聖陵院武谷は勇者である   作:ソウブ

8 / 28
8話 今日という楽しい一日

 ゲームセンターに着いた。

 ゲーセン特有の騒がしい音が鳴り響いている。

 

千景「聖陵院くんは、どれをやりたい……?」

武谷「そうだなあ。千景さんたちがやりたいのあったらそれでいいけど、とりあえず一通りみんなで遊んでいこうか」

千景「それもそうね……」

友奈「さんせ~い!」

 

 それから、シューティングゲームや、レースゲーム、ホッケー、色々なゲームをプレイした。

 

 結果は、一言で言えば千景さん無双だった。

 

 ホッケーだけはスポーツのようなものだからか、普通に接戦だったけれど。

 

 シューティングゲームではぼくらより桁が多い高得点を叩き出し、レースゲームではぶっちぎりで一位を取っていた。ぼくと友奈さんはわいわい騒ぎながら銃を乱射し、コースアウトしていただけだ。

 

 何はともあれ、ぼくらは三人とも楽しんでいた。

 

 

side viewer

 

 

 ショッピングモール。

 ゲームセンターの外の物陰。

 そこには四人の少女が、武谷たちを視界に収めながら話していた。

 

杏「キャー! キャーキャー!」

 杏が球子の背中をバシバシと叩く。

球子「痛っ!? 痛えってあんず!! なにするんだよ!」

杏「だってだってだって」

球子「だってじゃねえっ!」

 

球子「さっきから騒いでるけど、怪我もまだ完全に治ってないんだから無理するなよあんず」

杏「わかってますよタマっち先輩。心配してくれてありがとう」

球子「おう」

 杏の笑顔に少し照れて、球子は話題を変えるように言う。

 

球子「そもそも、本当にあれ、デートなのか?」

 

 杏たちは武谷たちの待ち合わせを偶然見てしまい、そのただならぬ雰囲気からつい尾行して来てしまったのだ

 杏は最初から、あれは絶対デートだと主張してやまない。

 

球子「普通に三人で遊んでるだけじゃないか?」

杏「いいえ、デートです」

 杏は確固たる真実だと断言する口調で言う。

杏「千景さんの様子を見ればわかります。あれはハーレムデートです」

球子「武谷にとってのハーレムデートなら分からなくもないが、千景にとって?」

杏「そうです。千景さんのハーレムデートです」

球子「片方男だけど」

杏「それでもそうなんです!

球子「お、おう」

杏「両手に花、いえ、両手に騎士でしょうか、王子さまでしょうか」

 杏はぶつぶつと興奮しながら呟き続けている。

 球子はその様子に気圧されていた。

 

若葉「覗き見などして良かったのだろうか……」

ひなた「若葉ちゃん、これは覗き見ではありません。三人のデートがうまくいくかどうか見守っているのです」

若葉「屁理屈じゃないか」

 

 

main viewer

 

 

友奈「あれかわいい~!」

 友奈さんがUFOキャッチャーにある牛のぬいぐるみを指さし、ふにゃりとした笑顔で言った。

 

千景「私に任せて……」

 

 千景さんが即座に行動した。

 UFOキャッチャーの前に立ち、財布からワンコイン取り出す。

 一度に六回プレイできてお得な五百円玉ではなく、百円だ。絶対の自信が窺える。

 千景さんはチャリンと百円硬貨を投入し、ボタンを押して操作する。

 UFOキャッチャー特有の気の抜ける軽い音が鳴る中、ぼくは固唾を飲んで見守った。

 千景さんがターンッ! とボタンを押した。

 

武谷「あ、あれはっ!?」

 

 タグ引っ掛け!

 

 ぬいぐるみに付いているタグにアームを引っ掛けて持ち上げるというUFOキャッチャーの高等技術!

 

 一発だった。

 牛のぬいぐるみはたった一度のプレイで檻から解放されたのだ。

 千景さんにとっては百円で十分ということだ。

 

 牛のぬいぐるみを抱えて戻ってくる千景さんの姿は、正に凱旋だった。

 

千景「高嶋さん……これプレゼントするわ」

友奈「わあー! でも、いいの?」

千景「私は別にいらないから……」

友奈「なら、遠慮なく受け取るね、ありがとう! 今度私もなにかで返すね!」

千景「たった百円よ。気にしないで」

 

 たった百円よ。気にしないで。

 くぅう~~! そのセリフ言ってみてえ!

 ぼくはUFOキャッチャー下手だからなあ。

 

千景「聖陵院くん」

 いつの間にか目の前に千景さんが立っていた。

武谷「なに?」

千景「聖陵院くんも……UFOキャッチャーでなにか欲しいのあったら取ってあげる」

武谷「え? 悪いよ」

千景「私なら百円で取れるから大丈夫……」

 確かにそうかもしれない。

 でも女の子に奢らせるのはいただけない。それに。

武谷「UFOキャッチャーの景品で欲しいものは特にないんだよね。だから無理に取らなくてもいいよ」

 それが本音だったりする。

千景「そう……? なら、いいけど……」

 千景さんは少し不満そうだった。

 なぜだ。

 

 とりあえず、これで一通りのゲームは遊んだだろう。

 次は何をしようか、と周囲を何とはなしに見まわしてみた。

 

 と、目に留まるもの。

 四角い内部で、複数人で写真を撮るための機械。

 プリントシールの機械だ。

 

千景「聖陵院くん、高嶋さん、あれ一緒に撮りましょう……」

 

 千景さんがプリントシールの機械を指さしながら言った。

 

友奈「いいね! 撮ろう撮ろう!」

 

武谷「ぼくも構わない」

 

 少し前から思ってたけど、千景さんやっぱり最近何か変わったな。

 前だったら、自分からこういうことは言わなかったと思う。

 ぼくがあの時丸亀城の裏で告げたことを、少しでも覚えていてくれたからだろうか。

 ぼくは、千景さんを良い方向へ変えられたのだろうか。

 変えられたと、信じたい。

 ぼくは、今度こそ為せたのだと信じたい。

 千景さんが一人で壊れてしまうような事態は避けられたのだと。

 

 三人でプリントシールの機械に入っていく。

 お金はぼくが出したが、細々とした操作は二人に任せる。

 機械音声でもうすぐ写真を撮ることが伝えられると、千景さんを真ん中にして並んだ。

 

千景「聖陵院くん……もっとこっち……」

 千景さんに腕を控えめに引っ張られた。

 ぼくは突然の行動に戸惑いながらも流される。

 そこでふと思い出す、この状況は、あの時みんなで写真を撮ったときと立場が逆になっているな、と。

 千景さんは、反対側に立つ友奈さんの腕も掴んだ。

千景「高嶋さんも……」

友奈「うん! ぎゅ~~!」

 友奈さんは千景さんへ積極的に身を寄せる。千景さんの腕に抱き付いていた。

 

 瞬間、写真が撮られる音。

 

 撮り終わって出てきたプリントシールをみんなで見る。

 

 真ん中にぼくら二人の腕を握って笑顔の千景さん、左右に満面の笑みの友奈さんと、戸惑いつつも嬉しげなぼくが写っていた。

 

友奈「よく撮れてるね!」

千景「ええ……私、これ大切にするわ」

 

 この写真を見た時、ぼくの中に言いようのない暖かな感情が広がった。

 千景さんが、また笑顔だ。

 笑ってくれている。

 

 ぼくは、この時のことをずっと忘れないだろう、と思った。

 

 

 

 千景さんが、恐らく御手洗いだろう雰囲気で席を外し、ぼくと友奈さんはベンチで座って待っていた。

 少しの間、無言のままゲームセンターの喧騒だけが耳に届く。

 

友奈「ねえ、たけくん」

 友奈さんの声が耳に届く。

武谷「なに?」

友奈「私とたけくんって少し似ているところがあると思うんだ」

武谷「は?」

 急に何を言い出すんだ。

武谷「あり得ないよ。ケジラミと白鳥(はくちょう)くらい違う」

友奈「私ケジラミなの!?」

武谷「逆だ」

武谷「友奈さんはぼくなんかとは違う」

友奈「そうかな? でもね」

友奈「私は、怖いから戦ってるんだ。大切な人を失うのが怖いから戦ってる。守りたい気持ちはあるけど、怖い気持ちが強い。たけくんも、そうなんだよね……?」

 

 ドクン、と心音が高鳴った。

 守る為に戦っているのはみんな同じだろう。でも、友奈さんは恐怖で戦っている気持ちの方が強い。

 大切な人を失うのが怖いから戦っている。

 確かにそれは、ぼくも同じだ。

 

友奈「だから、同じ思いの人が、一緒の人がいるから、私がいるから、気負わずに頑張ろう?」

友奈「もっと私やみんなを頼ってね」

友奈「ぐんちゃんも、きっとそれを望んでると思うんだ」

 

 友奈さんは笑顔で元気づけるようなことを言う。

 

 ああ、けれどぼくは、そんな優しい君たちだから守りたいと思うんだ。

 何が何でも、理不尽から助けたいと思うんだ。

 何をしてでも、どうなっても。

 

 みんなが頼れるほど強いというのも分かっている。

 けれど、ああけれど、人は死ぬときは死んでしまうんだ。

 呆気なく、簡単に。

 だから、そこから守るのがぼくのやるべきことなんだ。

 

 何度も思ってきたことだ。

 みんなが脅かされる限り、それは変わらない。

 

 でも。

 

武谷「ありがとう」

 少しは、楽になったよ。

 

武谷「それならぼくらは、失うのが怖すぎて命がけで戦えてしまうほどみんなのことが大好きな、みんなのことが大好き同盟だな」

友奈「うん、みんな大好き!」

 

 なんとなく寂しい顔を友奈さんがしているように見えた。

 なので、頭を撫でてみた。

 

友奈「えへへ……」

 笑ってくれた。

友奈「嬉しいけど、こういうこと、ぐんちゃん以外にはやらない方がいいと思うな」

武谷「なんで?」

 なぜそこで千景さんの名前が出てくるんだ。

友奈「なんでって、他の子勘違いさせたらかわいそうだよ。ぐんちゃんも、勘違いさせちゃった子も」

 ぼくと千景さんは、恋人ではないだろうに。

武谷「頭を撫でる行為ってそれほどまで重要なことなのか?」

友奈「それなりに重要だよ。少なくとも女の子にとっては」

武谷「…………そうなのか」

 

 前に杏さんにしたときは喜んでもらえたと思う。

 友奈さんも、嬉しいとは言った。

 喜んでもらえたのならいいのではないだろうか。

 

 

side viewer

 

 

 四人の少女は、未だに遠くから武谷たちの様子を見ていた。

 

杏「武谷さんと友奈さんは、なにを話しているのでしょう?」

球子「気になるな」

若葉「流石に盗み聞きはまずいだろう」

ひなた「若葉ちゃんの言う通りですね。だから見守っているだけにしましょう」

若葉「そうだな。……あれ? いつの間にか覗き見が許容されている?」

 

杏「あ、武谷さんが頭撫でました。友奈さん嬉しそうに笑ってます!」

杏「これは浮気……いえ、武谷さんはハーレム作る気だったんです!」

球子「な、なんだってーー!?」

ひなた「驚きです」

若葉「いや頭を撫でただけだろう」

ひなた「これはどうにかしないといけませんね。みんなで乗り込みましょう」

若葉(ひなた、なんかやけに楽しそうだな)

 

 ひなたは誤解だと解っていた上で、ノリを押し通した。

 武谷たちの少し暗い空気を感じ取って、楽しい空気に変えてあげたかったからだ。 

 

 

 この時、千景はトイレからの帰り道に自販機を見つけ、ついでに二人に飲み物を買っていこうと思い至り、聖陵院くんと高嶋さんはどんな飲み物を買っていったら喜んでくれるのだろう、と自販機の前でああでもないこーでもないと迷い悩んでいた。

 

 

main viewer

 

 

 友奈さんと話していると、ドタドタと、複数の慌ただしい足音が聞こえてきた。

 なんか。こっちまで近づいてきている?

 気になって目を向けた。

 

球子「こおのお、スケコマシがあ!」

 

武谷「ごふう!?」

 

 タマさんにドロップキックされた。

 ベンチから吹っ飛ぶ。

 

友奈「わーー!? たけくん!?」

 

若葉「やりすぎだ!」

 

杏「タマっち先輩なにしてるの!? 暴力はいけないよ!」

 

ひなた「あらあら、焚きつけすぎましたか」

 

 なんでここにみんながいるんだ。そしてなぜぼくに攻撃を加えた。

 

球子「武谷、浮気ってのはなあ、しちゃいけないことなんだよ!」

 タマさんがぼくの胸ぐらを掴んでくる。

 何を意味不明なことを。 

 

武谷「誤解だ! そんな事実は一切ない!」

 そもそも恋人もいないのに浮気も何もない。

 

杏「あれ? ハーレム目指さないんですか……?」

 杏さんがさも不思議だと言ったようにキョトンとした顔で訊いてくる。

 

武谷「ハーレム? 何を言ってるんだ?」

 みんなの言動の方が不思議すぎる。

 

 

千景「……いったい、なんの騒ぎ?」

 

 いつの間にか戻ってきた、ジュースを三つ抱えている千景さんが、ジト目で首を傾げて呟いた。

 

 

 その後は、みんなでうどんを食べに行って一日を終えた。

 

 ぼくは、この今日という楽しい一日を、ずっと忘れないだろう。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。