聖陵院武谷は勇者である   作:ソウブ

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あれで完結という前言を撤回します。今までの本編に関係ある質問ひっくるめてちょっとした後日談を書きました。感想返信でネタバレしてしまった感ありますがそれはご容赦を。


エピローグ2

 

 

 

 シュッシュッ、と、髪を整える。

 寮の自室、ぼくは洗面所で鏡を見ながら身だしなみを(かんが)みる。

 あまり自分の容姿とか身綺麗さとか気にしたことがなかったような気がする。記憶がほとんどないのでわからないけど。

 確か以前若葉さんに寝癖を指摘されたことがあったような、つまりそんな程度の意識だったんだ。

 

 鏡を再度見る。

 金髪、黒目、鋭くない目、少し丸っこい。不細工ではない、イケメンでもない。どう思われていたかは記憶がないのでわからない。自分を不細工だと思いたくはないが。

 よくわからないのでイケメンだと自分では思っておく。ポジティブに行こう。高身長ではないから、高身長イケメンという最強称号を持つことは不可能だけれど、低くもないから身長普通のイケメンだと思っておこう。

 金髪は地毛のはずだ。ぼくが命の危うい戦争中に暢気に髪を染めてでもいなければ。

 ぼくがなんでこんなことを急に思い立ったかと言えば、今日はみんなと終戦記念の祝勝会をするから。

 こんな時くらい、一番いい自分にしたかったのだ。

 

 

 そしてうどん屋にやって来た、ここが集合場所だ。

 

球子「武谷めっちゃ光ってるな!」

 店内に入って少し歩いたところ、開口一番に言われた。

 

 今のぼくの体は、北欧神様が、オーディン様がもういないからトール様が創り出した器だ。

 そしてこの器は、半透明で常時発光している非常に迷惑極まりない生命体。

 大社がその情報を開示しているから、ぼくのことは一般人に周知されているが。

 いや、今は改名して大赦だったか。

 それはともかく、だから大騒ぎになってはいない。精々見られた時に話の種にされる程度だ。

 勇者様の光だー、英雄の輝きだー、という具合に。

 勇者は正式名称だから呼ばれ慣れてるけど、英雄はむず痒いというか、呼ばれるとしっくりこない。ぼくはそんな器ではないから。

 

 ちなみにこの光は極限まで弱められる。だからそんなに周囲へ迷惑が掛からないようにはできる。今積極的に見ようとしなければ気にならないレベルまで弱めた。

 暗い場所では常夜灯よろしく活躍できるかもしれないけれど。

 

 現在はタマさんに杏さん、若葉さんにひなたさんが居る。千景さんと友奈さんはまだ来ていない。

 やがて少し雑談に興じていると店の扉がガラガラとスライドされる。

 千景さんと友奈さんが来た。

友奈「ごめん~ちょっと遅れた」

武谷「やあ」

千景「ん……」

 ぼくの隣席に千景さんが最速で座った。

 千景さんの隣、ぼくの反対側に友奈さんが座る。

 

 全員揃ったところで、

若葉「では、祝勝会だ!」

 我らがリーダーが始まりの言葉を述べた。

 

 店員さんにそれぞれ自分好みのうどんを頼む。ぼくは肉ぶっかけうどんにした。今は肉が食べたい。肉、肉。やっぱこういう時は肉っしょ。

 そしてうどんが届いた。食す。

 美味い。

 

杏「それにしても、みんな生きてて良かったですねぇ……」

友奈「こうしてまた何度もうどん食べれるもんね!」

 しみじみと言う二人。

若葉「全員息災が一番だな。だが全部終わったわけではない、気を緩め過ぎないように」

ひなた「これからも大変なことはありますが、このひとときがあれば頑張れますね」

球子「まっ。また何かあってもタマに任せたまえ。なんたってタマはさいきょーだからなっ!」

 

 平和だ。平和そのものだ。

 肉美味い。うどん美味い。

 平和で飯が美味い。

 感じる味の質が一段二段上がっている気がする。

 

若葉「おい武谷、顔が緩み過ぎてるぞ」

武谷「ん? あ、ああ、ごめん。気をつけるよ。美味い」

若葉「まあ自分で言っといてなんだが気の緩む気持ちも分かるが」

ひなた「こんなときくらい、緩めて心を休めるのもいいと思いますしね」

 

 千景さんはぼくの隣で淡々と食事をしている。距離がかなり近いけど。肩が触れている。密着間近。むしろマジか。うどんを啜る震動まで伝わってきそう。それは言い過ぎた。

 

友奈「ねえたけくん、お水もう一杯どう?」

武谷「ん? ああ頂くよ」

 コップの水がなくなりかけていたので友奈さんが気を利かせてくれる。

 

 そしてまた食べて飲んで減ってきた。

友奈「ねえたけくん、もう一杯どう?」

武谷「頼むよ」

 

 もう食べ終わるという時。

友奈「もう一杯いっとく?」

武谷「……」

 水は半分も入っているしそんなに飲んだらお腹ガボガボになってしまうのだけど。

 けれどぼくの返事を聞かずに友奈さんは水を入れた。

 せっかく入れてもらったので飲まないのも悪いと思い全部飲み干した。

 

 ぶるっと体が震える。当然の如くトイレに行きたくなった。

 席を立つ。

 トイレに行く。

 男子トイレに入り用を足し手を洗いトイレから出る。

 

 目の前に友奈さんが居た。

 

武谷「ん? ここは男子トイレだよ?」

友奈「知ってるよ。たけくんを待ってたんだ」

武谷「ぼくを?」

友奈「たけくん、やっぱり気づいてない?」

武谷「なにを?」

 

友奈「ん~」

 友奈さん困った表情。

 ぼくは困られるようなことをしたのか。一体何をしてしまったんだ。

友奈「えっと、気づきそうにないからもう私が言っちゃうけど、本当はたけくんが気づかなきゃいけないことなんだからね?」

武谷「うん、わかった。だから教えてくれ。ぼくはどんな罪を犯してしまったんだ?」

友奈「罪って程じゃないけど、ぐんちゃんね、今日たけくんに見てもらう為におめかししてきたんだよ」

武谷「え、マジ?」

友奈「マジだよ」

 

 みんなが食べている方を壁の陰から覗き込む。

 確かによく見ればいつもより千景さんの髪につやがあるような。髪留めも見たことないものなような、前に一緒にショッピングモールに行った時のように可愛らしい服装なような。

 そういえばぼくも出掛ける前身だしなみを整えた。なぜ相手もそうだという考えに至らなかったのか。なまじ女の子なら言わずもがな。

 不覚。

 

友奈「だから気づいてあげてほしかったんだけど、ぐんちゃんのおめかしについて何か言ってあげてほしいな」

武谷「わかったよ」

 千景さんを幸せにするのがぼくの目的なのだから。

 もしかしてここで話す為にぼくのコップへ執拗に水を注いだのかな。

 

 

 みんなと食べていたテーブルに戻る。

 話していたことが千景さんにバレないように友奈さんはトイレに入り時間差で戻る計算だ。

 

武谷「あれ、千景さん」

 ぼくは改めて見て自分で気づいた風を装った。

武谷「いつもかわいいけど、今日の恰好かわいいね。髪留めも新しいのだし、服かわいいし」

 千景さんはぼくに超速で振り向き、頬を染めていた。

千景「ん、ありがとう……」

 ぴとっ、がしっ、ぎゅっ。

 そんなオノマトペが付きそうな一連の動作。千景さんが抱き付いてくる過程。

 おうふ。

 

杏「すごいですね」

 そんな小並感。目をキラキラさせるんじゃない。

球子「マジか」

ひなた「大胆ですね」

 

若葉「人とはここまで変わるものなのか」

千景「失礼ね……」

 千景さんが抱き付いたまま若葉さんを見て言う。

若葉「あ、私に対しては変わらないんだな」

千景「当然よ」

若葉「当然なのか」

 

友奈「よかったね、ぐんちゃん」

 いつの間にか戻って来ていた友奈さんが満面の笑みでそう言った。

 

 

 

 祝勝会が終わり夜。

 ぼくは寮の自室でのんびりしていた。

 ゲームしたり、これからについて少し考えたり、色々と。

 

 コンコン。ノックされる音。

 立ち上がって玄関を開けると、そこには千景さん。

武谷「わっ」

 千景さんが突然タックルするように抱き付いてきた。

 

千景「聖陵院くん、もふもふね。暖かいわ」

武谷「…………」

 …………。

 このままでもいいかな。

 とりあえず誰にも見られないようにドアは閉めておく。バタン。千景さんに抱きしめられたままなので閉めにくかった。 

 

千景「一緒にお風呂入りましょう」

武谷「え」

千景「一緒に寝ましょう」

武谷「え」

 

武谷「そういうのは、ちょっと、まだダメなんじゃないかって、思うんだけど」

千景「私たちは、恋人よね……?」

武谷「それは、まあ、うん、千景さんがそう言うなら、そうなんじゃないかと愚考する」

千景「恋人なら、いいのではないの……」

武谷「ほら、ぼくたちまだ若いし」

千景「若いからこそではないのかしら」

武谷「ぼくはプラトニックな方がいいかなって、大切にしたいんだ」

千景「…………」

 千景さんは至近距離でぼくの顔を見ている。

千景「まあ、いいわ……」

武谷「そうかい……」

千景「でも今は、しばらくこのままでいさせて。帰ってくるのが遅かった罰よ」

武谷「うん、それは、いいけど」

 泣かせてしまったし。

 

 ぼくは、記憶がない。でもみんなが、千景さんが大切だ。

 この女の子がとても愛しく思えるんだ。

 今までは、ただ守りたかった。幸せにしたかった、その気持ちしかなかったはずだし、それしか考えていなかった、だけど。

 ぼくも抱きしめ返す。

 ああ、多分、きっと、ぼくも好きなんだ。

 

千景「もう、いなくなっては駄目よ……」

武谷「うん。約束する」

千景「聖陵院くん、一緒にいて……」

武谷「一緒にいるよ」

千景「それ、これから何度でも言って……」

武谷「何度でも言うよ」

 

 ぼくのこの体は、トール様が滅びない限り消えないだろう。多分年も取らない。でもだからこそ、千景さんの元に最後まで居ることができる。

 その後は歴史を記憶して代弁人にでもなろうかな。大赦に今までのことを、これからのことを伝えていく感じで、みんなと守ったこの世界の行く末を見守ろう。

 次代の勇者に協力するのもいいだろう。

 今のぼくには、もう戦う力なんて無いけど。

 それでも何かしら出来ることはあるだろう。

 とにかく、今は千景さんと共に過ごそう。後は適当にやるさ。

 

 これから先も、なんとかなるだろう。

 みんながいるのだから。

 みんなが守った世界が、人々がいるのだから。

 

 ふと、窓の外をおもむろに見上げる。

 鎌のような三日月が、いい色をしている。

 まるでぼくたち人類の、未来を照らすように。

 

 

 

 

 

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