『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話   作:世紀末ドクター

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第十七話 『リリカルなのは』の世界で その16

 

 

 高町なのはとフェイト達の会話。

 そして、その会話を終えて、その場から去って行ったフェイト達。

 俺たちは彼女達の会話を物陰に隠れながら盗み聞きしていただけだったが、その会話内容はほぼ全て聞き取ることが出来ていた。

 

 

「…ねえ、今の聞いた?」

 

「…ああ」

 

 

 先ほどの彼女たちの会話の内容。

 その内容からすると、さっきの片腕の女の子は、やはり例の殺人鬼と交戦していたらしい。

 そして、彼女の言っていた『本来なら存在しないはずの人間』というのは、間違いなく、俺たちのような転生者のことを指しているのだろう。

 やはり、例の殺人鬼が、本来の『原作』には存在しない転生者だけを狙って来ていることは間違いない。

 

 

「…だけど、あの子、ホント凄かったね」

 

 

 フェイトに姉と呼ばれていた片腕の女の子。

 彼女の戦う姿には、見ただけで全身が総毛立つかのような清廉さがあった。

 魔導師の平均の強さというのを知らないから正確なことは分からないが、彼女は相当に強い部類に入っていると思う。

 もっともあくまで素人の印象だし、実際のところ彼女が魔導師としてどのくらいのレベルなのかをユーノに聞いてみることにする。

 

 

「いや、あの子は本当に格が違う…。魔導師としては間違いなく最強クラスだと思う」

 

 

 管理局が設定している魔力ランク的には、間違いなく天才レベルの魔導師。

 あるいは、あの殺人鬼に殺された他の魔導師たちも魔力ランク的には彼女と同等のレベルだったかもしれない。

 だが、殺された他の魔導師と、先程の女の子を比べたならば、その格の違いは歴然だった。例えるならば本物のダイヤモンドとガラス玉であり、ユーノから見てもその輝きの違いは一目瞭然であった。

 彼女の凄さは単純な戦闘能力だけではない。片腕を失った状態で、それでもなお立ち向かう意思を捨てない。

 そんな不屈の心の体現とも言うべき存在であり、彼女は紛れもなく尊敬に値する『英雄』だった。

 

 

「ちなみに佐倉は、さっきの子と戦ったら勝てるのか?」

 

「多分無理…っていうか、はっきり言って勝てる気がしないよ…」

 

 

 特典を貰っている佐倉から見ても、先程の彼女は別格だと言う。

 某農民剣士の秘剣と某新選組一番隊の隊長の秘剣をレアスキルとして持っている佐倉だが、それ以外にも魔導師としてのアーティファクトや魔力も彼女は保有している。

 ユーノの話では魔力ランク的には佐倉もAAA~Sランクだそうであり、その佐倉が言う以上、さっきの女の子は本当に転生者の中でも別格なんだろう。

 

 

「多分だけど、あの子は、前世からずっと鍛え続けて来た人だと思う…。身体や技だけじゃなくて、その心も…」

 

 

 特典として与えられた力とは無関係の生来の人間的な素質と地力からして彼女は違うと佐倉は言った。

 神様転生系の作品においては、『元ニートや普通の一般人が異世界に転生してチート能力で云々~』というパターンが多い。

 だが、普通に考えれば当然のことだが、転生する前の人間的な素質と地力が違えば、同じ能力を与えられても差が生じるのは当たり前だ。

 全国優勝経験がある空手歴30年の達人と、碌に喧嘩もしたことのない糞ニートが、同じ能力を与えられて転生したとしたら、どちらが強くなれるかなど簡単に分かる。

 そして、先程の片腕の女の子の場合は、間違いなく前者側の種類の人間だとは俺も思う。

 

 

 ―――フェイル・テスタロッサ―――

 

 

 彼女の戦う姿は、かつて自分が幼い頃に憧れた物語のヒーローたちを思い起こさせるのに十分過ぎるものだった。

 何故、英雄は英雄なのか。彼女の戦う姿を通して、俺は、そうした理由をまざまざと思い知らされていた。

 

 

「何とかあの子も、こっちの仲間になってもらいたいところだよね…」

 

「そうだな…」

 

 

 あらゆる意味で、転生者の中でも別格の強さ。

 戦力的に考えるなら彼女を仲間にしないという選択肢は存在しない。

 この場で接触して、俺たちと協力してもらえるように出来ていればベストだったが、もう既に彼女たちはこの場を離れた後だ。そうである以上、俺たちがいつまでもここにいても、出来ることは何も無い。

 

 

「ひとまず、私らもここから帰ろっか」

 

「ああ…」

 

 

 佐倉に促されて俺たちは病院を後にした。

 しかし、その時の俺たちは気付かなかったが、どうやら先程の現場に居合わせていた者が俺たち以外にも一人存在していたらしい。

 現時点での生き残りの転生者たちの中で、俺達や時空管理局との共闘すらを最後まで拒み、唯一フェイル・テスタロッサと戦うことだけに異常な執着を燃やした男。

 もちろんアイツも例の殺人鬼に狙われる対象だった。だが、アイツはそれを分かった上で、自分の命を狙って来ているだろう殺人鬼のことさえもそっちのけで、敢えて彼女と戦うことだけに拘った。

 強烈な出会いは、その人間の運命を変える。だが、それが必ずしも正しい方向に変わるとは限らない。この男の存在を通して、俺は後にそのことを思い知ることになるのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 その病院の屋上で、彼は呆然としたまま立ち尽くしていた。

 すでにフェイトも高町なのはもユーノも、その現場からは離れており、その場に残っているのは彼一人しかいない。

 その場に立ち尽くしている彼の頭の中には、さっきのジュエルシードの怪物と戦う少女が姿が繰り返しリピート再生されていた。

 

 

 ――フェイトに姉と呼ばれていた片腕の女の子――

 

 

 まるで魂が燃えるかのような輝きを放つ魔力光。

 普通の人間なら絶望するような状況の中ですら、なおも諦めず、輝きを失わずに戦う彼女の姿。

 その姿は、かつて自分が幼い頃に憧れた『本物の英雄』だとしか思えなかった。

 

 

「なんで…」

 

 

 呆然としたまま、彼は呟いていた。

 前世での幼い頃、彼もまたテレビの中の英雄たちに憧れていた。

 何か親に買ってもらえるときは、必ず彼らの玩具をねだったし、幼稚園で将来の夢を聞かれたときには、『正義の味方!』と臆面もなく答えていた。

 

 

「なんで、あんな奴が…」

 

 

 作り話じゃん、とからかう奴がいた。玩具を売るためのウソだよ、と諭す奴もいた。

 ウソでもなんでも構わなかった。ただ、彼らが褒めてくれるような人間になりたいと、そう思っていたはずだった。それが変わったのは何時だったろうか。

 

 

「なんで、あんな奴がいるんだよ…?」

 

 

 ある時、同じ幼稚園のやつと喧嘩になった。「毎回倒される怪人とかかわいそうだろ」とか、そういう事を言っていた。子供の浅知恵だ。倒される理由は毎回きちんとあったけど、そういう事を考えずに、ちょっとかわいそうに思っただけだったんだろう。

 ただ、その時の彼は、母親が新たに生まれた妹の育児に掛かり切りでムシャクシャしていた。だから、その場に居て仲の良かった二人と一緒にそいつをとっちめた。突き飛ばして尻もちつかせたとか、玩具を奪って砂場に投げ捨てたとか、そんな程度のことではあったが。

 そいつは泣き出した。友達二人は「ざまあみろ」と言って帰っていった。自分も帰ろうと思って、最後に一度だけ振り向くと、夕日の中、公園で泣いているそいつと自分しか、辺りには居ないことに気づいた。辺りを見回しても大人は誰も居なかった。

 そうして、立ち尽くしている間に、彼は、ふと、気づいた。

 

 

 ―――自分は、怪人で。ヒーローは来なかったのだ、と。

 

 

 それから彼は、『彼ら』を一切見なくなった。

 最初こそ心配されたが、『卒業』したんだろう、ということで、そのうち気にもされなくなった。

 それからの彼の人生については、特筆すべきことはない。言われたことを言われたままにやった。特段頭が良かったわけではないが、サボりもしなかったので家族から文句を言われることも無かった。

 

 

 ―――ただあの時、あの場所で、『彼ら』は来なかった。

 

 

 その空白をずっと埋める事が出来ないまま、高校生の夏に、彼は一度死んだ。

 ぼんやりと横断歩道を渡っていた時に、信号無視の大型車にはねられて、即死だったそうだ。

 最後まで、彼の前にはヒーローは来なかった。この世にヒーローは存在しない。

 だったら、さっきの『本物の英雄』だとしか思えない少女は一体何だ。

 

 

「なんで、あんな奴がいるんだよ…? だって、ヒーローは居ないんだろう…?」

 

 

 死んだ後、神様だとか自称してる奴に会った。

 転生するときに、何でも好きな特典を与えてくれるとソイツは言っていた。

 正義と悪の闘争の世界で、英雄の内の一人に転生することも可能だとソイツは言ったが、彼はそれを断った。

 

 

 ―――彼が選んだのは英雄ではなく、怪人。

 

 

 転生した後、彼が目を覚ました場所は、どこかの次元世界にある違法研究施設。

 そこで生み出された実験体として―――まさしく彼は『怪人』として転生していた。怪人としての彼の姿は、皮肉にも彼の一番好きだった怪人の姿をモチーフにしたものだ。白銀のボディと昆虫のバッタを彷彿とさせる緑の複眼を持ったマスク。シリーズ初の『悪の仮面ライダー』としてデザインされた仮面ライダーBLACKにおける最強の宿敵。

 

 

「……あの日、俺は怪人で。『彼ら』は、あの子を助けに来なかった。彼らは、居ないんだ。そうでなきゃ、ウソだろう…?」

 

 

 ある日、研究施設に時空管理局の武装局員の連中が踏み込んできた。

 彼は局員の誰にも負けなかったが、戦闘の余波で研究施設は壊滅した。

 それ以来、彼は時空管理局にも指名手配されており、いくつもの次元世界を渡り歩きながら、時空管理局の魔導師とも何度か交戦した。

 武術や格闘技なんて上等なものは彼には無い。その怪人としての身体能力に物を言わせて暴れるだけだ。しかし、そんな雑な戦い方であっても、これまでに戦った者の中には、怪人である彼を倒すことの出来た者は誰もいなかった。それどころか、どいつもこいつも片腕や片足の骨を粉砕してやったくらいで簡単に諦める奴ばかりだった。

 この世界にヒーローはいない。だからこそ、彼は転生しても『英雄』ではなく『怪人』を選んだ。それなのに、彼はかつて自分が憧れた『本物の英雄』だとしか思えないような人間に出会ってしまった。

 

 

 ―――どんな困難や絶望にも屈せずに戦い抜いた希望の象徴たち―――

 

 

 彼女の戦う姿に『彼ら』の姿が重なって見えた。

 彼女の存在によって、自分の根幹が揺らぐのを感じた。

 だから、否定するしかなかった。もはや自分を含めた転生者たちの命を狙う殺人鬼のことすらどうでも良かった。

 ただ、自分の全てをかけて彼女と戦わなければ、自分が自分でいられなくなると確信した。

 

 

「…そうだ。俺は、怪人、バッタ男だ」

 

 

 ―――こうして、フェイルにとっては、ある意味で赤屍よりも厄介な敵が誕生していたのだった。

 

 

 




あとがき:

 今回は転生者での新キャラ登場。
 彼のコンセプトを一言で表現するならば『ヒーロー不在』の呪縛にとらわれたキャラクターですかね。
 この世にヒーローはいない。だからこそ、彼は転生しても『英雄』ではなく『怪人』を選んだ。それなのに、彼はかつて自分が憧れた『本物の英雄』だとしか思えないような人間に出会ってしまう訳ですよ。
 かつて自分で英雄を否定してしまったからこそ、彼女のことも否定せざるを得ない。それゆえに自分の命を狙って来ているだろう赤屍のことさえもそっちのけでフェイルと戦うことにのみ執着する、という感じのコンセプトでキャラ設定してみました。
 ヒーローが好きなヤツほど、胸張って彼らに会いにいけなくなったり、彼らと同じものになるとか無理ってなる哀しみもあったり、そういう寂しさも感じていただければ幸いです。ただ、付き纏われる当のフェイルにとっては、多分ひたすらに面倒で迷惑なだけのキャラクターでしかないんですけどね…。
 彼の怪人としての外見はシャドームーンを彷彿とさせるデザインという設定ですが、シャドームーンのデザインはとても30年前とは思えない格好良さですね…。


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