しじゅうさいもん)‼」

 

元々張っていた結界を取り囲むように、一回り大きな結界が出現する。

 

軍相八寸(ぐんそうはっすん)退()くに能わず・青き閂 白き閂 黒き閂 赤き閂・相贖(あいあがな)いて大海に沈む 竜尾の城門 虎咬の城門 亀鎧(きがい)の城門 鳳翼の城門―――ッ!」

 

後述詠唱で何とか形にはしたが、これではそう長くは持たない。早く現場に戻らねば。昴たちを中心にして張ったため、ここはギリギリ結界内というぐらいだが、何かが動く気配はしなかった。恐らく、先ほどの何者からは中に入っているだろう。

 

ザンッ…

 

振り向きざまに木ごとその辺りを斬ると、血が垂れるのが見えた。二人分、ということは、一人は結界外に出てしまったようだ。斬られたせいで集中が切れたのか、一切感じられなかった霊圧が漏れてきた。

 

 

―――――――藍染と東仙のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

(こちらに気付いたのか…?)

 

藍染達は、浦原喜助が残していった霊圧を遮断するコートを纏い、曲光をベースにした鬼道をかけて完全に自分達の姿を隠していた。もし薫が()()()()()()()()()()()()()()()()凄まじい精度だ。

 

(動くと気取られる)

 

咄嗟にそう判断した藍染は、後の二人に動かないよう指示を出し、元々の予定を前倒した―――結界係の鬼道衆を、外に置いていた虚に襲わせたのだ。

結界が破れていく様を見て薫が四獣塞門を放ったのを見て、藍染は心の中で舌打ちした。

 

(腹立たしいほどに冷静な男だ。しかも、後述詠唱とはいえ四獣塞門をこうもあっさり使うとは…ギンも外に出されてしまった。さて、これからどう動こうか)

 

「こちら鬼道衆・十三番隊合同部隊、百目鬼薫。至急南流魂街に応援要請。虚の数が報告より多く、苦戦中。結界も破られた。これから被害状況の確認に向かう」

 

薫はそう通信機に告げると、通信を切り、いきなり藍染と東仙に向かって斬撃を放った。霊圧で防ごうとしたが、着ていたコートの端が切れたのを目の端で捉えると藍染は霊圧を逆に抑えた。

 

(霊圧が漏れるのは不味い。個人が特定される可能性が高い。ならば、多少血を流してもここは受け流すべきだ。どうやったかは知らないが、ここに誰かがいるのはもう分かっているのだろう。どうせ血液の物証さえ渡らなければ私には辿り着けない。全く、大した実験をするつもりでも無かったのにここまで私が追い詰められることになるとは…)

 

藍染の誤算は、思った以上にコートが切られてしまったということだ。

薫は一瞬動きを止めたが、部下の霊圧が消えたのを感じたのかすぐに引き返していった。

 

「要、計画を変更しよう。彼には今日、ここで死んでもらう」

 

藍染が指示を出すと、東仙は静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「水上…田辺…沢渡…米沢……………皆、やられてしまったのか…?」

 

元有った結界の四隅には、薫の部下だった者たちが、既に息の根を枯らして倒れていた。

 

(皆、すまない…!僕があの時離れなければッ!)

 

薫は興奮してしまった自分を律し、息を整えた。

 

「この代価、支払ってもらうぞ。藍染、そして、藍染に従う者たちよ。

 

 

 

 

 

 

―――――――さざめけ、〈波枝垂(ナミシダレ)〉――――――」

 

 

 

 

 

 

刀の形が変化していく。長さの違う音叉の様な、刀とは言い難い形だ。

 

「二ノ型――――陽炎(カゲロウ)

 

薫は今、藍染を斬ることしか考えていなかった。

これが、どんな悲劇を生むかも知らずに―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「薫ッ!バカ、何やってんだっ!」

 

 

 

「さらばだ、百目鬼薫」

 

 

 

「昴ッ!こっちに来るな!来ないでくれッ!」

 

 

 

 

ザンッ…

 

森の地面がいくら血を吸っても、その流れが止まることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

薫からの応援要請が届いてから派遣されたのは、清之介率いる四番隊五名と都率いる十三番隊六名だった。

 

薫から‘‘これから状況の確認に入る‘‘という一報が入ってから、結局何の情報も回ってこなかった。どうしても連絡できない状況にあるのか、確認中に薫に何かあったのか…

昴からの連絡もないということを踏まえると、相当事態は逼迫していると見るべきだろう。

 

(どうか無事でいて―――)

 

都は、逸る気持ちを抑えて現場へ走った。

 

「都三席!あれは…!」

 

現場まではまだあるが、大きな結界が目に入った。あれは四獣塞門!あんなものを使えるのは、あのメンバーでは一人しかいない。

 

「薫君!良かった…無事だったのね」

 

 

 

 

 

 

近くまで来ると、その大きさがより分かる。薫の姿が外にないということは、彼もまた中で戦っているのだ。

 

(これの形を留めつつ戦っているなんて…)

 

相当消耗しているはずだ。どうやって中に入ろうか、などと都が考えていると、唐突に四獣塞門が消えた。

 

「総員、戦闘に備えて!まだ、中の状況がわからないわ!」

 

 

 

 

 

 

中は、既に虚の姿こそ無かったが、惨憺たる有様だった。かなりの隊士が合い討っている。

 

(誰か…誰か生存者はいないの?)

 

先ほどから目の端に映りこむ違和感を否定してほしくて都が周りを見渡した時、よく見知った後姿を見つけた。

 

「昴ちゃん!無事だったのね…!良かった。―――昴ちゃん?」

 

昴から反応がない。見ると、昴は倒れた誰かを横向きに抱えるように座り込んでいた。

 

「昴ちゃん、しっかりして!その隊士は怪我人?だったらこちらに」

「…しました」

「え?何て言ったの?」

 

昴が抱えている隊士の顔が見える。それは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしが、ころしました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――薫の息絶えた姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、先に出発した計十一名のうち、生存した状態で発見されたのは昴ともう一人の隊士だけだった。昴は薫を自分が殺したと供述する以外のことには沈黙し続けていた。重傷を負っていたもう一人の隊士が意識を取り戻すと、結界内での出来事を次のように語った。

 

「虚が手に負えなくなってきたころ、百目鬼副鬼道長が加勢に来てくれたんです。それから虚を一気に殲滅できたんですが…その、実は、百目鬼副鬼道長が急に錯乱したんです。味方を斬り捨て始めて…どうしようもなくなって、最後は、橘十席と斬り合いになりました。どれだけ十席が呼び掛けても反応が無くてっ…!本当に、どうしてあんなことに…」

 

 

薫の斬魄刀には被害にあった四名の血液が付着し、昴の斬魄刀には薫の血が付着していた。また、都が感じていた違和感―――隊士の致命傷となった刀傷―――も、薫の斬魄刀で斬られた時の傷に一致した。加えて、薫は相当霊圧を消費しており、心身共に消耗していたと考えられた。

 

これらから、隊士四名を殺害したのは百目鬼薫であると四十六室は裁定を下した。彼の衰弱に際して彼の霊力及び魂魄自体が暴走し、周りの者を全て斬り捨てようとした、と。本人が死亡しているため、この件がこれ以上取り扱われることは無かった。自衛のためやむなく薫を斬った昴は、謹慎五日を申し付けられただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

謹慎中、昴は誰の訪問も受け付けなかった。それがたとえ、直属の上司である浮竹だろうと、幼馴染である花太郎だろうと、その姿さえ見せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

昴の謹慎が明けた日、浮竹十四郎は彼女に何と話しかけようか、体調が良いわけでもないのに部屋を歩き回りながら悩んでいた。

 

(本人たちがどう思っていたかは知らないが、彼らは幼馴染以上に、自分の家族のように過ごして来ていたのだろう。そんな家族を自らの手で殺めてしまった者に掛ける言葉…)

 

「浮竹隊長、橘です。失礼します」

「あ、ああ!入ってくれ」

 

部屋に入るなり、昴は土下座して頭を床につけた。

 

「この度はすみませんでしたああああああぁぁッ!」

「うおっ⁉何だい、いきなり!橘が謝ることなんて何もないだろう?」

「何も?いやいやいやいや、折角お見舞いに来て下さったのに追い返したり、謹慎食らって五日も業務をすっぽかしたり…本当にすみません!」

「そんなことかい?良いんだよ。傷心中のところに押しかけてしまって、僕の方こそ済まなかった。仕事だって、みんなで分担して何とかなっていたし…兎も角、橘。本当に、大丈夫か?」

「大丈夫です!今日からはバリバリ働きます!」

 

「誰だ!今隊長室に居やがんのは‼隊長は今調子(ワリ)ぃんだ、静かにしねえと放り出すぞ!」

 

海燕が襖を怒鳴りながら開けた。明らかに彼の方が声が大きい。

下げていた頭を上げて海燕を見上げると、彼は目を見開いた。

 

「橘…!そうか、今日謹慎明けだったな……大丈夫か?」

「隊長と同じことを聞くんですねェ。大丈夫ですって!五日も休んだんですから」

 

一瞬海燕の眉が引き攣った。その直後、彼はグッと厳しい顔になった。

 

「…‘‘五日も休んだ奴‘‘は、そんなクマ作んねえんだよ。馬鹿。今日はもう帰って休め」

「まだ朝ですよ⁉嫌です帰りません」

「丸一日寝とけ!そんな顔した奴は仕事なんか出来っこねえよ」

「えェ~⁉嫌ですよォ!だって――寝てると思い出しちゃうんです。あいつを斬った時の感触を」

「「…………」」

 

これは相当重症だ、と海燕と浮竹の二人は思った。目のクマや顔色だけじゃない。悪夢のこともそうだが、口調の端々に薫の癖が出ている。以前の昴は、口調こそ雄々しかったが、薫の様な独特な癖というものは無かった。だからこそ、謹慎五日を開けた昴は、どこか別人のようだった。

 

(正直、見てらんねえよ……)

 

海燕を含む以前の昴を知る者からすれば、その変化は見るに堪えないものだった。

 

豪胆な笑い方は影を帯び、以前ほど大胆に発言したり、行動したりしなくなった。口数は減ったし、ぼうっとしていることが多くなった。

何より、薫を真似(マネ)たように彼女の口に上る独特のクセ…

 

 

 

‘‘亡霊が取り付いているかのようですね‘‘と誰かが言った。

 

 

 

 

 

そんな昴に、事件から数か月後、来客があった。

 

「花…!」

「お久しぶりです、昴さん」

「久しぶり…あれ、花、その死覇装、もしかして」

 

久しぶりに会った花太郎は、以前会った時の霊術院生用の制服ではなく死覇装を着ていた。

 

「そうなんです!二人からは大分遅れちゃいましたが、やっと護廷十三隊に入隊できたんです!」

「そりゃァ良かった!しまった、すっかり忘れてた。何かお祝いしなくちゃな」

 

えへへ、と花太郎が照れる。

 

『お前、やっぱり忘れてたのか。花、可哀相に』

 

懐かしい声が聞こえた気がして振り返る。違う。あいつはもうここにはいない、と昴は首を振った。

 

「昴さん?」

「あァ、何でもないよ。何か欲しい物とかあれば買ってやるぞ!席次持ちってのは給料が良いんだ!っと、そういえば、花は何番隊に入隊したんだ?」

「四番隊です」

「そうか、兄さんと同じとこに行ったのか。しかし、副隊長の弟なんて風当たりきつかったりしないのか?」

「そんなことないですよ!皆さん良くして下さいますから。それに…」

 

花太郎が呼吸を正し、昴を正面から見据えて言った。

 

「僕はもう、誰も喪いたくないんです。薫さんに言いたかったこと、やってほしかったこと、色々有りました。だから―――」

 

そこまで聞いて、昴はギュッと目を閉じた。花太郎の正面からの言葉は、昴の胸を抉っていた。あいつを殺してしまったのは紛れもなく自分だ。どんな言葉でも、受け止めなければならない。

 

「―――昴さんとは、沢山話します!やりたいことに沢山付き合ってもらいますし、逆に昴さんの言いたいこと、やりたいこと、何でも教えてください!それに僕、誰がどんな怪我を負っても治せるようになります。もう、昴さん一人に背負わせたりしませんから!」

 

…そうだ。花太郎は昔から、変なところでしっかりしてる奴だった。顔を上げて、花太郎を見る。

 

「何でも、は無理じゃん?」

「た…例えですよ、例え!それくらい、気兼ねなくってことです!」

 

ワタワタしている花太郎を見て、昴は久しぶりに「あははは!」と声を出して笑った。

 

(そんなの無理だよ、花)

 

胸がチクリと痛んだのは、昴だけの秘密だ。

 

 

入隊祝いには、白足袋が欲しい、と花太郎に言われた。先輩から、四番隊は足袋で隊舎内の移動が多いためすぐに悪くなるから、良いものを買った方がいいと言われたのだそうだ。

いまいちパッとしないセレクトだが、花太郎らしいと言えばらしい、か。

 

 

 

後日、三足組で渡したら、文字通り飛び上がって花太郎は喜んでいた。早速、入隊から履いてきていたものを潰したらしい。仕事熱心も程々に、と注意しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は目を覚ますと、起き上がって目を閉じた。

 

「誓うよ。もう、ただ一人を除いて誰も殺さない。お前の元へ必ず辿り着く。それに…藍染を――殺す。だから、待っていてくれ―――――」

 

 

彼はそっと、その双眸を開いた。

 

 

「―――――――――――――――――昴」

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。