『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話   作:世紀末ドクター

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第一話 『自称神』と『転生者』

 ―――そこは凄まじく広大な図書館だった。

 

 

 中世ヨーロッパの僧院のような造りの内装に、薄暗い空間の中に不思議な光を放つ光芒が空中にあちこちに浮かんでおり幻想的な光景を作り出している。

 ありきたりな言葉であるが、その図書館はファンタジーの世界に出てくる古代図書館その物の雰囲気だった。

 

 

「………」

 

 

 周りには分厚い本を棚いっぱいに納めた書架がずらりと整列しており、どこまで広がっているのか検討がつかない。

 そこは、俗にアカシックレコードと呼ばれるセカイ全ての記録をおさめる場所であり、本来なら生身の人間には決して辿り着くことの出来ないはずの場所である。

 しかし、その図書館の一角を歩く人影が存在した。

 

 

 かつ、かつ、かつ、と。

 

 

 図書館の床を叩く靴の音だけが響く。

 この場所に足を踏み入れている時点でこの人物が普通でないことなど分かりきっているが、その身に纏う雰囲気はやはり只者ではない。

 ただ歩いているだけなのに、見る者の背中がゾワリと沸き立つような禍々しい雰囲気が滲み出ている。

 

 歳は二十代後半~三十代ほどだろう。

 端正な顔立ちをしており、髪も男性にしては異様に長い。身を包む衣服は医者が着る白衣のようだが、黒一色に染められている。

 手袋とシャツだけは対照的な白で着飾っているが、ネクタイも、何故か切り目の入った鍔の広い帽子も、黒衣と同様に真っ黒だった。

 

 ―――通称、Dr.ジャッカル。

 

 最強最悪の運び屋にして、冷酷無比の黒衣の外科医(メッサー)。

 そして、この世の『摂理』を知ってしまった超越者、赤屍蔵人。それがその人影の正体だった。

 

 図書館の中を歩く赤屍の足取りに迷いはない。

 どうやら偶然この場所に迷い込んだのではなく、ここに何らかの目的があって来たのだろう。

 そして、ずらりと並んだ書架の間を通り抜け、やがて彼は重々しい扉の前に辿り着いた。

 

 

「待っていたよ、Dr.ジャッカル」

 

 

 その扉の前には、ウサギの人形を抱いた一人の少女が赤屍を待っていた。

 まるで『不思議の国のアリス』を思わせる幼い外見だが、彼女が実際に何歳なのか分かったものではない。赤屍すらも彼女が本当は何歳なのかは知らない。下手をすれば軽く100歳は超えていそうな雰囲気すらある。とりあえず赤屍は疑問を棚上げすると、帽子のツバを少し持ち上げるようにして挨拶を返した。

 

 

「お久しぶりです、間久部博士」

 

「ああ、大体2ヶ月ぶりかな?」

 

 

 実際、無限城での『悪鬼の戦い』が終わって以来、二人は一度も顔を合わせていない。

 赤屍と間久部博士の関係は、あくまでも「運び屋」と「雇い主」の関係でしかなく、基本的にプライベートで顔を合わせるような間柄ではない。

 だが、逆を言えば、この二人が顔を合わせているということは、間久部博士から赤屍に対して何らかの仕事の依頼があるということである。

 お互いに社交辞令のような簡単な挨拶を済ますと、すぐに話を本題に切り替えた。

 

 

「それで今回は一体どんなご用向きですか? わざわざ私をこんな所に呼び出すからには仕事の依頼があるんでしょう?」

 

「…そうだな。まずはこの扉の先にあるモノを見てもらおうか」

 

 

 そう言って、彼女は後ろにある巨大な扉を顎で示す。

 その扉の先に何があるのかは、赤屍も知らない。

 だが、わざわざ見せようとするからには、今回の依頼に何か関係があることは誰にでも予想がつく。

 

 

「…この先にあるモノが今回の依頼に関係していると?」

 

「そんなところだな」

 

 

 赤屍に返事を返すと間久部博士は扉に向かい合う。

 そして、扉の前に立った彼女は、開錠のコマンドワードを呟く。

 そのコマンドワードは赤屍も聞いたことのない言語で、聞いた者の耳ではなく脳髄に直接響くような不思議な響きがあった。

 

 

 カチリ――…

 

 

 鍵の開いたような金属音が鳴り、ゆっくりと扉が開いていく。

 

 

「これは……」

 

 

 扉の向こうはかなり広い空間が広がっており、その中心には直径5mほどの球体が浮遊していた。

 そして、その球体の正体を知る者は、恐らくはこの世に数えるほどしかいないだろう。

 

 

「君がこれを実際に見たのは初めてかな?」

 

「……ええ」

 

 

 その球体の正体は、『アーカイバ』と呼ばれる機械仕掛けの神だった。

 正確に言えば、「ブレイントラスト」によって作られた巨大な自律機動型コンピューターの一種である。

 科学技術と魔法技術の粋を集めて作られたそれは、無限城セカイの秩序と運命の流れを望むとおりに調整する為の道具だった。

 

 

「これは、今も動いているんですか?」

 

「いや、すでにこれの機能は停止している。無限城世界がアーカイバから切り離されて別のセカイとして独立した以上、これもある意味では過去の遺物の一つだと言っていい」

 

 

 創世の王となった天野銀次の選択によって、すでに無限城セカイはアーカイバからは切り離されている。

 したがって、今のアーカイバは無限城セカイに干渉することが二度と出来ない状態になっているらしい。

 

 

「? だったら、今さらこんなガラクタに何の用があるんです?」

 

 

 赤屍は、疑問に思ったことを尋ねた。

 本来的な用途を果たせなくなった道具など、赤屍に言わせればガラクタも同然である。

 今回の依頼にも関係するとのことだが、今さらこんなガラクタに何の用があるのか赤屍には分からなかった。

 

 

「無限城セカイに干渉する機能が失われたからといって、使い道が全く無いというわけではないさ。単純にコンピュータとしての性能だけで考えても、これ以上のモノは存在しない。出来ることなら、回収したいというのがブレイントラストの本音らしい」

 

 

 何とも面倒な事だと、間久部博士は肩を竦めながら付け加える。

 実際、無限城セカイとバビロンシティが相互不干渉になった今、両者のセカイを行き来できる人間はかなり限られている。

 両者のセカイ間を何の制限も無しに自由に行き来できるのは、今となっては赤屍くらいしか居ないだろう。

 

 

「つまり、私に頼みたいのは、ここにあるアーカイバをバビロンシティに運ぶことですか?」

 

「それも君に頼みたい依頼の一つではあるんだがね…」

 

 

 どうやらそれ以外にも頼みたい仕事があるらしく、彼女はさらに話を続ける。

 

 

「調べた結果、アーカイバの電源コアに相当するパーツが全て紛失している。

 どうやら『創世の王』の行った世界改変の際の影響で、電源コアがどこか別の次元に吹き飛ばされたらしい」

 

 

 創世の王の世界改変とは、文字通りセカイ全てを完全に作り変えることを意味する。

 間久部博士の話では、その時の衝撃でアーカイバは粉々に吹き飛んでも不思議ではなかったらしい。

 …というより、間久部博士がアーカイバの残骸を発見した時は文字通りのバラバラになっていて、バラバラのパーツを組み上げてここまで修復したのだという。

 

 

「電源コアが存在しない今のままでは、これは何の機能も持たないハリボテでしかない。

 よって、君には、別の次元に飛ばされたアーカイバの電源コアを私の元にまで運んでくる仕事を頼みたい」

 

「それらのコアがどこにあるのかは分かっているんですか?」

 

 

 彼女の話を聞いた赤屍は、至極真っ当な疑問を尋ねた。

 間久部博士の話では、アーカイバの電源コアはどこか別の次元へと吹き飛ばされたらしいが、場所が分からなければいくら赤屍でもどうしようもない。

 第一、無限に存在する平行世界や並列世界のどこにあるかも分からない物を探させるなど、まともな依頼ではない。

 

 

「吹き飛ばされたパーツがどこの次元に飛ばされたのかは、すでに判明している。

 だが、観測した結果、それらのパーツはどれも現地の人間に拾われていてね。その所為で少し面倒なことになっているのさ」

 

「面倒なこと?」

 

「ああ、アーカイバの電源コアには、文字通り本物の神にも匹敵する力が秘められている。そして、別の次元に飛ばされたコアの力を手に入れた連中が、『神』を名乗って好き勝手やっているらしいんだよ」

 

 

 赤屍はその話を聞いて、呆れたような顔をした。

 何というか、小物が成金になるとあっという間に増長する典型的パターンである。

 

 

「要するに、アーカイバの電源コアを回収する為には、それらの『自称・神』とやらを始末する必要があるということですか?」

 

「その通りだ。そして、それに関連してもう一つ、あの世に運んで欲しい連中がいる」

 

 

 そう言って、間久部博士は、コアの力を手に入れた『自称・神』がやっていることを話した。

 何でも『自称・神』とやらは、まだ生きている人間を気紛れで交通事故に遭わせたり、それで死んだ者の魂に能力を付与して転生させたり、色々やっているらしい。

 

 

「何というか…その自称・神とやらは随分と意味の無いことをするんですねぇ…」

 

 

 その話を聞いた赤屍は、何とも呆れ果てたような表情で言った。

 間久部博士も全く同意見だと、やれやれと盛大に溜め息を吐いている。

 彼女のいかにも幼い外見と、年寄りくさい仕草とのギャップが可笑しかったらしく、赤屍はクスリと笑みをこぼしながら尋ねた。

 

 

「クスッ、それで『自称・神』以外に始末して欲しいのは、それら『転生者』の方々でいいんでしょうか?」

 

「理解が早くて助かるよ、ジャッカル」

 

 

 ニヤリと冷たい笑みを浮かべながら博士は頷く。

 すでに話の流れから、博士の言わんとすることを赤屍は理解していた。

 話の流れからすると、今回の仕事はアーカイバの電源コアの回収がメインである。

 そのことを考えれば、「自称・神」だけでなく「転生者」の連中も抹殺の対象になっている理由の大体の見当はついた。

 つまり、転生者の連中に分け与えられた能力も、本を正せばアーカイバのコアから分け与えられた『チカラ』であり、それらも回収対象だということだ。

 

 

「やれやれ…自称・神とやらの気紛れで巻き込まれただけの一般人にとっては災難でしかありませんね?」

 

 

 溜め息を吐きながら、赤屍はこれからの仕事で自分が殺すことになる転生者たちに形だけの同情を示す。

 博士が言うには、転生者に分け与えられたチカラは、魂と直接融合している状態になっており、殺さなければ回収は不可能らしい。

 つまり、結局は全員を殺すことになる。

 

 

「フッ、災難も何も君が殺すのだろう?」

 

「クスッ、その依頼を頼んだのはアナタじゃないですか?」

 

 

 その顔に薄い笑いを貼り付けたまま、二人は話を続ける。

 二人の表情と話し方を見る限り、二人とも人を殺すことなど何とも思ってないらしい。むしろ邪魔な人間は、殺して当たり前くらいに考えているのだろう。

 とりあえず、ここで今までの話をまとめると、以下の3点が赤屍に頼みたい仕事だということになる。

 

 1.アーカイバのコア本体の回収

 2.コア本体から転生者の連中に分け与えられたチカラの回収

 3.修復されたアーカイバをバビロンシティへ運ぶこと

 

 ※なお上記の3つの仕事を進める上で邪魔になる者(=「自称・神」と「転生者」)は、すべて抹殺しても構わない。

 

 

「…以上、依頼について何か不明な点はあるかい?」

 

 

 今回の依頼の内容を粗方説明し終えた博士は、質問がないかどうかを赤屍に尋ねた。

 

 

「質問がいくつかあるのですが、よろしいですか?」

 

「何かな?」

 

「まず、回収しなければならないコアの数と、私があの世に運ぶべき転生者の数はおよそ何人なんでしょうか?」

 

「回収するコアの数は5個。始末しなければならないと予測される『転生者』の数は大雑把に2000人くらいだな」

 

「ほう? 2000人とは中々に多いですね」

 

 

 2000人という数字に対しても、赤屍は全く動じない。むしろ、その表情は嬉しそうですらある。

 殺人マニアである赤屍にとっては、殺すことの出来る獲物が増えるのは、むしろ好都合なことでしかないのである。

 なお、現時点での正確な内訳は、始末するべき『自称・神』は5人で、始末するべき『転生者』は1434人らしい。

 もっとも、その自称・神とやらは、今も現在進行形で転生者の数を増やしているので最終的に始末しなければならない数は2000人くらいになると予想されるとのことである。

 

 

「…ふむ。それでは最後に仕事の報酬と、依頼を完遂するまでの制限期間についてお聞かせ願えますか?」

 

「報酬については、日本円で一億ほど用意した。依頼を完遂するまでの制限期間は特に設けていないが、3ヶ月くらいを目処にしてくれると助かる」

 

「なるほど」

 

「訊きたいことはそれで終わりかな?」

 

「ええ」

 

 

 そして、依頼の内容について質問を終えた二人は、次に契約の段階へと移った。

 当然だが、この依頼の契約が結ばれた時点で「自称・神」と「転生者」の辿る運命は『死』以外に無くなる。

 相手が何かの能力を付与された転生者であろうと、自称・神であろうと、赤屍にとってはウサギ狩りと何も変わらない。

 所詮、赤屍にとっては有象無象でしかないのだ。

 

 

「それでこの依頼を引き受けてくれるかい? ジャッカル」

 

「ええ、お引き受けしましょう」

 

 

 かくして、依頼の契約は完了した。

 そして、それと同時に「自称・神」と「転生者」が辿る運命も自動的に決定されたと言える。

 

 

「フフッ、引き受けてくれて助かるよ。それじゃあ、早速行くとしようか」

 

「どこに行く気ですか?」

 

「『自称・神』と『転生者』の居場所は観測結果からすでに判明している。まずは、アーカイバのコアの本体を『自称・神』から回収しに行く」

 

 

 アーカイバのコア本体の回収とは、早い話が「自称・神」のところへの殴り込みである。

 まずは「自称・神」を始末し、余計な転生者が増えないようにした上で、転生者の連中を狩っていくという方針らしい。

 そうして、博士は自分の後を付いて来るように赤屍に促すと、扉の外へと向かった。

 

 

 

「クスッ、楽しい楽しい『ウサギ狩り』の始まりですね」

 

 

 

 赤屍は楽しそうにそう言うと、博士の後ろについて行こうと赤屍も踵を返した。

 そして、赤屍と博士の二人がアーカイバの球体が浮遊する部屋の外に出ると、入ってきたときと同じようにひとりでに扉が閉まって行く。

 

 

 バタン――…

 

 

 扉が閉まった音がした時には、すでに二人は別の次元へと転移した後であり、二人の姿はそこから消えていた。

 

 こうして、赤屍による「ウサギ狩り」が始まった。

 そして、この日から3ヵ月も経たない内に、合計2000人の『転生者(笑)』と『自称・神(笑)』は、赤屍の手によって狩り尽くされることになるのである。

 

 

 ―――赤屍蔵人に命を狙われる。

 

 

 絶対に勝てない相手から命を狙われた転生者たち。

 生き残るどころか、立ち向かうことさえ難しいような絶望的な強敵。

 この絶望を乗り越えて、赤屍から生き残るという奇跡を掴み取れる人間が、果たして一人だって存在するのか。

 一つ言えるのは、もしもこの絶望を覆す奇跡を成せる人間が存在したとしたら、きっとその人間は間違いなく、本物の英雄だろうということだ。

 果たして、そんな英雄が命を狙われた転生者たちの中に存在するかどうかは、赤屍達にも分からなかった。

 

 

 




あとがき:

 この作品の中での「自称・神(笑)」は、アーカイバのコアを拾ったことで力を得た連中と設定しています。
 SSとかでやたらと調子に乗ってる「自称・神(笑)」と「転生者(笑)」を皆殺しにしたかったので、ついカッとなって書いてしまいした。反省も後悔もしていません。
 物語の英雄というのは、どう考えても乗り越えられないような理不尽と絶望を、知恵や勇気、努力なんかで乗り越えるから英雄なのであって、単に能力を振り回してるだけのチート転生者が、自分が子供の頃に憧れた『彼ら』と同じモノであるとは自分にはとても思えません。
 だから、全員をぶっ殺すつもりで、自分の考え得る最大最強の理不尽と絶望を転生者の方々に対して設定してみたのが、本作です。
 転生者であるキミが皆からチヤホヤされるだけの資格がある本当の英雄であるのなら、この絶望を知恵と勇気で乗り越えてみせてくれ!
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