幻想郷の「ヤミ」を払う物語   作:フラスカ

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ご鑑賞中の皆様、長らくお待たせいたしました。
当一座の準備が完了致しましたので、これより物語の続きを紡がせて頂きます。
今回でこの物語も十回を迎える事となりました、とても喜ばしく思います。
これもひとえに皆様のお蔭さまでございます。座長に代わって御礼を申し上げさせて頂きます。
さて、今回でこの物語に少し変化が現れるようです。この物語はどこへ向かうのか?
それは神のみぞ知る、という事にさせて頂きます。
それでは第十話、開幕でございます。存分にお楽しみ下さい。



第十話 「何しようとしてやがるこのスッタコ!」

時は少し遡り一時間前、お互いに顔を合わせられなくなった所から始まる。

 

 

 

 とても恥ずかしい。ああ、俺のせいだ! って何。信頼できる相棒のポンはいないかなー! ってわざとらしいのは何。幾らでも泣けばいいって何。何であんな事言っちゃったかなぁ! 確かにあの激戦とちょっとカッコいい詠唱でテンションはかなり上がってたけどその後何であんな、あんな……思い出すだけでも恥ずかしい、やめておこう。

 そしてあいつはあいつで顔真っ赤にして無言だし! 君もっとこう馬鹿みたいにやかましいキャラじゃなかったっけ? 何でこういう時だけちょっと普通の女の子みたいな反応するんだよちょっと可愛く見えるだろうが! といったような謎の逆ギレをしていた。

 

「ね、ねぇ大丈夫? さっきから地面に頭打ち付けたり転がったりしてるけど、頭おかしくなっちゃったの?」

 

「頭おかしくなった? は一番お前に言われたくない言葉1位だわ」

 

 恐らく心から相手を心配しているのだが余計な言葉で相手を怒らせる、こういうのでいいんだよこういうので。皮肉を交えつつ振り返りポンと顔を合わせる。お互いにどう話を切り出せば良いのか分からなくなり無言の時間が流れ、顔を赤くしてしまい、そっぽを向き再び逆ギレをする。これでもう三回目だ。

 

「あっれー? どうしたんですか顔真っ赤にして? まさか照れてるんですか? 照れちゃってるんですか? 僕の可愛さに今更気づいちゃいました?」

「そちらこそ先程から早口だがどうした? 間が持たないから(まく)し立てないと話せないとか意識してるのか? そうなんじゃないか?」

 

 とりあえず(あお)り合ってみるが、お互いにダメージを食らい、片や花畑で顔を覆い転がり片や大声でうめき声をあげるという醜態を晒すので止めることにした。

 

「そ、それで飲み込んでから時間が経つけど痛かったりはしない?」

「痛みも麻痺も全くない。体調も良いし心なしか力が増したような気がする」

「力って……君って中二病な所あるよね」

「今のはそういう意味で言ったんじゃない。筋力とかの話だ」

 

 少しずついつも通りの会話に戻っていく。腹が立つ時もあるが、不思議と嫌ではない。

 

「筋力の増加? 確かにヤミの性質に狂暴化があったけど……適応したとか?」

「そんな事を聞かれてもお前が分からない事を分かる筈無いだろう。今後の助けになりそうなら良いんじゃねーの?」

「君が良いならそれで良いんだけど……」

「さっき俺が頭を打ち付けた場所を見てみろ、どっかの妖怪が暴れたって言った方がまだ信用されるぐらいの酷さだ。あいつに嘘だとバレたら笑顔で殴り掛かってくるだろうが」

 

 笑いながらおどけてみたが笑い事ではない。あいつ表情変えずに殴ってきそう、何なら殴りながら

 

「動かないで、ゆっくり息を吐いて。僕だけを見て」 

 

 ポンが両手で顔を挟み、自分の方を向かせてくる。珍しく真剣な顔つきでこちらを見つめる瞳に吸い込まれてしまう。

 

「え……あ……」

 

 段々と近づいていく顔に見惚れ、まともに考える事が出来ずに間抜けな声を晒す。

 気づけば唇が近づいていき

 

「何しようとしてやがるこのスッタコ!」

「痛っだぁ!?」

 

 頭突きで距離を離し、尻餅をつく。危うくファーストキスを奪われる所であった。

 

「おまっ……お前な! やっていい事と悪い事が」

「そっち見ないでこっちだけ見てて!」

 

 叱ろうとした所を逆に叱られる。釈然としないまま取りあえず立ち上がろうとし、右腕に違和感を覚え視線を動かす。

 猿、狐、鬼、鳥───次々と形を変え何にでも見えるが何とも違う、黒に染まった異形の右腕。明らかに人間ではなくなった自分の腕がそこにあった。認知してしまった瞬間、ゆっくりと右腕の感覚が消えていく。動かし辛いとか、痺れるという生易しいものではなく、元々そこに腕が無かったかのように。消えた感覚と入れ替わるように新しい感覚が生まれる。失った腕にロボットアームを付けた時のように、二本しかない腕を四本に増やそうと無理やり腕を繋ぎ合わせた時のように。両方とも経験がないので想像の範囲内でしかないが。制御できない何かが右腕に付いている、といった感覚だ。

 

「その、ね? 僕が絶対治すから、だから……」

 

 ポンが分かりやすく慌てながら必死に慰めようとしているのが分かる。こちらの服をぐしゃぐしゃに握りしめながら、泣き止んだばかりだというのにまた泣きそうな顔をしながら強張った顔で笑顔を作り、こちらを見つめ安心させようと言葉を選んでいる。

 

「いや、無理だろ。治るならそもそも来なくて良かっただろうし」

 

 軽口を叩きながらポンの方を見ると口をぽかんと開いたかと思えば、何か言いたそうにしながらがっくりと肩を落とした。

 

「君って本当にデリカシーないよね」

 

 割と本気で言ってそうな口調と若干の軽蔑を含めた冷たい視線を感じる。

 

「デリカシーが無いって言うか死んでるんじゃない? デリカ死ーなんじゃない?」

 

 酷い罵倒と季節が逆転しそうな洒落もセットでついてくる拷問を受ける。心ない罵倒を浴びせられたせいか少し息苦しい。少し締め付けられる気がする。ポンがとても驚いた顔をしている。

 そりゃあそうだ、右腕が勝手に自分の首を絞めているのだから。命の危機に瀕しているというのにここまで冷静なことに自分でも驚いている。諦めているわけではなく自分でも必死に抵抗している。けれども外せない、バケモノじみた力で締め上げられているのもそうだが、引き剥がそうとしても右腕が形を変えすり抜けるのでそもそも触れない。回避不可で抜け出せない即死技とかクソゲー過ぎるだろ、と考えるだけの余裕はまだあるが。

 だんだんと意識が薄れ、苦しいはずなのにそれが心地良くて、きもち良くて、抵抗するきりょくがなくなっていく。もうこのままでも……

 

「後でまた謝るけど取り敢えずごめん!」

 

 そんな声と同時に頭部へ強い衝撃が走り、目の前が真っ暗になった。

 

「ゆゆゆゆかさん、幽香さん! 助けて!」

 

そして僕が幽香さんに助けを呼ぶ所へ話は続くのでした。

 

 

 

 静かな部屋に時計の針の音が響く、時折誰かが溜め息をつき、そしてまた時計の音だけが響く。

 

 何もできない事が悔しい。肝心なことは任せっきりな自分が憎い。本当に彼を守りたいなら決まりとか約束とかそんなもの全部投げ出してしまえばいいのに。それを出来ない自分が嫌い。感情的になっているようでもどこかで冷静に物事を考えている自分がいる。

 感情のままに行動できればとても楽なのに。ああもう面倒臭い面倒臭い面倒臭い! 僕はヤミを封じたいだけなのに何で自由にできないんだろう。いっその事私がこの世界を自由に出来ればいいのに!

 

 想定外に起きた事により不安が生まれ心は揺れ動き、自己嫌悪により冷静な判断は失われる。そんな事を出来る筈が無いと取り戻した判断力で自己否定をし、また不安が生まれる。

 そんな負の連鎖を断ち切ったのは

 

「ねぇ、そろそろ教えてほしいのだけれど」

「ひゃいっ!?」

 

 怒気を含んだ幽香さんの言葉だった。

 

「いえ別に怒ってはいないのよ怒ってはいないのだけれど人の家にいきなり右腕が現れてそこで寝ているバカを引き摺ってきた癖に碌に話もせずにずっと面倒臭い雰囲気を漂わせて何かぶつぶつぶつぶつ一人で呟いているものだから少し機嫌が悪いだけなの分かるわよね?」

 

 

 

 それを怒っていないというなら何というんですか? という言葉を飲み込みつつ怒られています。顔を直接合わせているわけでは無いのでいくらかマシだけれど、笑顔で怒られるのがこんなに怖いとは思いませんでした。

 

「教えてほしいって何をですか?」

「それをわざわざ私に言わせるのかしら? 貴女はそこで寝ているバカと違うと思っていたのだけれど」

「いくら本当の事でもあんまり言い過ぎるのはかわいそうだと思うけど?」

「バカって言った事については否定しないのね……」

「否定はしないし幽香さんに教えれる事は何もないよ」

 

 お互いに話し、追及をのらりくらりと躱す。幽香さんの表情が少し曇って機嫌が悪くなっているけど事情が事情だけに話せないものは話せない。ここは何とか誤魔化して納得してもらうしかない

 

「じゃあ一つ。あの時どうして邪魔したのかしら? 貴女ではなくてそこのバカが。貴女が邪魔をする理由なら理解ができるわ、バカが口を滑らせる可能性があったという事で。でも、逆は? 」

 

 ……んだけど幽香さんが笑顔のままこちらの返答を待ち沈黙が続く。何も言えない、言い返す事ができない。話題を変えるなり誤魔化すなり何とかしないと───

 

 そこまで考えてふと気が付く、どうして僕は隠そうとしているんだろう。普通に考えれば二人だけで問題を解決するより協力者が居た方が色々と楽なのは当然だ。それに幽香さんはそこらの妖怪なんかが束になったとしても敵じゃないくらいに強い。近くにいても何も出来ない、守れない僕なんかとは全然違って。

 全て話してしまおう、そもそも二人だけの秘密という事自体無理だったんだ(二人だけの秘密)。全部話してしまえば彼も一人で苦しまなくて済む(それはとても魅力的で)、彼には嫌われてしまうだろう(それはパンケーキのシロップよりも何よりも甘くて)、そう、これは彼の為なんだから仕方がない。彼が僕を信じて言った頼みだとしても約束を破らなきゃいけない(誰かに分けるなんて勿体ない、全部全部私のもの)。だから僕は(だから私は)───

「分かったよ幽香さん、僕の負け。今から話す事は出来れば内緒にして欲しいんだけど」

 

 全てを話し、彼との約束を破った(全てを隠し、私の大事な特別を守った)。

 

 

 

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