「というわけでよろしくね!」
よろしくねじゃない、状況が飲み込めない。
「だからー言ったでしょ?」
何も聞いていないんだが、いきなりヤミを払えとか言われたんだが。
「幻想郷って知ってるよね?」
知らん、そんな知ってて当たり前みたいなノリで言うな。
「知らないのか……じゃあこれ飲んで」
疑いもせず目の前に出されたコップを空にする。今思えば後悔しか無いが。
「飲んだ?」
「飲む以外の仕草が見えたか?」
と、説明も無くこちらの質問に答えない事への苛立ちも含めながら皮肉を言った。
「そろそろかな?」
頭の中で耳障りで鈍い音が聞こえた。パソコンの電源が入ったような機械的な音だ。
「死ぬ事は無いと思うけど、頑張ってね」
何をだ、と聞き返そうとした瞬間猛烈な痛みが頭を襲った。痛みで悶え打ち、嗚咽しながら頭を落ち着かせる。
痛みとは別に何かが入ってくる。これは……情報?
「今飲んでもらったのは、情報凝縮ジュースとでも名付けようかな?」
何それ凄い便利。飲む前にこんな事になるのを教えて欲しかったが。
「うん、頭痛も収まってきたみたいだね。意識も脈もちゃんとあるようだ」
成る程、確かに情報凝縮ジュースの名前は嘘では無いみたいだ。しかし、少しだけ引っ掛かる事があった。
「俺が死んでたり殺されてたりと、ろくでもない情報が入ってたみたいだが?」
「可能性の断片だね。あちゃー入ってたか―……」
入ってたかーじゃない、死ぬ可能性もあるのか? 馬鹿野郎それなら俺は帰るぞと問いただす。
「うん、あるよ」
表情すら変えず即答しやがった。
「君も分かったと思うけど、人ならざる者が普通にいる世界だからね」
冗談じゃない、拒否権が無いなんて知るか。それなら行かなければいい。
「いいの?」
良いも何も自分が死ぬかもしれないと分かっていて、ホイホイ行く奴なんてそうは居ないだろう。
「そのジュースには、可能性の断片が入ってるって言ったよね? なら君にも見えたはずだけど」
確かにさっきのジュースを飲んだ時に他の情報も見えた。だがそれは見なかった事にした。
「罪の無い女の子達が泣いている姿を」
「それ」を直視して逃げ出してしまったら、自分は罪の重さに耐え切れないだろうから。
「その子達が大勢の人を殺める姿を」
見なかった事にした。それを目の前にいるこいつは。
「そして、その子達が救われずに死ぬ姿を」
自分は関係ないと、そいつらがどうなってもどっちでも良いと言うかの様に平然と言い放った。
「君は、その子達をそれでも見捨てるというの?」
ああそうか、拒否権が無いっていうのは拒否する選択が無いって事じゃ無かったんだ。
「それでもいいなら帰りなよ、この事を忘れて平和に暮らせば良いさ」
きっとこいつはこうなる事を分かっていて俺を呼んだんだ。
「君が駄目なら、時間は掛かるけど他の誰かを探せばいいし」
最初から掌の上だったのか、そりゃ敵う筈が無い。
「もう一度だけ言うよ? 君はそれで良いの?」
俺は断らないだろうって意味で、こいつはそう言ったんだ。
ごめんね、拒否権は無いんだ。と。
「分かった、俺がヤミとやらを払ってやる。但し最大限のバックアップをしてくれるんだろうな?」
大きく息を吐き、嫌々ながらも要求を受ける。その言葉を聞いた後、
「君ならそう言ってくれるって思ってたよ」
とても嬉しそうに、満面の笑みでそいつは言った。