聖陵院武谷は勇者である   作:ソウブ

14 / 28
14話 北欧の光輝くもの ヘグルヴェイグ・バーテックス

 

 

 

 ぼくは自室のあるものを見つめた。

 ミュージックプレイヤーだ。

 衝動に駆られて、おもむろに手に取る。

 入っている曲は、一曲だけだった。

 何故一曲だけ入っているのか。

 再生してみた。

 ピアノ曲だ。

 知らない曲だ。

 有名な曲ですら少ししか知らないから断定はできないけど、この曲は多分、いくらネットで検索しても出てこないのだろう。

 だって、トラック名が"犬吠埼さんの曲"なのだから。

 ご丁寧に書かれているのだから。

 誰だよ、それ。

 何故か頬が濡れた。

 

 

ひなた「武谷さん」

 ある日。

 ひなたさんに呼び止められた。

武谷「なに?」

 

ひなた「お聞きしたいことがあります」

 ひなたさんは神妙な顔つきだ。

 

ひなた「武谷さん、やっぱり前回の戦いから何かありましたか……?」

武谷「……何って、何? 前に問題ないと言ったはずだけど」

ひなた「巫女として感じるものと言いますか、何かが変わってしまったような。他のみんなが切り札を使った時は何も感じ取れなかったのに、武谷さんのときは違ったんです」

武谷「……そんなの、わかるの?」

ひなた「ただの、感覚ですが、はい、武谷さんのは、神託のときに近いほど大きく感じます」

ひなた「だから、何かあったのなら話していただけませんか」

 ひなたさんは心配そうな顔をしている。

 

武谷「少し強い力を使って気を失ったけど、それだけだよ」

 ひなたさんはしばらく何も言わずにぼくの顔を見た。

ひなた「そう、ですか……」

 今度は寂しそうな、悲しそうな表情と声音だった。

 胸が針で刺されたかのように痛んだ。

 

ひなた「頑ななんですね……」

武谷「何を言っているのか分からない」

 

 君たちは、生きなければならない。

 

 

ひなたviewer

 

 

 私は自分の部屋にみんなを呼びました。

 武谷さんを除いた五人をです。

 

球子「どうしてわざわざここに呼んだんだ?」

ひなた「武谷さんには聞かれたくない話だからです。ここなら、教室よりも、校舎裏よりも、聞かれる確率は低いでしょう」

球子「むしろ聞いてたら覗きレベルだな」

 

千景「それで、どんな話なの……?」

 

 私は居住まいを正します。

ひなた「武谷さんが前回の戦いから、何かが変わったんです。それも恐らく、よくない方に。巫女の感覚でわかったんですけど、武谷さんに訊いてみて、彼の様子を見た限りだと何かがあると思うんです」

 

若葉「武谷は何も言わなかったのか?」

ひなた「はい、暖簾(のれん)に腕押しで絶対に話してくれなさそうな様子だったので、みんなに話したというわけです」

若葉「また、あいつは……意図的ではないにしろ教えてもらったばかりなのだがな、これでは格好がつかないぞ」

球子「世話が焼けるな武谷は。でも、助けられたからな」

杏「武谷さんを、何とかしてあげたいです」

 若葉ちゃんと球子さんと杏さんは、優しく強い光を瞳に湛えていました。

 

杏「何かが変わったというのは、もっと具体的にはわからないんですか……?」

ひなた「それは、わかりません。巫女としての感覚とはいえ、曖昧ですから」

友奈「外見上は、普通に元気そうだよね」

ひなた「そうですよね、だからすぐにはわからなかったんですが」

 

千景「聖陵院くん……」

友奈「ぐんちゃんそんな顔しないで。みんながいるんだって、たけくんにいっぱいわかってもらえれば大丈夫! みんなで頑張ればどうにかなるよ」

ひなた「そうですね、気にかけてあげて下さい。すでに気にかけているかもしれませんが、もっとです。なんだか、嫌な予感がするんです」

 

 嫌な予感。自分で言っておいて、凶兆を助長させてしまったような気がして不安が一つ心に落とされました。  

 

 

mainviewer

 

 

 杏さんやタマさんの怪我も落ち着き、タマさんの旋刃盤も修理された頃。

 大社から、結界の外の瀬戸内海上で形成されつつある進化体バーテックスを討て、という任務が言い渡された。

 

 五人は変身して、ぼくたちは結界の間近、瀬戸大橋の上に立つ。バーテックスの姿は見えない。

 

友奈「こういう任務って珍しいね。今までは四国に入ってきた敵を倒せってだけだったのに」

若葉「そうだな。大社の方針が変わったのか……」

杏「妙ですね……」

球子「立ち止まっててもしょうがない。それじゃあ行くか」

千景「…………」

武谷「とっとと倒して帰ろう」

 

 結界、日常と非日常の境界線を、ぼくたちは跨いだ。

 

 眩しい。それが結界外に出て最初に思ったことだった。

 

若葉「なんだ……?」

 

 眩い光が辺りを照らしている。

 その光に照らされて、サソリ型バーテックスのよりも巨大な、超巨大なバーテックスが形成されていた。

 大量のバーテックスが寄り集まり、融合し、少しずつ、完成に近づいている。 

 太陽のような円環に牙のようなものが生えた巨大な無機物、そんな姿形。

 感じる、あれは強大だ。

 

球子「でっかいのが……」

杏「二体……」

 

 二体。

 ぼくは視線を強い光の方に向けた。

 牙のようなものが生えた巨大バーテックスを照らす光。

 その光自身も、同程度の体躯の巨大な化け物だった。

 巨大な、洗練された女神像のような無機物、そんな印象。

 段々と、少しずつ、バーテックスが融合して、完成に近づいている。

 当然あれも、強大だ。

 

若葉「みんな、行くぞ」

 

 殺さなければ。

 

 スマホの画面に指を添え、中心の黄金色の魔方陣を上にスワイプ。上に存在する歯車型の魔方陣と噛み合い、高速回転、綺麗な音色、数十メートルはある巨大な魔方陣が目の前に展開される。その中心から槍の穂先が()り出す。

 

武谷「『グングニル』」

 

 紡いだ詠唱は現象を起こす力と成る。

 北欧の主神オーディンの力、黄金の聖槍が顕現。

 放たれる。

 

 轟音。

 轟雷。

 

 ()く雷を撒き散らしながら、黄金の聖槍は光り輝くバーテックスへと。 

 

 光輝(こうき)、一閃。

 発されている光が、歪曲(わいきょく)、変質、したように見えた刹那の事だ。

 光の斬撃が、黄金の槍に命中した。

 

 訳が分からなくなるほどの光の明滅と耳を(つんざ)く音。

 収まった時。

 

 グングニルは、撃ち落とされていた。

 強力無比の槍が、消滅したんだ。

 

武谷「――――は?」

 

 今までこの槍は、全てのバーテックスを破壊してきた。

 この力は敵を消す手段なんだ。斃せなければおかしい。

 斃せなければ、ただの意味のない現象に過ぎない。

 だからこんな結果は認めない。

 認められるか。

 

杏「そんな……」

球子「マジかよ」

千景「黄金の槍が効かない敵なんて……」

友奈「みんなで戦えば、なんとかなる!」

若葉「そうだ! 行くぞ!」

 

 切り札が発動された。それぞれ源義経、一目連、輪入道、七人岬、雪女郎の力を身に宿す。

 

 生太刀を携えた若葉さんは、通常個体バーテックスを足場にして八艘飛びを繰り返し、目で追うことすらできない速さと成りて、光り輝くバーテックスを何度も斬り付け、斬り降ろし、斬り上げ、斬り払う。何百という斬撃。

 

 しかし、掠り傷程度の傷しか負わせられなかった。

 バーテックスは微動だにしない。まるで脅威に感じていないように。

 

 一目連の力、竜巻の暴風をその腕に纏わせた友奈さんも、光り輝くバーテックスに何度も拳を打ちつける。

 しかしこれも、ほとんど傷を与えられない。

 

 七人の千景さんが七つの大鎌で七の斬撃を回転を加え放つ。

 バーテックスに傷はない。

 

 タマさんが巨大に成った旋刃盤を投擲、刃が回転し炎を身に纏わせて旋刃盤が光輝くバーテックスに襲い掛かる。

 ほとんど傷はない。

 

 クロスボウから放たれた吹雪が凍結を為さんと命中。

 ダメージ軽微。 

 

若葉「それなら、こいつの方はどうだ!」

 若葉さんが標的を太陽のような円環に牙のようなものが生えたバーテックスへと変更した。

 

 皆攻撃を加えるが、こちらのバーテックスもほとんど傷を負わない。

 

若葉「くっ……!」

球子「硬すぎだろっ!」

 

 さっき、グングニルは光るバーテックスの攻撃に相殺された。つまり、当たれば危険だから防いだということ。

 なら、詰みではない。

 

杏「ここは撤退した方が……」

武谷「いや」

武谷「まだだよ」

 

 グングニルの再発動はゲージがまだ溜まっていないから無理だ。けれど新しい力であるミョルニールの力とグングニルの力は別、ゲージも別になっている。だからミョルニールなら今すぐにでも撃てる。

 これをどうにか防がせないで命中させることができれば、あの化け物を倒せるはずだ。

 

武谷「サソリ型を倒したやつを使う。接近しないと当たらないからぼくをあいつの近くまで運んでほしい」

 

 より危険そうに見える光っている奴をぼくは指差した。攻撃を見たのがまだあいつだけだからそう思えているだけかもしれないが、少なくともあの光輝くバーテックスはグングニルを落とせるほどの力を持っているのは確定だ。倒せるのなら優先的に倒すべきだと思う。

 奴が攻撃してきたらぼくの身体能力では避けられない。だからみんなに運んでもらうのが安全だろう。

 

杏「確かに、今できる中では一番可能性が高い手かもしれませんね」

若葉「よし、ではすぐに行動に移すぞ」

千景「聖陵院くんは、私が運ぶわ……」

 

 七人いる内、一人の千景さんが前みたいにぼくを抱える。

 そして、跳んだ。

 風を感じながら、どんどん光へと近づいていく。

 

 若葉さんたちが牙を持つ巨大バーテックスを攻撃して注意を引き付けてくれている。

 通常バーテックスも襲いかかって来るが、これも対処してくれる。

 

 だが光り輝くバーテックスも、牙を持つバーテックスも、攻撃してこない。不気味に佇むだけだった。

 

 薄ら寒いものを感じながらも、接近する。

 射程範囲内だ。

 ごちゃごちゃ考えてても仕方がない、斃してしまえばそれまでだ。

 

 スマホの画面を左にフリックしてグングニルの画面からミョルニールの画面にする。中央の白い魔方陣を下にスワイプして画面下の歯車型魔方陣と噛み合わせる。

 魔方陣が高速回転、綺麗な音色を発した。

 純白の巨大魔方陣が光り輝くバーテックスの頭上に展開される。

 

武谷「『ミョルニール』」

 

 詠唱。事象の発現。北欧神トールの力が此処(ここ)に顕現。 

 

 轟音。

 轟雷。

 

 白雷纏う純白のハンマーが振り下ろされる。

 

 必中必殺の雷槌は、狙い違わず光り輝くバーテックスに命中。

 (つんざ)く破砕音と共に、一撃で粉々と化す光り輝くバーテックス。

 眩しく光っていた光は、それで消失した。

 一瞬、光が消失した。

 

 だが。

 

 瞬きの後には、一瞬で無傷の状態の光り輝くものが其処(そこ)にいた。

 確かに、斃したはずだというのに。

 ミョルニールは、一を必ず殺す力だ。

 だから、殺したのは確実だ。

 

 されど、眩い、全てを照らし尽くしてしまいそうな光が健在なことも、現実だった。

 

 何が、起きた。

 確実に斃したのに、存在する。

 ――復活。そんな二文字が頭を過ぎる。

 

 光が、強く瞬いた。

 輝いている光が、変質する。

 光輝一閃。

 光の刃が、迫る。間近。

 

 死ぬ。

 

 千景さんがぼくを投げた。

 ぼくの体は急速度で飛び、風とGに襲われる。

 

 ぼくを投げた千景さんは、光の刃に晒され、瞬時に消滅。そのまま光の刃は地面を断裂させた。大きく地割れのように亀裂が大地に走る。

 地響き。光の拡散。裂断、切断はどこまでも。

 視界に収められる範囲を超えて、地は別たれていた。

 

 背筋が氷柱を何本も次々と入れられたように凍った。

 怖気が奔る。

 奴らの攻撃は、ここまで強力になれるのか。

 

 別の千景さんが、ぼくを受け止めた。

千景「聖陵院くん、怪我はない……?」

武谷「う、うん」

 千景さんは心配の声をかけながらも光り輝くバーテックスから持てる速度の最速で急ぎ距離を取っていく。

 

 ゲージは両方とも溜まっていない。溜まるまで待つ時間はない。代償を払いさえすればぼくには力が。

 もっと、力を――

 失ってもいいから、敵を、大切な人たちを脅かす敵を殺す力を。

 

千景「駄目!!」

 

 突然、千景さんが声を張り上げた。

 

千景「……駄目よ、聖陵院くん」

千景「駄目、だから……」

 沈痛な表情。

 何が、駄目だというのだろう。

 

 ――と。

 円環に牙を生やす巨大バーテックスが、動いた。

 攻撃を仕掛けていた、一番近くにいた杏さん、友奈さん、球子さんの方向へ、ゆっくりと体を動かす。

 円環の中心辺りから、凄まじく巨大な火炎球が発射された。

 

杏「避けて!」

友奈「わわっ!?」

球子「やばっ!」

 

 三人がなんとか跳んで避ける。

 そして炎の塊は瀬戸内海を越え、本州の陸地に着弾。激しい轟音と衝撃波がぼくたちのいる場所まで伝わってきた。

 全てを焼き尽くす業炎により、大地が根こそぎ焦土と化す。

 マグマが沸き立ち、着弾した一帯を地獄に変貌させた。

 

 光の刃や火炎球が、もし神樹に向けて放たれたら、防ぐ術はぼくの力ぐらいしかないだろう。

 この二体は、まだ完成していない。

 完成していないのに、既にこれほどの力を持っている。

 完成したら、斃せるのか(はなは)だ疑わしい。

 いや、斃すんだ。なにをしてでも。

 

若葉「逃げるぞ。退却だ!」

 若葉さんが、なぜかぼくを見てそう伝えた。

 みんな返事して、結界内へと遁走(とんそう)する。

 

千景「聖陵院くん……駄目だから……」

 

 ぼくは、斃すまで戦うべきだと思った。反対したかった。でも。

 千景さんの表情が誰かに似ているような気がして、ぼくの体を縋るように強く抱え込んだ千景さんの様子があまりにも弱々しくて、何も言えなかった。

 放心したまま、ぼくは千景さんに運ばれて行った。

 

 

 今の段階では、結界の外の大型バーテックスを倒す方法がない。大型バーテックスは体の形成を優先していて、四国へ攻めてくる気配はないため、敵が完成体に成る前に何か対策を立てようという結論を大社は出した。

 行き詰った現状を打破する方法は、全く見つからなかった。

 

 ――というのがぼく以外の者の認識だ。

 

 ぼくが代償を払いさえすれば、たとえあれらが完成しても斃せると思うのだけど。

 まあ、奴らが来た時に斃せばいい。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。