『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話   作:世紀末ドクター

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第十三話 『リリカルなのは』の世界で その12

 ユーノ・スクライア―――言わずと知れた「リリカルなのは」という物語の主要登場人物の一人だ。

 原作においては、物語の主人公である高町なのはに眠っていた魔法の力を目覚めさせ、以降は彼女のサポートとして動いていた人物だ。

 魔法少女に付き物のマスコット的なキャラクターの役割を担っていた人物と言えば、物語における立ち位置は概ね理解してもらえるだろう。

 ようするに原作の流れが普通に進行するならば、俺たちが出会うことなどあり得ないはずの人物である。

 

 

「え、えと…あ、あの、こ、こここ、これは…」

 

 

 現在、俺と佐倉の目の前には、傍目にも分かるほど動揺した喋るフェレットの姿がある。

 一体何がどうなってこんな状況になったのかさっぱり分からないが、とにかく今は情報を集めることが最大の優先事項だ。

 俺は内心で頭痛を感じながら、ユーノに話し掛けた。

 

 

「まず確認するけど、アンタはユーノ・スクライアで間違いないよな?」

 

「え? 僕の名前を…?」

 

 

 初対面であるならば、知る筈がないユーノの名前をいきなりぶっ放す。

 いきなりユーノの名前をぶっ放した俺に佐倉が少し驚いた顔をしていたが、ここは無視する。

 確かに下手をすれば警戒される可能性もあるが、こっちとしても命が掛かっている以上、下手な探り合いなどやっていられないというのが本音だ。

 

 

「ちょっとややこしい事情があってな…。俺も佐倉も、アンタのことは知ってるんだ」

 

 

 そう言って、俺はユーノに自分たちの事情について説明する。

 前世だとか転生だとか、自分で言ってて頭が痛くなってくるが、俺たちにとっては紛れもない事実なのだから仕方ない。

 率直に言って、赤の他人がいきなりこんな戯言を言って来たら、俺なら相手の正気を疑うかもれない。

 実際、俺の説明を聞いたユーノも俺たちの『前世』については半信半疑といった様子だ。

 

 

「え、えーと? つまり、キミ達は『リリカルなのは』という物語を通して、この世界でのことを予め知っていたってこと?」

 

「まあ、そうなる。けど、この世界での流れは、俺たちの知ってる本来の流れとはかけ離れてるんだ。だから、俺たちの知識はもう殆ど当てにならないと考えていいと思う」

 

 

 すでにこの世界線は、本来の原作の流れからは乖離している。

 俺たちの知っている原作の通りに進むなら、こうして俺たちとユーノが出会うこと自体があり得なかった。

 そして、そのことを聞いたユーノは、震える声で俺たちに訊いて来た。

 

 

「じゃ、じゃあ、あの殺人鬼については…?」

 

 

 海鳴市どころか日本中を騒然とさせている例の虐殺事件。

 あの殺人鬼は、この世界に元々存在している存在なのか。

 もしも、元々この世界に存在するものだとしたら、アイツの正体は一体何なのか。

 そんな質問がユーノからなされるが、こういう質問が出て来るということは、やはりユーノは例の虐殺事件の犯人を目撃している。

 そして、そうであるならば、確認すべきことが一つある。

 

 

「その質問に答える前に確認させてくれ。例の虐殺事件を起こした犯人ってのは『ウサギの人形を抱いた女の子』と『黒尽くめの長身の男』の二人で間違いないか?」

 

 

 俺が二日前の下校中に遭遇した異様な雰囲気を纏った二人組。

 その二人のことを口に出した途端、ユーノの表情が変わった。

 その反応だけで、自分の直感は正しかったということを俺は理解できた。

 

 

「アイツらのことを知ってるの!?」

 

「いや、俺らも詳しいことは何も知らない。俺がアイツらを知っているのは偶々だよ。俺らの知ってる物語の中には、あんな連中は存在してないし、こんな虐殺事件も起こらなかった」

 

 

 そうして、俺は二日前の下校中に体験したことをそのまま語った。

 ただ道端で遭遇しただけで、死を予感させるほどの異次元の雰囲気を持つ二人組。

 その二人は何の前触れもなく俺の前に突然現れ、俺にこう言って去って行った。

 

 

 ――命拾いしましたね。アナタは『対象外』だそうですよ――

 

 

 黒い男が去り際に言い残した『対象外』という言葉。

 俺が語ったアイツの言葉にユーノも思い当たるモノがあったらしく、ユーノは叫んだ。

 

 

「ソイツらだ! 間違いない!! 僕もそう言われてアイツらに見逃された…!!」

 

 

 例の虐殺事件のとき、ユーノも『対象外』と言われ見逃されたのだと言う。

 おそらく常軌を逸した虐殺現場を目撃したであろうユーノに、当時の状況を根掘り葉掘り聞くのは正直気が引ける。

 多分確実にトラウマになっているだろうし、訊いて良いのかどうか一瞬俺も迷ったが、結局は訊くことにした。

 

 

「ユーノ、悪いんだが、そのときの状況を出来るだけ詳しく教えてくれ。今は一つでも多くの情報が欲しい」

 

「う、うん」

 

 

 ユーノは声を震わせながら当時の状況を語ってくれた。

 おそらくはユーノの広域念話に反応して来てくれた魔導師の子供たち。

 そして、例の二人は、夜の闇そのものが形を変えたかのように突然に現れ、その場の魔導師の子供たちを皆殺しにしてのけたのだ。

 

 

「全員が天才レベルの魔導師だったはずなのに、アイツには全く歯が立たなかった…」

 

 

 ユーノの話では、集まっていた魔導師の魔力量は全員が規格外の天才クラス。その中にはレアスキルと思しき能力を使っていた者も居たという。

 しかし、そんな天才クラスの魔導師の全員があの男の前では、何もできずに殺されていった。口元に残酷な笑みを浮かべながら、紙屑か何かのように人をバラバラに切り裂いて殺していく姿は紛うことなき死神だった。

 周囲にばら撒かれた血と臓物の匂いが充満した文字通りの地獄絵図。ジュエルシードの封印を手伝ってくれた「高町なのは」という少女は余りにも凄惨すぎる光景に気絶し、ユーノ自身も気絶しないのがやっとだった。

 そして、そんな地獄の中にありながら、その地獄を作り出した二人は笑みすら浮かべて血の海の中心に佇んでいたという。

 

 

「率直に言って、予想していた以上だな…」

 

「完っ全なサイコパスじゃない…」

 

 

 正直、ユーノが語る内容に俺も佐倉も内心でドン引きだった。

 どう考えてもヤバすぎる相手であり、話を聞いた佐倉も明らかに顔を引き攣らせている。

 おそらくは転生特典を貰っていたはずの転生者たちを苦も無く皆殺しにした異次元の戦闘力と残酷さ。

 ある程度は予想していたことだったが、まさかここまでだとは思っていなかったのが本当のところだ。

 俺は内心で冷や汗を流しながらユーノに訊ねる。

 

 

「ユーノも、そいつに心当たりなんてある訳ないよな…?」

 

「そんなの当たり前だよ!? アイツらは自分たちのことをそれぞれ『運び屋』と『雇い主』だって言ってたけど、あんなの、今まで見たことも聞いたこともないよ!?」

 

 

 ユーノの捲し立てるような返答と、その中に紛れ込んでいた何か聞き捨てならないキーワード。

 頭で考えるより先に、俺はその言葉について反射的に訊き返していた。

 

 

「運び屋…? アイツらがそう言ってたのか?」

 

「え? う、うん」

 

 

 何でもユーノは、例の殺人鬼の二人と少しだけ会話が出来たらしい。

 会話といっても簡単な自己紹介くらいのものだったそうだが、それでも俺たちにとっては貴重な情報だった。

 間久部と名乗った『雇い主』の白い少女に、赤屍と名乗った『運び屋』の黒い男。そして、ユーノの話によると、彼ら二人は『とある条件を満たす者をあの世に運ぶこと』を目的に動いていると言っていたという。

 

 

「彼らの言っていた『条件』が何なのかは僕には全く分からない。けど、あの二人は言ってたんだ…。僕となのはの二人は『対象外』だって…」

 

 

 例の殺人鬼が去り際に言い残した『対象外』という言葉。

 その言い回しから考えて、連中が何らかの『条件』に引っ掛かった者をターゲットにしていることは間違いない。

 そして、その条件とは一体何かが最大の問題だった。あの殺人鬼に命を狙われるかどうかに直結する問題なだけに、無視することなど到底できない。

 ユーノは、その条件に全く心当たりは無いとのことだったが―――

 

 

「君たちにはそれが分かるの…?」

 

「一応、予想してる答えはいくつかある…けど、本当に正解かどうかはまだ分からない」

 

 

 そう前置きしてから現状での自分たちの推測をユーノに話した。

 まず、現在までのところ、被害にあっているのは全員が本来の原作には存在しなかった者たちばかりだということ。

 おそらく被害にあったのは、全員が俺や佐倉と同じ『転生者』だ。だが、単純に転生者であることが殺される条件であるというのなら、俺が殺されずに見逃された説明がつかない。

 つまり、犯人は『転生者』の中でも、さらに特別な条件を満たしている者だけを狙っていると俺たちは推測している。

 

 

「…俺の予想だと『原作』に関わろうとしたかどうかが条件じゃないかと思ってる。原作の主人公の高町なのはが魔法に目覚める場面に来てたっていう殺された魔導師の連中は多分そうだし、その片腕が切り落とされてたっていう女の子も多分フェイトの関係者だろうしな」

 

 

 俺は現時点での自分の予想をユーノに語った。

 そして、仮にこの予想が正しいとしたら、どこまでが「原作に関わった」と判定されるのかというボーダーラインについての問題が発生する。

 あまり考えたくない最悪の予想だが、もしかしたら原作の主要人物であるユーノとこうして会話しているだけでもアウトかもしれない。

 

 

「え…? 僕らと関わっただけでアウト…?」

 

 

 俺の話を聞いたユーノは、次第に顔色が青くなって行った。

 ユーノ自身の存在が俺らにとって爆弾かもしれないということを説明されれば、当然の反応かもしれない。

 顔面を蒼白にさせ身体をプルプルと震えさせていたユーノだったが、急にガバッと起き上った。

 

 

「ゴメン! すぐにここを出て行きます!!」

 

 

 そう言って、部屋から飛び出そうとしたユーノを俺も佐倉も慌てて止める。

 

 

「落ち着けって…!!」

 

「そうだよ、落ち着いて!」

 

「離してー! 僕の所為でキミらまで死んだら、もう二度と僕は立ち直れない!!」

 

 

 バタバタと俺と佐倉の手の中で暴れるユーノ。

 なにやら似たようなやり取りが、俺と佐倉の間でもあった気がする。

 ただ、この時のユーノの暴れ具合は本当に凄かった。暴れまくるユーノがようやく落ち着いたときは、俺も佐倉も疲労困憊な状態だった。

 もっとも、ユーノの方は俺と佐倉以上に疲労でぐったりした状態だったが。

 

 

「…暴れて少しは落ち着いたか?」

 

「あ、は、はい…」

 

 

 ゼイゼイと肩で息をしながら俺たちは座りなおした。

 そして、呼吸が落ち着いてきたところで、俺は話の続きを再開する。

 

 

「…とりあえず、さっきまでの話はあくまで俺の予想だ。もしかしたら全く見当はずれの予想をしてる可能性もあるし、現状、情報が足りない。それに今の海鳴市にはジュエルシードがばら撒かれたままになってるんだろ?」

 

 

 正体不明の殺人鬼だけでも手一杯なのに、さらにジュエルシードという問題まで恐らく手付かずになっている。

 虐殺現場をモロに目撃した高町なのはは間違いなく機能不全に陥っているし、下手をしたらフェイトの方もまともにジュエルシード集めが出来ていない可能性がある。

 ユーノと佐倉が出会ったという片腕が切り落とされた女の子はおそらくフェイトの身内だし、フェイトの方も身内が片腕を切断されるような重症を負わされて何の動揺もなくジュエルシード集めを続けることが出来るとは思えない。

 原作の事件の発端になったジュエルシード自体が次元震を起こす可能性を秘めた危険物であり、目の鼻の先でそんな危険物が手付かずで放置されていたら、いくら俺でも何らかのアクションは起こさざるを得ない。

 もし自分が巨大ダムの亀裂を偶然にも発見したら、少なくともどこかしらに通報しようとするだろう。ようするに、そういうことだ。

 

 

「正直、俺らだけじゃ到底解決できないし、俺としてはもう時空管理局に協力してもらうしかないと思ってる。ユーノに訊きたいんだが、管理局への連絡手段はあるのか?」

 

「一応もう時空管理局には通報してるけど、いつ来てくれるかまでは…」

 

「そうか…」

 

 

 どうやら最低限のやるべきことは一応やってくれていたようだ。

 そうであるならば、後はもう祈るしかない。もしも例の殺人鬼に狙われる条件が俺が最初に予想した通りであるならば、最悪の場合、こうしてユーノと会話しているだけでもアウトかもしれない。

 もしもアウトだった場合は本当にどうしようもないが、すでにユーノと関わってしまった以上、もはや今更だろう。

 だったら、今の状況を最大限に活かす方向で考えた方が効率的なはずだ。

 本当は、例の殺人鬼に狙われる対象になる条件として、もう一つ可能性が高いと思っている予想があるにはあるが、今の佐倉の前でこれを言うのは俺には無理だった。

 なぜなら、これを言うと佐倉に対して「俺は助かるけど、お前は殺される」と言うも同然だからだ。

 

 

「ユーノ、俺たちに死んで欲しくないと思うなら、逃げるんじゃなくて協力してくれ。管理局がこっちの世界に来るまでは、魔法関係の知識を一番持ってるのはアンタだ。殺人鬼の方はともかく、もしもジュエルシードへの対処も必要になった場合、ユーノの協力は多分必須になる。だから、頼む」

 

 

 そう言って、俺は頭を下げた。

 少なくとも時空管理局がこちらの世界に来るまでは、なんとか自分たちだけで凌がないといけない。

 そして、そのためには、ユーノの協力はあった方が良いと俺は判断した。

 

 

「ずるいなぁ…。そんな言い方をされたら断れないじゃないか…」

 

 

 ユーノはがっくりと肩を落としながらそう言った。

 そうして、俺たちとユーノは、協力体制をとることになった。

 ひとまず話が纏まったところで、俺はその場から立ち上がった。

 

 

「佐倉、ひとまず俺はそろそろ帰る。しばらくここでユーノを匿うことになっても大丈夫か?」

 

「あ、うん、大丈夫だよ。いざとなったら、ユーノ君を盾にするから」

 

「ちょ!?」

 

 

 サラリとかまされた爆弾発言に驚くユーノ。

 しかし、俺たちが危ない橋を渡ることになったのが、ある意味ユーノの所為である以上、もはや俺たちは運命共同体だ。正直、このくらいのことは勘弁してもらいたい。

 そうして、俺が帰るとき佐倉は家の出口まで見送ってくれたのだが、帰り際に彼女から話し掛けられた。

 

 

「…ごめん。正直、キミを巻き込む形になって悪いとは思ってるんだ」

 

「今さらだよ。俺が佐倉と同じ状況だったなら多分同じことをしたと思う。だから、そんなに気にしなくて良いさ」

 

「うん…、今日は相談に乗ってくれてありがと。私一人だと殆どパニック状態だったし、本当にキミには感謝してる」

 

 

 どうやら俺を巻き込んだことに対して、彼女も多少は負い目に感じていたらしい。

 おそらく相談に乗ったことに対するお礼のつもりなのか、佐倉はこんなことを俺に訊いて来た。

 

 

「ね、何かして欲しいことない?」

 

「急にどうした?」

 

「まー、ほら、元男とは言っても、今は可愛い女の子なわけだし? それなりにされて嬉しいことあるんじゃないの?」

 

 

 何と言うか、非常に魅力的な提案だった。

 正直、外見的にはかなり好みのタイプの美少女だし、一瞬かなりクラッと来たのは確かだ。

 かなり後ろ髪を引かれる気持ちはあったが、鋼の理性で抑えて俺は彼女に返答する。

 

 

「…5年後までとっとくよ。今の小学生の貧相な身体で言われても魅力半減だし」

 

「…何を要求するつもりだったのさ、この変態」

 

「うっせえよ」

 

 

 そんな他愛ないやり取りを交わした後で俺は帰路についたのだった。

 

 

 

 




あとがき:

 この作品は、タイトルからして露骨な神様転生アンチの作品ではあります。
 ネタとして第一話を書いたときは、とりあえず特典持ちのチート転生者を皆殺しに出来れば何でも良かったのは確かで、それ以外のことは何も考えてなかったです。
 ただ、この作品を連載作品として書き直すに当たっては、赤屍蔵人という自分の考え得る最大最強の理不尽・絶望を叩き付けられた転生者が何とか生き残ろうと足掻く様子を描く群像劇というような体裁をとったつもりなんですけどねぇ。
 やたらと低評価をつけられているのは、物語の序盤で転生者YOEEEをやり過ぎたのと、タイトルからして露骨に全方位に喧嘩を売ってる所為ですかね?
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