聖陵院武谷は勇者である   作:ソウブ

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22話 北欧の死者王 ヘル・ナグルファル・バーテックス

 

 

 誕生日パーティーから数日後の夕暮れ時。

 

 樹海化が起きる。

 神樹様の創り出した結界、樹海へと世界は変貌する。

 見渡す限り根ばかりの先を見据えた。

 

 ゴウンゴウン。重低音が連続的に響く。

 それは遠くから来る音。

 ゴウンゴウン。

 視界に映るは、人類の敵バーテックス。天の神の尖兵。

 今から、ぼくたちが殺す相手だ。

 

 重低音を響かせる深淵色(しんえんしょく)の船のような形状、その船と一体化している左右半身白黒の骸骨のような無機物を感じさせる上半身。

 巨大な骸骨型バーテックスが、空飛ぶ船に乗り襲来する。

  

若葉「降りよ――大天狗!!」

友奈「来い――酒呑童子!!」

千景「宿れ――玉藻前!!」

 

 若葉さんが翼を生やし天狗のような装束に変化、大太刀を構える。友奈さんが赤い二本角を持った鬼の装束に変化、大きな手甲を握り締める。千景さんの背後から九本の紫色の尻尾が現出、装束が着物のようになり、九枚刃の大鎌を携える。

 

 ぼくはスマホの画面中央に存在する黄金色の魔方陣を上にスワイプする、画面上端にある歯車型の魔方陣と噛み合い高速回転、綺麗な音色が鳴り、巨大魔方陣が目の前に出現、その中心から黄金槍の穂先が顔を出す。

 詠唱を紡いだ。

武谷「『グングニル』」

 轟音。轟雷。

 射出された黄金槍は瞬く間に突き進み、骸骨の胴体に至る。

 

 ――グングニルが消えた。

 

 いや……。いや、違う。

 擦り抜けた。

 黄金槍は骸骨の体を擦り抜けて、彼方へと進み消えていったんだ。

 つまりグングニルは全く効かなかった。傷一つ付けられなかった。

 

武谷「…………」

 敵の強さの上がり具合から、そんな予感はしていた。

 もう、グングニルの力はバーテックス共にあまり効果がないのかもしれない。

 

 でも、ミョルニールならどうだろう。

 まだぼくは戦える。

 

 振動。震動。骸骨型バーテックスが全身を鳴動させていた。

 骸骨の下半身である船から、大量の何かが降りてくる。

 それは人型の骸骨の形をしていた。それは全て、バーテックスだ。

 (むくろ)の軍勢は空を飛びこちらへ進軍してくる。

 その数、恐らく数万はいるだろう。

 

若葉「いくぞ!」

 三大悪妖怪を宿した三人が飛び立つ。

 飛翔し、跳び走り接近する。

 軍勢と三人が接敵した。

 

 大太刀で斬り伏せ焼き焦がし、深紅の手甲その一撃で何体もの骸を砕いた、九枚刃の大鎌が振るわれる度に呪いを撒き散らし周囲の骸骨を塵へと変えていく。   

 

 骸の軍勢は絶え間なく増え続け、もはや骸骨の壁と化している。

 皆が動き回っているので、迂闊にグングニルは撃てない。ある程度雷撃の操作はきくがあれは遠距離一点特化であり、遠距離範囲攻撃でもあるんだ。皆に当たりかねない。

 

 杏さんが雪女郎を宿し、一点集中のレーザーのように猛吹雪を撃ち出す。タマさんが輪入道を宿し、炎纏いチェーンソウのように刃を回転させる旋刃盤を自由自在に走らせる。

 骸共は凍り、燃え、消えていく。皆によって確かに軍勢は減らされていった。

 だが、多い。全滅はまだだ。

 船と一体化している本体をミョルニールの射程範囲内に入れるのは、この骸の軍勢をどうにかしなければ不可能だろう。

 骸共もただやられているわけではない。その腕を振るい、足で蹴りつけ、噛みつく。人など容易に一撃で四散するだろう攻撃を軍勢の数で絶え間なく繰り出す。

 前線で戦う三人は、まったくの無傷ではいられなかった。骸の攻撃が掠り、傷ついていく。

 それでも皆の攻勢は止まらなかった。

 若葉さんが大量に生成した炎で周囲一帯の骸を焼失させる。友奈さんが拳を瞬時に連続で放ち、周囲の骸を殴り砕き続ける。千景さんが高速で回転しながら大鎌の九枚刃を獣の爪のように走らせ、呪いと毒を撒き散らし斬り捨て機能を停止させ化け物の命を散らせていく。杏さんが吹雪を一転集中させた一射を何度も撃ち凍結させていく。タマさんが旋刃盤を縦横無尽に動かし斬り刻み焼き尽くす。

 減って行く。着実に敵は減って行く。

 

 ――やがて。

 視界を埋め尽くすほど存在した壁の如き骸の軍勢は、全て彼女たちによって倒された。

 前線にいた千景さん、友奈さん、若葉さんの三人は傷を負っているが、あとは滞空したまま動いていない上半身白黒骸骨下半身深淵色の船のバーテックスだけだ。

 三人があまり骸を後ろに通さなかったおかげで、ぼくも杏さんもタマさんも傷を負っていない。

 

武谷「ぼくをあいつの元に運んでほしい」

杏「ミョルニールを当てるんですね」

武谷「うん」

球子「そういうことならタマに任せタマえ」

 そう言って、タマさんがぼくを抱え、前方に跳んだ。

 直後。

 

 ――心臓が縮み上がった。

 背筋が凍り凍えた。

 ドクンドクンバクンバクンバクン。

 

 船骸骨型バーテックスが、鳴動、先よりも大音を響かせながら深淵色の船を震動させていた。

 瘴気が、闇が、死が、地獄から這い出し舞い戻ってくる。

 終わったものが蘇る。

 白黒骸骨の船から生じ、降り立つ者達。

 

 反射板を持つ棒状のバーテックス、大口だけの無数の矢を放ってきたバーテックス、高速で地を走ってきたバーテックス、全身氷のバーテックス、全身溶岩のバーテックス、巨人バーテックス、サソリ型バーテックス。世界樹のような蛇バーテックス、六つの頭を持つ怪物、大狼型バーテックス、竜型バーテックス。

 

 今まで倒した化け物共が、降ってくる。

 

武谷「……うそだろ」

球子「ははは、ぶっタマげた……」

 

 先の骸の軍勢は、こて試し程度でしかないのだろう。

 その骸達は倒したが、皆は消耗している。

 消耗しているところに、この全戦力で一気に潰すつもりなのだ。

 

友奈「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

若葉「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

千景「ああああああああああああああああああああッ!!」

 

 武器を携え、気合いの声を張り上げながら皆が立ち向かっていくのが見えた。

 ぼくは真っ先に、毒津波を使う世界樹のような蛇バーテックスに対処した。それ以外は考えられなかった。今最も危険だと思ったから。だから他の敵の対処は何もできなかった。皆に任せるしかなかった。

 代償を払い、自分の中の何かが揺らぎ、グングニルを連射する。

 連射、速射、連射、速射、連射連射連射。

 

球子「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 ぼくを抱えていたタマさんが決死の声を発したことを認識する。

 

 ぼくたちと敵の攻撃が飛び交い合い、轟音が鳴り響き続け、何もわからない。

 視界が、世界が、光に染まる。何も見えない。

 自分がどうなっているのかさえ、わからなくなった。

 

 ――――。

 

 視界が戻ってきた時には、ぼくは倒れていた。

 周りを見る。

 タマさんがすぐ近くに血だらけで倒れていた。

 その傍には楯が無残に壊れて転がっていた。

 ぼくには大して傷がない。つまりタマさんが守ってくれたんだ。死力を尽くして、護ってくれたんだ。

 タマさん、生きてるよな。

 生きろよ。死ぬなよ。死んでたら、だめだ。

 他も見る。

 みんな、倒れていた。

 血を流し倒れていた。

 千景さんも、血だらけだ。

 千景さんが、死んでしまうかもしれない。

 スマホはぼくの手からなくなっていた。北欧勇者システムを起動させる装置であるあの特殊なスマホがなければ、グングニルもミョルニールも撃てない。

 

 空を見る。綺麗な色の空だ。青くはないけれど。

 化け物共は、健在だった。

 何体か減っているけれど、船骸骨も、サソリも、竜も、大狼も、六つ頭も、生き残っている。

 

 ぼくは、絶望を感じた。

 

 

 ――けれど。

 それを吹き飛ばす方法を、ぼくは。

 

 

 船骸骨型バーテックスの顔、その口から、白黒の光が瞬いていた。光は徐々に大きくなっていく。

 それは、見るからに攻撃の溜め動作だった。

 その銃口は、最も近くにいた千景さんに向いている。

 彼女は立てるようには見えない。

 なんとか立ち上がろうとはしているようだが、立てていない。

 間に合わない。

 

 ぼくは走っていた。

 考える前に、ただ体を動かしていた。

 千景さん。千景さん。千景さん。

 ――犬吠埼さん。

 知らないはずの人。知らない人。犬吠埼さん。

 いや。

武谷「千景さん!」

 

 千景さんの元に辿り着き、彼女の体を抱え上げ、全力を尽くして、火事場の馬鹿力も無意識に発揮して、遠くへ投げた。

千景「せい、りょういん、く……!」

 千景さんは驚いた顔をしていた。

 心配しないで。

 ぼくも死ぬつもりはない。

 千景さんを投げると共に、ぼくもその場を離脱するために跳び走っていた。

 

 白色と黒色が混ざり合った閃光が、骸骨の口から放たれる。

 それは刹那の間にこちらへ降り注ぎ至り。

 ジュッ。変な音がした。

 爆発。轟き響き劈く音。

 ぼくは強い衝撃に吹き飛ばされた。

 千景さんの傍に転がり落ちる。

 

千景「あ……あ、ああ……あああ……」

 動けない。

千景「聖陵院くん……腕が……」

 目だけを動かし見やる。

 ぼくの右腕は無くなっていた。

 そこから血が噴き出している。

 全身ボロボロだ。ぼくも血だらけだ。

 動けない。立てない。

 痛みすらない。意識が。

 

千景「聖陵院くん……聖陵院くん……死なないで……死なないでよぉ……」

 千景さんは、ぼくに縋りついて涙を流していた。泣いていた。

 ぼくは、君を笑わせたい。

武谷「死な、ないよ」

武谷「約束、したから」

 だから、死なないために。

 まずは、敵を殺そう。

 

 祈り願う、ぼくの神に。北欧神様に。

 

 これを受け取れば、君はもう戻れない――そう()われた気がした。

 

 それでも、ぼくは帰る。

 千景さんを笑わせるんだ。千景さんを幸せにするんだ。

 だから、力を下さい。

 

 ――――――。

 

 雷が、降りた。

 恵みをもたらす力と祝福の雷が、ぼくへと降り注いだ。

 神の力が、今までよりも膨大に、特大に、魂から一体化するほど宿る。

 神に感謝を。

 

千景「聖陵院くん……」

 ぼくは立ち上がる。

 無くなっていた右腕がいつの間にか存在していた。血だらけの全身も今は傷一つ無い。

 

 ぼくの装いに変化が生じていた。

 黄金のような色を湛えたコートを(なび)かせる。

 ぼくはここで、初めてみんなのように変身をしたのだ。

 

武谷「顕現(けんげん)せよ――グリームニル!!」

 

 ぼくの手に、ひと振りの剣が握られた。

 雷纏う黄金色の西洋剣。神剣(しんけん)グリームニル。

 

 千景さんを見る、彼女はぼくを見上げていた。

武谷「誰一人、いなくならせはしないから」

武谷「もちろんぼくも、いなくならない」

 

 神剣を携え、ぼくは飛んだ。

 そう、跳んだではなく飛んだ。

 自身の性質を雷と化し、神速で空を駆ける。

 

 サソリ型バーテックスへ肉薄し、グリームニルを一閃。神の雷が迸る。

 芯から雷により焼き尽くされたサソリ型は消滅した。

 

 間髪入れず刹那の間に竜型バーテックスへ至る。

 光輝(こうき)を残した斬撃を揮う。

 不死に近い生命力を誇った竜型は、その一撃で神の雷により消滅した。

 

 目の前には大狼型バーテックス。振るわれる鋭い爪、避けた。雷閃。黄金の剣で斬り伏せる。

 焼き尽くされ消失する。

 

 霜の光線を、その身を雷と化し避けながら、神速で接近、六つの頭を持つ怪物にグリームニルを突き立てた。

 内部から神の雷が全身に奔り抜け、六つの頭は一瞬にして全て爆散した。

 消滅する。

 

 最後は。

 下半身深淵色の船、上半身白黒骸骨の化け物だ。

 

 放たれた白黒の閃光を避け、船骸骨型バーテックスの頭上へ到達。

 雷纏う黄金の剣を振り上げ、一気に地面に降りると共に振り下ろす。

 神の雷が溢れ迸り斬閃が光を残した。

 地に足が着いた時、船骸骨型は真っ二つに別たれていた。

 

 神成(かみな)(つるぎ)は、全てを切り裂く。

 奴の存在概念ごと斬った。

 故に、生と死の両方の概念を持ち、完全な不死を体現していた船骸骨型バーテックスは消滅する。

 

 神剣グリームニル。

 これは、短時間限定の強力無比な力だ。

 

 そして、今いる全ての敵を斃したことで、この力は役目を終える。

 ぼくの短い変身は解けた。

 黄金の剣と、黄金のような色を湛えたコートが靡きながら粒子となって消えていく。

 

 北欧神様、ぼくを戦わせてくれてありがとう。

 みんなを守らせてくれてありがとう。

 そうしてもらえなかったら、ぼくたちはここで死んでいた。

 だから、最大限の感謝をする。

 

 変身が、完全に解けた。

 同時。

 ぼくの全身から血が吹き出た。

 体に力が入らなくなって、倒れた。

 感覚が、壊れる。

 意識が、無くなる。

 

千景「っ聖陵院くん……!!」

 

 千景さんの声が聞こえた。

 

 

 

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