『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話   作:世紀末ドクター

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第十四話 『リリカルなのは』の世界で その13

 常軌を逸した虐殺事件を起こした犯人の二人組。

 佐倉の家からの帰宅途中、俺は例の二人組について考えていた。

 最初、俺たちは例の殺人鬼たちも俺たちのような『転生者』だと思っていた。

 だが、ユーノの話を聞いて、そもそもその前提が間違っているのではないかと俺は思ったのだ。

 もしも、転生者が自分以外の別の転生者を殺すことのメリットがあるとするなら、自分が原作へ関わるチャンスが増えるということだろう。

 だから、殺人鬼に狙われる条件は、『原作』に関わろうとしたかそうでないかの違いだと最初は思った。

 しかし―――

 

 

(もしかしたら『転生者』ですらないのかもしれない…)

 

 

 ユーノから聞いた『運び屋』と『雇い主』というキーワード。

 そのキーワードを聞いたときに、俺は思ったのだ。あの連中は、よくある「転生者としての思惑」とは全く無関係に動いているのではないか、と。

 だから、この世界での流れが原作から乖離したところで関係ないし、この世界での流れがどうなったところでアイツらには関係ない。

 そして、そのことに思い当たった途端、例の殺人鬼に狙われる対象になる条件として、俺にはもう一つ別の可能性が思い浮かんでいた。

 先程の話し合いの中では言わなかったが、むしろこちらの方が可能性としては高いかもしれない。

 

 

 ――転生する際、神と名乗る者から転生特典を貰ったかそうでないか――

 

 

 もしもこちらが正解だった場合は、おそらく俺だけは助かる。

 だが、転生の際に特典を貰ってしまった者は、おそらく全員が殺されることになる。

 

 

(…アイツの前で言えるかよ、そんなこと)

 

 

 正直、先程の佐倉の前でこの予想を言うのは俺には無理だった。

 なぜなら、これを言うと佐倉に対して「俺は助かるけど、お前は殺される」と言うも同然だからだ。

 自分だけが生き残るだけなら、こちらの予想が正しい方が好都合なのは理屈では分かっている。だが、友人である佐倉にとっては―――?

 もちろん自分が死ぬのは御免だが、それと同時に友人の死を願うような恥知らずになるのも俺は御免だった。

 

 

(ホントに何が正解なんだよ…)

 

 

 本当の正解が一体何なのか分からない。

 友人の佐倉が顔が頭の中にチラついて、思考が鈍っているのを感じる。

 自宅への帰路の途中、ふと遠くの西の空に目をやると沈みかけている夕日が見えた。

 林立する住宅群に夕日が綺麗に映え、黄金色の光に映し出された建物の黒いシルエットが印象的だ。

 昼と夜の一瞬の狭間にだけ姿をのぞかせる"影絵"の街。恐らく後一時間もしない内に日没だろう。

 

 

(ひとまずは早く帰ろう…)

 

 

 俺は出来るだけ速足で自宅へと急いだ。

 こんなとんでもない事件が起こってる状態で、いくら近所とは言え夜に外を出歩くのは流石にまずい。

 

 

(出来るなら、佐倉とユーノが出会ったフェイトそっくりの女の子とも情報の擦り合わせをしたいんだが…)

 

 

 例の殺人鬼と交戦して生き残ったのは、現時点ではその女の子だけだ。

 病院へ搬送されたというが、警察にとっても事件の重要参考人だろうし、俺たちが接触するのは難しいかもしれない。

 そんなことを考えながら、この日はもう何事もなく終わった。しかし、その翌日に状況をさらに混沌とさせるような事態が起こるなど、俺はまだ想像すらしていなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ―――海鳴大学病院。

 

 赤屍と交戦して片腕を切り落とされた少女――フェイル・テスタロッサが搬送された病院である。

 搬送された直後から失血に対する大量の輸血が施され、フェイルはどうにか一命を取り留めた。

 しかし―――

 

 

「あんな幼い子が可哀そうになぁ…」

 

 

 フェイルの治療に関わった医師からため息まじりの声が漏れる。

 当然、切断された左腕の再接合も検討されたが、切断肢の汚染状況が予想以上に悪かったために結局は断端形成術が選択された。

 断端形成というのはようするに切断された断端を丸める手術のことであり、彼女の左腕は永遠に失われたことを意味していた。

 そして、手術が終わってからおよそ半日が経った深夜、麻酔が切れたフェイルはベッドの上で目を覚ました。

 

 

「…っ」

 

 

 ベッドから身を起こそうとして身体に走った痛みに思わず動きを止める。

 呼吸を整えてから、慣らすように今度はゆっくりと身体を起こすと、自分のベッドの傍らに誰かが居ることに気付いた。

 

 

「フェイト…」

 

 

 その誰かとはフェイトであり、彼女はイスに座りながらこちらのベッドに突っ伏して眠っていた。

 そして、傍らで眠るフェイトの頭を撫でようと腕を伸ばそうとした時にフェイルは思い出した。

 

 

(そうか…アイツに…)

 

 

 自らの左腕の肘から先を永遠に失ったことをフェイルは理解する。

 昼間に出会った『黒い男』と『白い少女』の二人組のことは、フェイルにとっても完全に予想外な事態だった。

 最悪死ぬとすら思ったが、周りを見渡すとどこかの病院のようだし、どうやら生き残ることが出来たらしい。

 

 

「目を覚ましたのかい!?」

 

「アルフ…」

 

 

 ちょうど病室に現れたのはフェイトの使い魔のアルフだった。

 獣の姿で病院に入れる訳はないし、当然ながら人間形態だ。

 

 

「フェイトもアタシも心配したんだよ!?」

 

「アルフ、夜の病院では静かに。そんなんじゃ、フェイトだって起きちゃうよ」

 

「あ、ごめん」

 

 

 素直に謝るアルフ。

 しかし、自分が病院に搬送されたのは良いとしても、まさかフェイトとアルフまでここに居るとはフェイルも思っていなかった。

 それほど心配してくれたということなのだろうが、戸籍などといったこの世界での身分は何も持ってない訳だが大丈夫だったのだろうか?

 どう考えても事件性のある怪我で搬送されているし、多分、警察からの事情聴取なんかもあったはずだ。

 

 

「ところでアルフ、病院や警察には何て説明した?」

 

「今は動揺でそれどころじゃないから後にしてくれって、とりあえず全部断ったよ。保護者も外国にいるから直ぐには来れないとか適当に誤魔化しといた」

 

「…そっか」

 

 

 ひとまず対応としては妥当なところだろう。

 しかし、日本の法律的に考えた場合、自分たちが不法入国者という犯罪者に相当することは間違いない。

 警察に身分のことを追求されるとマズイのは確かであり、適当なタイミングで病院から脱走するしかなさそうだ。

 そうして、フェイルがぼんやりと今後の予定について考えていると、かなり狼狽えた様子でアルフが話を切り出してきた。

 

 

「それより聞いておくれよ。今この街でとんでもない事件が起こってるんだよ…!」

 

 

 そう言って、アルフは新聞の号外記事をフェイルに見せる。

 そこに書かれていた事件の詳細を把握したフェイルは思わず絶句する。

 原作の主人公・高町なのはが魔法に目覚める場所で殺された27人の小学生。

 事件のあった場所や犠牲になった者の年齢などを考慮するとフェイルの頭では可能性は一つしか考えられなかった。

 つまり、その事件で殺されたのは―――

 

 

(私と同じ転生者…)

 

 

 そうでなければ、小学生の子供が27人も夜中に同じ場所で殺されるなんていう不自然なことがある訳がない。

 つまり、フェイル以外にもこの世界に転生していた者達が存在しており、そうした者が『原作』に関わろうとしたか、『原作』を見物しようとしたところを襲撃されたということだ。

 

 

「フェイルたちを襲撃して来た奴と同一犯なんじゃないかい…?」

 

 

 アルフがおずおずとした様子で推測を述べる。

 そして、その推測はフェイル自身も完全に同意するところだった。

 

 

「多分、間違いないよ。…アイツらだ」

 

 

 言いながら、フェイルは昼間に出会った『白い少女』と『黒い男』の二人組のことを思い出していた。

 彼ら二人は、フェイルのことを殺しに来たと告げ、実際に彼女のことを殺し掛けた。実際に交戦したのは赤屍と名乗った黒い男の方だが、正直、今も生きていることが不思議で仕方ない。それ程までにあの男の実力は桁違いだった。

 そして、白い少女の方は、フェイルの魂に刻み込まれた『チカラ』の欠片に用があると言い、その『チカラ』を回収することを目的としていると言っていた。

 つまり、あの連中は「リリカルなのは」の原作とは無関係に、フェイルのような転生特典を持っている者を狙っていると考えられる。

 

 

(どうする…。まさかあんな奴らが居るなんて…)

 

 

 正直、原作のジュエルシード事件だけなら、どうにでも出来る自信がフェイルにはあった。

 だが、あんな常識外れの化け物が跋扈しているとなると、全く話は別である。あの連中が狙っているのが転生者だけということなら、原作メンバーが積極的にアイツに命を狙われるということは無いのかもしれない。

 しかし、原作での時空管理局は警察的な役割を担っていた組織のようだし、あんなあからさまな犯罪者に対して無対応ということはあり得ないだろう。下手をしたら、フェイルのような転生者だけでなく原作メンバーにも危害が及ぶ可能性は十分考えられる。

 それに加えて、フェイル自身も完全に助かった訳ではない。

 

 

(まだ私も、命を狙われてる…)

 

 

 あの時のフェイルは、ただ見逃されただけだ。

 ただ殺す順番が後回しにされただけで、いつかまたアイツらはフェイルを殺しに来るだろう。

 そして、それまでにあの連中をどうにかしないと、少なくとも自分はアイツらに殺されて死ぬことになる。

 

 

「……」

 

 

 現在の状況を頭の中で整理したフェイルは思わずその場で沈黙する。

 はっきり言って想定外にも程がある状況であり、ここからどのように行動すれば良いのかまるで検討がつかない。

 そして、フェイルが沈黙して考え込んでいると、アルフが躊躇いがちに口を開いた。

 

 

「あと、その…、アンタの左腕…のことなんだけど…」

 

 

 なんと言ったら良いのか分からない、というようなアルフの表情。

 確かに非常にデリケートな問題だろうし、こうしたことを相手に柔らかく伝えるのは非常に困難を伴う。

 実際、フェイルも片腕を失ったことについて動揺していないと言えば嘘になる。だが、正直なことを言えば、フェイル自身あそこで死んだと思ったし、腕一本と引き換えで済んでいるなら代償としては十分安いとすら思っていた。

 言いにくそうにしているアルフに対して、フェイルは片手を挙げて制した。

 

 

「…いいよ。アルフが言わなくても分かってる」

 

 

 穏やかなフェイルの声。

 彼女のその言葉に思わずアルフは唇を噛んでいた。

 言わなくても済んだことへの安堵と、本当ならば誰よりも辛いはずの相手から逆に気を遣われたことへの情けなさ。

 そんないくつもの感情がごちゃ混ぜになって、アルフは何も答えられない。

 

 

「それより、ちょっと疲れたから休みたい…。これからのことは、明日の朝に相談させて」

 

「ああ…今はゆっくり休みなよ」

 

「…ん」

 

 

 そのやり取りを最後にフェイルはベッドに後ろから倒れ込んだ。

 そこから数分もしない内に寝息が聞こえてきたが、片腕を切り飛ばされ実際に死に掛けるという事態に見舞われれば流石に無理もない。

 ベッドに眠るフェイルと、その傍らに寄り添って眠るフェイトの二人を見守りながらアルフは思う。

 

 

(しかし、フェイルの片腕を奪えるって、一体どんな強さだよ…?)

 

 

 アルフ自身、フェイルの強さは身をもって知っている。

 実際、これまでの彼女との模擬戦では、フェイトとの二人掛かりですらまるで相手にならずにあしらわれたし、彼女に勝てる魔導師などこの世に存在しないとすらアルフは思っていた。

 自分たちよりも遥かに強いフェイルが殺されかけ、しかも片腕を奪われた。その事実にアルフは戦慄するものを感じていた。

 

 

「一体どこのどいつだよ…。こんな良い娘を殺しかけたクソ野郎は…」

 

 

 アルフのその呟きに答える者は誰も居ない。

 その呟きは、誰にも聞こえずに夜の闇の中に消えていった。

 そして、その翌日、状況をさらに混沌とさせるような事態が起こることなど、まだ誰も知らない。

 

 

 ―――翌日、彼女たちのいる病院の敷地内でジュエルシードの暴走体が発動した。

 

 




あとがき:

 こう思っているのは自分だけかもしれませんが、面白い作品というのは、各キャラクターの物語上の役割ということをキチンと意識して書かれている気がします。
 主人公、ヒロイン、主人公の憧れキャラ、師匠キャラ、戦友、お助けキャラ、ライバル、ラスボスなど、キャラの立場を列挙するだけで、それぞれが物語上でどんな活躍・役割を果たすのかという大まかなイメージが湧きますよね。
 この作品におけるキャラクターをそうした役割に当てはめると、自分の考え得る最大最強の理不尽・絶望を投影したラスボスが「赤屍蔵人」、自分の理想の英雄像を投影したキャラクターが「フェイル・テスタロッサ」、そして、そんな英雄に出会ってしまったことでその英雄の背中を追って今後成長していくことが期待されるキャラクターが「名前を出していない主人公」ということになるかと思います。

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