聖陵院武谷は勇者である   作:ソウブ

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エピローグ

 

千景viewer

 

 

 西暦最後の戦いが終わってから、数か月経った。

 

 みんなボロボロの姿で入院していたけど、最近ようやく全員退院できた。

 聖陵院くんたちが与えてくれた黄金の光が代償を軽減してくれたみたいで、皆無事に生活できている。

 

 今日は学校のない休日。 

 私は、適当な道を当てもなく歩いていた。

 

 当てもなく?

 違う。

 

 聖陵院くんを、探している。

 

 四国を守る結界はかなり強力になった。結界の外は天の神が地獄のような世界に変えてしまったけれど。

 そのうえ、聖陵院くんがいなくなってしまった事で状況が変わった。結界を強力にした程度では問題は解決しなくなった。

 北欧の勇者システムを扱える勇者がいなくなったことで、数十年以上後のバーテックスとの戦いで敗北する可能性が高くなったのだ。

 だからすぐに天の神との戦争を終わらせる必要があった。

 

 その方法が天の神との和睦だ。

 北欧神様が一柱、自ら犠牲になったらしい。主神のオーディンが死んで、こちら側全ての勇者の力を放棄することで、天の神は和睦を受け入れた。

 北欧勇者である聖陵院くんと、北欧神の主神がいなくなることで成立したのだ。

 

 それでも、乃木さんたち、私たち人類は諦めたわけではない。

 密かに遥か未来のための反撃の準備が進んでいる。

 上里さんが、大社内で色々動いて頑張っているらしい。

 

 だから私たちの戦いは終わっていないけれど、戦闘は終わった。今はみんな平和に命の危険もなく暮らしている。

 

 

 

 

 ――そんなことはどうでもいい。

 

 

 

 

千景「聖陵院くん……」

 彼が、いない。

 

千景「聖陵院くん、聖陵院くん……」

 

 聖陵院くんと過ごした日々を思い起こす。

 最初は、なにこの人、と思った。初対面から名前呼びで馴れ馴れしくて、変な人って。

 でも、そっけなく対応する私に彼は何度も話しかけてきて、仲良くなりたいという気持ちが僅かも隠されてなくて、いつも私に目を向けてくれた。

 私を価値ある存在だと言ってくれたんだ。

 私を何度も助けてくれたんだ。

 

 ――ぼくは、千景さんに喜んでほしい、笑っていてほしい。と思っているよ。

 

 ――千景さんがどうあろうと、ぼくはあなたを肯定する。ただそこに存在してくれるだけで、ぼくは価値を認めるよ。ぼくは君に生きていてほしい。何もしなくても、何をしても、千景さんはぼくにとって価値のある存在だ。

 

 ――何かあった時は、いつでもぼくを頼ってくれ。ぼくは千景さんの絶対的な味方だ。

 

 この聖陵院くんの言葉で、辛くなったとき何度も思い返して救われている。救われていた。

 救われていたのに。

 

 あなたがいなければ、意味がない。

 

 立ち止まる。

 いつの間にか、どことも知らない暗い路地。

 

千景「…………………………嘘つき……」

 

 嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき。

 

 ――うん、いるよ。約束する。

 

 ――ぼくはいなくならないし、死なない。

 

 ――千景さんを守るし、約束も守るよ。

 

 ――嘘じゃないよ。

 

 ――なら、絶対に信じさせてみせよう。

 

千景「うそつきっ…………」

 

 約束、したじゃない……っ。

 

 ずっと、そばにいるって……!

 

 聖陵院くん、いなくならないでよ。

 

 

 ――――――――――。

 

 

 ふと、聖陵院くんの気配を感じて振り向く。

 そこには、彼が――

 

 いない。

 

 誰も、いない。

 

 いるわけが、ない。

 

 そんな都合のいい奇跡は、起きない。

 

 ただの薄暗い道、人一人すら見当たらない。

 

 膝から力が抜けた。

 立っていられず、座り込む。

 

千景「うう、う、ああ……」

 

 世界が滲む。溢れる。

 

千景「うわああああああああああああああああああああああああああああああああん」

 

 聖陵院くん、聖陵院くん、聖陵院くん……っ

 

 

 

 

mainviewer

 

 

 意識は極小。

 世界は混濁。

 存在希薄。

 

 ここは、どこだ。

 どこでもいい。

 

 ぼくは、だれだ。

 だれでもいい。

 

 ちかげさん。

 

 ちかげさんって、だれだ。

 かわいいおんなのこだ。

 そばにいると、やくそくした。

 

 君がいなくなると信仰してくれる信者が一人もいなくなる。それは困る。そんな意思が伝わってきた気がした。

 君はもう、人ではない。ましてや精霊でも神でもない。ただ外れた存在だ。

 何の力も無い器だけだが、今の君にはそれで十分だろう。

 その意思を最後に、大きな存在から伝わってくるものは途切れた。

 

 ずっと……そばに……いるんだ…………。

 

 ――うわああああああああああああああああああああああああああああああああん。

 

 ちかげさんがないている。いかなきゃ。

 はやく、いかなくては。

 

 ちかげさんのそばにいる。

 ぼくにあるのは、その一念だけだった。

 他にはなにもなく、ただ彼女のそばにいなければならないと、それだけを思う。

 

 ぼくは歩く。進む。向かう。一直線に、なんとなくわかる目的の人の場所へ。

 ただ一つの約束を果たしに。

 

 

千景viewer

 

 

 涙が、とまらない。

 自分の意思とは関係なく、止めど無く溢れ流れる。

 

千景「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 声が、絶望の底から出てきて解き放たれ響く。

 もう、なにもかも。

 いやだ。

 

 

 

 ふと。

 

 

 

 淡い光が歪んだ視界に、見えた。

 私は。

 ただ、何の期待も、思いもなく、顔を上げた。

 

千景「せい、りょうい、ん、くん…………」

 

 そこには、彼がいた。

 淡い光に包まれた半透明の体で、微笑みを浮かべて立っていた。

 

武谷「ちかげ、さん……」

 

武谷「そばに、いる」

 

武谷「やくそく、だから」

 

 これは、夢……?

 とうとう、おかしくなって、白昼夢を、幻覚を見ているの……?

 

 聖陵院くんが近づいて、私の頭に手を乗せた。

 

武谷「なかないで。ごめんね」

 

 頭が、撫でられる。

 

 それは確かに、感触があって。

 夢でも幻覚でもなくて。

 懐かしい、聖陵院くんの存在が確かに感じられて。

 

千景「遅い……」

 

千景「遅いわよ。遅すぎる……」

 

千景「大っ嫌い」

 

 私の顔は、多分笑っていたのだと思う。

 

 聖陵院くんに思い切りしがみ付いて、抱きついた。

 

 涙は溢れて止まらない。でも私は笑っている。

 

 好き。

 

 好き好き、大好き。

 

千景「聖陵院くん……」

千景「ずっとそばにいて……」

 

武谷「うん、ずっとそばにいるよ」

 

 私は、幸せだ。

 あなたが、幸せにしてくれたから。

 

 

 

 

 




完結です。ここまで読んでくださりありがとうございました。
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