聖陵院武谷は勇者である   作:ソウブ

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26話 ヴィクトリー

 

友奈viewer

 

 

 私を帯に巻き付けて自爆したバーテックスは、消えた。

 だけど。

 

友奈「はあ……はあ……」

 血がいっぱい滴り落ちる。

 私は血だらけの満身創痍だった。

 何とか、膝は突かないように立ってはいる、けど。足が震える。

 痛い、辛い、怖い。  

 

 魚のようなバーテックスが潜っていた地面から飛び出した。

 私に止めを刺そうと真正面から突進してくる。

 火と氷と光が渦を巻いていて、直撃すれば私の命を奪うのは簡単だと思う。

 

 私は――

 

 痛くて辛くて怖いけど。

 気を奮い立たせて、地面を強く踏み締めた。

 前を見据える。バーテックスの攻撃を、恐怖を正面から見つめる。

 

 たけくんに慣れていない偉そうな説教をした。あの時は精霊の影響か、いつもとは違う感情に流されて勢いで口にしてしまったことだけど、嘘は吐いてない。

 たけくんは死んでほしくないって言った。私は、死なないよ、って言った。

 あんなこと言っておいて、私が同じことをできないなんて、口に出したことを守れないなんて、そんなの駄目だ!

 私も、帰る! 勝って、みんなと一緒にいる!

 

 バーテックスは、目の前。

 拳を振りかぶっている時間はない。

 だから、ただ前に拳を出した。

 

 激突。

 足腰に力を入れ踏ん張る。

 

 叩き飛ばされず、踏み止まる。火も氷も光も、私を包んでいる黄金の雷が守ってくれて致命傷にはならない。

 

 時間を置かずに左の拳を放つ、黄金の雷に寄り添われた酒呑童子の手甲は、魚のようなバーテックスを粉砕する。

 これで、あと二体。

 

 力を入れたことで身体がさらに悲鳴を上げる。

 痛い。

 痛い、けど。

 

 天秤のようなバーテックスが回転し、暴風を巻き起こす。

 無数の火と氷をそれに乗せて飛ばしてくる。

 

友奈「私は勇者! 勇者なんだから、これぐらいでへこたれてちゃ駄目なんだ!

友奈「みんなを守る、勇ましい者なんだから!

友奈「大好きな人たちを守る! それが勇者、高嶋友奈なんだあああああああああ!!

 

 雷を纏った拳は神速、酒呑童子の拳は超威力。それが合わされば、殴り壊せないものなんてない。

 たとえバーテックスの攻撃が速くとも、多くとも、全てに拳を届かせる。

 

 拳で殴る、殴る、殴る。殴る殴る殴る殴る殴る!

 

友奈「絶対に、諦めない!」

 

 無数の火と氷は、すべて殴り消した。

 

 瞬間、蟹のようなバーテックスの反射板も飛来する。

 正面から拳を放って打ち砕いた。

 

 しびれを切らしたのか、天秤のようなバーテックスが、分銅をぶん回しながら突撃してくる。

 回転し最も威力の乗った分銅が迫る。

 私は、真正面から振りかぶった拳を放ちそれを粉砕した。

 その衝撃で回転が止まったバーテックスに向けて足を踏み出す。

 腰を落として、力を入れ、胴体に殴りつけ壊した。

 あと、一体。

 

 私の体は悲鳴を上げる。

 でも、動かす。

 

 最後の一枚の反射板を正面から差し向けられ、粉砕、それで少しの間、前が見えなくなった。

 時。

 蟹のようなバーテックスの鋏が、襲い来る。

 鋭く開かれた刃は、最硬鉱物でさえ容易く斬るだろう。

 

 このまま前に拳を突き出しても、破壊する前に挟まれ真っ二つになってしまう。

 

 なら。

 両手を横に出す。

 私を挟もうとする鋏を、掴んだ。

 挟む力は強い、けれど。

 

 私の方が、強い!

 

 鋏を握り潰した。

 バラバラと粉々に消えていく鋏。

 蟹のようなバーテックスに向けて跳んだ。

 

友奈「勇者パーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンチッッッ!!!」

 

 胴体に最後の一撃を打ち込んだ。

 バーテックスは細かいものになって消滅していく。

 これで全部、倒した。

 

友奈「あはは、ちょっと、疲れちゃったかな」

 

 膝を突いた。

 赤は滴る。

 みんなが、心配だな……。

 

 

若葉viewer

 

 

 流転(るてん)する、狂う世界。

 死へと(いざな)う空間。

 回る(まわ)(まわ)る攻撃(げき)(げき)(げき)痛覚。

 乱れ混乱狂う狂う削られる無くなっていく。

 薄れゆく、意識の中。

 

 ――――ひなた。

 

 守らなければならない人の顔が浮かんだ。

 

 気力が、僅かに戻る。

 その僅かさえあれば、十分だった。

 

 ここで勝たねば、勇者ではない!

 勇者の力を、舐めるな!

 

 視覚や触覚、痛覚、集中を乱す認識は全て余計だ。

 ただ、炎を呼び起こすことだけを考える。

 天上を一夜にして灰燼に帰したという大天狗の炎。

 顕現させる。

 それは、少しの意識さえあれば可能な、簡単なことだ。

 

 大火と、黄金色の雷が力を発揮する。

 

 私を閉じ込めていた色々なものが混ざった水泡を、一瞬にして蒸発させた。

 狂った空間からの脱出に成功し、いまだに混乱する脳を無視し、前を見る。

 

 私の周囲には炎と雷が漂う。

 白鳥さんたちの力が守ってくれている。

 心底、心強い。

 

 白鳥さん、私たちの力が揃えば、なんだって打ち倒せる。彼女は戦った、戦い切った立派な勇者だ。その勇者と私が力を合わせれば。

 

若葉「白鳥さん、行くぞ!」

 

 後ろに死の気配。無数の矢がいつの間にか後ろから迫っていた。

 水泡から脱出したばかりで頭の混乱は抜けきらず、ふらついてまともに速く動けない。漂う炎も自らの体を焼いた。けれど。

 雷と共に在る炎を出し無数の矢を迎え撃つ。

 

 体が焼ける。だが、どうでもいい。

 こいつらを屠り、皆を守れるのなら、どうでもいい。

 

 無数の矢を炎で防いでいると、横合いから無数の節に分かれたバーテックスの火と氷と雷と光の混沌とした現象烈破(れっぱ)が襲う。

 

 炎で矢を防ぎつつ、神速で大太刀を翻し、幾閃も斬線を残し消し飛ばす。

 煙が舞い、すぐに晴れる。私は(たたず)む。

 

若葉「――そうか、この程度か」

 

若葉「貴様たちは、この程度なのだな」

 

若葉「即座に、散れ」

 

 大天狗の大火を従え、大太刀を構え、漆黒の大翼で飛ぶ。

 

 最も近くにいた、先に水泡内で地震を引き起こしたバーテックスへ。

 矢を放ってくる奴が最も厄介だが、私の今から行う戦法には捨て身の突撃が一番厄介と成る。だから突撃力が一番高そうなバーテックスを最初に狙った。

 

 無数の矢を、混沌とした現象を、自らの身を焼き焦がしながら従えた炎と黄金の雷で防ぎ進む。

 すべてを対処することはできずに体に傷は増えていくが、勢いを殺さず止まらず四本の角を持つバーテックスに到達。

 

 大太刀を揮い。

 

 一閃。

 

 切り捨てた。

 

 間髪入れず、私は動き続ける。

 次に、地震を引き起こす今しがた倒したバーテックスと連携するために近くにいたのだろう水泡を従えるバーテックスに向けて飛翔、瞬時に疾風の如く肉薄。

 水泡が放たれたが、それは翼の機動力を生かし避け、横を通り過ぎていった。

 

 一閃。

 バーテックスを二つに斬った。

 

 その次に無数の節に分かれたバーテックスに向けて空駆ける。

 放ってきた混沌現象は、雷炎で対消滅させた。

 

 一閃。

 バーテックスは分裂するが、雷炎で焼き尽くした。

 

 最後に、矢を持つバーテックスに真正面から突撃する。

 

 大太刀を鞘に戻し、居合の構え。

 ()ってくる無数の矢は、雷炎を楯とする。

 

 バーテックスが、口から生えた巨大な矢を、射出した。

 こちらに、一直線に、刹那の間に到る。

 

 爆発。衝撃波。

 だが、空駆ける。

 咄嗟に雷炎を正面に多く放ったが、傷は負った。

 それでも動けるのなら、何も問題はない。

 

 居合の構えは崩していない。

 矢を持つバーテックスへと接近。

 すれ違いざまに大太刀を鞘走らせ、閃かせる。

 

 静寂。

 ほとんど音のない世界が、この場を支配した。

 

 大太刀を鞘に納める。その音が静寂を破った。 

 

 瞬間、矢を持つバーテックスは、真っ二つに割断され焼失した。

 

 ……みんな、白鳥さん、ひなた、勝ったぞ。

 体は焼ける。焼けている。焼け焦げている。

 それでも意識が在る、生きている。

 

 みんなも、勝つだろう。

 私は、確信している。

 

 

球子viewer

 

 

 タマは、倒れている。

 あんずの隣で倒れている。

 何の感情も持たない化け物相手に、無様にやられて。

 敗北、が、頭の中を過ぎった。

 

 ――。

 

 でも、その考えはすぐに燃え上がる熱い思いにかき消された。

 

杏「た、タマっち……先輩……」

 

 死にそうな顔して、実際体は焼け爛れて瀕死状態で、あんずがタマを呼ぶんだ

 タマは、あんずを守る。

 昔誓った。一つの信念。

 それは今、強く輝き、戦う力を呼び起こす。

 まだ、立てる。

 あんず、絶対、お前を守るからな。

 武器はないけど、無くても攻撃する方法くらいある。今のタマなら拳で殴りつけても少しはダメージを与えられると思う。

 

 迫る黒い者。

 奴はタマたちを殺そうと近づいてくる。

 あんずを殺そうと、してくる。

 そんなことは許さない、だから、立つ。立ち上がるんだ。体を叱咤する。

 

 守るという誓いを込めて、あんずの手を握った。そして立ち上がろうとした――

 

 手を強く握ったそのとき、何かがタマの中に流れ込んで来た。

 あんずを包んでいた黄金色の雷が消えた。そしてタマを包んでいた雷が量を増した。

 力が入った時、理解の感覚が広がる。今戦えるタマに、あんずに与えられていた力が譲渡されたと。

 あんずには、生命を怪我や代償から守る淡い光だけが残った。

 

 そうして、武器を失ったタマの手に、

 

 姫を守る騎士剣が顕現する。

 

 黄金色の、雷を宿した剣。 

 

 これは、武谷が使っていた剣。その刀身に炎が渦を巻いていた。輪入道の力も宿っているんだ。

 

 これで、あんずを守れる。

 

 立ち上がった。

 

球子「さあ、タマに任せタマえ」

 

 姫を守る騎士剣を、構えた。

 

 振り下ろされる、黒い巨人が持つ太陽の如き炎の剣。

 雷を宿し、炎が螺旋を描く剣――雷炎剣を斬り上げ、迎え撃つ。

 剣と剣がぶつかり合う瞬間、炎の剣は爆散した。

 炎の剣に在るエネルギーが全て発破。

 その爆炎は、刹那の間に迸った雷炎にガードされる。

 

 この炎は輪入道のもの、故に、旋刃盤の楯の性質を残している。タマは、あんずの剣であり楯だ。

 さっきみたいに無様にやられたりしない。

 

 黒い者は、炎の剣を左手に再度創って、間髪入れず振り下ろしてきた。

 タマは、雷炎剣を再び振り翳す。

 インパクトの瞬間、爆発爆散する炎の剣。

 雷炎が楯と成り、炎から守る。

 

球子「今のタマはさいきょーだぞ!」

 

 奴は何度も炎の剣を創った。何度もタマに振り下ろし、横に薙ぎ、斬り払い、斬り落とし、斬り上げ、流し斬り、薙ぎ払い、剣撃と斬撃と炎撃を乱舞する。

 タマは、その全部を最強の剣を手に正面からぶっ潰した。

 

 ヤケクソのように振るわれる炎の剣。

 タマは、その炎の剣を斬り防ぎながら、雷と成って空を走った。

 接近。肉薄。

 

 黒い者は、自らの右腕を剣へと変化させた。それは黒い炎で滾り――さしずめ黒炎剣。

 そんな超やばそうな剣を、タマから見て左から横薙ぎに振るう。

 雷炎剣で受ける。

 先よりも威力が段違いだ。

 けど。

 雷炎剣を、黒炎剣に滑らせながら突き進む。

 

 左腕も黒炎剣と化し、タマから見て右から襲い来る。

 雷炎の楯を、右に全力で展開した。

 それで右の黒炎剣を何とか防ぎ抑える。

 

 左右を黒い死の具現に挟まれながら、本丸へと突き進んだ。

 奴を倒す為に。

 この一直線の道を進み切れば、バーテックスにこの刃が届く。

 

 ――黒い者は、その黒い頭でさえも黒炎剣へと変えた。

 

、こちらにその切っ先が神速で伸びる。

 

 左右は黒炎がタマの命を狙い、防ぐので精一杯。

 そして前からは死が迫る。

 

 あれ、これ防げない。

 

 タマは、勢いに乗ったままあっさりと死んでしまうのでは。

 

 すぐに考え直す。タマは、どんな状況だろうとあんずを守るんだ。

 簡単に絶望なんて、してやらない。

 

 でも、どう対処する。どうにかここで死なないようにしないと。

 

 後方から飛来する黄金と水色、レーザー状の雷吹雪が、前から迫る黒炎剣にぶち当たった。

 それにより、奴の頭部黒炎剣は、ほんのわずかに軌道をずらす。

 

 あの吹雪は、あんずの。

 大怪我してるってのに。

 

 そうだよな。あんず、あのときも逃げなかったもんな。

 サソリ型にやられそうになったとき、どれだけ言ってもあんずは逃げてくれなかった。

 そんなやつが、守られるだけのお姫様なわけがないよな。

 

 あんずが作ってくれた機、ここで逃すわけにはいかない。

 タマはあんずの剣と成り、バーテックスに刃を届かせよう。

 

球子「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

 黒炎剣が僅かに逸れたことで正面から貫かれる致命傷にはなっていない。けれど肩には当たってしまっていた。前に進めば進むほど肩が切り裂かれる。

 血がドバドバドシャアッ、と噴き出す。

 

球子「ああああああああああああっっ!! お前! 肩もみ下手だなあっ!!!」

 

 痛さと痛さと、あと痛さに耐えて。

 血が噴水のように舞いながら、黒いバーテックスの懐に到達。

 密着するほど近づけば、腕の可動域から逃れる。

 つまり、こいつの黒炎剣は今、タマに届かない。

 

 雷炎剣の切っ先を前に向け、振りかぶって構える。

 そして、前に突き出す!

 バーテックスの中心を、真正面から胸を、騎士の剣で貫いた。

 貫通して、勢いそのままにタマはバーテックスの体を通り抜け、背中から出る。

 

 タマの後ろでバーテックスが倒れていく気配。

 黒い者は、消滅する。

 

 タマは、勝った。タマは、守れた。タマは――

 

球子「強いぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 勝利の雄たけびを上げた。

 

 

千景viewer

 

 

 爆炎が晴れる。

 焼け爛れた体。満身創痍な自分。

 息を整えようとして、整えられない。

 目が霞む。

 ともすればこのまま力が抜けて落ちていきそうなほど。

 

 九枚刃の大鎌を、強く握る。

 

 私は、聖陵院くんと一緒にいる。

 だから私は、死なない。死ねない。

 聖陵院くんに約束を守ってもらうには、私も死なないことが条件だ。

 

 火炎球が創られ発射される。

 バーテックスに近づいたことで、結界が広い。今なら避けることができる。

 

 聖陵院くんたちから与えられたこの雷の力、速さは、圧倒的。

 黄金の雷と成って空駆け飛び回る。

 

 火炎球を避けながら、再度肉薄、密着するぐらいに。

 

 超巨体の白い表面に九枚刃の大鎌を突き立てる。

 玉藻前の力、呪いを全力で送り込んだ。

 巨大過ぎて、直ぐには呪いが回り切らない。

 

 火炎球が大量に周りに生成される。

 (あか)く朱く、熱く、焼き尽くす念しか存在しない太陽のような火炎球。

 小さな太陽が無数に、ただ一人を殺す為だけに殺到する。

 

 避けてからまた攻撃するか。いや、火炎球で隙間なく囲まれている、避けられない。一部だけ防ぎながら離脱。これも防ぎながらだとその内に他の火炎球が私に到達するだろう。火炎球は決して遅くないのだから。

 

 この九死から抜け出す為には、どうすればいいか。

 

 一瞬だけ、考えた。

 

 玉藻前の性質は、どこまでも強い呪い。

 ならば、どこまでも強くすることができる。

 結論。

 

 このまま、斃す。

 

 呪いが強過ぎることで、自分の体も、呪いに蝕まれる。

 苦しい。痛い。力が抜けていく。辛い。でも止めない。止めるわけにはいかない。玉藻前の力を発揮し続ける。

 

 呪いをバーテックスに送りながら、周囲にも撒き散らす。楯とするように濃紫色(のうししょく)(もや)が視界に見えた。それに黄金色の雷が寄り添うように混ざった。

 それに殺到してきた小さな太陽が衝突していく。間断なく爆発が起き、威力を発破し荒れ狂う。

 致命傷は私に到達しない。肌は焼かれ、呪いは蝕み、死へと近づいてはいる。でも、戦える、動ける、生きている、死なない。 

 

 呪う意思を強くしていく。

 際限なく、どこまでもどこまでもどこまでも。

 

 呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う。

 

 呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え呪え。

 

 呪わしい。憎らしい。永劫の苦しみを与えたい。絶対に許さない。殺す。悲嘆しろ。絶望しろ。お前には負の事象しか許さない。死ね。消えて無くなれ。

 

 ああ、呪わしい呪わしい呪わしい。

 

 爆発が途切れず連続で起こる。爆音が鳴り響き続け、聴覚がおかしくなる。

 自らも呪いに苦しみながら、火炎球の軍を防ぎ、地獄の窯の中のような状況を耐えていく。

 

 私は貴様を呪殺する。

 呪われて死ね。

 

 そして。

 ついに。

 

 超巨大バーテックスの全身に濃紫色の、三大悪妖怪、玉藻前の呪いが回り切った。

 

 火炎球は創られず、静かな風が吹く。

 

 太陽のようなバーテックスの体が、崩れ消えていく。

 

 やがて、完全に消滅する。

 

 身体がふらついた。

 痛い、熱い、苦しい、死にそう。

 

千景「聖陵院くん……私、勝ったわよ……」

 

 だから、あなたも勝って。

 

 

mainviewer

 

 

武谷「……っ!!」

歌野「……くぅっ」

 

 痛みは堪えた。死線でアドレナリンは大量に分泌されている。

 右腕は切り飛ばされ、もう()い。

 右手に持っていた鞭も、無い。

 放られて、どこかに落ちていってしまった。

 

 奴は何度も復活し続ける。

 倒すには、どうすればいいか。

 考えてる間にも光の剣は襲い来る。

 細かく分けられた光の剣が、拡散、放たれた。

 

 鞭を拾いに行く暇もなく、雷と成って避ける。

 だが、武器もなく、数が多すぎる上に速い。

 全身が斬り刻まれる。

 

武谷「がっ……はっ……」

 鮮血が舞い落ちていく。

 

 力が抜けて落ちていきそうになる。

 だが動く。

 

武谷「うたのん」

歌野「…………」

 

 光の剣。

 避けて逃げ回り、避け切れなくて傷ついていく。

 

武谷「ねえ、うたのん」

歌野「…………っ」

 

 光の剣。光速襲い。

 避ける、肌が裂かれる、血が、血が。

 ぼくは戦う。

 

 そろそろ、避けるだけでは、持たなくなってくる。限界が来てしまう。反撃するための体力が残っていなければ、何もかも遅いんだ。

 

武谷「わかってるんだろ、うたのん」

歌野「――――っ」

 

 この黄金の光、雷はグリームニルと同じ性質を持っている。

 そして神成(かみな)(つるぎ)は、全てを切り裂く。

 ならば、それをさらに強くすることができれば。

 いつだって北欧神様は、ぼくに状況を乗り切るための力をくれた。代償さえ払えば。

 

 そう、もうほとんどないと言えるぼくの捧げることができるもの。

 根こそぎでも、捧げれば。

 

 しかしこれには、ぼくに直接はもう無理だ。

 だから魂を同期しているうたのんの合意が必要。

 彼女を経由しなければならないから。

 

武谷「なあ、うたのん」

歌野「わかってるわ。わかってるけど」

 悲痛、苦肉、遣る瀬無い、どうしようもない、悔しい。そんな感情がうたのんから伝わってきた。

武谷「ここで死ぬより、勝って帰るほうがいい」

歌野「帰れないかもしれないわ」

武谷「奴に負ける方が帰れない」

歌野「……そうね」

 

歌野「武谷、さっき言ったことは本当よね」

武谷「ああ、本当だよ」

武谷「ぼくは、千景さんのために生きる。彼女を笑わせる」

武谷「だから、絶対に千景さんのそばにいる」

 

 うたのんが、決意を秘めた瞳で、

 

歌野「――そう、わかったわ」

歌野「なら、私は武谷を応援する。どんな結果になったとしても、あなたを否定しないわ」

 

 笑った。

 そして、敵を見据える。

 

歌野「これより、ラストフォームよ!」

 

 左手に北欧神の力、代償を際限なく負い、集中させる。

 ぼくの左手が、黄金色、そして黄緑色に光り煌き輝く。

 攻撃力にのみ特化させている。だから右腕が回復したりはしない。

 すでに宿っていた力も、ほとんどが攻撃力に回されたので、同期しているうたのんの力を借りて、満身創痍の身体を自由に動かす。

 

 ――――今さらだが。

 ぼくは現在、変身している。

 そう、超人的な身体能力を有しているんだ。

 前までは、ぼくはみんなみたいに変身はできないからと、諦めていた戦い方。

 それが、今はできるということ。

 

 光の剣が、無数に発射される。

 

 鍛錬を必死にしていた頃がある。そのときに自分が得意としていた技があった。

 多少のブランクはあれど、その身に沁みついている技。

 左手を握り込まず、開いて伸ばす。

 手刀の形だ。

 

 黄金と黄緑を宿した手刀を、揮う。

 払う、斬りつけるように、打ちつけるように、降ろし、薙ぎ、袈裟掛けに振るう。

 

 光の剣を次々と撃ち落としていく。

 

 意味のなかったと思っていたぼくの研鑽、そのすべてをお前にぶつけてやる。

 

 光の剣を手刀で跳ね飛ばし消していく。

 

 そして、光が、途切れる。

 

 雷と成って飛翔、バーテックスに肉薄。

 

 

 鍛錬を必死にしていた頃、自分が最も得意とした技があった。

 通常なら、目やみぞおち、弱点を狙う攻撃、化け物相手には一切通用しない武術。

 けれど、それはただの人の武術であった場合だ。

 

 四本の指を伸ばし、親指だけ曲げる。

 ぼくが最も得意とした武術、貫き手の構え。 

 

 ――放つ。光り輝くバーテックスの発光する身体に突き刺した。

 

 神の力を宿らせ、一点集中させた威力は絶大。

 

 刹那、奴は瞬時に幾度も光った。

 理解する。今ぼくは、こいつを何十回か殺したと。

 

武谷「お前の復活が本当に無制限かどうか、見せてもらおうか」

 

 光の特大剣が、薙ぎ払われた。

 

 雷迅(らいじん)と化し、紙一重で避ける。

 

 貫き手を突き刺す。

 

 奴は何度も死ぬ。

 

 超巨大な光の剣が振り下ろされる。

 

 避け、貫き手を突き込む。

 

 何度も死に、何度も復活。

 

 無数の光の刃。

 

 弾き、払い、斬り飛ばし、貫き手を何度も打ち込む。

 

 その度にバーテックスは幾つもの命を失う。

 

 だが、ぼくの体から血も(うしな)われていく。

 満身創痍なのは変わらない。

 されど。 

 

 喰らい付く。死に物狂い、決死に命を燃やす。うたのんと共に。

 

武谷・歌野「「うおおおおおおおあああああああ」」

 

 そして、遂に。

 光り輝くものは、後方に退き、まるで必死に死を拒むように、光の剣の猛攻を放ってきた。

 避け、斬り裂かれ、弾き、突き刺す。

 

 確信。効いている。奴は、着実に死へと近づいている。

 

武谷「はあ……はあ……はあ……っ」

歌野「武谷、まだいける?」

武谷「当然」

歌野「愚問だったわね」

 

 貫き手を、魔王を倒す勇者の剣の如く、構える。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――光。

 

 眩しく眩く、光が広がって固まって。

 

 形成。

 

 奴は、今まで見せたことのない技を使用した。

 

 超巨大な光の剣が、間断なく、間髪入れず、刹那の間に、二連続で薙ぎ払われる。

 

 一振り目は、先までと同じで、何とか避けられた。

 だけど、二振り目は、避けた瞬間に来る光速で奔る剣を、対処することは叶わない。

 

 ぼくの上半身と下半身が別たれる。

 鮮血が、命の血が、堤防が崩壊した川のように、勢いよく噴き出し流れ落ち急速に失われていく。

 体の機能が、停止へと向かって――

 

 ――――っこれぐらいで!

 

武谷・歌野「「負けてたまるかああああああああああああああああああああああ!!」」

 

 喰らいつく。

 文字通り、光り輝く女神像のような姿をしたバーテックスに、歯を突き立て、顎の力だけでしがみ付いた。

 

 上半身だけとなったぼくは、左腕を引き絞り、貫き手を構える。

 魂が同期しているうたのんも、同じ構えを取る。

 

 残っている力は僅か。

 あと放てるのは一撃だけ。この一撃にすべてを集約する。

 左手が黄金色と黄緑色に、今までで一番眩く輝いた。

 この一撃は、攻勢の究極発露。自らのすべてが壊れる一撃だ。

 

 歯が欠けながら、バーテックスの体を喰い千切り、口を開ける。

 

 自然に、言の葉を紡いでいた。

 

武谷「ぼくは」

歌野「私は」

武谷・歌野「「勇者だああああああああああああああああああああああああああああ」」

 

 神速の突き。

 バーテックスを、貫いた。

 

 光が瞬く瞬く瞬く瞬く。

 今までにない量の瞬き、もう瞬きとすら言えないほど、視界は混沌としている。

 一撃で、何百回、もしかしたらそれ以上、殺したのだ。

 

 やがて、瞬きは無くなり、バーテックスの動きが止まる。

 静謐、静寂だけが空間を席巻した。

 

 バーテックスの体が崩れていく。

 微細に、消えていった。

 

 光り輝くバーテックスは、死んだ。

 ぼくたちが、倒した。

 ぼくたちは、勝った。

 

歌野「ヴィクトリーーーーーーーーーーー!!!」

 

 勝利の雄たけびを上げたうたのんを振り返る。

 うたのんの半透明の体も、少しずつ粒子となって消えていた。

 

歌野「乃木さん、みーちゃん、勝ったわよーーーーーーーーーーーー!!」

 

 うたのんも帰っていくのだろう。

 戦いが終われば神樹様の元に帰っていく。

 

 一通り叫ぶと、うたのんはぼくに向き直った。

 

歌野「誓った通り、君はあの子のそばにいてあげなさい。あなたとってもラブユーされてるわよ」

武谷「うん、まあ、それはよくわかってる」

 

歌野「武谷は何かと心配だから、できれば一緒にいてあげたいけど、私にも待ってる人がいるから」

 水都さんのことか。僅かに見ただけだけど、二人はとても仲が良さそうだった。

 

歌野「バーイ武谷、また会う日まで」

武谷「じゃあね」

 

 うたのんは、小さく手を振って帰っていった。

 

 

 ――ぼくの体も、粒子となって消えていく。

 代償だ。

 ぼくにはもう、ほとんど何も残らないだろう。

 

 からだも、記憶も、意識も、何もかも。

 なくなって、いく。

 

 …………。

 

 ぼくは、約束を守る。

 

 千景さん…………。

 

 ――――。

 

 そうして。

 

 ぼくという人間は、消えた。

 

 

 

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