そのメイド、神造につき   作:ななせせせ

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気楽な人


Day15(表)

 魔王復活は気のせいでした! 間違えちゃったごめんね!

 

 

 ……となればどんなに良かったか。

 

 平穏そのものだった旅路に「まるでピクニックだな」とか思っていたのが悪かったのか。街道から離れた瞬間、魔物に襲われた。

 幸いにしてそこまで強くない奴だったので、聖志朗くんたちの実戦訓練ということで俺は離れた所で見守ることになったのだが……ふむん。

 

 聖志朗くんは高校生とは思えないほど中々いい動きをする。対して悠二くんの方はどこか腰が引けていて、踏み込むべきところで後ろに下がってしまう。

 

 ……いや。

 本来なら悠二くんの反応の方が正しいのか。

 彼らは平和な日本からやってきたはずなのだから。

 

 ――そういう意味で言うならば、何の躊躇いもなく危険に飛び込んでいける青ヶ谷聖志朗という少年は間違いなく異常だった。一体どんな経験をしてくればこんな剛毅さが身に付くのか。

 

 

「聖志朗! そっちに行ったぞ!」

「分かってる!」

 

 

 聖志朗くんの振るった鋼が分厚い毛皮を引き裂いて煌く。その刀身が僅かに音を出して震えている。戦闘に使われる魔法では初級の『ダンシングエッジ』だろう。

 断面はその効果を示すように溶けてドロドロのぐずぐずになっている。何ともえげつない。出血すらしていないのだからどれだけの高温か分かるというものだ。

 

 ……え? どこがダンシングなのかって?

 切られた側があまりの痛みに踊るような動きで悶える所だよ。

 

 

「Gr……rrr……」

「……終わった、か」

 

 

 ゴリラと蝙蝠を足したような見た目の魔物が地を震わせる叫び声を上げて倒れたのを見て取り、聖志朗くんが構えを崩さないながらも安堵の息を漏らす。その横で荒い息を吐いていた悠二くんも疲れた顔で座り込んだ。

 

 ……うん、減点。

 

 

「っ、こいつまだっ!」

「悠二!」

 

 

 一度死んだように呼吸を止めていたゴリラが突然跳ね起き、一番近くにいた悠二くんに向けて剛腕を振るう。

 喰らえば即死。掠めても致命傷。

 一瞬とはいえ気を抜いてしまった聖志朗くんでは反応できない。

 

 

「――大丈夫ですよ」

 

 

 まさかこのおにーさんがそんな大惨事を見過ごすわけもない。

 右足にほんの少し力を籠めて解放する。弾丸よりも早く身体が打ち出され、ゴリラの目の前へと着地した。

 

 

「おっ、オフィーリアさ――」

「確実に息の根を止めるまで気を抜かない様に。減点一点です」

 

 

 着地したと同時にくるりと一回転して左足を突き出し、脛で剛腕を受け止める。

 ……軽い。

 が、それはおにーさんの基準でのこと。悠二くんなんてこの世界の赤子レベルなのだから守護ってあげないと。

 

 

「この魔物のように、ある程度の知能があるものになれば死んだふりで奇襲を狙ってくることもあります。酷いものだと起き上がりつつ目眩ましをしてくるものもいます。ですので――」

「GRU!?」

 

 

 何故かアゼリアちゃんに教え込まれたダンスの要領で右足を軸にもう一度回転してやれば、簡単にゴリラは体勢を崩した。

 無防備に曝け出された胸元、それから呆けた様子の顔面へと蹴りを放つ。

 

 

「こうやって、確実に息の根を止めてから気を緩めてください」

「うわっ!?」

 

 

 ぼごん! と頭部と胸元に大きな風穴が空いた。というか俺が空けたのだが。このくらいは二人にも出来るようになってもらわないと魔王の所まで連れて行くのには不安が残る。

 ふう、と息を吐いたところで聖志朗くんが駆け寄ってきた。

 

 

「今の何ですか!? あのゴリ……魔物が一瞬で爆散して……!」

「メイド七業(ななつわざ)の一つです。『優雅なひと時(ロイヤルティータイム)』といいます。……これくらいのことならアゼリアちゃんでも出来ますよ」

「……メイドってなんだ?」

「いざという時に主をお守りするのもメイドの役目ですから。……悠二くん、大丈夫ですか?」

「は、はい……」

 

 

 彼が小さく呟いた「白か……」という言葉の意味は深く考えないでおこう。

 おにーさんの今日のパンツの色も。

 赤面した悠二くんが鼻頭を抑えながら立ち上がり、何度か頭を振る。

 

 

「……すみません、オフィーリアさん。油断してました」

「いえ、悠二くんたちにとっては慣れていないものなのですから仕方ないでしょう。むしろよくやれていた方だと思いますよ」

「でも……俺が足を引っ張っているのは事実ですから。勇者じゃない俺が一番気を張ってないといけないのに……!」

「悠二、あまり思い詰めるのはよくないよ」

「……お前に俺の気持ちが分かるわけないだろ」

「なんだよその言い方。俺はただ、」

「聖志朗くん。今は止めておきましょう。……戦闘のストレスで苛立っているだけでしょうから」

 

 

 とはいっても、恐らくそれだけではないだろう。この数日間の旅で何度かあった戦闘の後は必ずといっていいほど顔を歪めているのだから。

 ……恐怖、でもない。悔しさというか、もっというなら嫉妬のような。

 

 黙って俯いた悠二くんに視線を向ける。

 

 

「……くそっ。俺だってもっと……」

 

 

 もし俺の想像が当たっているなら、今の状態の彼に下手な慰めは意味をなさない。

 オフィーリアというこの身での説得力もないに等しい。

 

 

「先に進みましょうか」

「……はい」

 

 

 今は、とにかく先に進むしかないだろう。

 彼のそれが意味をなさなくなるように。




魔王復活は気のせいでした! 間違えちゃったごめんね!:実際やったら怒られるどころの話ではない。

まるでピクニックだな:某隊長の発言。この後終末捕食したんだよね……

魔物:異世界のお約束。この世界では魔王という人物によって原生生物が品種改良された結果生み出された生命体を総称してそう呼んでいる。魔石? 知らない子ですね。

青ヶ谷聖志朗:さて、普通の高校生っぽい彼の裡には何が潜んでいるのか

『ダンシングエッジ』:付与魔法。属性という概念に当てはめるなら辛うじて炎。刀身を高速で振動させる魔法なのだが、空気との摩擦による副産物で超高温になる。戦いに明け暮れる世界なのでこれでも初級です

ゴリラと蝙蝠を足したような見た目の魔物:正式名称はエネゴリ。熱エネルギーを運動エネルギーに変換するなど、自分の体内にあるエネルギーを自在に操れることから名付けられた。ちなみに本来ならあまり遭遇するはずのないもの

弾丸よりも早く:亜音速を超える

赤子レベル:オフィーリアからすれば大体みんな一緒。正常な感覚の人が見れば大体一兵卒くらいはある

守護る:母性の目覚め……

起き上がりつつ目眩まし:沼地によくいる紫色の怪鳥。手癖が悪い

メイド七業:磨かれたお世話技術。家事を極めた者は世界を制する

『優雅なひと時』:主が急に紅茶を求めた際に駆け付け、準備するための業。縮地的な瞬間移動術とティーセットを並べる身体捌きを組み合わせたもの。つよい

白:いったいなんの色なんでしょうね()

鼻頭:抑えておかないと欲望が溢れ出す

嫉妬:何に対しての嫉妬なのか。それは彼だけが知る
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