『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話   作:世紀末ドクター

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第十二話 『リリカルなのは』の世界で その11

 その時のフェイルは、ただ、死に物狂いだった。

 あの交錯の瞬間、ただ何か閃光のようなものが煌いたのを感じただけで、全ては終わっていた。

 自分へと繰り出される赤い斬撃を前にして、自分がどう動いたのか、どうやって相手の攻撃を躱したのかも良く覚えていない。

 全ての力を今の一瞬に注ぎ込んだからか、その場から一歩も動けない。残心をとる余力すら残っていなかった。

 

 

「―――見事です。もう少し時間が経ってから、また会いましょう。その時は、今よりもっと強くなっていることを期待しています」

 

 

 動けないでいるフェイルにそう言い残し、赤屍と間久部博士の二人はその場から去っていった。

 そして、赤屍と博士の二人が立ち去った後、緊張の糸が切れたと同時に、全身から脂汗が噴き出す。

 アドレナリンで誤魔化されていただけの痛みが、今さらのように彼女に襲ってきた。

 

 

「…っあ……っ…ったァ…」

 

 

 ガクガクと全身が震えだし、その場に崩れ落ちる。

 余りの激痛に叫ぶことすらできない。叫ぶのではなく、歯を食いしばってかろうじて息が漏れているという状態だ。

 

 

(ヤバ…、血が、止まらない)

 

 

 どうにか生き残ったものの、このままだと確実に死ぬ。

 湧き上がる痛みの奔流と血の匂いに自分がまさに死に掛けていることを実感する。

 そして、視界が薄れ、意識が遠のいていく中、彼女は何か小さい獣のようなモノが自分の元へ走り寄って来るのが見えた。

 

 

「ちょっ!? キミ、大丈夫!?」

 

 

 この出会いが彼女にとって、本当に幸運だったのかどうかは分からない。

 幸か不幸か、彼女の命の期限はまだ少しだけ残っていた。そして、その残された時間の中での彼女の戦いと生き様は、彼女と関わった者に少なくない影響を与えることになる。

 だが、そのことが当人たちにとって、本当に良いことだったのかどうかは定かではない。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 さて、もしも道端で血塗れで死に掛けている少女を発見したら普通の人間はどうするだろうか。

 しかも左腕の肘から先が切断された状態で倒れていたら、まともな常識を持った人間なら助けようとするだろう。

 俺がその立場であってもそうするだろうし、友人である彼女がそうしたのも理解できる。

 理解できるのだが―――

 

 

「あのさあ、佐倉…」

 

 

 俺は少し恨みがましい視線で佐倉を睨む。

 

 

「いや、分かるよ? 目の前でマジで死に掛けてる奴が居たら、助けるのが普通だってのは分かる。だけどさぁ…」

 

「な、なによ…?」

 

 

 現在、俺は佐倉に相談されて、彼女の部屋に訪れている。

 それにしても、同級生の女の子の部屋に招待されるなんて前世も含めて初めての経験だ。

 ただ、前世が男性だと言っていただけあって、彼女の部屋の雰囲気は可愛らしさというよりも機能性重視という感じなのが微妙に残念な気分である。

 正直、こんな危険な事件が起こっている状態で、いくら近所とはいえ外を出歩きなんかしたくなかったのだが、彼女から相談された内容が内容だけに仕方なかった。

 俺はベッドの上で泥の様に眠り続けるフェレットに視線を移すと、ぼやくように言った。

 

 

「どう考えてもユーノ、だよなぁ…」

 

「だよね…」

 

 

 学校からの帰宅途中、友人である佐倉は中々とんでもない状況に遭遇していた。

 彼女の話によると、フェイトにそっくりな容姿の少女が血塗れで倒れているのを帰宅途中に見つけたそうだ。

 しかも、佐倉が見つけたときには、その少女を守るようにフェレットが寄り添って、おそらく応急処置的な魔法をその少女に使っていたのだという。

 そして、その現場に出くわした佐倉は即行で警察と救急車を呼んだわけで、現在、倒れていた少女は病院で治療を受けている筈だ。

 フェレットの方は治癒補助の魔法に力を使い過ぎたのか、救急車が到着したと同時に気を失ってしまった。

 放置しておく訳にもいかないし、こうして自分の部屋まで連れて帰って来たそうだ。

 

 

「つーか、その血塗れで倒れてた女の子ってのは『原作』のフェイトそっくりだったんだろ? どう考えてもフェイトの関係者だよな? しかも片腕ぶった切られてるとか、どういう状況だよ!?」

 

「そんなの私が知りたいよ!?」

 

 

 まず、片腕が切り落とされていたということからして尋常じゃない。

 状況から考えて、その少女の左腕を切り落としたのは、例の虐殺事件を起こした者と同一犯だとは思う。

 つまり、佐倉が見つけたというその少女は片腕を失いながらも、例の殺人鬼と交戦して生き残ったということだろう。

 だが、まさかユーノまでオマケでついてくるとは一体何がどういうことだ。

 俺も佐倉も、余りにも想定外過ぎる現在の状況に頭を抱えていた。

 

 

「…よし、ひとまずもう一度、状況を整理しよう」

 

「う、うん」

 

 

 まず、ジュエルシードがこの世界に既にばら撒かれていることは間違いない。

 そうでなければ、ユーノがこの世界に訪れる訳はないし、主人公である高町なのはが魔法に目覚めるイベントは起こらない。

 そして、恐らくはその主人公が魔法に目覚める場面において、例の虐殺事件が起こったと考えられる。

 

 

「殺されたのは、私らと同じ『転生者』だよね?」

 

「多分な…」

 

 

 高町なのはが魔法に目覚める場所で殺された27人の小学生。

 恐らく殺された27人というのは『原作』に関わろうとしたか、見物しようとした転生者だろう。そうでなければ、小学生の子供が27人も夜中に同じ場所で殺されるなんていう不自然なことがある訳がない。実際、学校で被害にあったと噂されている者の中には、入学式の段階であからさまに転生者だったヤツも含まれていた。

 

 

「じゃあ、一体誰が何の目的で転生者ばかりを殺したのかな…?」

 

 

 佐倉が現状での最大の疑問を口にする。

 これについては、一つ一つ分けて考えよう。

 まず一つ目の「誰が」という点についてだが、俺は今回の事件の犯人は2日前の下校中に出会った「黒い男」と「白い少女」だと思っている。

 正直、それを裏付ける明確な根拠は薄いが、俺は直感的にそうだと確信できた。

 

 

「キミがそこまで言うなら、そうかもしれないけどさぁ…。でも、いくら何でもちょっと決め付けすぎじゃない?」

 

 

 確かに佐倉の言うとおり、決め付け過ぎは禁物だ。

 だが、俺にはあの二人が今回の事件の犯人だとしか思えない。

 何故なら俺があの二人と遭遇したとき、黒い男の方は俺に対してこう言ったのだ。

 ―――命拾いしましたね。アナタは対象外だそうですよ、と。

 

 

「普通、初対面の人間にそんなことを言う奴が居るか…? あの時のアイツの言葉って、要するに俺が何らかの対象者だったら死んでたって言ったのと同じだぞ…?」

 

 

 原作の主人公である高町なのはは無傷で見逃され、原作に存在しないはずの転生者ばかりが殺された。

 このことから考えて、事件の犯人が転生者だけを狙っていることは恐らく間違いない。だが、単純に転生者であるということだけが、標的にされる条件という訳ではないようだ。

 もしも、俺が出会ったあの二人が事件の犯人で、転生者であることがそのまま狙われる対象ということなら、あの時、俺が殺されずに見逃された説明がつかない。つまり、あの二人は転生者の中でも何か特定の『条件』を満たしている者だけを狙っているのではないかと考えられるのだ。

 

 

「それじゃあ、その『条件』って一体何さ…?」

 

 

 少し上擦った佐倉の声。

 自分達の命が狙われるかどうかに直結する問題だけに彼女もかなり不安そうだ。

 現状で最も考えやすい可能性としては、やはり―――

 

 

「『原作』に関わろうとしたか、そうでないかの違い…か?」

 

 

 現在の被害者は全員が何らかの形で原作に関わろうとした者か、関わってしまった者たちだ。

 高町なのはが魔法に目覚める場面に介入しようとしたと思われる者達は、間違いなくそうだし、佐倉が下校中に見つけたという少女も間違いなくフェイトの関係者だろう。

 

 

「…ってことはさ。これって、もしかしてヤバくない?」

 

 

 そう言って、佐倉はベッドで眠っているフェレットをちらりと見る。

 ベッドで眠っているフェレットが、原作の主要登場人物であるユーノであるということは恐らくほぼ100%間違いない。

 こうしてユーノに関わってしまったということは、ひょっとして自分たちも例の殺人鬼に狙われる可能性があるのではないかと考えるのは至極当然な思考の流れであった。

 

 

「待って! ここまで来たんだから今さら見捨てないでよ!?」

 

「うるせー! HA☆NA☆SE! 俺はまだ死にたくねえんだよ!?」

 

 

 無言で部屋を立ち去ろうとした俺を逃がすまいと後ろから抱き着いてくる佐倉。

 ドタバタとひとしきり暴れ回った俺と佐倉だったが、結局、先に根負けしたのは俺だった。

 ゼイゼイと肩で息をしながら、俺は半ばヤケクソ気味に言った。

 

 

「だーもう! 分かった! 見捨てない! 見捨てないから! だからいい加減に離せって!!」

 

「ホント!? 言質とったよ!? もしも裏切ったら絶対許さないからね!?」

 

 

 必死で縋り付く佐倉に、俺は気が進まないながらも了承する。

 ようやく締め付けから解放された俺は、渋々と床に置いたクッションに座りなおした。

 佐倉もまたテーブルを挟んで向き合う形で腰を下ろす。俺は胡座で頬杖をついた姿勢をとると、ジト目で睨みながら彼女に訊いた。

 

 

「…ってか、今更だけど何で俺に相談したよ?」

 

「仕方ないじゃない…。だって、他に相談できる人が居なかったし…」

 

 

 どうやら彼女の表情を見る限り、自分をいざという時の「道連れ要員」にしてしまったことを悪いとは思っているらしい。

 もっとも実のところ佐倉から今回のことを最初に相談された時点で、こうなることは半分くらい予想していたし、見捨てるつもりも余り無かった。

 俺にとって彼女は貴重な友人であるし、自分の出来る範囲でなら、知恵や力を貸すのは吝かではない。まあ、転生特典を持たないクソ雑魚ナメクジである俺が貸せるのは、せいぜい小賢しい知恵くらいのものであるが…。

 

 

「まあ、俺が佐倉の立場なら多分、同じことをしただろうしな…」

 

 

 こうなってしまった以上は仕方ない。

 過去を悔やむよりも、これからどうするべきかを考えなければならない。 

 差し当たっては、現在ベッドの上で眠り続けているフェレットについてだ。原作のユーノは基本的に主人公である高町なのはとセットで動いていた筈だが、この世界線でのユーノは高町なのはとは完全に個別に動いているようだ。

 

 

(現時点でジュエルシード回収のためにまともに動ける人間って、ひょっとして誰も居ないんじゃ…?)

 

 

 ユーノとなのはが別行動で動いている時点で、もはや原作の流れなどあったものではない。

 そして、主人公である高町なのはが機能不全に陥っているということは、現状でジュエルシード回収のために動いている人間は誰も居ない可能性がある。

 つまり、次元震を起こす可能性を秘めた危険物が、海鳴市にゴロゴロと手付かずで放置されているかもしれないのだ。

 

 

「…それって良く考えなくてもヤバいよね?」

 

「…そうだな」

 

 

 現在の海鳴市には『ジュエルシード』と『正体不明の殺人鬼』という二つの問題が同時に存在している。

 この両方を解決しなければならない訳だが、正直、自分たちだけで解決できるレベルじゃないのは明らかだ。

 ジュエルシードだけならまだどうにかなったかもしれない。だが、最大の問題は、例の事件を起こした殺人鬼の方だ。

 もしも、殺人鬼の狙っている者が俺たちの予想通りだとするのなら、こうしてユーノを匿っているだけでも命を狙われる可能性があるのだから。

 はっきり言って、この状況は自分達だけでは到底解決できない。それならば、他の誰かを頼るしかないだろう。

 

 

「こうなったら、時空管理局に保護してもらうしかないんじゃないか?」

 

 

 現実的に考えれば、それしか方法はない。

 一時期のリリカルなのはの二次創作では無闇矢鱈とオリ主に叩かれていた組織だったが、現状、俺たちが頼れるとしたらこの組織だけだ。

 しかし、時空管理局を頼るとしたら問題となるのは―――

 

 

「だけど、管理局を頼るにもどうやって連絡をとったら良いのかな…?」

 

 

 佐倉の呟きのような疑問。

 実際、管理局を頼るにしても俺たちは連絡手段を持っていなかった。

 唯一の望みはユーノだが、もしも彼が時空管理局への通報・連絡手段を持っていないとしたら完全に手詰まりになる。

 あるいはこの状況なら流石にユーノも管理局に通報しているのではないかと思うが、出来るだけ早期にコンタクトをとりたい所だ。

 そうでなければ、本格的に自分たちは詰む可能性がある。

 

 

「ひとまず、ここから先のことはそこのフェレットが目を覚ましてからだな…」

 

「そうだね…」

 

 

 現状、俺と佐倉の二人では既に手詰まりだ。

 ユーノが目を覚ましたら、彼も交えて今後のことを相談しなければならないだろう。

 俺達はベッドの上で眠っているフェレットの方をチラリと見た。

 

 

「う…、あぁ…、ご、メ、サイ…」

 

 

 悪夢にでもうなされているのか、うわ言のような寝言が聞こえた。

 先程までは泥のように眠りこけていたが、今は眠りが浅くなって夢でも見ているのだろう。

 

 

「…悪夢にでもうなされてるのかな?」

 

 

 そう言って、佐倉は上からユーノのことを覗き込む。

 そして、彼女がそうしたのとほぼ同時のタイミングでフェレットは目を覚ました。

 

 

「うぁぁぁぁあああ!! もうやめてくれぇぇぇええ!!!」

 

「きゃっ!?」

 

 

 絶叫と共に急に飛び起きたユーノに驚いて尻餅をつく佐倉。

 ちなみに彼女のその仕草が不覚にもちょっと可愛いと思ってしまったのは誰にも内緒だ。

 

 

「はぁ…はぁ…、ゆ、夢…?」

 

 

 ユーノは、全身に嫌な汗をかきながら、息を荒くさせている。

 どうもユーノの反応からすると余程の悪夢にうなされていたらしい。

 しかし、フェレットの姿なのに、思いっきり言葉を喋ってしまっている。

 つまり、そうしたことに気を配る余裕すら無くなっているということだろう。

 

 

「えっと…ここは…?」

 

 

 キョロキョロと周囲を確認するユーノ。

 当然、俺と佐倉の存在に気付くユーノだが、同時に人前で言葉を喋るという失敗をやらかしたことにも気付く。

 自分のやらかしてしまった失敗にあからさまに動揺するユーノを見ながら、俺はぼやくように呟いた。

 

 

「喋るフェレットってことは、やっぱりユーノで確定か…」

 

 

 99.99%の確率でそうだろうとは思っていたが、もうこれで0.01%の疑いの余地すら無くなった。

 一体いつからこの世界は、こんな死と隣り合わせの殺伐とした世界になってしまったんだろう、と俺は思う。

 リリカルなのはの二次創作では、バタフライ効果だの何だのとほざいてる作品も多かったが、結局、大して原作の流れが変わらないというのが殆どだった。バタフライ効果の本来的な意味からすれば、原作から完全に乖離した今の状況の方が恐らく正しいのだろうが、実際にその渦中に巻き込まれる側の人間としては、正直、堪ったものではない。

 

 

 ―――未来のことは誰にも分からない―――

 

 

 それは前世では当たり前のことだったはずだ。

 しかし、ここが『リリカルなのは』の世界そのものだったから、俺たちはそのことを忘れていたのだ。

 前世では当たり前だったはずなのに、未来が分からないということを、これほどまでに恐ろしいと思うのは俺も佐倉も初めてのことだった。

 

 

 




あとがき:


 たまーに作品への批判に対して、「批判をするなら書いてみろ」とかいう返しをする人を見掛けます。


「よーし分かった! だったら、実際に書いてやろうじゃねえか、このボケェ!?」


 そう思って、実際に書いてみたのが本作です。
 安直過ぎる神様転生やご都合主義を批判するついでに、クロスオーバー作品としてもある程度は楽しめる作品に仕上げるのが本作の最終目標です。そっちの要求通りに実際に書いたんだから、「批判するなら書いてみろ」とか言ってた人は、まさかこの作品に文句があるとか言わないですよねぇ!?
 まあ、そもそもの話として、作品の批判をするのに作品を書く必要など無いと思いますし、この作品を嫌ったり、否定的な意見を持ったりするのは別に全く構いません。
 この作品に低評価を付けられることは予想の範疇ですし、当然覚悟の上ですが、この作品が嫌いな人が、この作品の何が一番気に入らないのかというのは、個人的には非常に気になるところです。
 ヘイト自体が気に入らない、赤屍というキャラ自体が気に入らない、ヘイトの対象が転生者であることが気に入らない。それとも全く別の理由かもしれません。
 この作品を嫌ったり批判したりすることは別に全く構いませんが、どうせならこの作品の何が気に入らないのかというのを具体的に教えてくれると非常に嬉しいです!


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