聖陵院武谷は勇者である   作:ソウブ

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12話 スコーピオン・バーテックス

 円陣のあと、ぼくたちはバーテックスを迎え撃つための行動を開始した。

 それぞれ丸亀城の正面、東、西に散開していく若葉さん、友奈さん、タマさん。

 杏さんは後ろから指示と援護、千景さんは交代まで待機だ。

 

杏「武谷さんはグングニルを温存していてください」

 

 ということで、ぼくも待機だ。

 

 千景さんがぼくを見て、近づいてきた。

千景「聖陵院くん……悩んでるなら、言って。頼って」

 やはり、千景さんに不自然に思われてたか。

武谷「ぼくにできることは、みんなと協力してバーテックスを倒すことだけだよ。そしてそれはちゃんとするから問題ない。そうだろう?」

千景「違うわ……」

武谷「どうして?」

千景「聖陵院くんにできるのは……バーテックスを倒すことだけじゃない」

千景「私を、救ってくれたじゃない……」

千景「それに、生きているだけで価値を認めてくれると言ってくれた……だったら、私も聖陵院くんが生きているだけで価値を認めるわ」

 

 …………。

 

武谷「ありがとう。でも、悩みなんてもう無いんだ。これは本当だよ」

 

 ぼくは笑った。

 これ以上追求されたくなかったし、嬉しかったのも本当だから。

 

 ぼくはみんなを守るよ。

 そんなことを言ってくれる千景さんたちを守りたいんだ

 

 千景さんは、少し腑に落ちなさそうにしながらも、それ以上は何も言ってこなかった。

 

 

 それから、交代で防衛していくみんな。

 順調にバーテックスを倒していく。

 切り裂き、殴り、貫き、みんなは戦う。

 その姿は、勇ましく、強く、気高く格好いい。

 ぼくなんて本当は必要ではないのではないかと思ってしまう。

 それでも、死ぬときは死ぬんだ。

 

 バーテックスの数がそれなりに減ってきた頃。

 状況に変化が訪れる。

 

 数十から百以上ものバーテックスが融合していく。

 巨大な蛇のような姿へと完成した。

 蛇型のバーテックスが、その顎を若葉さんに向け、襲いかかる。

 

 進化体だ。みんなに任せて様子見をするか、グングニルを撃って倒した方がいいか。

 

杏「様子を見ましょう、武谷さん」

武谷「わかった」

 

 若葉さんが生太刀を一閃。蛇型のバーテックスは真っ二つになる。

 斃せた……か?  

 

 真っ二つになった蛇は、消滅せずに分裂した。

 雑魚バーテックスを取り込んで、元の大きさを保ったまま二体に増える。

 こいつは、脅威だ。

 若葉さんたちに任せるか、どうするか。

 撃った方がいいかもしれない。

 

杏「分裂はまずいです。武谷さん、使ってください」

 

 杏さんがそう判断したなら、使った方がいいほどの敵だろう。

 ぼくはスマホの画面中心にある黄金色の魔方陣を上にスワイプ、指を離す。

 上の歯車上の魔方陣と噛み合った魔方陣が高速で回転、綺麗な音色、発光。

 

杏「若葉さん、離れてください!」

 杏さんの声に、若葉さんがその場から跳んで離脱した。

 

 巨大な魔方陣がぼくの前に出現する。

 大槍の切っ先が魔方陣の中心からせり出してくる。

 

武谷「『グングニル』」

 

 ぼくの言霊、詠唱により、北欧の勇者システムが発動する。

 黄金の巨大槍が射出。

 

 轟音。

 轟雷。

 

 雷の大槍は、蛇型のバーテックスを貫き、全て雷で焼き尽くし、周囲にいた雑魚バーテックスも巻き込みながら彼方へと消えていった。

 

 槍が通り過ぎると、若葉さんは元の位置に戻り、またバーテックスを切り斃していく。

 

杏「ふう……なんとかなりましたね」

 

 杏さんが安堵の息を吐く。このままバーテックスを順調に倒していけば、難なく終われるだろう。

 

 けれど、そう簡単には終わってくれない。

 

 壁の向こうから走ってくる影。

 それは徐々に輪郭を現す。

 

 巨大な馬のような姿のバーテックスが、走って来ていた。

 

 明らかに通常のバーテックスとは姿形が違う。進化体だろう。

 当然グングニルは撃ったばかりなのでゲージが溜まっておらず、使えない。

 

杏「みなさん、切り札は使わないでください! まだ使ってない私が、使います」

 

 杏さんにも、切り札は使わせたくない。

 けれどグングニルは撃てない。

 ならば、なんでもいいから力を下さい。

 

 ――まだ、足りない。 

  

 そんな文言が頭に流れた。

 何が足りないんですか。

 覚悟は決まってる。

 足りないことなんてない。

 早く、早くして下さい。

 力を、下さい。

 北欧神様……。

 

 けれど、未だに新しい力が宿ることはなかった。

 

 杏さん以外も切り札を使ったことがあるが、今まで何事も起きていない。だったら今は杏さんに任せるしかないのか。

 

 杏さんが馬型のバーテックスが走ってくる方角へ跳ぶ。その方角はタマさんが防衛している場所だ。

 彼女は神樹へとアクセスし、精霊をその身に宿す。

 雪女郎(ゆきじょろう)、雪の化身だ。

 杏さんの勇者装束が変化する。羽織のようなものを身に纏っていた。

 

 杏さんは馬型のバーテックスへクロスボウの照準を合わせ、放つ。

 クロスボウから放たれたのは矢ではなく、無数の雪だった。

 一点集中させた、遠くからはレーザー状にも見える雪の大群は、馬型のバーテックスへ直撃する。

 

 その猛吹雪は、馬型のバーテックスの体を凍らせていった。

 すぐにその全身は凍りつき、砕け散って消えた。

 やはり切り札は強力だ。

 

 馬型のバーテックスを倒したのも束の間。

 百体以上ものバーテックスが、融合を始めた。

 

杏「させません!」

 

 杏さんがクロスボウを上空に掲げた。

 クロスボウから発射された猛吹雪は、今度は一点集中ではなく広範囲に広がった。

 ぼくの位置を避けて、吹雪が周囲一帯を覆い尽くす。

 杏さんがぼくに配慮してくれなければ、勇者装束も身に着けていないぼくは一瞬で氷結されて死に至っているだろう。

 吹雪に身を晒した四人も、寒い、と言う程度で済んでいる。杏さんがぼく以外に雪を避けさせていないのは制御が難しいのか。

 目に見えるバーテックスは全て凍り、地に落ちて砕けた。

 

球子「おお、すごいな……あんず」

 

友奈「やったね、アンちゃーん! もう敵、少ししか残ってないよ!」

 

 これで、本当に後は殲滅戦だけだ。

 一瞬そう思った。

 

 されど、特大の嫌な予感が駆け抜ける。

 まだ、まだ終わっていないのだ。

 

 視界の奥、壁の向こうから、さらなるバーテックスの増援。

 その中心に、一際巨大な、目を引く進化体。

 

 一言で言えばサソリのような姿形。

 数十メートルはある全長、不気味な液体を貯蔵した腹部、サソリの尾を思わせる器官、鋭利な尾の先、巨大な針。

 

 一目見て、やばいと思った。

 あれは、他とは、今までのとは違う。

 勇者を殺す存在だ。

 

 タマさんと杏さんのいる方角からサソリ型のバーテックスは迫ってくる。

 

球子「……まずいぞ、あれ……」

 

友奈「なんていうか……大きなエビ……?」

千景「むしろ、サソリに近いと思うわ……高嶋さん……」

 

杏「私が行きます! 攻撃力は私が一番高いはずです!」

 杏さんがサソリ型に向かって跳んで近づいていった。

 

杏「凍れ!!」

 クロスボウから放たれる猛吹雪、一点集中させた強威力の切り札。

 狙い違わず命中する。

 冷気の余波だけでサソリ型の周囲にいた雑魚は凍りつけ砕け散った。

 当然本体はそれより遥かに強烈な冷気と吹雪を身に受けている、無事な筈がない。

 

 しかし――

 サソリ型バーテックスには、まったく効いていない。

 体表に霜が付く程度で、凍りつかせることができない。

 

武谷「なに……!?」

 

杏「そんな……っ!」

 

 切り札、精霊を宿した力の効かない敵、そんなものが存在していいのか。

 

 サソリ型の巨大な針が杏さんに襲い掛かった。

 

杏「わっ!?」

 

 間一髪で避ける杏さん。

 背筋が凍った。

 心臓が止まりそうになった。

 けれど今、本当に心臓が止まりそうになったのは、杏さんだ。

 少し間違えば、彼女は貫かれていたのだから。

 

 まずい。

 あいつは、まずい。

 サソリ型バーテックスの姿が、ぼくには邪悪な死を司る尖兵に見えた。

 醜悪な存在だ。

 

 他の通常個体たちも、次々に融合していった。

 千景さん、友奈さん、若葉さんの元へ殺到する、サソリほどではないが巨大な進化体たち。

 

千景「使うわ……切り札……!」

 

 今の状況で、止められなかった。

 むしろ止めた方が危険だ。

 

 切り札を使って千景さんたち三人は進化体と渡り合う。

 けれどその対処で手一杯だ。

 

 サソリ型とは、杏さんとタマさんが戦っている。

 

千景「聖陵院くんは、私が守る……」

 七人岬、切り札で分身した内の千景さんの四人が、ぼくへ向かって来るバーテックスの対処をした。

 

武谷「ああっ!?」

 

 思わず声をあげてしまった。

 サソリ型の巨大針が掠っただけで、杏さんの綺麗な白い肌が赤く爛れたからだ。毒を持っているんだ。

 

 杏さんの切り札も、タマさんの切り札も、通じていなかった。

 

 焦燥感が募る、湧き上がってくる、大量に溢れる。

 

 杏さんとタマさんが、死んでしまう。

 このままだと、二人が、死んでしまう。

 確信ともいえる感覚があった。

 このまま何も変わらなければ、すべてが終わる、と。

 

 サソリ型の尾に強く叩き飛ばされて、地に落ちる杏さんとタマさん。

 切り札の装束は消滅し、精霊による強化が解除された。

 杏さんが倒れている。意識を失っているのだろう。

 

 自然と、少し遠くにいるタマさんの声が聞こえた。

 

球子「あんずっ! 起きろっ!」

 

 杏さんは、目を覚まさない。

 

球子「くそっ……!」

 

 尾の先、巨大な針が振るわれる。

 

球子「くそおおおおおおっ!」

 

 切り札が解除された通常時の大きさの旋刃盤を楯形状にして、尾針を防ぐタマさん。

 

球子「ぐっ、うう……!」

 

 尾が(ふる)われる。

 

球子「うううぅぅっ……!」

 

 突き出される。

 

球子「ううあああぁぁ……!!」

 

 勇者を殺す為に、何度も。 

 

杏「……う……た、タマっち……先輩……?」

 

球子「目、覚ましたか……!」

 

杏「タマっち先輩……?」

 

球子「早く逃げろ……あんず……!」

 

 楯には、罅が入ってきていた。

 もう長くはもたないだろう。

 

杏「何言ってるの!? タマっち先輩こそ逃げないと!」

 

球子「タマは、無理だ……」

 

 何度も幾度も突かれ、二人の死は近づいてくる。

 

杏「どうして……!?」

 

球子「こいつの攻撃で……足が、痺れてる……! というか……骨、砕けてるかも……動けない、んだ……!」

杏「……!」

 

 ぼくは、すでに動いていた。

 

球子「お前だけでも……逃げろ、あんず……!!」

 

杏「ダメだよ! できるわけないよ!」

 

球子「このままだと……二人とも死ぬ……!」

 

杏「嫌! 絶対に嫌だ! そんな、こんなことって……!」

 

 ぼくは、絶対に――

 

球子「あんずの……わからず屋ぁ……っ!」

 

杏「わからず屋でいいもん! 絶対に逃げない!」

 

 絶対に、この子たちを殺させはしない。

 

 ぼくは全速力で走っていた。

 スマホを握り締めて、走っていた。

 

千景「聖陵院くん……!!」

 後ろで千景さんが叫んだ。

 危険だと言いたいんだろう。

 でも、ごめん。

 今、ぼくが動かなければならないんだ。

 

 ぼくと千景さんたちの周囲にいたバーテックスは千景さんが相手をしてくれた。その隙間を縫ってぼくはひた走る。

   

 切り札は効かない。

 唯一効果がありそうなグングニルは、ゲージが溜まるまでの時間が残されていない。

 なら、あとは。

 手は、ひとつしかない。

 

 今だ。今こそだろ。

 足りないなんて言わせない。

 今ちからを使わないで、いつ使うんだ。

 ぼくはどうなってもいい、だから、なんでもいいから、ちからをぼくに与えて下さい。

 

 タマさんの旋刃盤が、今にも壊れそうだ。

 時間がない。

 もうすぐ、少女が死ぬ。

 絶望の淵。今までだったら。

 

武谷「早く、しろおおおおおおおお!!」

 

武谷「絶対に、護るんだ!!!」

 

 その時、奇跡(必然)が起こった。

 

 轟音を響かせながら、落雷が迸り、ぼくに落ちる。

 それは攻撃性のものではなく、ようやく北欧神様が、ぼくの願いと祈りに応えてくれた証だった。

 

友奈「わあ!? なになに!?」

千景「聖陵院くん!」

 

 握り締めたスマホの画面に、変化が生じる。 

 画面の右隅に矢印マークが増えた。

 ぼくは即断して指を画面に添え、左に払う。

 フリックされた画面は右に移動し、グングニルの画面と似た、けれど似て非なる画面へと変わる。

 

 画面中央には純白の魔方陣、グングニルの画面とは違って下端に歯車型の魔方陣が存在していた。

 使い方は、力が宿った瞬間に理解している。

 

 走り続けていたぼくは、杏さんとタマさんの近く、サソリ型バーテックスの間近まで接近した。

 この能力は、接近しなければ当たらない。

 そして今いる位置は、射程範囲だ。範囲内なら、確実に命中する。

 

 画面中央の魔方陣を下にスワイプ。

 魔方陣と歯車が噛み合う。

 魔方陣が高速回転を始める。

 それは、綺麗な音色と神秘的な発光を生み出す。

 

 巨大な純白の魔方陣が、サソリ型バーテックスの直上に発生。

 

 準備は整った。

 さあ、護ろう。

 

武谷「『ミョルニール』」

 

 言霊、詠唱。神の力の()(めい)を。

 それは事象の発現を(もたら)す。

 

 白雷(びゃくらい)。魔方陣から迸った。

 巨大な魔方陣の中心から、ハンマーの頭部だけを象った円筒状の白雷纏う巨大な物体が顕現、落下する。

 白雷がすべてを白に染めた。

 

 轟音。

 轟雷。

 

 一を必殺する雷槌(らいつい)

 北欧の神トールの御業(みわざ)

 

 それは命中した瞬間、切り札ですら効果がなかったサソリ型バーテックスを粉砕した。

 強靭な体も、凶悪な巨大針も、存在すべてを。

 跡形も無く破壊し尽くす。

 

 雷が晴れた頃、そこには何も存在しない。

 

球子「すげえ……」

杏「武谷さん……また、守ってくれた……」

 

 危険過ぎる敵は倒した。

 残った敵はみんなが殲滅してくれるだろう。

 今回も、ぼくたちの勝ちだ。

 

 ……守れた。

 今のぼくには力がある。これからも、守っていける。

 ぼくは幸福感に包まれていた。

 

武谷「北欧神様……感謝を……」

 

 こんなぼくに。ただ無力で卑小な人間に。身に余る、みんなを守るための力を与えて下さって。

 

武谷「ありがとう、ございます……」 

 

 ――意識が突然、落ちていく。

 ぼくの体が倒れていく。何かが失われていく。

 それをぼくはどこか他人事のように感じていた。

 

千景「聖陵院くん……!」

 

 そんな中ぼくは思う。

 やっぱり最近、千景さんに名前をよく呼ばれるなぁ、と。 

  

 

 

 

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