音楽室は独占できるものではない、入り浸ることはできなかった。
だからその日は解放されている屋上で共に昼食を取っていた。
ぼくは購買で買ったパンを
それにしても、彼女のお弁当、うまそうだな。
そんなことを考えながら思わず見ていたら、彼女はこちらに顔を向ける。
「食べる……?」
と訊かれてしまった。
そんなに物欲しそうだったろうか。
武谷「食べる」
彼女の弁当箱を見る。
武谷「どれ食べていい?」
「なんでも、ひとつなら……」
ぼくは一番うまそうだと思った卵焼きを掴み食べた。
武谷「おいしい」
「そう……」
そっけなくそれだけ答えて食事に戻る彼女。
でも、不機嫌そうではない。
ぼくと食事をすることも受け入れてくれている。
そんな静かな、穏やかな時間。
ただひとつの結論から言おう。彼女たち、ぼく以外の勇者五人は、ぼくが思っているよりも強い。
特に切り札が強力だ。あの絶望的にさえ見えた巨人に易々とダメージを与え、難なく倒してしまったのだから。
そう、彼女たちは強い。
だけど。
今杏さんは、ぼくの目の前で眠っている。
戦闘の怪我で、意識を失っていた。
ぼくを護ろうとして負った怪我で。
治療は施されて、命に別状はないが。
一歩間違えば、死んでしまっていたかもしれない。
今回は運が良かっただけ。
奇跡は何度も起きない。
起こさなければならないのは必然。
そう、つまり、だから、強くても死ぬときは死ぬ。
もうひとつの結論。その死ぬ時を防ぐのがぼくの役目だ。
だが、今までのことから解るように、ぼくには力が足りない。
結局のところ、ぼくの力は一回使ったら再使用までに時間がかかるというのが、これ以上ないほどに欠点なんだ。
敵の強襲が二回以上連続で来たらそれで終わり。時間稼ぎをしてもらわなければ何もできない。
護ってもらうことが前提の、欠陥だらけの力。
そんなこと、目を背けていただけで最初からわかってたけれど。
ぼくに必要なのは、連続で使える強力な力。
グングニル級の攻撃を何度も使えれば、敵なしだろう。
そう、力が必要だ。
必要なんだ。
絶対に。
力、力、力、力。一人で皆を守れるくらいの。
――――神様……。
病院の一室、杏さんの病室の、杏さんが眠るベッドの横で椅子に座りながら、ぼくは思考に耽っていた。
手の平に爪が食い込んで血が滲んだ。
杏「武谷さん……?」
杏さんが目を開けた。こちらを見ている。
血が滲んだ手の平を見られないように両手を伏せた。
杏「私、どれぐらい寝てました……?」
武谷「少しだけさ。戦いが終わってから数時間くらいだよ」
杏「そうですか……」
杏さんは静かに言って目を伏せた。
そして目を開く。
杏「みんなは、無事ですか……?」
武谷「みんな無事だよ。杏さんの怪我が一番酷いくらいさ」
杏さんはほっとした表情をした。
杏「なら、みんなは今どうしてますか?」
武谷「今回の戦いで杏さん以外の四人は切り札を使ったんだ。だから身体にどんな影響があるのかわからないってことで、この病院で検査入院しているよ」
杏「切り札、使っちゃったんですね」
武谷「うん」
空気を変えたくて話題を変える。
武谷「真っ先にタマさんはこの杏さんのいる病室に行きたがってたよ。検査しないといけないから止められて渋々引きさがったけど」
杏「ふふ……タマっち先輩……」
杏さんは笑ってくれた。
武谷「ねえ、杏さん」
杏「なんですか?」
武谷「あの時、護ってくれてありがとう」
必死にぼくを抱えて抗ってくれた。あの姿をぼくはずっと忘れないだろう。
杏「いえ、当然のことをしたまでです……」
微笑みはそのままに、照れているのか頬が朱に染まっている。
杏「私だって前に守られましたし、仲間で友達じゃないですか」
今度はぼくが護るから。
その言葉は、口には出さなかった。
もし今、口に出したら、心の中にある過去からの
千景viewer
三度目の襲撃を乗り越え、検査入院をしてからしばらく経った。
私を含めみんなが切り札を使った影響は、検査をしても特に見つからなかった。私も、かなり疲れただけでそれ以外に何かがどうなってしまったような感覚はなかった。
あくる日。
今日の鍛錬も終わり頃。
私は、ついに決心した。
聖陵院くんを、で、デ、デートに誘おうと思う。
それというのも、最近、どんどん聖陵院くんの元気がなくなっているように見えたからだけれど。
よく見ていないと、ずっと見ていないとわからないほどの僅かな違いだけれど、私には顕著に見えた。
理由は、よくわからないけど……。いつもみたいに、普通に、明るく話しているし。様子は一切変わったところがない。
それでも元気がないように見えるのは不思議な感じがするけれど。
一緒に遊んで、元気づけてあげたい、と思った……。
友奈「ねえ、ぐんちゃん、今度どこかに遊びに行こうよ」
千景「……っ!!」
友奈「わあっ!? ぐんちゃんが跳ねた!?」
友奈「どうしたの?」
千景「いえ……考えごとしてて、急に話しかけられたから驚いただけ……」
友奈「そっか、ごめんねぐんちゃん」
千景「高嶋さんは悪くないわ……」
友奈「それでね、ぐんちゃんとお出かけしたいなって思ってるんだけど今度いいかな?」
高嶋さんとお出かけ……。
すごく魅力的な提案だ。
でも、私は聖陵院くんをデ――遊びに誘おうと思っていた。
どうしましょう……。
どちらかを優先する? 今回は高嶋さんと出掛けて、聖陵院くんは今度? 聖陵院くんをまだ誘ったわけではないのだし。
けど、今誘わなかったらそのままずるずると誘えない気がする……。
――その時、私の脳に電流が奔った。
二人とお出かけ。
ハーレムデート。
両手に花。
いえ、片手に花、片手に……なんだろう……。
とにかく。これはいいかもしれない。
千景「高嶋さん……聖陵院くんも一緒でいいかしら……?」
友奈「たけくんも? もちろんいいよ!」
笑顔で了解してくれた。
友奈「あ、ぐんちゃん、それならさ」
千景「なに?」
友奈「たけくんを元気づけてあげようよ」
心臓がドクンと鳴った。
私がさっきまで考えていたことだからだ。
まさか考えを悟られたということはないだろうけど……。
千景「……高嶋さんも気づいていたのね」
友奈「ぐんちゃんも気づいてたんだ。たけくんが最近元気ないの」
千景「ええ……」
友奈「なら話は早いね、ぐんちゃんが元気づけてあげよう! 私も協力するけど」
千景「でも……何で私に?」
友奈「ぐんちゃんに励まされた方がたけくんは嬉しいと思うんだ」
千景「……そ、そうかしら」
友奈「うん、絶対そうだよ!」
千景「それじゃあ……今から、聖陵院くんを誘ってくるわね……」
友奈「ぐんちゃん頑張って!」
千景「わかったわ……」
なにを頑張るかは、わからないけど……。
ただ、遊びに誘うだけよ。
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ぼくは今、千景さんと友奈さんと丸亀城前で待ち合わせしていた。
壁に背を預けて、まだ来ていない二人を待つ。
それというのも先日。
千景『せ、聖陵院くん……』
武谷『なに? 千景さん』
千景『明日、が無理だったら別の日でもいいけど……一緒に遊びに行きましょう……高嶋さんも一緒だけど』
武谷『うん、いいよ、わかった』
千景『……随分、あっさり決めるのね』
武谷『そんな気分なんだ』
千景『そ、そう……」
なんて会話があったからだ。
千景さんからの誘い、断るはずがない。
本当は、力の追求に行き詰っている事を忘れたかったからなのかもしれないが。
鍛錬をして、いくら肉体を鍛えても、人の身では神の尖兵であるバーテックスは倒せない。
どれだけ努力しても不可能なのだ。神の力が無ければ倒せない。
そして北欧の勇者システムを改良することは、ぼくにも、他の人間にもできない。
詳しく知るものがもう、誰一人としていないから。
だから、襲撃が来た時に全力で戦うしか、ぼくにできることはなかった。
色々考えなきゃいけないこと。考えても無駄なこと。悩みは絶えないけれど。
今は千景さんと友奈さんと遊んで、気を休めて、それから考えよう。
待ち合わせ場所、ここに、千景さんが歩いてくるのが見えた。
千景「聖陵院くん……おまたせ。きょ、今日もいい天気ね」
武谷「そうだね。お出かけ日和だ」
太陽は気持ちの良い光と温度を届けてくる。
過ごしやすい日だ。
千景さんは、いつもと違う格好をしていた。
胸元に白いリボンがあり、白黒の縦じまで、スカートの部分に白いフリルのついたワンピース。そのうえから深紅のなんかオシャレな上着を羽織っていた。黒ニーソで絶対領域も見える。
武谷「その服、似合うね。可愛いよ」
千景「っ!? ……そ、そう」
照れているのか、千景さんの頬は赤く染まっている。
友奈「ごめーん! 遅くなった―!」
友奈さんが、遠くから走ってくるのが見える。
今日は、楽しい一日になりそうだ。
合流したぼくたちは、ショッピングモールへと向かった。
結構巨大な建物に入ると、のんびり歩いて行く。
入って最初の内は、千景さんと友奈さんが何かを話していた。
少しすると話し終わったのか、千景さんがぼくに向いた。
千景「聖陵院くん……どこか行きたい場所はあるかしら?」
武谷「特にはないかな。千景さんか友奈さんの行きたい場所でいいよ」
千景「……そう」
千景「高嶋さん、どうし――」
友奈「そうだね、えーと――」
何やらまた二人で話している。周りの喧騒があるうえ、声を小さく二人が顔を密着させるように話しているのでうまく聞こえない。
こちらへ振り向く千景さん。
千景「……聖陵院くん、なら、ゲームセンターでいいかしら?」
武谷「うん。いいよ」
行き先が決まったので、三人で方向を変えて歩き出す。
千景「聖陵院くん……あのゲームショップの前に貼ってあるポスターのゲーム、もうすぐ発売するんだけど、続き物で、前作が面白くて期待度高いのよ」
武谷「へ~、そうなんだ。ぼくも買ってみようかな」
そうすれば千景さんと一緒に楽しめるかもだし。
千景「ぜひ購入をお勧めするわ。続き物だけど物語としては独立しているから、最新作からでも楽しめると思う」
千景「それにネット対戦も充実していて、主流はそっちだけどアドホックでも対戦できるから、もし買うのなら一緒にやりましょう」
なんだか、そのゲームの話をしている時の千景さんの表情は生き生きとしていた。
その横で友奈さんはニコニコと楽しそうに笑っていた。
千景「聖陵院くん――」
話す。
千景「聖陵院くん――」
千景さんと話していく。
千景「聖陵院くん――」
今日は、千景さんによく名前を呼ばれるような気がした。