武谷「フレンド?」
ぼくの友達、味方。記憶にないが、この人がそう言っているのなら友達なのだろう。
歌野「そう、フレンドっ」
にっこりと笑う白鳥歌野さん。
…………。
そうだ。突然の出現に意識を取られていたが、今は早くみんなの元に行かなければならないんだ。話している時間などない。どうして半透明なのかとか、どうしてここにいるのかとか、今はそれもどうでもいい。
武谷「……っ」
くそ。立てない。座ることすらできない。
「私に任せてください」
声の方を見ると、また別の半透明の女の子がいた。
茶髪のショートで柔らかい顔をしている、神聖な巫女服を着ていた。
武谷「君は」
「初めまして、藤森水都です。諏訪で巫女をやってました」
武谷「巫女……」
水都「はい。うたのんは――ここにいる白鳥歌野は諏訪の勇者ですよ」
歌野「そして私とみーちゃんもフレンドよ」
武谷「そうか……」
みーちゃんというのは藤森さんのことだろう。
水都「では、今からうたのんと聖陵院さんの魂を同期させます」
よくわからないことをいわれた。
武谷「それをすると、どうなるの?」
水都「聖陵院さんは動けるようになって、戦えるようになります」
――。
武谷「なら頼む」
この二人は、信頼も信用もできると思った。感情がそう訴えてくる。
藤森さんはぼくに両手のひらを向け目を閉じた。
黄金色の光が、その手のひらから発された。光は広がり、ぼくと白鳥さんを包む。
足りないものが満たされていく感覚がした。白鳥さんを、先よりも更に近くに感じる。
やがて光は収まった。
水都「これで、動けるはずですよ」
左腕を支えに体を起こした。起こせた。動ける。
ベッドから下り立つ。左手を開いて閉じて開いて閉じた。
右腕はないけど、動けるのなら戦える。
水都「戸惑っていると思いますから、色々説明させてもらいますね」
武谷「みんなの所に行かないと」
歌野「なら走りながら話しましょう」
病室から出て、走っていく。
動けるようにはなったが、身体はかなりボロボロだ。
無理矢理壊れた体を
それでも、なんとかふらつきながら走って行く。
歌野「ファイトよ武谷。私がついてるから」
ポンとぼくの背中を叩く仕草をして元気づけてくれる。
半透明だからか、触れられても擦り抜けていたけれど。
歌野「私が諏訪を守れなくて、終わってしまった後の話よ」
白鳥さんたちは話を始めた。
歌野「ぼんやりとした光の世界にいて、ああ、今から神樹様の元に行くんだな、て思ってたら、神樹様とは別の神様が――その時は知らなかったけど味方してくれてる北欧神様ね、私とみーちゃんの力を借りたいって、みーちゃんに伝えてきたのよね」
水都「うん、巫女だから私に神託で伝えてきたんだ」
水都「北欧神様の力で、うたのんと私の魂を、うたのんの勇者装束の髪飾りを通して、聖陵院さんと引き合わせてくれたんです」
歌野「そう、だからずっとみていたの。武谷のこと。武谷の思い。全部ね」
歌野「そして見てたから、本当はもっと早く助けになりたくて、いつも出て行きたくてうずうずしていたけれど、ようやく今力を貸せるようになったのよ」
水都「北欧神様がうたのんに力を使えるようにするまで時間がかかったんです。戦闘の度に聖陵院さんに与える力もあったから。そもそもうたのんの力は地の神のもので、地の神ではない北欧神様が扱うには難しかったそうです」
水都「聖陵院さんには、もう直接力を授けることは前回の戦いでできなくなったようで、それで私たちを通して戦えるようにしたんです」
水都「私がうたのんと聖陵院さんの魂を同期させるなんてことができたのも、北欧神様の力を授かったからです」
水都「私は巫女といっても、普通は神様の神託を授かるぐらいしかできませんから」
苦笑するように言った。
歌野「ここまでの状況説明で、わからないことある?」
武谷「……いや」
歌野「オーケー。スピード上げるわよ」
武谷「うん」
ぼくはふらつく体により一層の気力を込めて走り出そうとした。
歌野「武谷、ずっと見てて思ったんだけど」
武谷「……?」
歌野「あなたすごく頑張ってるわね、偉いわよ」
感触はないけれど、白鳥さんに頭を撫でられた。
労わるように、優しい手つきと微笑みだった。
武谷「……ありがとう」
別に、誰かに褒められたくて頑張っていたわけではないけれど、思わずそう言った。
今度こそ足を速める。
武谷「ねえ、白鳥さん」
歌野「ワッツ?」
武谷「ぼくも、うたのんって呼んでいい?」
今は、そんな気分だった。覚えていないけれど、この子は信頼できる、もっと仲良くしたいと思ったから。彼女のフレンドリーさもそれに拍車をかけていた。あと、うたのんという語呂が好きだ。
歌野「ええいいわ。ウェルカムよ。今は一心同体だしね。正にソウルメイトだわ」
明るく気持ちのいい笑顔で受け答えてくれた。
そして前を向き。
歌野「さあ武谷、一緒に乃木さんたちを助けましょう」
根が
その刃の先には、倒れ伏している千景さん。
武谷「千景さん!」
歌野「武谷、手を出して!」水都「聖陵院さん、手を前に出してください!」
同時に二人の声を聞くと、ぼくは迷わずその通りにした。
その手に、うたのんと藤森さんの手が重なる。
刹那の間に、そこから黄緑と黄金の光が広がった。
光は壁のような形状と化し、千景さんたちを護るように展開される。
光の壁は、超巨大光剣を受け止めた。
拮抗の音を
水都「この結界は一時的なものです。持ちこたえられる時間は僅かですから、急ぎましょう」
ぼくは千景さんたちの元に走り寄った。
千景「聖陵院くん……」
友奈「たけくん、約束守ったね」
杏「武谷さん……」
球子「ほんと、不死身のヒーローかよ」
若葉「武谷、と、あれは…………」
千景「起きたのね……」
千景さんが力無く顔を上げる。
千景「でも、戦えるの……?」
千景「これ以上戦ったら、死んでしまうのではないの……?」
ぼくの無い右腕の場所を見て言う。
千景「なんで……きてしまったの……」
どうしようもないけれど、それでも嫌で悲しい、そんな表情をする笑わせたい人。
武谷「助けたかったから」
即答した。
武谷「ぼくはいなくならないし、死なない」
武谷「千景さんを守るし、約束も守るよ」
千景「せい、りょう、い、ん、くん……」
千景さんの声が震える。
千景「うそは、なしよ……」
武谷「嘘じゃないよ」
千景「……信じられないわ」
武谷「それは困った」
千景「信じられないから……信じさせて」
武谷「――そうかい」
武谷「なら、絶対に信じさせてみせよう」
歌野「ねえ、武谷」
ぼくだけに聞こえるように、うたのんが話しかけてきた。
歌野「今まで見てきたから、今さら訊いても意味ないかもしれないけれど」
歌野「今一度、訊くわ」
真剣な表情。
歌野「自分がどうなっても、守りたい?」
武谷「当然」
歌野「そう……わかったわ、私からはもう何も言わない」
武谷「でも一つ」
歌野「ワッツ?」
武谷「ぼくは千景さんのそばにいる。これだけはどうなろうと果たすよ」
歌野「……オーケー。その意気だわ。ファイトよ男の子!」
うたのんは満面の笑みでぼくの背を叩いた。例の如く感触はなく擦り抜けるけれど。
藤森さんもぼくにだけ聞こえるように話した。
水都「では、聖陵院さん、みんなに触れてください。北欧神様の力を全員に送り込みます。直接聖陵院さんに力を授けられなくなったといっても、他の人なら例外ですから、だからみんなを強くしてこの状況を打破しましょう」
水都「そしてこの代償は、例え他に与えた力でも、すべて聖陵院さんが負うことになります……」
ぼくは頷いた。
さあ、助けよう。
千景さんに右手で触れた。その手に、藤森さんとうたのんの手が重なる。
黄金色の光が千景さんに送られ、包む。
千景さんの傷だらけの体が回復し、綺麗になっていく。
千景「……動けるわ。さっきより、身体も軽い」
千景さんは立ち上がった。
次は友奈さんに触れた。藤森さんとうたのんの手が重なる。
黄金色の光を送り込み包む。
友奈「わあ……すっごい力が漲ってくる!」
杏さんに触れ、力を授ける。
杏「武谷さん……ありがとうございます」
杏さんは、立ち上がりかける。
でも、なぜかその途中で止まった。
武谷「どうしたの?」
杏「あの……」
杏「私……えっと……」
杏さんはうつむいたままたどたどしく言葉を紡ぐ。
杏「前に一度してくれたときみたいに、頭を撫でてもらえませんか……?」
顔を真っ赤にして、少しだけ顔を上げて上目遣いになりながら杏さん。
杏「だめ、ですか……?」
武谷「だめなんてことはない」
ぼくは杏さんの頭を撫でた。
杏「…………」
杏さんは気持ちよさそうに目を細めていた。
杏「……はい、もう大丈夫です。私はこれで、戦えます」
杏さんが強い光を瞳に宿していったので、ぼくは安心してタマさんの元に向かう。
タマさんに触れ黄金の光を送る。
球子「なあ武谷」
武谷「なんだい」
球子「タマは、強くなるなんて言って、結局勝てなかった……」
気落ちした様子を見せるタマさん。
球子「でも、まだ、誰も守れなかったわけじゃないよな。誰も死んでないもんな」
武谷「ああ、死んでない」
球子「だから、たとえ武谷たちに貰った借り物の力でも、今からタマが勝てば、それは強さの証明になる、かな……? すまない、よくわかんねえや」
タマさんは不安げだが、決意はほとんど固まっている表情をしていた。
ならあとは、ぼくが背を押してあげるだけでいい。
武谷「きっとなるよ。元よりタマさんは強い。そしてさらに強くなった今なら、君が勝てない相手はいない」
球子「――そうか。なら、いっちょ勝ってくるっ!」
タマさんは力強く立ち上がった。
最後に、若葉さんの元へ来た。
若葉「白鳥さん……?」
倒れ伏したまま呆然と半透明のうたのんを見ている若葉さん。
歌野「乃木さん、立てる?」
若葉「……無理そうだ」
歌野「なら、立たせてあげるわ」
ぼくが若葉さんに触れると、その手にうたのんと藤森さんの手が重なる。黄金色の光は
若葉さんを包んだ。
立ち上がる若葉さん。
若葉「立てる。立てるぞ。ありがとう、白鳥さん、それと二人も」
歌野「フレンドを助けるのは当然のことよ」
うたのんは楽しそうに顔を綻ばせていた。
若葉「白鳥さん、色々聞きたいことは多いが――」
歌野「そうね――もうタイムリミットみたい」
結界の軋む音の中に、致命的な音が混じった、そしてすぐに。
バーテックスたちの様々な攻撃を受けていた結界は、砕け散った。
武谷「勝とう、みんな」
それぞれの返答が、平成最後の戦場に響き渡った。