Fate/chaos 作:逸環
あ、主人公もだ。
ガキンッ!キンッ!
と、剣と槍が打ち合う音が響く。
「クッ!その容姿に騙された!まさか、剣が使えるとはな!」
「私の容姿は関係ないでしょう!?」
そう、今ランサーと打ち合っているのは、スキルである『気』を使用しているジルの方だ。
ここに来るまでに、骨董屋で買ってきた西洋剣に俺の因子を五匹ほど纏わせた物を振るっている。
まあ、
「ほら、そいつばかりに構ってると、俺の槍がぶち抜いちまうぞ!」
「クソッ!」
前方のジルの身体を掻い潜りながら、俺の槍もランサーを穿とうとするわけだが。
前方に剣を持ったジル、後方には槍を持った俺。
ランサーがジルを突こうとすれば、まずそれをジルが弾き、俺が突く。
俺を突こうとすれば、その懐にジルが入り斬る。
二人を二槍をもって同時に貫こうものなら、
「その黒子、もらったぁ!」
「クッ!」
無理な体勢で放たれたそれをいなし、どちらかが一方的に攻撃できる。
この陣形は、ある意味俺たちだからこそ成り立つものだ。
本来、前方に味方のいる状態で槍を突くことは難しい。
それは当たり前だ。
敵の前に味方を突いてしまう可能性のほうが、圧倒的に高いのだから。
だが、俺たちならば心配はない。
なぜなら、
「そぉらっ!」
「ムッ!」
「なにっ?!」
たとえジルの身体を目暗ましにして、その身体ごと貫こうとしてもジルなら避けられるからだ。
ここは同じ戦場を駆けた仲のなせる業だよね。
いや、別に一緒に戦場で戦ったことはなかったな。
あれか、決闘の時のあれか。
あれでお互いの動きを理解したと。
でも、あの頃は槍を使ってなかったしな。
「いったいどうしてだ」
「何のことか分かりませんが、とりあえずなんとなく分かるとだけ言っておきましょう」
なるほど、分かりやすいな。
………ジルは、直感のスキルを持っていただろうか?
持っていなかったはずなんだが。
しかしランサー、さすがは英霊だな。
完全に見えない一撃を、こうもあっさり避けるとは。
だが、俺たちの勝ちは揺るがない。
震脚を使い、ジルごとランサーの足元を崩してバランスを失ったところを刺し貫いてやる。
はずだった。
擬音化するのも難しいほどの、爆発音。
崩れる足場、視界から消えるジルとランサー。
ここで思い出すことが一つ。
「あ、俺とジルの幸運のランク、二人ともEだったわ」
俺の本来のランクはCだが、少なすぎる魔力供給のせいで落ちてしまっている。
低い、あまりにも低い。
ちなみに、後から知ったことだがランサーの幸運もEランクらしい。
この爆発によるホテルの倒壊のせいで、脱出するのに精一杯だった俺たちの勝負は、有耶無耶のまま終わった。
「死ぬかと思ったなー」
「ええ、本当に」
「お客さんたち、もう一本どうだい?俺のおごりだよ」
「お、悪いね親父さん。ありがたく貰うわ」
「ありがとうございます」
「いいってことよ!」
以上、帰宅前に寄った屋台での会話。
前髪を逃がしたせいで不味かった酒も、気前の良い親父さんのおかげで、後半は美味かった。
今度は、ジャンヌを連れて行こうか。
決着は切嗣な外道の爆破解体により邪魔されました。