『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話   作:世紀末ドクター

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第十話 『リリカルなのは』の世界で その9

 一晩のうちに27人の子供がバラバラ死体となって惨殺されるという大事件。

 海鳴市どころか日本中がその事件に騒然となっており、案の定、今日の学校は午後から休校になった。

 事件が事件だけに集団下校で帰宅ということになったが、まあ当然の判断だろう。

 

 

(27人のバラバラ死体とか、ホント冗談じゃねえよ…)

 

 

 自室のベッドに横になりながら俺は事件について考えていた。

 殺されたのは間違いなく『原作』に関わろうとした転生者の連中だろう。

 だが、そうだとしたら転生者の連中は何らかの転生特典を持っていたはずだ。

 つまり、そんな特典を持っていた連中がまるで相手にならずに殺られたということに他ならない。

 

 

(一体どんだけヤバい奴なんだ…)

 

 

 俺は、昨日の下校中に出会った『黒い男』と『白い少女』の二人組のことを改めて思い出す。

 出会ったときに感じたヌルリとするような死の気配。明確な根拠は薄いが間違いなくあの二人が犯人だ。

 

 

(やっぱり原作へ介入するのに邪魔な奴らを殺したってことなのか…? いや、でも…)

 

 

 何だろう。何か重大な勘違いをしているような気がする。

 よくよく考えてみれば、ここまで派手な事件を起こして物語が『原作』通りに進むことなんてあるのか?

 ここまでの事件を起こすとなると、むしろ何もかも全てをぶち壊しにするために動いているとしか思えない。

 

 

(いや、ただ『原作』をぶち壊すだけなら、一番手っ取り早いのは主人公である「高町なのは」を消すことだ…)

 

 

 しかし、主人公である「高町なのは」は生存している。

 それを考えると単純に『原作』をぶち壊すことが目的という訳ではなさそうだ。

 だったら―――

 

 

(だったら、『原作』とは無関係…?)

 

 

 何となくそう思った。

 ここが『リリカルなのは』の世界そのもので、転生者の連中も『原作』を知っている者ばかりだった。

 だから、今回の事件を起こした連中も『原作』を知っている者とばかり思いこんでいたが、そもそもその前提が間違っていたとしたら?

 

 

(原作と全くの無関係だとしたら、一体何が目的なんだ…?)

 

 

 ぐるぐると頭の中で考えが巡るが、現時点では全く結論が出なかった。

 オレは少し視点を変えて考えてみることにする。

 

 

(高町なのはが原作通りに動くことは、もうかなり難しいだろう…。だったら、フェイトや時空管理局は?)

 

 

 思えば原作の『リリカルなのは』という作品は、非情な運命に振り回されるフェイトを救済する物語だった。

 こんな事件が起こってしまった以上、もはやフェイトやクロノも原作通りの動きをするとは限らない。ネットで見るような二次創作のオリ主なら、こんな状況であっても、出来るだけ良い結末を目指して奮闘するのかもしれないが、少なくとも俺には関わるつもりは全く無い。

 戦う為の力を持っていないからというのも勿論だが、たとえ戦う力を持っていたとしても俺は絶対に関わり合いになりたく無かった。

 

 

(それだと、フェイトが救われないまま?)

 

 

 それでも俺は構わない。

 所詮、俺にとってはただの他人だ。この世界で救われないでいるのは何もフェイトだけじゃない。

 国家規模な視点では今も内戦が続いている国もあるし、身近な視点では学校でのイジメなんかもそうだろう。

 ネット界隈での二次創作では『確実に不幸になる者が居ると分かっていて、見て見ぬふりをするのは男のやることじゃない』なんてオリ主様も居る。

 オリ主様が積極的に原作キャラを助けに行くのは別に良い。それが偽善だとまで言うつもりは俺には無いし、救われる人間の数が増えるのは間違いなく正義だろう。

 だが、その『見て見ぬふりをするのは男のやることじゃない』という行動原理に則って原作キャラを助けに行くなら、少なくともその行動には一貫した筋を通すべきだとも思う。

 たとえばオリ主の所属するクラスで誰かがイジメられていたとしたら、そいつにも手を差し伸べてやらなきゃ嘘だ。原作キャラだから助けて、原作とは無関係のキャラだから助けないなんてのは不義理に過ぎるだろう。

 それに―――

 

 

(そもそもオリ主が関わったからって、より良い結末が保証されるって訳でもないだろうに…)

 

 

 これは前世で暇つぶしに読んでいたネット界隈での二次創作小説を読んでいて常々思っていたことだ。

 どうしてネット界隈でのオリ主様たちは自分が存在することで逆に悪い方向に転がるかもしれないと考えないんだろう。

 全部が全部そうという訳ではないが、ネット界隈でのオリ主様の多くが何であんなに楽観的なのか自分には不思議で仕方ない。

 俺だったら、とてもじゃないが原作に関わることで変えてしまう他人の人生なんて背負えない。悪い結末になるかもしれない責任をとるのが嫌だと言い換えてもいい。

 

 

(もっともこんな事件が起こってしまったら今更か…)

 

 

 こんな事件が起こってしまった今となっては最早原作の流れなど当てになるまい。

 最早、この世界での『リリカルなのは』の物語は、誰の手からも離れ、誰にも分からなくなった。

 

 

(どうなるんだよ一体…)

 

 

 未来のことは誰にも分からない。

 前世では当たり前の真理だった筈だが、俺は改めてその真理を思い知っていたのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 未曽有の殺人事件に騒然となっている海鳴市。

 そして、そんな事件が起こっていることなど全く知らずに新たにその街にやってきた少女が居た。

 海鳴市の一角のビルの屋上から街並みを見下ろしている金色の髪をツインテールにまとめた魔導師の少女。

 本来の『原作』におけるもう一人の主人公であるフェイト・テスタロッサである。傍らには使い魔のアルフも居る。

 だが、その場にはフェイトとアルフだけでなく、もう一人本来の原作の流れの中では存在しないはずの少女が立っていた。

 フェイトとは違って金髪をポニーテールに纏めているが、容姿的には本当に瓜二つで並んで立っていると姉妹にしか見えない。

 いや、姉妹にしか見えないというかこれはどう考えても――…

 

 

(どう考えてもアリシアクローン憑依なんだよね、これが…)

 

 

 私はビルの屋上から海鳴市の街並みを見下ろしながら、ここに至るまでの経緯について思い返していた。

 前世でトラックにはねられて死んだと思ったら神と名乗るヤツに適当な転生特典を持たされて、いつの間にかアリシアのクローン体の一つに憑依していた。

 リリカルなのはの二次創作では「アリシアのクローンに憑依する事で原作に介入して云々~」というのも割と多い気がするが、実際にそうなったら最大の問題点は母親がプレシアな事である。

 プレシアにとって失敗作だった自分は普通に殺処分されそうになったが、幸い転生特典として貰っていた莫大な魔力のお陰で助かった。莫大な魔力を持った自分を生かして利用するメリットが大きいことをリニスがプレシアに説得してくれてどうにか殺されずに済んだのだ。

 

 

 ―――フェイル・テスタロッサ。

 

 

 それがプレシアから与えられた私の名前だった。

 そして、その名前の意味は自分にもすぐに分かった。

 つまり、いくら転生特典として圧倒的な魔法の才能を持っていたとしてもプレシアにとっては自分はフェイル(fail:失敗作)だったということだ。

 

 

「姉さん、ジュエルシードの反応は見つかりそう?」

 

「うん、今やってるよ」

 

 

 フェイトに姉と言われることは悪い気分ではない。

 普通に考えたら、今の自分はフェイトに転写された『アリシアの記憶』と矛盾する立ち位置だ。

 実際、最初にフェイトが目覚めたとき居ないはずの姉が居た所為で彼女も少し不自然に思ったみたいだったが、今は普通に姉妹の関係である。

 だが、原作の事情を知っているだけにフェイトから姉と呼ばれる度に自分の胸がズキリと痛んだ。

 

 

(フェイトの姉、か…)

 

 

 アリシアのクローンという生い立ちは私自身にも当て嵌まる。

 正直、自分を殺処分しようとしてくれたプレシアのために動いてやる気にはとてもなれない。

 フェイトを連れてプレシアの下から逃げ出そうと考えたこともあったが、それをすると原作のジュエルシード事件自体がどうなるか分からなくなる。

 それに今の自分は迂闊な行動をしたらプレシアに殺されかねない立場だ。いくら転生特典でのチート能力を持っていようと頭の中に爆弾を埋め込まれたら逆らいようが無い。

 もしもプレシアの不興を買ってしまったが最後、脳味噌が吹っ飛ばされて即死だ。頭の中に仕込まれた爆弾をどうにかする目途がつかない限りプレシアに従うしかない。

 

 

「…Activate. Detection system.」

 

 

 私はデバイスの補助を受けながら魔力探知術式を起動する。

 ストレージデバイス『サンサーラ』―――サンスクリット語で『輪廻』の意味を持つ私の相棒だ。

 形状としては仏教・修験道の法器である『錫杖』そのものであり、先端に宝珠をかたどった輪が存在しそこに6本の金属の輪が通されている。

 それにしても、フェイトに与えられたバルディッシュはAIを搭載したインテリジェンス型なのに自分に与えられたデバイスはストレージ型なのは少しだが不公平を感じる。

 だが、そのことをリニスに言ってみたときの彼女の言い分はこうだった。

 

 

「何を言ってるんですか? アナタの力量からしたらデバイスの差なんて誤差でしょう」

 

 

 実際、今の自分の魔導師としての実力はフェイトの数段は上を行っている自信はあるし、自分の能力的にもデバイスがAI搭載型である必要性は全くない。

 若干の不公平感は感じるが、玩具の差でグダグダと文句を言うほど精神的に子供という訳でもない。

 

 

「まあ…ね。仮初めみたいなものとはいえ、私はフェイトのお姉さんだからね。与えられた玩具の違いなんかで文句は言わないよ」

 

 

 私がリニスにそう言うと、何故だか彼女はとても辛そうな顔をする。

 何と言ったら良いのか分からないというような表情だったが、やがて彼女は絞り出すように言った。

 

 

「…アナタは、凄いですね」

 

「そうかな?」

 

「自分の生まれについても、自分がどういう立場にあるかも理解している。正直、フェイトよりも辛い境遇の筈なのに、アナタはフェイトにとって良き姉であり続けてくれている…」

 

 

 生みの親に殺されかけ、アリシアのクローンであるという生い立ちも何もかもを理解している。

 リニスの視点で見れば、私の置かれた境遇というのは本当に碌でもないとしか言いようがないものだろう。

 中身が前世持ちの転生者じゃなく、普通の外見相応の女の子だったなら二度と立ち直れないほどのショックを受けても不思議はない境遇である。

 そして、そんな境遇の中でもフェイトのために気丈に振る舞う少女―――リニスの視点での私はそのように見えていたらしい。

 まるで懺悔するかのような、血を吐くような表情で、リニスは最後に私に告げた。

 

 

「…フェイトのことをお願いします。アナタの強さに甘えるだけだった私を、どうか許してください。そして、アナタも、いつか必ず、幸せになってください」

 

 

 それが私が最後に彼女と交わした言葉だった。

 それからしばらく経った後、フェイトを一人前の魔導師に育て上げたリニスは、プレシアとの契約を解いて消滅した。

 

 

(分かってるよ、リニス)

 

 

 私にとってリニスは自分の命の恩人だ。

 本来なら殺処分されるところだった訳だし、そこを助けてくれたリニスには感謝している。

 そのリニスにあんな遺言めいたことを言われたら、フェイトのことを無下に扱う訳にはいかないだろう。

 以前のリニスとのやり取りを思い出しながら、私は術式に集中する。

 

 

「…魔力反応、検知」

 

 

 起動させた術式が妙な魔力の高まりを検知した。

 現物を見たことが無いから何とも言えないが、あれがジュエルシードの反応なのだろうか?

 

 

「姉さん、どうする?」

 

「もちろん確認しに行くよ」

 

 

 フェイトに訊かれた私は迷いなく答えた。

 ひとまず現場に向かうのは私とフェイトの二人で良いだろう。

 

 

「ワタシはどうすりゃ良い?」

 

「アルフはこの街での拠点の確保をお願い」

 

 

 私はお金の入った封筒から、紙幣を一枚だけ抜き取って、残りを全部アルフに渡す。

 そして、私はバリアジャケットを展開し、そのまま一歩前に出た。ちなみに私のバリアジャケットのデザインは、某BRSの服装が元になっている。

 私は肩越しに振り返りながらアルフに言った。

 

 

「何かあったら、念話で声をかけるよ」

 

「ハッ! アンタが居れば何も起きやしないよ」

 

 

 アルフの主人はフェイトだが、私にも信頼を寄せてくれているのはありがたい。

 その信頼に応えられるように私も力を尽くすとしよう。

 

 

「行くよ、フェイト」

 

「うん。じゃあアルフ、行って来るね」

 

 

 そう言って、私たちはビルの屋上から中空へ向かって足を踏み出した。

 そうして、魔力反応が検知された方向へ飛行を続けると、やがて魔力反応の近くにまで辿り着いた。

 果たしてそこに居たのは―――

 

 

「でっかい猫…?」

 

 

 原作の知識は既にうろ覚えだが、そういえばこんなのも出て来た気がする。

 通常の原作通りの流れならば「フェイトの初登場=高町なのはとの出会い」という図式になる訳だが、彼女もここに居るのだろうか。

 とりあえず、あの猫の動きを止めることを優先しよう。そうすれば封印も簡単だ。

 このまま自分が全部やっても良いが、ここはフェイトに任せよう。

 

 

「ここは任せるよ、フェイト」

 

「ん、分かった」

 

 

 私の言葉に頷いて、一気に飛び出していくフェイト。

 

 

『Photon Lance get set.』

 

 

 バルディッシュの斧頭を巨大な猫へと向ける。

 

 

『Fire.』

 

 

 ドドドッと放たれるフォトンランサーの三連射。

 光弾が猫の額に命中し、ウニャーと苦痛に呻きながら猫が倒れる。

 その後のジュエルシードの封印は何事もなく終わり、後には元のサイズに戻った子猫と蒼い菱形の宝石が残っていた。

 だが、フェイトがジュエルシードを封印するのを見物しながら、私は違和感を感じていた。

 

 

(あれ? 原作なら高町なのはと遭遇する筈じゃ…)

 

 

 本来なら起こる筈の高町なのはとの出会いのイベントが起こらない。

 私はこの時まで、極端に大きなことをやらない限り、原作の流れは大きくは変わらないと思っていた。

 実際、それは正しいのかもしれない。だが、もしもそれが正しいとしたら私の与り知らないところで原作の流れを根本から歪める『何か』が起きたということではないのか。

 そして、私がそんな漠然とした不安を感じていると、その二人は現れた。

 

 

「しかし、二人とも随分とそっくりですねえ」

 

「どうやら姉妹ということかな。もっとも我々の標的となるのは一人だけだがね」

 

 

 不意に背後から響いた声。

 その声に振り返ったそこに居たのは―――

 

 

(コイツら…!?)

 

 

 現れたのは『不思議の国のアリス』を思わせる外見の少女。

 そして、その少女の傍らには全身黒尽くめの長身の男が立っていた。

 全身の細胞が最大音量で警報を鳴らしているのを感じるのに、何故か身体が動かない。

 

 

「姉さん、この人たちは…?」

 

 

 ジュエルシードの封印を終えたフェイトが戻って来た。

 その声で我に返ることが出来た私は自分の後ろにフェイトを庇う態勢をとった。

 私はデバイスを構え、すでに臨戦態勢に入っている。

 

 

「…アンタたち一体、何者? 私達に何の用よ?」

 

 

 警戒しながら、目の前の二人に問う。

 そして、その問いに対する答えはよりによってこうだった。

 

 

「―――私は間久部。そこの黒い『運び屋』の雇い主だ。単刀直入に言うと、キミを殺しに来た」

 

 

 さらりとまるで何でも無いことのように白い少女は言った。

 余りにも平然と言ってのけた所為で一瞬冗談かと思ったが、彼女の言葉は断じて冗談ではないことが私には直感的に理解できた。

 このとき、私の二度目の人生における最大の修羅場の幕が上がったのだった。

 

 

 




あとがき:

 リリカルなのはの二次創作だと、アリシアクローンへ憑依転生する作品をいくつか読んだことがあります。たまに性別が男なこともありますが、そもそも性別が変わってたらクローンじゃないと思うんですがねぇ…。
 また、リリカルなのはに限った話じゃないですが、クローン体の性別を変える場合、男→女への変化ならまだあり得るかもしれませんが、女→男への変化はまずあり得ないと思います。女→男への変化させるなら、Y染色体をどこから持って来たんだという話になりますが、今までそこに言及した作品を見たことがありません。
 この辺りは、気にしない人は全く気にしないんでしょうが、自分の場合は職業柄こういう生物的な知識を頻繁に使うので、つい気になってしまいます。

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