聖陵院武谷は勇者である   作:ソウブ

3 / 28
3話 君は情けなくなんてない

 

 

 スマホを取り出してマップを表示させる、勇者専用アプリの機能の一つで、このマップから勇者とバーテックスの位置が分かる。

 学校の外に出て、みんなと合流しようとマップの光点を追った。

 

 勇者たちを見つける。

 そこには一人だけすでに変身して、和風で神秘的な青い戦装束を着た若葉さんと、大きな鎌を持った千景さんと、手甲を付けた友奈さんがいた。

 

千景「聖陵院くん……」

 

若葉「聖陵院、やれるか?」

 

 白鳥さんのことで戦えなくなってないか、という問いか。

武谷「当然だよ」

 

 ぼくは何があってもみんなの為に抗い突き進むだけだから。

 そのみんなには、白鳥さんも入っている訳だけど。

 

友奈「たけくんと若葉ちゃん、少し仲良くなった?」

 

 そりゃ共に過ごしていれば少しは仲良くなっていくだろう。ぼくはみんなと仲良くなりたいと思っているのだから。

 ここ最近は諏訪へ通信するために放送室で若葉さんと一緒に過ごす時間が長かったのがきっかけだろうか。

 

千景「…………」

 

 千景さんはこちらをジッと見ていた。

 

友奈「あ、ぐんちゃん、たけくんはそんなことする人じゃないと思うから、大丈夫だよっ!」

 

 そんなことってなんだ。

 

千景「そう……」

 

 千景さんは目を逸らした。

 

 

 

球子「おお~いっ! みんなー!」

 

 走り寄って来るタマさんと、手を引かれる杏さん。

 

球子「悪い、遅くなったっ!」

 

 タマさんは旋刃盤を、杏さんは連射式クロスボウを持っている。

 

若葉「全員、揃ったな。……これが私たちの初陣だ。我々の手でバーテックス共を討ち倒す」

 

千景「それはいいけど……当然、あなたが先頭で戦うのよね……あのバケモノたちと。リーダーなのだから……」

 

球子「誰が先頭とかじゃなくて全員で戦えばいいでしょ。それがチームワークってもんですよ」

 

千景「チームワーク……」

 

武谷「チームワーク……」

 

 ぼくはできるなら一人で戦いたい、みんなには危険な目には遭って欲しくない。

 勇者たちを見回した。

 気づく。

 

 杏さんが小刻みに体を震わせている。顔色も悪い。

 怯えていた――

 

千景「伊予島さんは……戦えるのかしら?」

 

杏「…………」

 

 杏さんは俯き、何も答えない。

 

千景「土居さんたちがここへ来るのが遅れたのも……伊予島さんが萎縮して動けなくなっていたからでは……? そんなあなたたちがチームワークなんて……口にするものじゃないわ……」

 

 杏さんはぎゅっと目を瞑り、拳を握り締めた。震えは消えないまま、耐えるように。

 

千景「ましてや……」

 

武谷「千景さん」

 

千景「……なに?」

 

 ぼくはデコピンを千景さんの額にした。

 

千景「ぁいたっ……」

 

武谷「なにその反応、かわいい」

 

千景「……っ!? いきなりこんなことして……なにをいってるの……」

 

武谷「まあ、とにかくだ」

 

武谷「そんなこと言わないでくれよ。千景さん」

 

 それは、千景さんのさっきまでの言に対して。

 

 身近で大切な人に辛い顔をしてほしくないから。

 今の状況、杏さんたちは当然として、言ってる千景さん自身だっていい顔はしていなかった。

 こういう光景を見ると、胸がかなり苦しくなるんだ。

 それは誰でもそうかもしれないけど、ぼくは何が何でもその顔を変えたくなる。

 長時間見ていると、息が辛くなりそうになるから。

 だから、やめてくれといった。

 そんな思いが声音に乗ってしまったのか。

 

千景「…………」

 千景さんはそっぽを向いて黙った。

 

 

 ぼくは杏さんに近寄る。

 手を伸ばし掛けて、少し躊躇う。

 失礼かな、と思ったからだ。けれど、こんな風に怯えている人には、小さな子供を相手にするように優しく接するのがいいという考えを押し通す事にした。

 

 手を伸ばし杏さんの頭を撫でる。

 ふんわりとした髪の感触が気持ちよかった。

 

杏「あっ……」

 

 杏さんが驚いたように顔を上げる。

 ぼくはできるだけ優しげな表情を心がけ、撫でながら言葉をかけた。

 

武谷「大丈夫だよ杏さん。戦えないなら、戦わなくてもいい。ノブレスオブリージュなんて考えなくていい。ぼくが戦って何とかするから問題ないよ」

 

杏「聖陵院さん……」

 

 杏さんは頭を撫でられても嫌な顔をしないでくれた。それどころか次第に幼子のように目を細めていっている。

 少しでも安心してくれているのなら、それはぼくにとって本望だ。

 

球子「あんず、武谷の言う通りだ。タマたちに任せタマえ」

 

若葉「聖陵院、また君はそんな安請け合いを……」

 

武谷「安請け合いじゃないよ。ぼくは本当に実現するつもりだからね」

 

若葉「はあ……。むしろそちらの方が性質が悪いような気がするのだが……」

 

 若葉さんは呆れたようにぼくを見る。

 

 

 と、空気を一新するように友奈が声をあげた。

 

友奈「みんな、仲良しだね!」

 

武谷「ああ、仲良しさ!」

 

千景・若葉・杏・球子「「「「…………」」」」

 

 

若葉「まあ、そうだな」

 

球子「仲良しだな」

 

杏「そうですね」

 

千景「…………」

 

 三人は苦笑し、千景さんは微妙な顔をしていた。

 

友奈「みんなで仲良く勇者になーる!」

 

 友奈の声を合図とするかのように、三人がスマホの勇者変身アプリをタップした。

 アプリが起動し、姿を変えていく。

 

 友奈さんの戦装束は、山桜を思わせる桃色――

 千景さんの戦装束は、彼岸花(ひがんばな)を思わせる紅――

 タマさんの戦装束は、姫百合を思わせる橙――

 

 すでに変身していた若葉さんの戦装束は、桔梗(ききょう)を思わせる清楚な青と白の混合が特徴的だ。

 

 杏さんはやはり変身できていない。

 

杏「ごめんなさい……」

 

 申し訳なさそうな表情。

 

球子「気にすんなってのっ! タマたちだけで全部倒してくるから」

 

 杏さんの肩を、タマさんが元気づけるように叩く。

 

武谷「任せてよ」

 

 ぼくも安心してほしくて、杏さんの頭に手をポンと乗せた。

 

 

 ぼくはスマホの画面を確認する。

 バーテックスの数は、五十体前後。

 すべてこちらへ一直線に向かっていた。

 

 バーテックスが神樹様の元まで辿り着き、神樹様が殺されれば人類は終わる。

 けれどバーテックスはそれが本能なのか人間を優先的に狙う。

 つまり今は、ぼくたちを殺す為に向かってきている訳だ。

 

 バーテックスの群は、視界の遠くに見える。

 どんどん距離を詰めてきている。

 

武谷「みんな、ぼくの能力は知ってるよね。最初に一発かますから巻き込まれないようにしてて」

 

 それで、終わらせる。

 

 

 

 ぼくの使う勇者システムは、みんなのものとは異なっていた。

 なにせ変身が出来ない。身体能力も上がらない。

 

 あるのはスマホの中心に描かれた、黄金色の幾何学模様(きかがくもよう)――魔方陣。

 

 バーテックスの軍団を視認。目標を定める。

 巨大な白い口に、白い楕円形の袋が付いたような形状の怪物。顎に髭のような数本の糸状の物体がぶら下がっているが、目も鼻も耳もない。

 それが、今見えるバーテックスの姿だった。

 

 スマホの画面を見る。

 中心には、黄金色の魔方陣。上端には、半分だけ見えている歯車のような魔方陣。下部には、黄色い横長のゲージ。

 ぼくは中心の魔方陣を上に向かってスワイプし、指を離す。

 すると、上端にある歯車のような魔方陣と噛み合った。二つの魔方陣が綺麗な音を発しながら高速で回りだす。

 

 ――――白鳥さん……。

 姿を見た事すらない女の子を、一瞬思った。

 

 スマホの魔方陣が強い光を放つ。

 同時、画面に映っていた黄金色の魔方陣が、目の前に展開された。

 数十メートルもある、巨大な魔方陣。

 

 その中心から、(いかずち)纏う黄金槍(おうごんそう)突先(とっさき)が姿を見せる。

 

武谷「『グングニル』」 

 

 超常を発現させる為の言霊。

 詠唱完了。

 

 "北欧の勇者システム"の力が、今此処(ここ)に顕現する。

 

 轟音。

 

 雷の黄金槍――グングニルが発射された。

 

 刹那の間にバーテックス共へと到達。

 

 轟雷。

 

 凄まじい雷が、広範囲に奔った。

 

 バーテックスたちは貫かれ、焼け落ちていく。

 

 グングニルが通り過ぎ、消失した後には、五十体前後も存在したバーテックスは一体も残っていなかった。

 

 まっさらな空が広がっている。

 

友奈「すごい……」

 

若葉「凄まじいな……」

 

球子「ほえ~……」

 

杏「…………」

 

千景「…………」

 

 皆ポカンと呆けていた。

 

 けれど、これでみんなに戦わせずに済む。

 毎回こうやって一発で決めれば、すぐに終わらせられる。

 

 

 

 

 

 

 ――――そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

千景「……あ」

 

千景「あれは……」

 

 千景さんがなにかに気づき、前方、遠方を指さした。

 

 皆一斉に振り向く。

 

 視界の奥には、バーテックスの姿。

 

 スマホをマップ画面に変えると、そこには三十個前後の光点。

 

 今回の襲撃は五十体前後ではなく、八十体前後だったということ。後群が隠れ控えていた。

 

 グングニルは連発できない。スマホの画面を再度北欧勇者アプリに変えると、画面下部の黄色いゲージが空になっている。

 北欧神の力、これが溜まらないと撃てないのだ。

 じわじわとゲージは回復していってはいるが、すぐに撃つことは不可能。

 

 ――旨く、いかない。

 奥歯が軋んだ。

 

若葉「どうやら私たちの出番のようだな」

 

 若葉さんが鞘から刀を少し出して前を見据えた。

 

 ぼくは今、無防備状態。

 一発で決めてしまえば、みんなを戦わせることなく終われると思ったのに。

 はははは。

 デカい口叩いといて、結局これなんだよ。

 

武谷「情けない……」

 

若葉「だが聖陵院のおかげで後は掃討戦のようなものだ。誇っていい」

 

球子「あんずと武谷はここで待ってろ。あとはタマたちに任せタマえ」

 

友奈「たけくん、大丈夫だよっ。楽勝でやっつけてくるから」

 

千景「…………」

 

 みんなが跳び立っていく。ぼくはみんなみたいな数百メートルをひとっ跳びできるような身体能力はない。訓練はしているが、それをしただけの普通の人間と変わらない身体能力だ。

 締まらない。勇者とはいえ、あんな攻撃が撃てるとはいえぼくはまだまだ弱い。

 後はみんなが頑張ってくれるのを信じるしかないだろう。

 距離が離れていく勇者たちの背中を見つめていたら、すぐ横から声。 

 

杏「私は聖陵院さんを情けないだなんて思いません」

 

 杏さんは微笑み、そして苦笑に変わる。

 

杏「情けないのは、私の方です」

 

 ぎゅっとクロスボウを握ってうつむきながらそう言った。

 

 

 

 先陣を切った若葉さんの生太刀(いくたち)が一閃、何度も(はし)る、バーテックスが次々と斬り捨てられていった。

 

 それを見て、他の面々も続く。

 

 友奈さんの拳がバーテックスを打ち砕いていく。

 

 タマさんの旋刃盤が飛び回り、バーテックスを斬り刻む。

 

 遠くからだけど、千景さんの様子がおかしく見えた。千景さんは立ち止まって動かないままいる。心配だ。

 駆けつけようと踏み出したが、そこに友奈さんが近づいた。何かを話している様子。一緒に跳んで行った。

 

 きっと大丈夫だろう。友奈さんが助けてくれたみたいだから。

 

 千景さんが大鎌、大葉刈(おおはがり)でバーテックスを割断(かつだん)する。大丈夫、千景さんもちゃんと戦えているみたいだ。

 

 

 完全に掃討戦の様相だ。安堵の息をついた。

 これなら、誰も傷つくことはないだろう。

 

 ――――そんなことを思って気を緩めてしまったのが悪かったのか。

 事態は起きる。

 

 タマさんが旋刃盤を投げて、引き戻すまでの隙にバーテックスがタマさんに迫った。

 あのままでは、彼女は喰い殺されてしまう。

 

 そして。

 それと同時に。

 

 ぼくと杏さんの直ぐ近く、斜め前辺り。

 その中空に、何かが発生した。

 

 動揺と呆気の狭間で一秒視認、理解する。

 黒い幾何学模様――魔方陣が何故か展開されていたんだ。

 

 そこから、赤色と水色が顔を出す。

 二体のバーテックス。

 先程まで見ていた白い個体とは違う。見た目は同じだが、一体は全身赤色な上に火を纏っている。火の粉が周囲を無数に散る。そしてもう一体は全身水色な上に氷を纏い、周囲が吹雪いている。

 

 恐らくあの黒い魔方陣の効果か、一瞬でここまで移動してきたのだろう。

 

 スマホのゲージはまだ溜まっていない。杏さんは戦えない。

 今のぼくたちは、ただの一般人と変わらない。

 赤と水色が迫る。

 このままでは、殺される。

 杏さんが殺されてしまう。

 

 考える前に行動していた。躊躇わずに杏さんの前に飛び出す。

 恐怖は感じない。いや、恐怖は感じた。杏さんが殺されてしまうという恐怖だ。

 

 北欧勇者アプリのゲージはじわじわと増えるだけでまだ溜まらない。

 何度もスワイプやフリックをしても反応してくれない。

 それでも逃げようとは欠片ほども思わなかった。このままでは死ぬというのに。

 

 大口を開けて襲い来る二体のバーテックス。ぼくは拳を握り締め、対峙する。

 対抗できるわけがないとわかっていても、拳を構えた。

 戦う。ただそれだけ。

 

 ぼくの放った拳とバーテックスが衝突する前。

 

 幾本もの金色の矢が、バーテックスを串刺しにしていた。

 ぼくたちの目の前にいた二体と、タマさんを襲っていた一体を。

 

球子「あんず……その恰好は」

 

 杏さんは変身していた。白いストックを思わせる戦装束を纏い、クロスボウを構えている。

 

 いきなり杏さんに襟首を掴まれた。同時、即座に飛び退く杏さん。

 視界が目まぐるしく動いて何が何だかわからなくなるが、とりあえず振り返る。

 すると火を纏ったバーテックスと氷を纏ったバーテックスがさっきまでぼくたちがいた地面に衝突していた。木の根が燃やされ、氷結される。

 

杏「まだです! 気をつけてください」

 

 赤と水色のバーテックスは、矢をその身に受けたにも関わらずまだ生きていた。

 見た目だけではなく、他の白い個体とは違うということか。

 

 再度突撃、向かってくる火と氷のバーテックス。

 

 杏さんも再度クロスボウの矢を射出する。

 

球子「はあっ!」

 

 タマさんも旋刃盤を投擲、援護してくれた。

 

 矢が何本も突き立ち、旋刃盤が斬り刻む。

 それでようやく、二体のバーテックスは消滅した。

 

杏「変身……できちゃった。戦えました……。タマっち先輩と聖陵院さんが危ないと思ったら、助けないとって思ったら、アプリが起動して……」

 

球子「ありがとな! タマが前に立つから、あんずは武谷を護りながら援護してくれ!」

 

杏「うん!」

 

杏「聖陵院さん、私の後ろにいてください」

 

 杏さんの表情は、覚悟を決めていた。

 ぼくは頷いて杏さんの後ろに下がる。

 

武谷「杏さん、君は情けなくなんてないよ」

 

杏「……ありがとうございます」

 

 杏さんはクロスボウを前に構え、撃った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。