聖陵院武谷は勇者である   作:ソウブ

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6話 北欧の巨人 ヨトゥン・バーテックス

 

 彼女のピアノ演奏が終わる。

 余韻の広がる空間に浸ったあと、ぼくは口を開いた。

武谷「やっぱり、いい曲だよ」

「……ありがとう」

「本当にいつも来るのね……」

武谷「うん、聴き惚れてしまったからね」

「私、そんなに上手くないのに、気に入ったのって嘘じゃないの……?」

武谷「嘘じゃないよ。でなきゃわざわざ聴きに来ない」

 それだけが理由ではないけれど。

「そう……?」

 首傾げてまだ懐疑的な彼女。

 でも彼女は、来るなとは一度も言わなかった。

 

 

 

 千景さんとゲームをして膝枕をされた日から、数日が経ったある日。

 三度目のバーテックスの侵攻が起きた。

 

 ぼく以外の五人は勇者装束に変身し、樹海に立つ。

 視界の遠くには、バーテックスの群れが見えた。

 スマホの地図で確認すると、百体ぐらいの光点。白い雑魚バーテックスの数だ。

 

 その中から、突出した光点があった。

 

 凄まじい速さで地を駆けてくる。

 人間の胴から下だけを残したような姿。

 火と氷を宿し撒き散らしながら爆走している。

 かと思いきや変則的な軌道で樹海の根を飛び越え避けて速度を落とさない。

 

 進化体だ。

 ぼくは即座にスマホの画面中央にある黄金色の魔方陣を上にスワイプした。

 進化体を見たらすぐに殺せ。前回の戦いで学んだことだ。

 

友奈「へ……変態さん!?」

 

若葉「迷惑なものを撒き散らしながら走る、まるで暴走族のようだ」

 

杏「それよりどうします?」

 

千景「倒すだけよ」

 

球子「それじゃあタマに任せタマえ!」

 

 魔方陣と歯車の魔方陣が噛み合い、回転、綺麗な音色が出る高速回転、画面から光を放つ。

 巨大な魔方陣がぼくの前に出現。黄金槍の突先が中央から顔を出す。

 

武谷「『グングニル』」

 

 言霊。現象顕現(けんげん)

 

 轟音。

 轟雷。

 

 雷宿す黄金槍が解き放たれ、破壊を為す。

 

 高速で避けようとした進化体をものともせず、黄金槍から雷が広範囲に放たれ、直撃。焼失。

 槍は止まらず、雷も幾度放出。有象無象のバーテックスも多く斃していった。

 黄金槍が消失した時には、残留バーテックスは数体程度。

 

若葉「仕事が早いな。できれば一言欲しかったが」

 

球子「タマの気合を返してほしいが、倒せたならいい。ナイス武谷」

 

杏「これであとは、あれらを倒すだけですね」

 

友奈「相変わらずすごいねー!」

 

千景「……流石ね」

 

 

 嫌な予感。

 嫌な(いや)(いや)なイヤナいやな嫌な嫌な嫌な嫌な嫌な嫌な嫌な嫌な嫌な嫌な嫌な嫌な嫌な。

 予感。

 

 嫌な予感が発生し、こびりつき、増していく。

 気のせいだ。進化体は倒した。杏さんの言う通りあとは雑魚だけ、問題などない。

 けれど。

 嫌な予感というものは得てして、当たるものだ。

 

千景「……なによ……あれ……」

 

 それは、ただひたすらに巨大だった。

 

球子「で……でかっ……いやデカ過ぎるだろ!?」

 

 それは、白い人型だった。

 

杏「進化体、です、かね……?」

 

 それの顔には、大きな口が一つあるだけだった。

 

若葉「今までとは違うものを感じる……。皆気をつけろ」

 

 それは、一言でいえば巨人だった。

 

 数十メートルはある白い巨人型バーテックスが、視界の奥から現れた。

 歩いてこちらへとやって来る。

 融合して進化体に成る様子は見ていない。あんな巨大な存在が出来上がる過程、視界内で起こっていたら流石に気づく。だけどそれは先に倒した速い下半身だけのバーテックスも同じ。すでに進化体に成ってから来たのか。元からその姿なのか。

 

 視覚的にも感覚的にも、特別で強力な個体だと理解する。

 

 ――ぼくは、間違えていなかったはずだ。

 ぼくは危険な進化体を、前回の教訓から即座にグングニルを放って殺したんだ。

 けれど、その即断が今の状況を招いた。

 特別個体が二体以上来る可能性。それは前回考えたこと。だからこそあの時は様子見をして、みんなで対処できるならしてもらおうと、力を温存した。その結果危険な目に遭わせてしまった。

 それを避けるためにすぐに倒したのに、今回は、二体目の特別個体が現れた。

 前回の戦いから学んだことを実行したのに、前回考えた懸念がここで現実になる。

 酷い皮肉だ。

 グングニルは撃ったばかり、再度撃つには時間がかかる。スマホの画面を見るとゲージはまだ三分の一も溜まっていない。

 

 ままならない。旨くいかない。

 判断は間違えていなかったはずなんだ。何故こんなことになっている。

 あの場面で倒してなかったら、誰かが傷ついていた可能性があった。だから倒したというのに。

 どうしようもないではないか。

 結局どう行動しようとも窮地に立たされる。

 間違えていなくとも、少しでも巡り合わせが悪ければ現実はいつだって冷酷に人を追い詰めに来るんだ。

 

 唇の裏側が噛み切れた。手に爪が食い込んで血が滲む。スマホが軋んだ。

 

 ぼくは平静を装った。

 みんなの前では、いつもの自分でいたい。

 

友奈「たけくん、そんな顔しないで。みんなで力を合わせれば、倒せないわけがないんだから!」

 

 ぼくは完璧に平静を装っていたはずなのだが、どう見えていたのだろう。

 

千景「聖陵院くん、私たちに任せて……私たちはそんなに弱くない」 

 

若葉「そうだな。私たちで倒してしまおう」

 

球子「勇者は武谷だけじゃないぞ。タマたちだって勇者なんだからな!」

 

杏「武谷さん、私たちは大丈夫ですよ。いざとなったら武谷さんの力が溜まるのを待って時間稼ぎをすればいいと思えば、簡単です」

 

 …………。

 

 その五人の表情は、正しく勇者で。

 輝いていた。

 

武谷「みんな……」

 

 ぼくは今、信じて待つしかない。

 

武谷「……頑張って」

 

若葉「ああ!」球子「おう!」友奈「うん!」杏「はい!」

 

 千景さんは、力強く頷いた。

 

 杏さん以外の皆が一斉に飛び立っていく。

 死闘が、始まる。

 

 

 後衛の杏さんはぼくの(そば)にクロスボウを構えて立った。 

 跳びながら接近する四人の勇者。

 

 先手は、巨人が取った。

 

 巨腕、その先の拳が放たれ襲い来る。

 空気を圧しながら落ちてくるその様は正に隕石の如く。

 

杏「タマっち先輩っ!」

 

 四人は散開して何とか避けた。

 地に拳が突き刺さる。

 爆散。

 莫大なる破壊音と共に多くの土埃が舞い上がり、地鳴りが轟く。

 着弾の中心点から衝撃が吹き荒んだ。

 巨大な拳は、地面をクレーター上に陥没させた。

 

球子「ひゃああ……あれは楯で受けない方がよさそうだな……」

 

 一撃で地を吹き飛ばすほどの、圧倒的な膂力。

 一度でも直撃すれば、死は免れないだろう。

 

 ぼくの頬に汗が伝った。見ているだけというのは、心を削る。

 

 そして思い出す。樹海化の防御は絶対ではないということを。樹海の一部がバーテックスの攻撃で損傷したりすると、その傷は現実世界に自然災害や原因不明の事故という形でフィードバックされる。さらに、樹海化もやはり長時間続ければ神樹の力を消費してしまう。神樹の力が枯渇すれば資源は無くなり人々は生活できなくなる。

 

若葉「くっ……!」

 クレーターを見て若葉さんの顔が歪む。

 

 今の一撃は確実にフィードバックされるレベルの損傷だろう。それにあの巨体を倒すのに長時間はかけられない。

 焦りが増した。

 

 巨人の攻撃後の隙に真っ先に肉薄した若葉さん。

若葉「はあっ!」

 鞘に納めた刀を鞘走らせ居合一刀。巨人の足に切りつける。

 しかし、足が切断されて倒れるような様子はない。大したダメージを与えられたようには見えなかった。

  

 即座に巨人の、反撃の蹴り上げ。すぐ近くにいる若葉さんに迫る。

 若葉さんは刀を巧みに使い、全力で蹴撃(しゅうげき)を斬り逸らす。

 が、巨人の力が強過ぎるからか弾き飛ばされた。

 

 巨人に追撃をさせないように、杏さんとタマさんが遠距離攻撃。クロスボウを射出し、旋刃盤を投擲する。

 足や腹に直撃するが、これも大した傷を負わせられない。

 

 だが、敵の意識は杏さんとタマさんに向いた。

 

 その隙に千景さんと友奈さんが巨人の足へ肉薄。

 斬、と大鎌を振るい、打、と拳を突き出す。けれどこれも大して効かなかった。

 

 下段蹴りの反撃が来る。 

 二人は擦れ擦れ危なげに反撃を回避。

 

武谷「見た目通りの強さか……見掛け倒しだったら良かったんだけど」

 

 あの巨人は、姿通りの凄まじい膂力と、さらに高い防御力を持っている。

 やはり、一筋縄ではいってくれない。

 

 今まで距離を取って浮遊していた、僅かに残った通常の雑魚バーテックスが、動いた。

 状況が変転する。

 雑魚バーテックスが四人に向けて突っ込んで来た。

 

 当然皆は対処する。刀が、大鎌が、拳が、旋刃盤が揮われる。

 僅かに残っていた雑魚バーテックスはそれで全滅した。

 されど。

 

 対処した隙に、巨人が超膂力の拳を大振りに振り払う。

 広範囲に薙がれた山をも砕く巨腕。

 それを避ける為には大きく離れる必要がある。

 四人は強く一斉に跳んで、巨人から距離を取った。

 

 間一髪、四人の前を拳が通り過ぎていく。

 避けることができた。

 ぼくは、安堵した。

 束の間の。

 

 寸刻後――巨人が走った。

 

 大きく離れた勇者四人を無視して、こちらへ向けて真っ直ぐに。

 

 地鳴りを生み出す足音を響かせながら、巨体が走り迫って来る。

 大して速い動きではないが、巨体の歩幅がその欠点を打ち消していた。

 数十メートルはある巨人が迫ってくる圧迫感は途轍もない。

 

球子「あんずーー! たけやーー! 逃げろーーーー!!」

千景「聖陵院くんっ!!」

 

 後衛であるぼくと杏さんを先に殺そうということか。

 意思のないように見えるバーテックスも、学習するのだ。

 むしろ、何度も北欧勇者の力で多くのバーテックスを屠ってきたぼくを警戒しないわけがない。

 再度グングニルを撃つまでの時間を稼がせないように、真っ先に殺したいのだろう。

 

 そしてぼくの身体能力は、鍛錬をした一般人程度でしかない。

 このままでは、殺される。

 このままでは、杏さんが危ない。

 先の様子から、クロスボウでは足止めにはならないだろう。

 そして他の四人は今の距離ではすぐには間に合わない。

 

 ――まずい。

 杏さんが死んでしまう。

 ぼくはそのことだけに、心底恐怖した。

 

武谷「杏さん、逃げてく――」

 れ。

 

 杏さんが突然ぼくを抱えた。

 体が揺れる。杏さんが跳んで、巨人から距離を離していく。

 

杏「変なこと、言おうとしないでください」

 

 声が、震えていた。

 体も、震えていた。

 密着しているから、ダイレクトに伝わってくる。

 杏さんは恐怖を押し殺して、ぼくを護ろうとしてくれているのだ。

 ぼくは、されるがままにするしかなかった。

 

 何度も何度も跳んで、巨人から遠ざかろうとする。

 しかし巨人は追い縋って来る。

 

 巨大な腕が、ぼくらに向かって振るわれた。

杏「ひ……っ」

 杏さんの喉から悲鳴が漏れた。

 腕は間近を通り過ぎ、風圧が吹き付ける。

 

 杏さんが片手でぼくを抱えながら、右手でクロスボウの矢を放つ。

 巨人の(すね)に命中するが、それだけだ。巨人の動きは僅かも鈍らない。

 

 再度振るわれる巨腕。

 杏さんは後ろに跳んで間一髪避ける。

 

 幾度も振り薙がれる巨腕。

 跳躍、飛び退き、跳ね上がり、紙一重で死線を回避していく。

 

 杏さんは必死だ。持てる力を遮二無二、我武者羅、無我夢中に出して全力でこの状況下を足掻いてくれている。

 

 けれどぼくを抱えていることで、動きが普段より鈍い。

 何度も捉えられそうになる。

 

 その一撃一撃が、即死級の剛撃。

 

 絶望的な攻防。

 現状のままではすぐに行き詰まるだろう。

 

 それでも杏さんはぼくを抱えたまま護ろうとしている。全身全霊で跳び逃げ回る。

 

 巨人の猛追が、変化を及ぼした。

 横に薙がれていた巨腕は、縦に振り下ろされる。

杏「……っ!」

 杏さんは避ける。腕が地に激突。地面が爆散。

 

 連続で、縦に振り下ろされる超巨大な拳。

杏「……っ……っ……ひっ……」

 跳ぶ、跳ぶ、跳ぶ。

 避ける、爆散、避ける、爆散。

 避けられても、その巨体は樹海を破壊し尽くす。

 焦りが生まれる。油断も生まれる。限界が、きた。

 

 弾けて散る地面。その破片がぼくたちに間近で襲い来る。

 思い切り吹き飛ばされた。

 抱えていた杏さんの手が、強い衝撃でぼくから離れる。放り出された。

 地に身体を打ちつけながら転がる。

 少し離れた位置で杏さんも転がって倒れた。ぼくよりも怪我が深そうだ。またぼくは庇われたのか。

 

武谷「杏、さん……」

 死なせたくない。

 スマホの画面を見た。ゲージはまだ溜まっていない。

 

 ――巨人の拳が迫る。

 

球子「あんずーーーーーーー!!!」

千景「聖陵院くんっっ!!!」

 

 二人の叫び声が聞こえると共に、切り札が使用される感覚を捉えた。

 

 ――切り札。

 それは、強力なバーテックスと戦うために編み出された勇者の力。

 勇者の存在は神樹に繋がっている。

 神樹には地上のあらゆるものが概念的記録として蓄積されている。その記録にアクセスし、抽出し、精霊を自らの体に顕現させる。

 それが、まだ一度も使われたことのない、体に負担を掛けると予測されている、代償を伴う強力な切り札だ。

 

 千景さんとタマさんは、自分の内側へ意識を集中させて、概念的記録にアクセスしたんだ。

 それぞれの切り札が、顕現する。

 

 杏さんに迫る、山をも砕く巨大な拳。

 タマさんは杏さんの方に跳びながら姿を変化させる。元の装束を残したまま、首周りに大きく輪っかのようなものが浮き、橙色の線が入った白いローブを羽織っている。

 タマさんは旋刃盤を自分の身長の何倍にも巨大化させた。

 それをタマさんは、空中で身体を回転させながら投擲する。

 旋刃盤に繋がっていたワイヤーは外れ、旋刃盤はそのまま飛翔して行く。今までと違い、それで自由に操作できる。

 旋刃盤の外縁部の刃が高速回転。さらに刃は炎に包まれていた。

 

 ――精霊、輪入道(わにゅうどう)の力。

 

 高速回転しながら炎宿す旋刃盤は、振り下ろされてくる巨腕の横から激突した。

 機動が逸らされる。

 そのうえ、今まで一切傷つかなかった巨人が、ダメージを負った。

 腕に切り傷が付き、炎が傷口を焼く。

 逸らされた拳はタマさんと杏さんから離れた場所に着弾した。それと同時にタマさんも杏さんの前に着地する。

 その様子には、危なげさがない。

 

 しかし、ぼくに向けても片方の拳が落ちてきている。

 杏さんに向けた拳がタマさんに逸らされようとも、ぼくへの攻撃の軌道を巨人は外さず保っていた。

 

 ぼくの体が掻っ攫われる。

 今度は、千景さんに抱えられていた。

 と思ったら、放り投げられた。

 後ろを振り返る。千景さんはぼくを放り投げた体制。 

 

 目の前で、千景さんが巨大な拳に潰された。

 

 理解がショートする。

 視界が弾ける。脳が頭が思考が電気を狂わせて。

 過去の記憶。巡る巡る鮮明に感じる。フラッシュバック。

 

 慟哭(どうこく)しかけた。

 

 されどその一瞬前に、誰かに空中で抱えられる感覚。

 ついこの間に、膝枕などされて触れたことのある感触、匂い。

 

武谷「千景、さん……?」

 振り仰ぐと、千景さんの顔。

武谷「あれ……いま……?」

 完全に、潰されたような。

 

千景「七人岬(しちにんみさき)……私の切り札の能力は、七人同時に存在する私が同時に殺されない限り死なない」

 

武谷「そう、か……」

 

 聞くだけで、かなり強力な力だと(わか)る。目の前で見もしたけれど。

 千景さんの装束も切り札の影響で変化していた。元の装束の上に、深紅の線が入った白い頭巾と羽織を纏っている。

 

 千景さんは生きている。良かった。心胆が落ち着いていく。無理矢理にでも、落ち着かせる。

 

 でも、千景さんとタマさんに切り札を使わせてしまった。あんなの切り札でも使わなければどうにもならないと、戦いが始まる前からそんな気はしていたが、やはりできれば使わずに終わってほしかった。

 思わず入ってしまう奥歯と手への力を抑える。

 周りを見るとぼくが助けられている間にタマさんと杏さんは巨人から離れていた。

 

 千景さん六人とタマさんが巨人へと攻撃を仕掛けた。

 六線の三日月形斬撃と炎に包まれた回転斬が巨人の足に命中。

 巨人の身に、切り傷が、焼け跡がつく。無視できない損傷だ。

 敵の意識は六人の千景さんとタマさんに大きく向いた。

 その間にぼくを抱えた千景さんが距離を取っていく。

 

 巨人が地団太を踏んだ。

 だが子供の怒りとは訳が違う。

 地面が激しく揺れる。足裏で踏み抜かれた場所は陥没する。巨人の近くにいた千景さん六人は踏み潰されないように、地揺れの合間に跳んで後退していく。

 

 巨人が巨腕を地面擦れ擦れで薙ぎ払った。

 後退途中の千景さん六人中四人が吹き飛んで絶命した。だが即座に新たな四人は出現する。同時に殺されない限り敵の攻撃は意味を成さない。

 

 巨人は続けて左拳を振り下ろした。

 

若葉「これ以上樹海を傷つけられて堪るか!」

 

 若葉さんが切り札を使った。

 

 ――精霊、源義経(みなもとのよしつね)。空中における桁外れの機動力を得る八艘(はっそう)飛び。

 若葉さんの装束が変化、白い羽織と青いマフラーが纏われる。

 刹那の間に地面を蹴り、根を蹴り、八艘飛びを繰り返し、若葉さんの速度がどこまでも上がっていく。常人では目で追うことすら不可能な領域へと。 

 

 巨人の横から物凄い勢いで飛んできた若葉さんが、速度の威力を全て乗せ腕を斬りつけた。

 巨人の腕に切り傷が出来、宙に弾かれ地には到達しない。

 

友奈「よし、私も! みんなで一気にいこう!」

 

 続いて友奈さんも切り札を使う。

 暴風を具像化した精霊、一目連(いちもくれん)

 拳に竜巻の勢いと力を宿す。

 装束の変化は、左眼辺りに浮かぶ桜の花弁と風の渦を合わせたような見た目の覆い、そして両腕に纏われる渦を巻く長い布状のもの。

 

 巨人に肉薄した友奈さんの振りかぶった拳が、巨人の足に突き刺さる。

 何度も、幾度も、幾重にも。

 

友奈「うおおおおおおおおっ!」

 

 拳が激突する音が響き続ける。

 

友奈「千回ぃぃィ……連続勇者パーーーーーンチッ!!」

 

 最後に強く激突した拳が、渦を巻く衝撃を突き抜けさせる。

 巨人のふくらはぎ辺りの位置に穴が開き、ゆっくりと、だが確実に巨人は転倒した。地響きが伝わる。

 

若葉「皆、行くぞ!」

 

 若葉さんの号令と共に、勇者たちは一気に攻勢に出た。

 

 巨人はまだ腕や足を振り回して抗うが、若葉さんが空中機動と速さで翻弄する。

 その間に六人の千景さんの斬撃、タマさんの炎宿す旋刃盤の連続斬、友奈さんの竜巻宿す拳が命中。巨人の体を破壊していく。

 振り回される巨腕を避けながら、擦れ違いざまに若葉さんも刀を一閃、それを何度も。

 

 巨人の体はいつしか、崩れた。

 

 ――勝った。

 

 と思った時、巨人の首が取れた。

 誰かが攻撃したわけではなかった。

 

 放り出された首は、地面に落下する軌道を突然変える。

 ぼくと千景さんがいるこちらへ、勢いよく飛来してきた。

 喰い殺さんと大口を開け、高速で迫る巨人の頭部。

 不意を突かれた今では、若葉さんの速さでさえ追いつけないだろう。 

 

 スマホの画面を見る。ゲージは、あと少しで完全に溜まるところだった。

 しかし、今は使えない。

 

 千景さんはここにいるひとりが殺されたところで死にはしない、ぼくが死ぬだけだ。  ――。

 ……ぼくは、死ぬのか?

 

 死への恐怖はなかった。けど、この先みんながどうなるかの恐怖はあった。

 

 と。

 ぼくの体が地面に降ろされる。

 千景さんが、前に走っていく。そして跳んだ。

 

 巨人の頭部とすれ違う。その刹那、大鎌が三日月形に大きく、強く振り切られた。

 

 巨人の頭部は割断され、消滅。

 今回攻めてきた敵は、それで全滅した。

 

 地面に着地し、振り返った千景さんが大鎌を振り払う。

 

千景「聖陵院くんは、殺させない……」

 

 

 

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