聖陵院武谷は勇者である   作:ソウブ

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5話 女の子は恋(依存)をすると変わる

 

千景「聖陵院くん」

 丸亀城の廊下を歩いていたら、後ろから声をかけられた。

 振り返る。

 そこにはもの言いたげな千景さんが立っていた。

 

武谷「なに千景さん?」

千景「……あれからいつも通りだけど、あれはなんだったの?」

武谷「あれ?」

 主語が曖昧でわからない。

 

千景「あれは……あれよ。私の価値をどうとか……」

武谷「ああ、あれね」

 ぼくが先日した決意表明のことか。

 

千景「……実際、どうなの?」

武谷「どうとは?」

千景「あれからもいつもと変わらないけど……本当はどう思ってるの」

武谷「どうもなにも、あの時言った通りだよ」

 ぼくの決意は変わらない。

 

千景「なら、なんで……」

 腑に落ちないといった顔。

 

千景「あなたは、私をどうしたいの……?」

 

武谷「千景さんをどうしたいか? そりゃ――」

 煩悩が頭を駆け巡る。それを鷲掴みにして遠くへポイっと投げた。

 

武谷「ぼくは、千景さんに喜んでほしい、笑っていてほしい。と思っているよ」

 それは正直な気持ち。

 ――過去の少女、その面影が脳裏を過ぎる。

 けれどそれとは関係なく、千景さんに対して、ぼくはそう思っている。

 

 しばらく、千景さんはぼくの顔を見つめていた。

 やがて。

 

千景「……そう」

 

 それだけ言って、背を向け立ち去った。

 

 

千景viewer

 

 

 季節は十月。

 特別休暇を利用して、私は地元である高知に向かっていた。

 専用武器の大鎌が折りたたまれて入った布袋と共にバスに揺られる。

 

 携帯ゲーム機でFPSをしているが、あまり頭に入ってこず、珍しくゲームオーバーになってしまった。

 

 聖陵院くんは、多分、嘘をついていない顔をしていた。

 ……やっぱり告白なのかしら。

 いつも通りだったのは、返事を待ってくれているということなのか。

 

 どうして私なのだろう。

 私は聖陵院くんになにかをした覚えはない。

 好意を持たれる理由がわからない。

 だから、疑ってしまう。

 どうして私なんか。近くには、高嶋さんとか、女の子が私以外に五人もいるのに。

 

 またゲームオーバーになってしまった。携帯ゲーム機の電源を落とし、鞄に仕舞う。

 

 

 ……少し酔った。

 バスの中でゲームするんじゃなかった。

 

 

 

 地元に到着する。

 吐くのは必死に我慢した。いまだに気分が悪い。  

 

 実家に帰り着いて、両親と色々話したけど、ほとんど頭を素通りしていった。

 酔いが治まらないとかそういうのではなくて、聖陵院くんのせいだ。

 

 なんの話をしたのか忘れたけど、私は自分の足で家の外に出て地元の道を歩いていた。 ここに来ると、やっぱり思い出してしまう。

 以前の嫌なこと。一杯一杯。

  

 要約していえば、私の家族は色々あって村八分になり、私はいじめられた。

 それはもう、酷いいじめだった。

 思い出したくもない。

 

 思い出すと、心が痛い。

 

 いつの間にか、かつて通っていた学校の前まで来ていた。

 適当に歩いていたので、昔の癖で足が向いてしまったのだろう。 

 

 この場所に来てしまったからか、以前言われた嫌な言葉が頭を駆け巡る。

 イヤホンをした。ゲームを起動する。こうすれば嫌な言葉は聞こえない。

 そんなわけはなかった。思い出したくないと思うほど、その記憶は鮮明な鋭い刃で私を傷つける。痛い。

 香川にいた頃は思い出しもしなかったのに、その記憶は今激しく苛む。

 

千景「なんで……」

 

 目の奥が熱くなる。

 

 ――ぼくは、千景さんに喜んでほしい、笑っていてほしい。と思っているよ。

 

 ――千景さんがどうあろうと、ぼくはあなたを肯定する。ただそこに存在してくれるだけで、ぼくは価値を認めるよ。ぼくは君に生きていてほしい。何もしなくても、何をしても、千景さんはぼくにとって価値のある存在だ。

 

 ――何かあった時は、いつでもぼくを頼ってくれ。ぼくは千景さんの絶対的な味方だ。

 

 嫌なことを思い出す中、聖陵院くんの言葉をふと思い出す。

 恐らくは、告白の文句。

 その言葉は、さっきまでの嫌な記憶を光となって祓った。

 

千景「…………」

 

 帰ろう……。

 高嶋さんに……聖陵院くんに、会いたい……。

 

 

「あなた……郡さん?」

 

 後ろから声をかけられ、振り返ると、そこにはかつての担任教師がいた。

 

「どうしてこんな所にいるの? みんなもう、あなたの家に行っているわよ」

 

千景「……? 私の家……?」

 

「そうよ。あなたが地元へ帰ってきたこと、みんなに伝わってるから」

 

 わけがわからないまま、担任に連れられて行くと、実家の前に着いた。

 そこには人だかりができている。

 

 私が近づくと、取り囲まれた。

 興奮と尊敬の眼差し。浴びせられる賛美の言葉。

 

 けれどそれらは、聖陵院くんの言葉ほど私の心を動かさなかった。

 

 布袋に入れたままの大鎌の柄で、地面を叩いた。

 響いた音は、一瞬でわたしを取り囲んだ人たちを黙らせた。

千景「……皆さんに……訊きたいことがあります……」 

 

千景「私は、価値ある存在ですか……?」

 

 まるで聖陵院くんの言葉を確かめるように、訊いてしまった。

 聖陵院くんは、ここにいないのに。

 

「もちろんよ。だってあなたは勇者だもの」

 

 同じような言葉が、すぐに他の人々からも投げかけられた。誰もが勇者である私を称賛している。

 

 ――千景さんがどうあろうと、ぼくはあなたを肯定する。ただそこに存在してくれるだけで、ぼくは価値を認めるよ。ぼくは君に生きていてほしい。何もしなくても、何をしても、千景さんはぼくにとって価値のある存在だ。

 

 また、聖陵院くんの言葉が脳裏に浮かんだ。

 

 他の人たちは、私が勇者だからこそ価値があると言う。

 けれど、聖陵院くんはどんな私でも価値があると言う。

 

 私は、なにもした覚えはないにもかかわらず。

 

 どうして、あんなことをいったのだろう。

 告白。好き、だから?

 そうなると、初めの思考に戻ってしまう。

 どうして私なのだろう。

 好きになった理由がわからない。

 だったらあれは、告白じゃない?

 いや、でも、告白以外であんな言葉を口にするだろうか。

 ……しない、と思う。

 だったら告白。だったらなんで好意?

 どうして――あんなことを言ってくれるのだろう。

 

 

 結局私は一泊もせず、香川に戻った。

 そして間もなく、バーテックスの二度目の侵攻が起こる。

 

 

 壁を越え、押し寄せてくる人類の天敵。

 六人全員揃って、バーテックスと対峙した。

 一度目の侵攻よりも、入ってきたバーテックスの数は遥かに多い。

 

 私が一番多く倒して、勇者として活躍する……。

 そうすれば、私は勇者だからこそ価値があるから、"みんな"は好きになってくれる。

 

 跳躍し、バーテックスの一群へと切り込んでいく。

 何度も大鎌を振るい、バーテックスを両断し消滅させる。

 

 けれど、聖陵院くんは違うみたい。

 

 勇者でない私に価値はないのに……ここにいるだけで価値を認めるなんて言う。

 本当に……おかしな人……。

 

 五人で次々と敵を撃破していく。聖陵院くんは後方で伊予島さんに護られながら待機している。

 前回のこともあり、能力を使うタイミングを計ると言っていた。

 

 バーテックスが大口を開け迫る。大鎌を振った。すると簡単に敵は割断され消滅する。バーテックスの数を順調に減らしていった。

 

 突如、バーテックスたちの数体が融合を始めた。

 進化体を生み出そうとしているのだ。

 

 ……あいつを私が殺せば、もっと認められる、愛されるのだろう。

 でも、聖陵院くんは私たちに切り札を使って欲しくないみたい。高嶋さんが使おうとした時、必死に止めていたし。

 

 ……今は、切り札を使うほどピンチになっている訳じゃない。

 体に負担を掛ける切り札をわざわざ使う必要もない。

 

 融合して新たな形態となったバーテックスは、元の姿の口部分だけを残して巨大化したような形をしていた。

 

球子「デカくなっただけ……か?」

 

杏「どうなんだろ……?」

 

武谷「――いや、これは、やばい、かも……?」

 

 次の瞬間、進化体の巨大な口から、無数の矢が射出された。その全ての矢が、火や氷を纏っている。流星のように、聖陵院くんたちに降り注いだ。

 

球子「うわああああああああああ!」

 

 慌てて土居さんが旋刃盤を楯形状にして、自分と伊予島さんと聖陵院くんを護る。

 

 けれど、普通ではない火と氷を纏った大量の矢に押され、吹き飛ばされそうだ。

 

千景「聖陵院くん……っ!」

 

 早くあいつを何とかしないと、三人が――聖陵院くんが危ない。

 

 大鎌を構え、進化体に向けて跳躍した、数百メートルをひとっ跳びにしながら接近していく。

 

 前触れなく、進化体が矢を射出する方向を変えた。

 私の方へ。

 

 私は楯を持っていない。大鎌を少しは楯代わりにはできるけど、この無数の矢を防ぎ切れるほどではない。そして今からこの数を避けることはできない。

 やっぱり、切り札を使ってた方が良か――

 

 目前に迫る矢の波。視界が死色に埋め尽くされる。

 

 

 轟音。

 轟雷。

 

 

 目の前の矢軍は、後方遠くから飛来した雷を纏う黄金槍によって消滅した。

 槍から撒き散らされる雷は、私を擦れ擦れで避けていく。

 黄金槍はそのまま突き進み、矢を口から放ち続ける進化体バーテックスに命中、槍で貫き雷で焼き尽くしながら、勢い止まらず彼方まで消えていく。

 進化体バーテックスは倒された。

 

 あれは聖陵院くんの力、聖陵院くんが助けてくれたんだ。

 後ろを振り返ると、必死な形相でスマホを握り締めている聖陵院くんが遠くに見えた。

 

 二度目の侵攻は、終わっていく。

 

 結局、一番多く敵を倒したのは乃木さんで、一番強い敵――進化体バーテックスを倒したのは聖陵院くんだった。

 

 私が一番多く倒して、勇者として活躍したいとは思っていた、と思う。多分。

 だから、悔しいような気もする。けど、わからない。この結果にいやな気持ちが湧かないから。

 

 …………。

 

 聖陵院くん……。

 

 

main viewer

 

 

 二度目の侵攻を乗り切った次の日。 

 ぼくは自室で頭を抱えていた。

 今回の戦いも、ぼくの行動があまりにもお粗末過ぎる。

 

 タイミングが遅かった。進化体が完成した直後に撃つべきだった。

 迷うべきではなかったんだ。特別個体が二体以上来る可能性を考えて、彼女たちが対処できるようなら温存しておこうなんて考えを持ったのがいけなかった。

 様子見なんて下策だ。その結果、タマさんを、杏さんを、特に千景さんを危険な目に遭わせた。少しでも遅ければ、あの時千景さんは矢に貫かれていただろう。

 

 ―――― 

 

 ――過去の記憶が浸食してくる。あの時のことがフラッシュバックする。

 

 頭を掻き毟る。唇を噛み切った。血が滲む。ここ最近、治っては唇が噛み切れている。

 

 判断が遅すぎた。ぼくは阿呆(あほう)だ。昔の、あの時だって判断が遅かったからあんなことになったんだ。良い選択肢を、即断即決で選び取らなければ。

 常に良い選択肢を選び取れるわけではなかったとしても、間違えてからでは遅いんだ。

 次は間違わない間違えたくない間違わせないでくれ。

 間違えても、今回みたいになんとかなってくれ。

 次は、次こそは、うまくやる。

 

 ……考えは一段落ついた。

 それじゃあ、今日はなにをしよう。

 鍛錬をして、少しでも強くなっておこうか。

 けれど、正直言ってぼくの力は鍛錬の意味が大してない。ぼくの身体能力に依存しないのだから当然だ。

 その事実を受け入れるまでは、必死に鍛錬した時期もあったけれど、それはもう過去の話だ。

 今も全くしていない訳ではないけれど、必死というほどではない。

 だから、今特にやることはない。精々頭を捻って次はどうすればいいか考えておくぐらいだ。それも今考えた、これ以上考え過ぎてもどうすればいいか訳が分からなくなるだけだろう。頭を休めた方がいい。

 

 ……本当になにをしようか。まるで久しぶりに休暇を取れた社畜のように、やることが思いつかない。

 

 とりあえず落ち着くためにあの子のピアノ曲を聴こう。ヘッドホンを装着した。ミュージックプレイヤーを再生すると、綺麗な音色が耳朶(じだ)を打つ。心が凪いでいく。

 

 ピアノ曲を聴きながら、しばらくぼーっとした。

 

 …………。

 

 そういえば、最近千景さんと遊んでいないな。

 やることあった。 

 遊ぼう。

 

 思い立ったが吉日、ぼくは部屋を出た。

 

 

 勇者たちが住む寮の一番隅にぼくの部屋はある、当然だが女の子たちの部屋とはだいぶ離れていた。

 上の方の階にある千景さんの部屋を訪ねたけど、誰もいなかった。

 なのであちこち千景さんがいそうな場所を歩き回って探す。

 

 そして、そこまで時間も労力も要することなく、ぼくたちの教室で見つける。

  

 千景さんは窓際の席で、一人ゲームをしていた。

 丁度いい。

 

武谷「千景さんこんにちは」

 

千景「……こんにちは。休みの日なのに、こんなところになんの用?」

 

武谷「千景さんを探してたんだよ」

 

千景「私を……?」

 

武谷「そう、一緒にゲームしない?」

 

千景「……聖陵院くん、ゲームやってたの?」

 

 以前千景さんに影響されて買っておいたが、千景さんが上手すぎて気後れしてしまったため、一緒にやったことはない。

 密かに一人でポチポチやってはいたから、少しは上達したと思いたいが。

 ぼくは携帯ゲーム機を取り出す。

 

武谷「一緒に遊んでくれる?」

 

千景「……ええ。いいわ。一緒にやりましょう」

 

 千景さんは思いのほかすぐに乗ってくれた。

 今までならもう少し粘らないと了承してくれなかったはずだが。

 少し意外だ。

 

武谷「きょうもFPSやってたんだ?」

 

千景「結構好きなゲームジャンルだから……」

 

武谷「同じゲーム持ってきたから対戦しよう」

 

 今日千景さんがやっていたゲームは、人間の兵同士が銃で撃ち合う対戦型FPSだった。前に怪物を撃ち殺していくゲームをしていたのを見たことがあるので、また別のFPSみたいだ。

 当然ぼくはどんなゲームでもカバーできるように千景さんがやっているのを見たことがあるゲームは片っ端から持ってきていた。

 金はあるんだ。命がけで戦うということで大社から結構貰っている。

 

 まずはネット対戦の同じチームでやってみた。八対八のキル数を競うルールだ。

 

 終わった。圧勝だった。ぼくはほとんど何もしていない。一キル二デスだ。

 

 次は千景さんと敵対するチームでやってみた。

 

 終わった。ボロ負けだった。ぼくはほとんど何もできなかった。二キル十デスだ。

 

 次は千景さんと1on1(一対一)でやってみることにした。

 

 フィールドを走っていたら、角から出てきた千景さんが操作するキャラとばったり出会った。

 銃を構えた時には、もう撃ち抜かれていた。ヘッドショットだ。 

 

武谷「…………」

 

 なんか、チーム戦だとそれほどでもなかったのに。

 かなり、悔しかった。

 

武谷「……もう一回やろう」

千景「ええ」

 

 今度は遠くから視認された瞬間スナイパーライフルで撃ち抜かれた。ぼくはただ移動してただけだ。

 

武谷「…………」

 

 勝てねえ。無理げーだ。相手が悪すぎる。

 勝ちたい。

 

武谷「もう一回」

千景「ええ」

 

 蜂の巣にされた。

 

武谷「うがーーーーー!! 勝ちたい! もう一度」

千景「ええ」 

 

 ぼくは躍起になった。

 しかし何度も撃ち殺される。時にはナイフキルもされた。

 一度も勝つことはできなかった。

 

千景「……私が、教えてあげましょうか」

武谷「いいの?」

 

 勝ちたい相手に教わるというのはなんだか違うような気がしなくはないけれど、これ以上ないくらいの先生と言えるだろう。

 実際滅茶苦茶上手い。

 プロゲーマーレベルだ。

 ネットにプレイ動画をあげたら、かなりの再生数が稼げるのではないかと思う。可愛い女子中学生なので実況動画だとさらに稼げそうだ。

 動画を撮ってネットの動画サイトにアップしてみたらどうか、と提案してみようかと考えた。

 が、すぐに考え直す。

 千景さんの性格的に、コメント一つ一つに一喜一憂して、批判誹謗中傷なんてされようものなら、すぐにネット世界から失踪してしまうだろう。

 無駄に傷つけるだけだな。この案はなしだ。

 

武谷「じゃあ、教えてもらおうかな」

千景「……任せなさい。まず、ここはね――」

 

 ぼくのゲーム画面を見ながら、千景さんが色々と教えてくれる。時には画面を指さす。

 つまりかなり近い。肩が触れ合う距離だ。

 

千景「こうなった場合。こう対処するのがいいわ」

 

 肩が触れ合うどころか、ぼくがゲームを操作する手の上に直接自分の手を重ねて操作をし、教えてくれる。

 まるでゴルフを若いお姉さんに教えるエロおやじ、違う、スポーツのインストラクターだ。

 

千景「すぐに身につくものではないかもしれないけれど……反射的にできるようになれば今より格段に強くなれると思うわ」

 

 反復練習もした。ここまで来たらなんとか勝ちたいので、躍起になる。

 集中して、画面を凝視して、長時間FPSをプレイした。

 

 結果。

 

 酔った。

 それはもう、これ以上にないくらいのFPS酔いだった。

 気持ち悪い。

 

武谷「ごめん、千景さん。今日はもう無理だ。ここで無理を通したら確実に吐く」

千景「しょうがないわね……」

 

 千景さんは苦笑した。

 苦笑でも、笑った顔を見たのは初めてな気がする。

 友奈さんには結構微笑みを見せているような気もするけれど。

 ぼく相手では、初めてな気がした。

 

千景「聖陵院くん……こっちきて……」

 

 言葉の意図は良く分からなかったが、とりあえず言われた通りにした。

 

千景「……ここ、座って」

 

 千景さんが座っている椅子から三十センチも離れていない隣に用意された椅子に座ることを言い渡される。

 これも言われた通りにした。

 

千景「それで、ここに……」

 

 身体を支えられながら動かされるままにした。

 そうしたら、なぜか膝枕をされていた。

 

 柔らかいな。なんかいい匂いもするし。

 

千景「……このまま、酔いがさめるまで寝てていいから……」

 

 千景さんが、笑っていた。

 ちゃんとした笑顔だった。

 こんなに近くで……初めて見る。

 

 やっぱり、今日の千景さんはいつもと違う。

 何でか知らないけど、違っている。それも、悪くない方向に。

 何かが、変わったのだ。

 

 酔いで気分は最悪だ。けど。なんか。ふと。

 安心してしまった。

 

 

 




聖陵院武谷は勇者である(せたゆ)内での千景さんのイメージをイラストにしてみました。


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