『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話   作:世紀末ドクター

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第十六話 『リリカルなのは』の世界で その15

 わざわざ部屋の窓から抜け出して海鳴大学病院へ向かった俺たち三人。

 道中は何事もなく病院に到着した訳だが、なんとそこでジュエルシードが暴走する現場にもろに出くわすことになった。

 俺達が病院に着くなり、発動された封時結界。そして、自分たちの居る場所よりも少し遠い距離に見える『黒い影』の怪物。

 

 

「ちょっ!? まさか、あれ!?」

 

 

 どう考えてもジュエルシードによって生み出された怪物だった。

 俺たちの知っている『原作』では病院でジュエルシードが暴走するなんてことは無かった。

 だから、俺としては「まさか」という気持ちの方が強かったし、全く心の準備などといったものも出来ている訳がなかった。

 しかし、封時結界が張られているということは、誰か他の魔導師がこの場に存在するはずだった。

 俺たちは物陰に隠れながら黒い影の怪物の方を窺っていたのだが―――

 

 

「高町なのは…!?」

 

 

 そこには黒い怪物に襲われそうになっている少女が居た。

 栗色の髪の毛を両サイドに纏め、白いバリアジャケットに身を包んだ魔導師の少女。

 その魔導師は間違いなく本来の『原作』の主人公であり、本来の彼女であれば、苦戦はしても倒せない相手ではないはずだと思われた。

 しかし、現在の彼女は恐怖に竦んでいるのか、明らかに精彩を欠いており、素人の俺から見ても碌な動きが出来ていなかった。

 

 

「危ない!!」

 

 

 ジュエルシードの思念体に襲われ、まさに絶体絶命な状況の主人公。

 しかし、初めて目の当たりにする本当の修羅場の前に、俺と佐倉は動けないでいた。

 俺たちの中で動くことが出来たのはユーノだけだ。そして、ユーノが飛び出そうとした瞬間に、その少女は現れた。

 

 

「「「―――ッ!!!」」

 

 

 ユーノよりも圧倒的な速さで飛び込んできた女の子の魔導師。

 その少女は、一本に纏めた金色の髪と黒いコート状のバリアジャケットを翻しながら、高町なのはを庇うように飛び込んできた。

 おそらくは魔法のデバイスである黒塗りの錫杖。その錫杖を彼女はまるで自分の手足のごとく自在に操っている。

 

 

「あれが…昨日の女の子…?」

 

「凄い…。あの子、片腕が無い、のに…」

 

 

 信じられない、というユーノと佐倉の驚いた表情。

 だが、二人の驚きは当然だろう。何しろあの魔導師の少女にとって、片腕を失ったのは昨日の話である。

 普通それだけの大怪我を負わされたら、精神的にも肉体的にも、戦えなくなっても全く不思議じゃない。

 それなのにあの少女は、命の危険がある修羅場に何の迷いもなく飛び込んできたのだから。

 

 

「―――」

 

 

 俺は言葉を発することすら出来ず、彼女の戦う姿に見入っていた。

 彼女の振るう錫杖の打突の瞬間に弾ける火花のような赤い光。その赤い燐光の舞い散る中を、まるで舞うように戦う彼女の姿。

 その余りにも清廉な姿に、俺は完全に心を奪われていた。

 

 

「…おーい?」

 

 

 顔の前で手を振りながらの佐倉の呼び掛け。

 どうやら完全に上の空だったらしく、その声で俺はようやく我に返る。気づいた時には『黒い影』の怪物は片腕の少女に倒されていた。

 そして、彼女がジュエルシードの封印を終わらせたところで、真っ先に彼女に声を掛けた者がいた。

 

 

「―――待ってください!!!」

 

 

 高町なのはが片腕の少女を呼び止めていた。

 その少女のすぐそばには、フェイトもいる。

 片腕の少女の方がフェイトよりも一回り身長が高かったが、並んで立つ二人は容姿的には本当にそっくりだった。

 おそらく二人ともがアリシアのクローンであり、遺伝子的には同じなのだから当然ではある。

 

 

(つーか、高町なのはもこの病院に居たのか…)

 

 

 考えてみれば高町なのはのことも予想して然るべきだった。

 だが、この余りにも混沌とした状況は一体なんだ。この状況で俺達が彼女たちの前に出ていくというのは、選択肢的にアリなのか。

 正直、状況の推移が全く読めず、俺たちは物陰から様子を窺うことしか出来ずにいたのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 一方、高町なのはに呼び止められた二人の魔導師。

 そのうちの一人であるフェイルの方も、現在の状況に内心でかなり戸惑っていた。

 こんなところで『原作』の主人公である高町なのはに出会うとは思っていなかったからだ。

 

 

 

「あ! ま、待って……私、なのは! 高町なのは! 貴女たちの名前を教えてくれますか!?」

 

 

 自分の名前を名乗り、フェイル達の名前を訊ねる高町なのは。

 フェイルは原作の知識から彼女のことは知っていたが、フェイトの方は知らない。

 警戒するようになのはに向けてデバイスを構えるフェイト。フェイトからすれば敵か味方かも分からない初対面の魔導師であり、彼女のこの反応は妥当なものだろう。

 姉であるフェイルが取り返しのつかない重傷を負わされたこともあってフェイトの方はかなり神経を尖らせており、むしろ敵意すらを高町なのはに向けていた。

 

 

「アナタは私たちの敵…?」

 

 

 敵意すら混じった警戒を向けられ、なのはは思わず身を竦ませる。

 なのはは思わず後退りしそうになったが、負けじと踏み止まるとフェイトに向かって答えた。

 

 

「敵なんかじゃ…!」

 

「私達の目的も知らないのに? 軽々しく言い切れる理由は何…?」

 

「だ、だったら、貴女達のことを教えてよ!? 貴方達がどんな娘なのか! 何処に住んでて、何処の学校に行ってて…それから、名前!」

 

 

 高町なのはと同じくらいの年齢の女の子なら当然持っているべきものだろうし、同じ年頃の女の子相手になら妥当な質問だろう。

 だが、生憎とフェイトもフェイルも、そうした普通の境遇の相手ではない。だから、この場合においては、なのはの問い掛けは完全な逆効果として働いた。

 今のフェイトの目には、なのはという存在は、自分とは住む世界の違う何の関わりもない存在としてしか映っていなかった。

 

 

「「……」」

 

 

 なのはのことを見つめるフェイトの冷たい視線。

 フェイトとなのはの二人の間で、お互いに睨み合うような状態になる。

 しかし―――

 

 

 シャラン!

 

 

 不意に鳴らされたその涼やかな音に二人ともが気を逸らされた。

 フェイルが錫杖の石突を地面について鳴らした音であり、二人ともがフェイルの方を見る。

 

 

「フェイト、相手のことをそう怖がらせるものじゃないよ」

 

「で、でも…姉さん」

 

「いいから」

 

 

 フェイルはフェイトを下がらせると、なのはと向き合った。

 

 

「高町なのは…って言ったっけ? 名乗られたからには、まずはこっちも名乗ろうか」

 

 

 同じ金色の髪と、同じ赤い瞳をした二人の魔導師。

 フェイルとフェイトの二人は自分の名前を名乗った。

 

 

「フェイル・テスタロッサ。それが私の名前だよ。そして、こっちが…」

 

「…フェイト・テスタロッサ」

 

 

 さっきまで敵意混じりの警戒を向けていただけにフェイトの方は少しバツが悪そうだ。

 

 

「やっぱり姉妹なの?」

 

「まあね。ちょっと事情があってジュエルシードを集めに来たんだけど…もしかしてキミも集めてるのかな?」

 

「え? いや、私の場合はユーノ君がジュエルシードを回収するのを、1度だけ手伝ったっていうだけなんですけど…。で、でも、ユーノ君から聞いたけど、それってとても危ないものらしいんです。回収したらユーノ君に返した方が良いんじゃないかなって…」

 

 

 彼女の言っていることは正論である。

 しかし、フェイルとフェイトからすると、その正論には素直には頷けない。

 

 

「悪いけど、元の持ち主であったとしても渡せない。ジュエルシードを集めて来いって、母親からの『お使い』なんだ。それに私としても『ある男』と次に戦うときのために自分の戦力の底上げが必要になったから、そのためにも渡すわけにはいかない」

 

「ある男…?」

 

 

 フェイルが口にした『あの男』という言葉になのはが反応する。

 彼女が一体誰のことを言っているのか、なのはには思い当たるものがあった。

 30人近くの魔導師の子供たちを殺してのけ、なのはに強烈なトラウマを刻み込んだ最強最悪の殺人鬼。

 

 

「…! 姉さん、腕から血が出て…!」

 

「大したことないよ。少し傷が開いただけ」

 

 

 フェイルの失った左腕に巻かれた包帯に血が滲んでいた。

 つまり、彼女が左腕を失ってから、そう時間が経っていないということだ。

 なのはの頭の中に朝のニュースで報道されていた内容が思い出される。たしか重症でどこかの病院に搬送された子供がいるという話だった。

 つまり、目の前のこの女の子は―――

 

 

「まさか…あの、黒い男の人と、戦った、んですか…?」

 

 

 震える声でなのはは訊いた。

 なのはの心に深く刻み付けられたトラウマ。

 その完全に怯え切った彼女の様子を見たフェイルは、ある程度の事情を察する。

 

 

「そっか…。やっぱり、キミもアイツに会ったんだ」

 

 

 赤屍と名乗ったフェイルの片腕を切り落とした男。

 そして、おそらくフェイルと同じ『転生者』を殺すことを目的に行動している二人。

 あの絶望的な殺人鬼を目の当たりにしたというのであれば、彼女のこの異常な怯え方も理解できる。

 しかし、あの二人組の目的を考えれば、なのはやフェイトのような原作メンバーは、本来的には狙われる標的にはならないはずだ。

 だからフェイルは、なのはに言った。

 

 

「…大丈夫だよ。アイツはキミやフェイトのことを、積極的に狙うようなことは多分しない。アイツらが狙っているのは、私みたいな『本来なら存在しないはずの人間』だけだよ」

 

「? どういうことですか…? 本来なら存在しないはずの人間って…」

 

「ゴメン、詳しいことは言えない。だけど、少なくともキミやフェイトは、アイツと無理に戦おうとする必要はないし、戦わせるつもりもない。アイツと戦わなければならないのは、この中だと私だけだ」

 

 

 フェイルのような転生者にとって、もはや赤屍と戦うことは避けられない。

 フェイルのように明確に命を狙われて、戦いが避けられないというなら仕方ないが、なのはやフェイトのような原作メンバーはフェイルとは違う。

 ほぼ確実に死ぬと分かっているような戦いに、彼女たちを付き合わせるつもりはフェイルには無かった。だが、だからと言って、大人しく殺されてやるつもりも無い。

 そもそも足掻かなければ可能性すら生まれないのだ。たとえ可能性がゼロだとしか思えなくても、自分の出来ることをするだけだ。

 

 

「勝てる…と思ってる、んですか…? 左腕…だって…無いのに…」

 

「勝ち負けは知らない。それが避けられないなら、私は戦うだけだよ」

 

 

 そのルビー色の瞳に強い意志を宿しながらフェイルは答えた。

 片腕を失う―――普通に考えたら勝てるどころか、戦うこと自体が難しいような状況だろう。

 そんな状況にあって、なお諦めずにいられる不屈の意志。片腕を失っていながら、それでもなお立ち向かう意志を捨てない。こんな強さを持っている人間をなのはは初めて見た。

 彼女の言葉は決して口先だけではない。なのはが碌に動けないでいる中、真っ先に駆け付けてジュエルシードの怪物と戦ったのは他でもない彼女だ。

 改めてなのははフェイルと名乗った女の子のことを見る。自分とそう年齢の変わらないはずなのに、彼女のことが余りにも大きく見えた。

 なのはにとって、目の前の女の子は、まるで物語の中から抜け出して来た不屈の英雄そのものだった。

 

 

「―――…」

 

 

 フェイルの答えを聞いたなのはは愕然としたまま言葉を発することすら出来ずにいた。

 そして、なのはとの会話を終えたフェイルは、すぐ傍に控えていたフェイトに声をかけた。

 

 

「フェイト、そろそろ行くよ」

 

「行くってそんな…昨日、大怪我を負わされたばかりなのに…」

 

「だけど、私達はこの世界の法律的には不法入国者な訳でしょう。いつまでもこの病院に居る訳にもいかない」

 

 

 治療費は踏み倒すことになるけどね、と苦笑しながらフェイルは付け加える。

 実際、日本の法律的に考えた場合、フェイルたちが不法入国者という犯罪者に相当することは間違いない。

 警察に身分のことを追求されるとマズイのは確かであり、適当なタイミングで病院から脱走することは最初から決めていたことだ。

 

 

「二人とも大丈夫だったかい…!?」

 

 

 すると、また一人、別の誰かが空から降りて来た。

 犬を思わせる耳と尻尾がついた橙色の髪の女性―――フェイトの使い魔のアルフだ。

 フェイトとフェイルの二人の傍に着地したアルフは、当然、近くにいる高町なのはの存在にも気付く。

 

 

「…誰だい? そこの白い魔導師は…?」

 

「この世界の魔導師らしいよ。自称・私達の敵じゃないらしい」

 

 

 アルフに答えると、フェイルは封時結界を解除するべく錫杖の石突を地面について音を鳴らした。

 その音が鳴ったと同時に周りの空間にヒビが入った。バリン、と鏡のように世界が砕け、光景を貼り付けたガラスの欠片が、ゆっくりと踊りながら舞い落ちていく。

 全てのガラスの欠片が落ちて結界が完全に解除されるまで、まだもう少しだけ時間がある。その時間を使って空間転移をすれば、周囲にバレることはないだろう。

 

 

「…行くよ、フェイト、アルフ」

 

 

 転移術式を発動させるフェイル。

 そして、彼女たちが転移しようとする直前、なのははフェイルの後ろ姿に向かって叫ぶように訊いていた。

 

 

「わ、私にも――!!!」

 

 

 まるで物語の中にしか存在しないような不屈の英雄。

 今の自分に、とてもこの人と同じことが出来るとは思えない。

 しかし、それでもたった今見た彼女の戦う姿は、なのはの目に強く焼き付いた。

 まるで蠍座のアンタレスを思わせる赤く燃える輝きを放つ彼女の魔力光。その赤い燐光の舞い散る中を、まるで舞うように戦う彼女の姿。

 もしも、魂が燃える色が目に見えるのなら、きっとあんな色をしているのだろうとなのはは思った。

 

 

「―――私も、アナタみたいに戦えるようになれますか!!?」

 

 

 なのはの叫ぶような問い掛けに動きを止めるフェイル。

 そして、フェイルは肩越しに後ろを振り返るとなのはに言った。

 

 

「さっきも言ったと思うけど――…」

 

 

 僅かに苦笑するようなフェイルの表情。

 吹けば飛ぶような薄い笑みだったが、そこには確かな優しさと慈しみが感じられた。

 

 

「キミは無理に戦わなくてもいい。特にキミがあの殺人鬼と戦うなんてただの自殺行為でしかないし、今のキミが出来るとしたらジュエルシードの封印くらいだよ。それにしたって、私達や時空管理局なんかが居る以上、絶対にキミがやらないといけないって訳じゃない」

 

 

 本当の正義や勇気は、自分も深く傷付く。

 取り返しがつかないくらいに傷付くくらいなら、別に逃げても良い。

 フェイルの場合は、単に逃げることが出来ないだけだ。

 

 

「だけど、そうだね…。今回みたいにジュエルシードが暴走したようなとき、私やフェイトが必ず駆け付けられるとは限らない。だから、もしも、キミがその魔法の力で何かをしたいと思うのなら、ジュエルシードの回収だけは手伝ってくれると助かるかな」

 

 

 最後にそう言い残し、フェイル達はその場から立ち去ったのだった。

 

 

 




あとがき:

 この作品は元々は単発ネタで、第一話以降の続きを書くつもりは最初は無かったです。
 そのため特典持ちのチート転生者を善悪問わずに皆殺しにして終わりにするつもりでしたし、それ以外のことは何も考えていませんでした。


「いや、待てよ? もしかしたら、この絶望的な状況でも諦めずに頑張る奴も何人かいるんじゃね?…っていうか、この状況でも諦めずに最後まで戦い抜ける奴がいたら、どんな結果に終わろうが間違いなく『英雄』だろ、常識的に考えて」


 そんな風に考え直して、何とか生き残ろうとする転生者たちに焦点をあてて続きを書いてみたということになります。しかし、今回のエピソードを書いていて思いましたが、どう考えてもフェイルが主人公ですな。いっそのこと、コイツを主人公にして書き直そうかな…。

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