『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話   作:世紀末ドクター

16 / 30
第十五話 『リリカルなのは』の世界で その14

 翌日、TVの全国ニュースは新たな犠牲者のことを報じていた。

 最初に27人が殺された後、さらにそこから追加で1人が殺され、それに加えて重症で病院に搬送された者が1人。

 そのどれもが同一犯によるものと見込まれており、テレビ東京を除いたどのチャンネルもその事件についての報道で持ち切りだった。

 

 

(重症で搬送された一人ってのは、佐倉が言っていたヤツのことか…)

 

 

 昨日、佐倉が帰宅途中に見つけたというフェイトそっくりの少女。

 ニュースで報道されている重症で病院に搬送された一人というのはその少女のことだろう。

 だが、ニュースでの報道内容からすると、どうやら他にも殺されていた奴が一人居たらしい。

 

 

(おそらく殺されたのは、俺たちと同じ転生者だろう…。そうだとして、あと何人残ってる…?)

 

 

 この世界に転生した転生者が一体何人いるかは俺も正確には知らない。

 だが、俺と佐倉以外にも生き残っている転生者がこの世界に居るとしたら、そいつらもこれらの事件を把握しているはずだ。

 そして、それらの転生者『リリカルなのは』という物語の原作を知っている者であれば、これらの事件が『原作』の中では到底ありえるはずのない事件だということは簡単に分かる。

 生き残っている他の転生者たちが居たとしたら、もしかしたら情報収集くらいのアクションは起こし始めているかもしれない。

 そして、もしそうならば、何とか他の転生者とも接触して協力体制を作りたいと俺は思っていた。

 何故なら―――

 

 

(…普通にやっても、並大抵のことじゃ『アレ』には勝てない)

 

 

 以前の下校中に遭遇した二人について、俺はそう確信していたからだ。

 むせ返りそうな程に濃密な『死の気配』を纏った『黒い男』と『白い少女』の二人組のことを思い出す。

 はっきり言って、あの連中はチート転生者の一人や二人が居たところで倒せるような相手ではない。実際に30人近くの転生者が殺されている訳だし、生半可な戦力では相手にもならないだろう。

 素人の直感に過ぎないが、少なくとも佐倉レベルの人間が一人や二人居たところでアレに勝てるとは俺には到底思えなかった。戦力の逐次投入など愚の骨頂であり、可能な限りの最大戦力を一気に叩き付けるしかない。

 そのためにはとにかく一緒に協力できる仲間を増やしていくしかないだろう。

 

 

(早く時空管理局とも接触できると良いんだが…)

 

 

 ちなみに当然ながら学校は休校になった。

 流石にこんなとんでもない事件が近所で起こっていたら、しばらくは休校にならざるを得ないだろう。

 そんなことを考えながら朝のニュースを眺めていると、メールの着信音が自分の携帯から鳴った。

 メールの送信元は友人の佐倉からであり、俺は携帯を開いてメールの文面を確認する。

 

 

『今から私の部屋にまで来れない?』

 

 

 ようするに直接会って話がしたいという内容だった。

 だが、事件が起こった直後である昨日までならともかく、二日連続で死人が出ている今となっては子供だけで外を出歩くのは難しいだろう。

 おそらくこの状況で俺や佐倉が単独で出歩こうとしても、多分、親がそれを許さない。この状況で外に出かけるなら最初から親に付き添ってもらうか、あるいは親に無断でばれないように立ち回るかのどちらかだ。

 現状、わざわざ親に無断で行動する必要性は無いし、とりあえず普通に母親に相談してみることにする。

 

 

「母さん、今から友達の家に遊びに行きたいんだけど…」

 

「何言ってんの!? この状況で子供だけで外を出歩かせる訳ないでしょ!?」

 

 

 予想通りの母親の反応。

 実際、こんな常軌を逸した殺人事件が近所で起こっていれば、この反応は当然だろう。

 

 

「いや、だから母さんに車で送り迎えをして欲しいって話なんだけど」

 

 

 かなり難色を示してはいたが、最終的に母親の方が折れてくれたのは有難かった。

 ただ、ここでの友人というのが女の子―――佐倉だということを伝えた途端に母親の態度がコロッと変わったのは何故だろう。

 

 

(これは何か変な誤解してそうだな…)

 

 

 俺と佐倉との関係は、ただの友人関係だ。

 断じて色恋の関係ではないのだが、母親の脳内は俺が思っていた以上にピンク色だった。

 

 

「だから、佐倉とはそんな関係じゃないって…」

 

「え~? でも、あの子、将来は絶対綺麗になるわよ? 今のうちに好感度を稼いでおけば良かったって、後で後悔しても知らないわよ?」

 

 

 そんな会話をしているうちに佐倉の家に到着した。

 世間話ついでに道中での母親との会話の内容を佐倉に話してみる。

 

 

「…ってなことを、ここに来る途中に母親に言われたんだが」

 

「いや、私にそれを言われても…」

 

 

 反応に困るよ、と佐倉は言った。

 実際、俺としてもこれを話題に出したのは単なる世間話という以上の意味はない。

 それに将来的に俺と佐倉が付き合うなんてことは絶対にあり得ないと自分は思っている。それは恐らく彼女の方も同じだろう。

 だが、客観的に考えた場合、俺たちが成長した将来においては、自分と佐倉の関係は『幼馴染』と呼ばれることになる関係である気がする。

 別に母親の言っていたことを真に受ける訳ではないが、幼馴染の立場に胡座をかいて油断してたら、いつの間にか他の人に掻っ攫われていたというのは、男女問わず割りと良くあるパターンではある。

 しかし、基本的に物語における幼馴染キャラというのは恋愛レースにおいては不利な立場にいることが多い気がする。

 

 

「え? 幼馴染ってそんなに不利かな? 幼馴染って割りと王道的な属性じゃないの?」

 

 

 何気なく言った俺の発言に佐倉が反応する。

 世間には幼馴染こそ至高の属性だと考えている連中が一定数居ることは俺も知っているし、この辺りは個人の嗜好の問題もあるから一概には言いにくいところはある。

 だが、俺としては、幼馴染という属性は創作の物語のジャンルによって有利不利の差が大きくなると考えている。

 

 

「ジャンルの違い?」

 

 

 具体的に言うのなら、その物語のジャンルが日常系か非日常系のどちらかだ。

 日常系の物語ならともかく、異能やファンタジーといった非日常系の物語において、幼馴染キャラは空から落ちてくる系の登場人物に大抵負ける。

 そもそも非日常系の物語の構造的に考えれば、幼馴染ではない方のキャラに出会うことから物語が始まっていくというパターンが多いため、必然的に恋愛レースが幼馴染キャラに不利になるのは別に不思議なことではない。

 

 

「なるほどねー。言われてみれば確かにそうかも」

 

 

 俺が語った内容に佐倉は納得したという風に頷いている。

 もっとも、俺が話した内容はあくまでも創作の物語の展開の傾向についてであって、全てがそれに当て嵌まる訳ではない。

 特に現実世界での幼馴染などいつの間にか疎遠になって、お互いに意識することもなくそのままフェードアウトするというのが大部分だ。

 そして、恐らくそれが一番あり得そうな俺と佐倉の将来の未来像だろう。

 

 

「まー、現実だったら幼馴染なんてそんなもんだよねー」

 

「…まあな」

 

 

 しかし、それはあくまでも、俺たちがその未来まで生きていられたらの話だ。

 現在の海鳴市には正体不明の殺人鬼とジュエルシードの二つの問題が手付かずで放置されている。

 これらの二つを何とかしない限り、俺たちが生き残れるかどうかすら怪しい。そもそも俺が佐倉の家に来たのは、それらの二つの問題について話し合うためだ。

 自分から振った話題ではあるが、いい加減に雑談は切り上げてそろそろ本題に入ることにしよう。

 

 

「…ところで、ユーノは?」

 

 

 これからの話し合いには、ユーノも居て貰いたいのだが姿が見えない。

 どこに行ったのか思っていると、当のユーノが少し疲れたような様子で部屋に入って来た。

 

 

「ごめん、遅れて。キミの家族が中々離してくれなくて…」

 

 

 どうやら佐倉の家族にペット扱いされていたらしい。

 本来の原作においても、フェレット状態のユーノは高町美由希なんかに可愛がられていたようだし、こうなるのもある意味当然か。

 とりあえずユーノと合流できた以上、ようやくここから本題に入れる。

 

 

「さて、そろそろ本題に入るが、ユーノも佐倉もニュースの内容は知ってるよな?」

 

 

 ユーノも佐倉も頷いて答える。

 朝のニュースの報道で明らかになった新たな犠牲者の数は二人。

 一人はバラバラの死体で発見され、もう一人は病院に搬送されたということだった。

 

 

「病院に搬送された子ってのは、昨日、私とユーノ君が見つけた子だよね…?」

 

「…多分な」

 

 

 報道された内容からすると、昨日の病院に搬送された少女は、どうやら一命を取り留めたようだ。

 しかし、これまでの犠牲者のどれもがバラバラ死体の状態で殺されていることを考えると、昨日の少女の方は随分と例外的だ。

 

 

「…狙われても全員が殺されるって訳じゃないのかな? もしくは、その女の子が重傷を負わされながらも、例の殺人鬼を倒してくれたとか…?」

 

「いや、残念だけどそれは期待しない方が良いと思う…。少なくとも、あの殺人鬼が倒されたってのは多分あり得ない…」

 

 

 佐倉が願望の混じった予想を口にするが、その予想をユーノが真っ先に反論した。

 そして、これについては、俺もユーノと同意見だ。事件の犯人と思しき二人組に遭遇したのは、以前の一瞬だけだったが、まともに戦ってヤツに勝てる人間が存在するとは俺には思えなかった。

 出会った瞬間にヤツから感じたむせ返りな程に濃密な死の気配は、おそらく実際に会った人間にしか分からないだろう。もしも本気で奴らに命を狙われたら、その時点でほぼ確実に助からない。俺とユーノは、そのことを確信していた。

 

 

「じゃあ、昨日の女の子は何で助かってるわけ? いや、片腕を落とされるってのを助かったっていうのは語弊があるかもしれないけどさ…」

 

 

 なぜ昨日の少女は、他の犠牲者と比べて例外的だったのか。

 頭を捻って考えてみるが、その理由はさっぱり分からなかった。あるいは、完全なサイコパス野郎のやることに常識的な理屈を求めるのは間違っているのかもしれない。

 しかし、今後の対策を練るために今はどんなことでも情報が欲しい。そのためには、実際に交戦して生き残った人間の証言が得られるのならそれに越したことはない。

 出来るなら、病院に搬送されたという少女と何とか接触して情報の擦り合わせをしたいところだ。

 しかし―――

 

 

「だけど、そもそもどこの病院に搬送されたのかも分からないんじゃ?」

 

 

 ユーノの疑問は、もっともだ。

 確かにニュースの報道でもどこの病院に搬送されたのかについては言及されていなかった。

 だが、少女の片腕を切断されていたという怪我の状況を考えれば、搬送先の病院は一か所しかないと俺は思っていた。

 切断肢の治療の場合、切断された四肢の再接合が可能かどうかが検討されるが、切断肢の再接合というのはそこらの市中病院に搬送されてもすぐに出来るような手術ではない。

 そして、切断肢の再接合が可能な施設というのは、大都市を除けば普通は県内に1件あるかどうかであり、俺たちの住んでいる県では海鳴大学病院がそれに当たる。

 つまり、昨日の救急隊がまともな判断をしていれば、少女が搬送された病院は、間違いなく海鳴大学病院だと考えていい。

 

 

「へー、なるほどねー」

 

 

 俺の推測を聞いた佐倉が感心したように言った。

 だが、いくら搬送先の病院が分かっていても、その少女は警察にとっても事件の重要参考人だろう。

 下手をしたら警察がガチガチに見張りについているだろうし、俺たちが普通に病院を訪ねたとしても接触するのは難しいかもしれない。

 

 

「まー、確かにそうかもしれないけど。とりあえず海鳴大学病院に行ってみたら良いんじゃない? 意外に何とかなるかもしれないし」

 

 

 何やら今日の佐倉はやたらと楽観的である。

 しかし、実際、ここで話し合いをしているだけでは埒が明かない状況であることは確かだ。

 この状況で子供だけで外を出歩くのはそれなりにリスクの高い行為かもしれないが、どこかで冒さなければならないリスクでもある。

 親戚が病院に入院している訳でもないし、親に送迎してもらうという手は使いにくい。そうなると、俺たちが病院に行くとしたら親に無断でばれないように立ち回るしかないということになる。

 どこそのNHK教育テレビで放送されていたカードを集める魔法少女アニメでは、出来るだけ周囲にバレないように夜中に行動していたことが多かった気がする。

 だが、こんな物騒極まりない事件が起こっている状況で夜中に出歩くというのはどうなんだろう。

 

 

(出歩くとしたら昼間の方がまだマシか…?)

 

 

 もしも殺人鬼の側が目撃者を出さないように気を配っているとしたら、普通は夜間に活動しそうなものだ。

 しかし、現状においては、夜間と昼間のどちらでも被害が出ている。奴らが昼間にも活動できる理由としては、周囲の空間と断絶させる結界なんかの目撃者対策の手段を持っているか、目撃者の存在などそもそも意に介していないかのどちらかだろう。

 それらの可能性を考えたら、昼間と夜中のどちらに出歩くとしても危険度としては大して変わらないかもしれない。

 だが、敢えてどちらと言うなら周囲の目がある昼間の方がまだマシだろう。

 

 

「…よし、まずは病院に行くだけ行ってみよう」

 

 

 短時間の外出で、尚且つ人目のあるところを選ぶのなら、多分、大丈夫だろう。

 絶対とは言い切れないが、人目のない真夜中に子供だけで出歩くよりも気分的にはマシだ。

 正直、あまり気は進まないが、このまま部屋の中に引きこもっていても事態が好転するはずもない。

 

 

「…一応言っとくが、万が一にも戦闘なんかの荒事になったら俺は役立たずだからな?」

 

「ああ、うん、そのことは分かってるよ」

 

 

 こういう事態も予測して、予め別の靴は用意してはいた。

 しかし、親にバレないように立ち回る、というのは魔法少女やヒーローアニメなんかの主人公にはお決まりの設定であるが、まさか自分がやることになるとは思わなかった。

 そうして、俺たちは外出したと気取られないように、部屋の窓から抜け出したのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 佐倉やユーノが自宅から抜け出したちょうどその頃。

 彼らの目的の少女であるフェイルの方も、現状と今後の方針について考え込んでいた。

 病室の窓から見える外の景色を眺めながら、彼女は思い出していた。

 

 

(まさか、あんな奴らが居るなんて…)

 

 

 赤屍と間久部と名乗った『転生者』を狙って行動している二人組。

 正直、あんな連中が存在するなど、フェイルにとっても完全に想定外だった。

 奴の言葉から考えると、あの二人が狙っているのは、フェイルのような『転生者』たちで間違いない。

 

 

(あの時、あそこで生き残れば、私を殺すのは最後にすると言っていた…)

 

 

 その言い回しから考えて、この世界での『転生者』たちは自分以外にもまだ何人かいるはずだ。

 だが、このまま何もせずにいたならば、この世界の『転生者』たちは自分も含めてほぼ間違いなく全員が殺される。

 そして、それを回避するには、あの二人を何とか倒す以外にはない。しかし、実際に交戦した経験を踏まえて考えるならば、アレを倒すのは自分一人では絶対に無理だ。

 しかも、あの殺人鬼だけではなく、ジュエルシードにまで対処しないといけないとなると、明らかに手が足りない。

 最悪、ジュエルシードは最低フェイトとアルフに任せれば、集めるだけなら多分どうにかなる。

 しかし、あの男に関してだけは、フェイトとアルフに頼るのは無理だろう。

 何故なら―――

 

 

(フェイトとアルフじゃ確実に殺される…)

 

 

 これまでに行った模擬戦を通してフェイトとアルフの実力は知っている。

 その経験から言わせてもらうなら、フェイルの魔導師としての実力は自惚れでも何でもなくアルフやフェイトよりも遥かに上だ。

 しかし、そのフェイルですらあの男の足元にも及んでいないのが実情なのだ。実力的にフェイトやアルフに戦わせられる相手じゃないのは明らかであり、もしもフェイトとアルフがあの男と戦えば、それこそ一瞬で殺されるだろう。

 戦えば確実に殺されると分かっている以上、フェイトやアルフを戦わせる訳にはいかない。戦えば殺されるのはフェイルも恐らく同じだが、あの男は明らかにフェイルのような『転生者』だけを狙って来ている。

 つまり、本来的にフェイトやアルフは巻き込まれない限りは安全なはずであり、安全圏にいるアルフやフェイトをわざわざ巻き込む理由はないはずだ。

 そして、フェイトやアルフで相手にならない以上、なのはやクロノなどの他の原作メンバーも同じようなものだろう。

 原作メンバーの協力を得たとしても、おそらく単に死人の数が増えるだけだ。

 

 

(私たちの所為なの、かな…)

 

 

 何となくだがフェイルはそう思った。

 自分たち『転生者』は、本来ならこの世界に存在しないはずの人間だと言える。そして、この世界に存在しないはず自分たちを殺しに来たのがアイツらだ。つまりは、自分たちの存在こそが、あの『化け物』を呼び寄せた。

 そう考えたら、自分はこの世界に生まれて来るべきでは―――

 

 

「…姉さん?」

 

 

 気持ちが沈みかけていたところで、フェイトに声を掛けられた。

 その声に現実に引き戻され、ふと見るといつの間にか目を覚ましたフェイトが驚いた顔でこちらを見ていた。

 とりあえず朝の挨拶でもしておくことにする。

 

 

「…おはよう、フェイト」

 

 

 穏やかな声でフェイルは言った。

 最初は驚いたようなフェイトの顔だったが、もう今にも泣きそうな顔になっている。

 

 

「おはようじゃない、よ…。本当に、心配で…」

 

 

 フェイトの声は震えていた。

 確かに自分の姉が片腕を切り落とされ死に掛けたとあれば、フェイトのこの反応も当然だろう。

 残った片方の手でフェイトの頭を撫でながら声をかける。

 

 

「うん、心配かけてごめんね。でも、もう大丈夫だから」

 

「大丈夫なわけないよ!? だって、姉さんの左腕…!」

 

「いいよ、そんなこと。それより、フェイトが無事で良かった」

 

 

 優し気にフェイルがそう言うと、とうとうフェイトは顔をグシャグシャにして泣き出した。

 フェイトの所為じゃないし、別にフェイトの左腕が無くなった訳じゃないんだから泣かなくてもいいと言っても止まらない。

 

 

「だってぇ…うぅ…、ひっぐ…」

 

 

 泣き止まないフェイトをフェイルは自分の胸元に抱き寄せる。

 そうしてどれ程、時間が流れたか。延々と泣き続けるフェイトがようやく落ち着いたときには、両目を泣き腫らして酷い顔だった。

 せっかくの美少女が台無しだが、自分のことをそれだけ心配してくれているということなのだからフェイルとしても悪い気はしない。

 泣き疲れて再び眠ってしまったフェイトを自分が使っていたベッドに寝かせると、自らはベッドから離れ、病室の窓際へと足を運んだ。

 フェイルのデバイスはフェイトとアルフが回収してくれたらしく、すでに彼女の手元に戻って来ている。彼女はカード型の待機状態にあるデバイスを介してアルフに念話を送った。

 

 

『アルフ、今、どこに居る?』

 

『フェイルかい? 病院の売店だけど』

 

『そっか。悪いんだけど病室まで戻って来てくれる? ちょっとこれからのことを相談しt――』

 

 

 相談したい、と言いかけた瞬間だった。

 急に何かの気配を感じたフェイルは、周囲を警戒するように黙り込んだ。

 感じる気配の出所は明らかに病院の敷地内。そして、今も感じるこの魔力の波動はどう考えても―――

 

 

(ジュエルシード!?)

 

 

 フェイルは一気に血の気が引いた。

 病院にいるのは基本的に病人や怪我人などの弱者たちだ。

 もしも、このままジュエルシードに暴走されたら、どんな被害が出るか分かったものではない。

 

 

『アルフ、フェイトの傍についてあげて』

 

『ちょっと待ちなよ、フェイル!? アンタ、まさか――!?』

 

 

 そのままフェイルはアルフとの念話を切断する。

 点滴を引き抜くと、すぐさまデバイスを起動した。

 

 

(こういう結界系の術は、得意じゃないけど…!)

 

 

 一般人への被害を防ぐために封時結界を発動する。

 急いでいたこともあり、差し当たり病院の敷地を囲む範囲で魔力反応を有する物体・生物のみを対象に結界内に封じ込めた。

 これで少なくとも魔力を持たない一般人が巻き込まれることはない。

 

 

「―――」

 

 

 すでに彼女の右手には戦闘モードに切り替えた錫杖型のデバイス『サンサーラ』が握られている。

 左腕の肘から先は無い。だが、もう朧気にしか覚えてない前世の記憶の中で、片腕でありながら『達人』とまで呼ばれるまでになった人間が存在したことを彼女は知っている。

 そして、彼女の技は、その人から教わり、受け継いだものだ。

 だからこそ、彼女は確信できた。

 

 

 ―――私は、きっと戦えると。

 

 

 心の中に闘志という名の炎が宿る。

 彼女は無言のまま、黒いコート状のバリアジャケットを展開すると同時に病室の窓から飛び出していったのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 病院の敷地内でのジュエルシードの発動。

 高町なのはが、その発動の現場に出くわしたのは偶然だった。

 母親である桃子に車椅子を押され、病院の中庭に散歩に出掛けている時、急に病院全体が妙な結界に隔離されたのだ。

 

 

「…!?」

 

 

 もちろんフェイルが展開した封時結界だが、なのはにはそんなことは分からない。

 しかもフェイルが展開した封時結界は、魔力反応を有する存在だけを結界内に隔離して閉じ込めるものだった。つまり、現在、母親である桃子から引き離され、なのはだけが結界内に隔離された状態になっている。数日前の虐殺事件の時と同じような結界が自分の周囲に張られ、しかも母親と引き離されたことで、なのははの心は一瞬で恐怖に塗りつぶされた。

 

 

『Master! Please, Set up me!(マスター、私を起動してください!)』

 

 

 赤色の宝石が、己が主人を叱咤する。

 何とかデバイスを起動し、バリアジャケットを展開するなのは。

 

 

「…! あれは…!?」

 

 

 以前にも遭遇したことのある黒い影―――ジュエルシードの思念体だ。

 そして、その黒い影はあろうことか、一番手近な所に居たなのはに向かって襲って来た。

 しかし、なのはは恐怖に竦んだまま、その場から一歩も動けない。

 

 

『Protection.』

 

 

 レイジングハートが張ってくれたシールドに助けられた。

 

 

『Master! Pease, Fight or Escape!(マスター!戦ってください!さもなくば逃げて!)』

 

「ダメ…身体が震えて…」

 

 

 戦うことはおろか逃げることすら出来ないでいるなのは。

 なのは自身ですら、まさに絶体絶命だと思ったその時だった。

 

 

「―――えッ!?」

 

 

 凄まじい勢いで横合いから割って入ってきた誰かが居た。

 その誰かは、黒いコートのバリアジャケットを翻しながら、なのはを庇うように飛び込んできた。

 

 

 ―――ガキィン!

 

 

 攻撃を受け止めた金属音。

 ジュエルシードの思念体の攻撃とその誰かの持つデバイスとが接触した瞬間、火花が散った。

 その誰かは錫杖型のデバイスに力を込め、ジュエルシードの思念体を押し飛ばした。

 

 

(誰…!?)

 

 

 いや、おそらく魔導師だということは分かる。

 その手に握られている黒塗りの錫杖はおそらく魔法のデバイスだ。

 おそらく歳の頃はなのはと同じか、もう1~2歳くらい年上だろう。一本に束ねた金色の髪と、黒いコートを翻しながら、なのはの目前に飛び込んで来た女の子の魔導師。

 その魔導師はなのはのことを一瞥だけすると、ジュエルシードの思念体と戦うために突っ込んで行った。

 

 

(速い…!!!)

 

 

 ジュエルシードの思念体である黒い影と、名前も知らない魔導師の戦い。

 その戦いを目の当たりにしたなのはは思わず息を呑んでいた。複数のジュエルシードから力を得ているのか、今回の黒い影はなのはが以前に戦ったものより遥かに強い。

 しかし、それと戦っている女の子の魔導師は、そんな黒い影と比べても明らかに格の違う強さだった。打ち、受け、突き、払い―――彼女の錫杖が相手と衝突する度に火花が散るように見えた。

 だが、それは摩擦で削れた金属によって生じた火花ではなく、彼女の錫杖に帯びた魔力が衝突によって弾ける様子がそう見えているだけだ。まるで蠍座のアンタレスを思わせる赤く酔うような輝きを放つ魔力光。その赤い光が舞い散る様子。その光をまき散らしながら、まるで舞うように戦う彼女の姿は本当に綺麗だった。

 

 

(あの子、左腕が…)

 

 

 目の前で戦う少女の左腕が存在しないことになのははようやく気付いた。

 しかし、彼女の戦いはそんなハンデの存在など感じさせない程に冴え渡っている。少なくとも、なのはが彼女と戦っても勝てるとは到底思えなかった。

 自分とそう年齢の変わらない女の子で、たとえ片腕であっても、あそこまで戦える者が存在することをなのはは初めて知った。

 そして、その事実は、これまでのなのはの人生の中で最大の衝撃となってなのはの心を打ち抜いた。

 

 

「~~~ッ!!」

 

 

 言葉にならない程の衝撃と感動がなのはの胸を震わせていた。

 彼女の戦う姿に、なのはは一瞬で心を奪われた。まるで一切の光の無い暗闇の中で突然に現れた輝く星を目の当たりにしたかのような気持ちであり、彼女の存在自体が奇跡だとしか思えなかった。なのはは呼吸することすら忘れ、目の前で戦う少女に見入っていた。彼女の戦う姿を一瞬たりとも見逃したくない。目を離すことなど出来ようはずもなかった。そして、なのはが見つめる先で、片腕の少女はなのはの想像を超えた戦いを魅せた。

 

 

「ッ!!」

 

 

 鞭のように繰り出された思念体の触手を掻い潜ると同時に横に一閃。

 インパクトの瞬間に錫杖に帯びた魔力が赤い火花となって弾け、ジュエルシードの思念体は凄まじい勢いで吹っ飛ばされた。

 火花のような赤い燐光が舞い散る中を、少女は吹っ飛ばした思念体へ追撃せんと疾駆する。その速さの前には最早、瞬きすら許されない。それ程までに彼女は速かった。

 間合いを詰める彼女へとカウンター気味に幾重もの触手が繰り出されるが、彼女にはそれが全く当たらない。

 

 

(片腕が無いはずなのに…!?)

 

 

 彼女の左腕の肘から先は確かに失われている。

 だから、左手で持つ代わりに左脇に挟んだり、左腕の僅かに残った部分を支えにしたりすることで、技の動きを補っている。

 よく棒術においては棒は手足の延長として扱えと言われることが多いが、彼女の動きはまさにそうだった。

 左腕の僅かに残った部分すらを巧みに使い、振るわれる彼女の錫杖はまさに変幻自在の動きを見せる。

 

 

 ―――その時だった。

 

 

 ズガガガガ!!!

 

 

 予想外の方向から撃ち込まれるいくつもの魔力弾。

 黄色い輝きを放つ魔力弾が叩き込まれ、ジュエルシードの思念体は後方に倒れ込んだ。

 

 

「姉さん、大丈夫!?」

 

 

 片腕の少女とそっくりな顔をした女の子が、空から降りて来た。

 先程の言葉からすると、空から降りて来た女の子はどうやら彼女の妹らしい。

 新たに現れた女の子も明らかに魔導師であり、その手には長斧型のデバイスが握られていた。

 並んで立つ二人は、倒れたジュエルシードの思念体の方を油断なく見つめている。

 

 

『ギッ…グル…』

 

 

 まだ完全に無力化できていない。

 起き上がったジュエルシードの思念体は、襲い掛かろうとこちらをジリジリと窺っていた。

 長斧型のデバイスを持った方の魔導師がデバイスを構え、前に出ようとする。しかし、片腕の少女は手に持った錫杖を彼女の前に突き出すことでそれを制した。

 

 

「手助けは無くていいよ、フェイト。次の一撃で――…」

 

 

 そこで彼女は一度、言葉を切る。

 そして、デバイスである錫杖を構えなおし、改めて前を見据えた。

 

 

「―――終わらせる!」

 

 

 その言葉と共に彼女は地を蹴った。

 眼で追うことすら困難な圧倒的な速さのはずなのに、踏み込んだ音すらしない。

 極限をこえて研ぎ澄まされた『無音』の一撃。その一撃は、なのはの目にはまるで一筋の赤い閃光が奔ったかのように見えた。

 なのはが気付いたとき、彼女の一撃がジュエルシードの思念体を刺し貫いた後だった。

 

 

『ギッ…グゴ…』

 

 

 断末魔の呻き声を漏らしながら、ジュエルシードの思念体は地面に崩れ落ちる。

 地面に倒れた思念体は、黒い煙となって消えていく。やがて元の怪物の姿が完全に消えたとき、そこには青い宝石が4つ転がっていた。

 

 

「…ジュエルシード封印。シリアルNo.04、10、18、20」

 

 

 ジュエルシードの封印を終えた片腕の少女が、こちらへと振り返った。

 振り返った少女のルビー色の瞳と目が合った瞬間、無意識になのはは駆け出していた。

 

 

「―――待って下さい!!!」

 

 

 何を話したらいいかも分からないままに、なのはは相手を呼び止めていた。

 ただ、なのはは知りたかった。片腕でありながら、これまで自分が出会った誰より強く、これまで自分が出会った誰よりも勇ましく戦う『本物の英雄』の名を―――

 本来の『原作』の主人公である高町なのは―――恐怖に竦んで立ち止まったままだった少女の物語は、この時から再び動き始めたのだった。

 

 

 

 




あとがき:

 ネームドの『転生者』のキャラはもう2~3人くらい登場する予定ですが、設定上、ここで描いているフェイル・テスタロッサが、本作における『転生者』の中では、心技体の全てにおいて最強のキャラクターになります。
 片腕を失ったというハンデすら乗り越えてそれでも戦い続ける不屈の英雄であり、転生した先がこの作品でさえなければ、彼女は英雄譚の『主人公』を張れていたんじゃないでしょうか? 片腕を失っても、それでも戦い続ける英雄とか個人的には脳汁ドッバドバですね(恍惚)。
 もしも自分がここで描いたような彼女の戦いを現実に目の当たりにしたら、多分、感動の余り号泣・絶叫しているかもしれません。今回の彼女の戦闘描写は、そのくらいのつもりで書きました。物語上の役割で言うなら、なのはが立ち直る切っ掛けになるキャラクターであり、なのはや主人公達がその背を追いかけることになるキャラクターということになります。
 もっとも、そんな彼女が居たところで赤屍には絶対に勝てないんですけどね…。しかし、勝てそうにない強敵や絶望を前にした時こそ、その人の本当の『勇気』や『知恵』、『仲間の存在意義』なんかを試されると思うんですよ。赤屍に命を狙われるとか、普通に考えたら絶望な案件ではありますが、転生者サイドの人間が生き残ることの出来る着地点は一応想定はしています。
 ただし、想定した着地点に辿り着くには、普通の人間には到底出来ないようなことを転生者サイドの人間に要求することになる訳で、それが出来なければ佐倉さんもフェイルも全員死にます。今のところ想定した着地点に辿り着ける可能性があるとしたら唯一フェイルだけですが、物語のパターン的に考えるならば彼女は途中で死ぬのもアリなキャラなんですよ。いつまでも主人公達の先を行き続けて、意外なところでコロっと死んで、主人公達の中で生き続けるポジションというか…(実際にどうするかは考え中ではありますが)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。