聖陵院武谷は勇者である   作:ソウブ

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18話 目が覚めるとき

 

 

ひなたviewer

 

 

 最近みんなの様子がおかしい。特に、千景さん。

 と思っていたら、杏さんに相談を持ち掛けられました。

 

杏「やっぱりこれ、切り札を使った、精霊の悪影響だと思うんです」

杏「私も最近、精神状態が普通じゃなくなりそうな時があるので。問題の心当たりがあった分なんとか耐えましたけど、かなりきついです」

 

 ということで、みんなの様子を窺うことにしました。

 放課後に、直接訊いてみます。

 

球子「少し心がタマらんってなりそうな時はあるけど、タマは鋼の心を持ってるから負けることはないぞ」

友奈「私も大丈夫!」

若葉「少々攻撃的になりそうな時はあったが、自制しているから問題ない」

 

 三人は、まだ元気そうです。

 そんな中、千景さんだけ、無言で帰っていきました。

 

 嫌な予感がして、気になった私は悪いと思いながら、こっそり後ろをつけていくことに決めました。

 

友奈「私も行くよ! ぐんちゃんが心配だから」

杏「私も、行きます」

球子「あんずが行くならタマも行くぞ」

若葉「わざわざ尾行する必要があるかは疑問だが、私も同行させてもらう。というかまた尾行か……」

ひなた「若葉ちゃん、普通に話しかけても答えてくれるとは限りません、普段ならともかく精霊の影響がある今ならなおさら。なら、様子を気づかれないように見るのが最適でしょう」

若葉「確かに今も私たちの話に加わらずに帰ったし、一理あるな」

 そんなわけで、みんなついてくることになりました。 

 

 そして、もう一つの懸念もあります。

 今日、武谷さんは教室に来ませんでした。千景さんが、武谷さんは今日休むと言っていましたけど、大社の人の様子から最近力を使って倒れている事とは関係が無さそうです。

 それも確かめませんと。

 

 私たちはぞろぞろと、できるだけ音を立てずに歩いて行きます。

 角から角へ、物陰から物陰へ、慎重に追跡します。

 

 そうして、なんとか千景さんに気づかれることなく、寮まで来ました。

 寄り道はせず、直帰するようです。

 

 千景さんは自分の部屋へと入っていきました。

 悪いと思いながら、私は扉の前で聞き耳を立てます。

 

 声が、聞こえてきました。独り言でしょうか?

 いえ、これは会話ですね。

 それに男の子の声です。というか武谷さんの声ですね。

 

杏「逢引きでしょうか?」

球子「マジか」

若葉「いや、これは……」

 

 私は口の前に人差し指を立て、静かにするように頼みます。

 さらに聞き耳を立ててみました。

 

武谷「いつまで、続けるつもりなのかな?」

千景「…………」

武谷「こんな、監禁なんて、誰かにバレたら千景さんが大変だよ」

千景「……うるさいわね」

武谷「まあ、続けたいなら、それでもいいけど」

 

 不穏な言葉が聞こえました。

 

ひなた「そういう、愛情表現なのでしょうか……?」

若葉「いや、監禁はどう考えてもまずいだろう」

友奈「ぐんちゃあああああああん!!」

 

 ガチャガチャガチャガチャッ!

 友奈さんがドアノブに飛びつき何度も回しました。

 

友奈「鍵かかってる。開けて、ぐんちゃん!」

千景「た、高嶋さん……!?」

 

千景「だ、駄目、開けないで……!」

友奈「ぐんちゃん!」

 

友奈「どうしよう。ぐんちゃんが危ない道に、危ないことを、たけくんが大変、おかしくなっちゃう」

若葉「落ち着け、友奈」

 若葉ちゃんが諭しても、友奈さんは止まりませんでした。

 

友奈「どりゃああああああ!」

 

 ドガッシャアアアアアアッ!

 

 友奈さんが、千景さんの部屋のドアを殴り壊しました。

 すごいパワーです。

 

球子「ぶっタマげたっ。派手にやるなあ友奈」

杏「愛の力……」

若葉「やり過ぎな気が……」

ひなた「精霊の悪影響かもしれない危急の事態です。致し方ありません」

 

 もしかしたら友奈さんの今の突飛な行動も、精霊の悪影響かもしれません。普段の彼女ならここまではしないような気がしますから。

 

 室内に乗り込んだ友奈さんに続いて入っていくと、奥の壁際に武谷さんが縛られて座っていました。

 本当に監禁されていた様子です。

 

 私は気を引き締めました。

 なんとかしなければ。

 巫女として、勇者を支える。それが私にできることなのですから。

 

 

mainviewer

 

 

 案の定、監禁など長く続くわけがなく、みんなが千景さんの部屋に乗り込んできた。

 

友奈「ぐんちゃん、たけくん、無事!?」

球子「タマが来たからにはもう安心だ!」

 

千景「こ、来ないで……!」

 五人の足は、千景さんの叫びで止まった。

 千景さんの表情は怯えに染まっている。

 千景さんは大鎌を構えている。

 自分とぼくを護る楯にするかのように。

 

 友奈さんはゆっくりと足を踏み出し、千景さんに近づく。

友奈「大丈夫。怖くないよ、ぐんちゃん」

 近づく。

友奈「怖くないから」

 千景さんの目の前まで近づく。

 千景さんは、大鎌を振り上げはしなかった。

 友奈さんは、千景さんを優しく抱きしめる。

 

友奈「二人とも、何があったか話して。私、ちゃんと全部聞くから、そして全部解決するから」

 友奈さんの、優しく包むような声音。

友奈「みんなでなんとかするから、絶対なんとかなるよ。安心して」

千景「……ぅ……ぇぅ……っ」

 

 千景さんは、嗚咽しながら、不安になりぼくを監禁してしまったこと、そしてぼくの記憶がほとんどないことを話した。

 千景さんが全部話したので、ぼくは一言も話さなかった。否定もしなかった。

 

千景「私、もうどうすればいいかわからない……」

 

友奈「ぐんちゃん……たけくん……」

杏「記憶が、ない……」

球子「タマ……さっきからぶっタマげてばかりだ……」

若葉「思ってたより、まずい事態になってたようだな……」

 

ひなた「――みなさん」

 落ち着いた、よく通る声が響いた。

 

ひなた「まず、冷静に今の状況を考えて、確認してみましょう。そして、徹底的に話し合いましょう」

ひなた「それから、どうすればいいかみんなで考えるんです」

 話す前に、ぼくを縛っていた縄は若葉さんとタマさんによって解かれた。

 

ひなた「最初に、戦うべき敵は何か、わかりますね」

若葉「バーテックスだ、全てひっくるめたら天の神だ」

 端的に即答する若葉さん。

ひなた「はい若葉ちゃん、正解です」

 にっこりと笑ってひなたさんは言った。  

 

武谷「そんな最初から始めるんだね」

ひなた「確認して実感することが大切なんです」

 

ひなた「そして、現在攻めてきているバーテックスは強力です。武谷さんが何度も代償を負って力を使い、倒れるほどに」

 

ひなた「武谷さんの力で代償。精霊の力でも代償。強大な力を扱うには代償が伴います。でも敵が強大ですから、こちらも対抗できるほどの力を使わなければ勝てないのです」

 

杏「代償を負わないで戦うのなら、連携をして、工夫をしながら戦うしかないですよね」

 

武谷「でもそんな小細工は最近襲撃してくるバーテックスには通用しない。ストレートに強力な力をぶつけないと対処できない所まで来ている」

 

球子「なら、どうすればいいんだ?」

 

 話し合った結果。

 そして、どうしようもないことがわかった。

 

武谷「結局、ぼくが倒さなければ終わるだけだ」

武谷「そんなこと、わかっていただろう。だから今、こんなことになっている」

 

 ぼくがそう言っても、みんなは諦めた表情をしなかった。

 

ひなた「けれど。だったら、その現実を受け入れた上で、どうするか考えてみましょう」

 

 友奈さんが、静かに強く、言葉を紡いだ。

 

友奈「なら、みんなで戦おうよ」

 

武谷「今までみんなで戦ってはいただろ」

友奈「ううん。みんなで、全力で。たけくんみたいになりふり構わずに戦うんだよ」

友奈「赤信号、みんなで渡れば怖くない! ちょっと違うかな? 赤信号は渡っちゃいけないもんね」

武谷「それは、みんなも代償を恐れず、全力で使うということかな……」

友奈「そういうことだよ」

 

千景「決めたわ」

 さっきまで不安そうな顔をしていた千景さんは、決意に満ちた表情をしていた。

千景「聖陵院くんと同じ場所に、私も行く」

 

ひなた「苦肉の策ですが、それしかないでしょうね……」

若葉「いつもより、なりふり構わず戦うだけだ」

球子「そういうことならどんとこいっ。タマに任せタマえっ」

杏「無茶、しなければいけないときなんですね……」

 

武谷「待て!!」

 ぼくは思わず、声を荒げていた。

 

武谷「みんなが代償を負うのは、駄目だ……」

武谷「やめろ……やめてくれ……」

 ぼくがここまでして護っている意味が、無くなってしまう。

 ぼくには、これしかないんだ。

 もう、これしか残っていないんだ。

 

友奈「たけくん、私たちにとって、たけくんは大切な友達なんだよ。だから、たけくんが私たちに死んでほしくないと思っているくらい、私たちもたけくんに死んでほしくないと思ってるんだよ」

 

武谷「んなもん、どうでもいいんだよ!!」

 

 ぼくは、なぜか声を荒げていた。

 覚えていないはずなのに、感情だけが、先走って、言葉が次々と吐き出された。

 

武谷「そんな綺麗なこと言って、あの子も!」

 誰だよ。

 

武谷「あの子も!」

 あの子って誰だよ。

 

武谷「みんな、みんな死んでしまったんだよ!」

 

武谷「ぼくが頑張らないと、みんな死んでしまうんだよお!!」

 

友奈「私たちは、死なないよ」

 

武谷「うるさい! そういうこと言ってる奴ほどすぐに死ぬんだ!」

 

 

友奈「たけくん」

 

 

 ――怒っていた。

 友奈さんは、怒っていた。

 ぼくは、覚えていないからわからないけれど、友奈さんが怒るのはとても珍しいことなのではないかと思った。

 もしも記憶があったら、この誰よりも優しい女の子が怒っているところを始めてみた、とでも思っていただろう。

 

友奈「ごめんね。最初に謝っておくよ。私、今からたけくんに酷いこと言うね」

 

 友奈さんは、真摯にぼくを見つめていた。

 

友奈「記憶がないなら、わかってって言っても、酷だと思うけど、それでも、一番最初に、記憶がなくなる前に使うと決めたのはたけくんだから。その責任はとって」

 

 友奈さんは、息を吸って、ぼくに正面から言葉をぶつけた。

 

友奈「私の大切な友達のぐんちゃんの気持ちを考えないなんて、大切な友達のたけくんでも許さないよ」

 

 彼女が怒っている原因は、それだった。

 千景さんの、ため。

 

武谷「あ――――」

 

 ぼくは、頭を強くガツンと殴られたような錯覚を覚えた。

 ぼくは自分勝手で、他を顧みていない。それはわかっていた。

 でも、全然わかっていなかったのだ。そんなふうに悪人ぶることで、不幸に酔って自分の中で免罪符を得ていただけだ。なんて野郎だ。

 

 でも、友奈さんの言葉、表情、思いをストレートにぶつけられ、気づかされた。

 ぼくは、本当に千景さんたちが大切なら、本当に守りたいと思っているのなら、ここで彼女たちを止めることはしてはいけない。

 しては、いけないのだろう。

 

友奈「お願い。記憶がなくても、ぐんちゃんのこと、ちゃんと考えてあげて」

 

 その言葉は、完全に、ぼくよりも友奈さんの方が、千景さんのことをちゃんとわかっていて、大切にしていることがわかって。

 

 その事実に、ぼくは打ちのめされて、このままでは駄目だと強く――

 

 何か、湧き上がってくるもの。

 なぜか、都合よく、誰かの意図のように、思い出された。

 

 このときぼくは、北欧神様に力を与えられた時と同じ暖かな光を、心に感じていた。

 

 ――千景さんがどうあろうと、ぼくはあなたを肯定する。ただそこに存在してくれるだけで、ぼくは価値を認めるよ。ぼくは君に生きていてほしい。何もしなくても、何をしても、千景さんはぼくにとって価値のある存在だ。

 

 ――何かあった時は、いつでもぼくを頼ってくれ。ぼくは千景さんの絶対的な味方だ。

 

 ――ぼくは、千景さんに喜んでほしい、笑っていてほしい。と思っているよ。

 

 いつか発した言葉。

 千景さんに向けて、心の底から伝えた言葉。

 本当になぜか、ここで思い起こされた。

 いや、なんとなくわかる。

 これは、北欧神様が慈悲をかけてくれたんだ。

 本当は代償で、取り戻すことなど叶わなかったのに。

 北欧神様は、ぼくのために思い出させて下さった。

 

 涙が溢れてきた。

 ぼくは、なにをやっていたんだ。

 何が笑っていてほしい、喜んでほしいだよ、今、千景さんは泣いているじゃないか。

 何が守るだ、お笑いだよまったく。

 年長者、なにやってんだよ。

 

武谷「ごめん……ごめんなさい……ぼく、千景さんのことちゃんと考えるよ」

 

 まだ、不安はある。人は、死ぬときは死んでしまうから。

 でも、もう間違えない。

 ぼくは千景さんの味方だ。

 

 ぼくはひとつの光を、瞳に宿した。

 揺るぎない強いひとつを、得たんだ。

 あとは、進むだけ。

 

友奈「ありがとう」

 友奈さんは、いつものような満面の笑みをして、ぼくの手を握った。

 引っ張られながら立ち上がる。

 ぼくは千景さんを見た。

 千景さんもぼくを見ている。

 

武谷「千景さん、ごめん……」

 

 ふわりと、人肌と柔らかさが包んだ。

 ぼくは、千景さんに抱きしめられていた。

 

千景「聖陵院くん、私は、あなたにずっといてほしいだけだから……いなくなってほしくないだけだから……」

武谷「うん、いるよ。約束する」

千景「約束……約束よ……」

 

 この言葉を守れるかはわからない。

 これからも変わらず代償は負うのだ。敵を倒さなければぼくたちは死んでしまうから。

 ――それと、ぼくの代償は、きっと記憶の消失だけでもないだろう。

 それでも、ずっといようとする気でいることはできる。

 きっとそれが、千景さんのことを考えるということだと思うから。

 

 ひなたさんは微笑んでいた。

 若葉さんは腕を組んで瞑目し、口元を綻ばせていた。

 杏さんは嬉しそうに涙を流していた。

 タマさんも嬉しそうに笑っていた。

 

 ぼくは友奈さんに手を握られ、千景さんに抱きしめられて、しばらく立っていた。

 

 

 

 

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