『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話   作:世紀末ドクター

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第十九話 『リリカルなのは』の世界で その18

 

 

「あー…、何て言うか、人が恋に落ちる瞬間を初めてみちゃったかも…」

 

「くそぅ…、いっそ殺してくれ…」

 

 

 絶望的に落ち込んだ気持ちから、俺は未だに立ち直れないでいた。

 我ながら凄まじい無様だったが、ここまでの無様を晒したのは、前世も含めてのこれまでの人生の中でも間違いなく初だと断言できる。

 もう本当に恥ずかしさの余りいっそ殺して欲しいくらいだったが、そんな俺を窘めるように佐倉が言った。

 

 

「まあまあ。でも、しょうがないんじゃない? 実際、あの子は一目惚れしても仕方ないレベルだと私も思うよ?」

 

 

 はっきり言って、全く慰めになっていない。

 だが、正直な話、自分が抱くこの感情が本当にそうなのかは自分ではよく分からない。

 こんな分かりやすい反応を晒しておきながら何を言ってるのかと思うかもしれないが、明確にそうだと言える自覚はまだ無いというのが実際のところだ。

 仮に佐倉の言う通り、これが一目惚れだったとしても、まだまだ恋愛未満であって、その在り方を尊いと感じる憧れというのが現時点では一番しっくり来る。

 

 

「ふーん? F○teでの士郎とセイバーの出会いみたいな感じかな?」

 

「そこで、主人公にさえ自覚が無いのに、空気を読まず『一目惚れした?』なんて訊きやがったのがお前なわけだな…」

 

 

 俺は恨みがましい視線で佐倉を睨む。

 だが、どう考えても弱みを握られたのは俺の方であって、どうにも立場が弱い。

 事実、彼女の方は俺の視線にもまるで堪えた様子もなく、クスクスと愉快そうに笑っている。

 

 

「クス、そうかもね。でも、あの子がヒロインだとしたら、キミは衛宮士郎に当たるわけかな?」

 

「馬鹿言ってんじゃねえよ…。固有結界が使える主人公様と一緒にするなって…。はっきり言って、俺は衛宮士郎以下のクソ雑魚だぞ…」

 

 

 はっきり言って、今の自分は戦闘などの荒事になった場合、完全な役立たずになる。

 ただ、あの時、ユーノの広域念話が聞こえたということは、自分にもある程度の魔力とリンカーコアがあるということなんだろう。

 自分自身は、転生した時に神様から特典を貰っていない以上、純粋に天然物の魔導師としての才能ということになるんだろうが、そう都合よく天才レベルの才能が眠ってたり、レアスキルを持ってたりする訳がない。

 試しにユーノに自分の魔力量がどれくらいなのかを訊いてみる。

 

 

「えっと…キミの場合、Cランク…甘く見積もってもBランクくらい、かな…」

 

「まあ、そう都合良く主人公クラスの才能が眠ってるわけがないよな…」

 

 

 ユーノからの答えを聞いた俺はがっくりと肩を落とした。

 期待していた部分が無いわけではなかったが、やはり、これが現実だろう。

 確か時空管理局の平均の魔導師ランクがBランクだったはずだから、俺の魔導師としての才能はせいぜいが平均以下ということになる。

 もっとも地球人の場合、魔力とリンカーコアを持ってるだけでも十分特別な才能ではあるのだろうが、この程度の才能が何かの役に立つとも思えない。

 F〇te本編での主人公は戦う力を碌に持たないのに何度も何度も危険の中へと突っ込んでいたが――…

 

 

「改めて考えたら、F○teの衛宮士郎がやってたことって無謀なんてレベルじゃないな…」

 

「まあ、そういうのは、いわゆる『主人公補正』ってヤツだよね。でも、そうなると私とユーノ君が動くときは、やっぱり、キミには自宅で待機しておいてもらうしかないかなぁ…」

 

「つーか、お前、その言い方だと、まさか俺まで外に連れ回すつもりだったのかよ…」

 

「あ、いや、ほら、なんだかんだ言っても、やっぱり不安だし? 出来たら、キミにもついて来てもらいたいなって…」

 

 

 役に立つ、役に立たないに関わらず、誰かが傍に居てくれる、というのは意外と大きい。

 実際、逃げたくなりそうな時にも、誰かに見てもらっていることで、逃げずに踏み止まれることもある。

 本当に強い人なら、誰かの目など無くても、己の意志だけで自己を律して行動できるのかもしれないが、きっと大部分の人間はそうではない。

 それを責めることは誰にも出来ないだろうし、友人である彼女が助けを求めるなら可能な限り手を貸してやりたいとは思う。 

 それに、何より、気付いてしまった。

 

 

「――…」

 

 

 最初は見間違いかと思ったし、気が付かない振りをした。

 事実、今の佐倉も表面的にはサバサバとした軽い感じに振る舞っているように見える。

 だけど、さっき彼女が自分たちの出来ることをやっていくと決めたとき、彼女の手が震えていたのを見てしまった。

 

 

(見捨てない…なんて、簡単に言うんじゃなかったかもな…)

 

 

 ついこの前、佐倉に言った言葉を少しだけ後悔する。

 あるいは、ここで見捨てていれば、後々のことを考えれば楽だったのかもしれない。

 はっきり言って、ここから先は俺達にとって完全に未知の領域だ。これからは何が起こるかも分からず、何が本当の正解かも分からない。

 しかし、直感的に自分が運命の分岐路の上に立っていることを理解する。もしも本当に引き返すとしたら恐らく今しかない。

 ふと、俺は俯いたまま目を閉じた。

 

 

 ―――迷い、不安、恐れ。

 

 

 目を閉じた暗闇の中にいくつもの感情がごちゃ混ぜになっているのを感じる。

 運命の選択を迫られたとき、物語の英雄や主人公たちもこうした気持ちを感じていたのだろうか。

 それらの気持ちを飲み込んで、敢えて危険へと踏み込んでいく選択をした彼らが、どれだけ凄いことをやっていたのかを俺は初めて実感していた。

 少しの間、俺は黙ったまま考え込んでいたが、やがて目を開けるとフェレットの方に顔を向けた。

 

 

「ユーノ」

 

 

 フェレットの名前を呼ぶ。

 本音を言えば、ここで佐倉を見捨てて引き返したい気持ちはある。

 だが、このままだと殺されることが分かっている友人を目の前にして、何もしないなんてことが許されるのか。

 はっきり言って、戦う力が無いことを言い訳にして、仕方なかったんだと耳を塞ぐことは簡単だろう。

 だが、彼女たちが自分の出来ることをすると決めたのなら、俺はせめてそれを見届けたかった。

 

 

「…ユーノ、俺に魔法を教えてくれ。どうせ才能なんて期待してないから防御系魔法のどれか一つだけでいい」

 

 

 我ながら凄まじく無謀なことを言っているという自覚はある。

 たとえユーノに魔法を教わっても、この短期間で習得できるとは限らないし、たとえ習得できてもそれが何かの役に立つとも思えない。

 だが、本当に佐倉やユーノについて行くとするなら、何か一つくらいは身を護るための力は持っていたいというのが本音である。

 それが実際に役に立つかどうかはともかくとして、何か頼れる物が有るのと無いのとでは精神的な余裕は大違いだ。

 

 

「え…? いや、確かに防御系の魔法のどれか一つに絞れば、習得できるかもしれないけど…」

 

 

 凄まじく驚いたようなユーノの表情。

 俺が何をしようとしているのかを察したらしい佐倉の方も困惑気味だ。

 

 

「キミ、本当について来てくれるの…? いや、そりゃ私としては有難いけどさぁ…」

 

 

 案の定、ユーノも佐倉も「正気かコイツ?」みたいな表情を浮かべている。

 このまま関わり続ければ命取りになるかもしれないことは、もちろん承知の上だ。

 だが、見捨てないと一度約束してしまった以上は、佐倉に対して俺が出来ることはしてやるつもりでいた。

 

 

「まあ、見捨てないって言っちまったからな…。こうなった以上、もう俺ら全員一蓮托生だろ。ここまで来たら、死ぬときは全員一緒だっつーの」

 

 

 半ばヤケクソ気味に俺は言った。

 もちろん死にたくはないし、もしも本当に死んだらこの世界での両親には悪いとは思う。

 しかし、すでに前世で一人分の人生を全うしている以上、ここで死んだとしても別に不公平には当たらないだろう。

 開き直りとヤケクソに塗れた俺の言葉だったが、何がそんなに面白かったのか、何故か佐倉は小さくクスリと笑った。

 

 

「…? どうした?」

 

「クス…、なんだか愛の告白みたいな台詞だなって思ってさ?」

 

「…はい?」

 

「いや、だって、『死ぬときは一緒だ』って、それってつまり『最後までずっと一緒にいろ』って聞こえるんだけど?」

 

「―――」

 

 

 俺にとって、本日二度目の絶句。

 決して自分としてはそんなつもりで言った言葉ではないが、確かに聞きようによってはそう聞こえる。

 予想外な彼女からの言葉に、顔が赤くなって行くのが自分でも分かった。

 

 

「いや、今のは違…っ!?」

 

「ああ、うん、キミがそういうつもりで言ったんじゃないってことは分かってるよ」

 

 

 慌てて否定しようとした俺に、からかうような表情で佐倉が言った。

 毎度毎度思うが、彼女の言う冗談は自分にとって結構心臓に悪いものが多い。

 

 

「お前なあ…分かってるならわざわざ言うなよ…」

 

 

 溜め息を吐きながらジト目で睨む。

 そして、その視線に返って来た言葉はよりによってこうだった。

 

 

「ふーん? キミにとっての私は、やっぱりそうなんだ。…ちょっと残念かも」

 

「え…?」

 

 

 ちょっと待て。それは一体どういう意味だ。

 いかにも思わせぶりな表情と仕草と共に彼女が口にした言葉に再び思考が止まる。

 

 

「分からないかな? 私の気持ち…」

 

 

 彼女はそう言って、頬杖をついてこちらを試すように見つめて来る。

 

 

「さ、佐倉…」

 

 

 軟らかそうな淡い唇。烏の濡れ羽色の艶のある黒髪。

 透き通るように澄んでいて、それでいて見つめられた者を惑わせるような黒い瞳。普段は意識していない彼女の何もかもが艶めかしく見えた。

 しばらく彼女は、動揺して動けない俺を見つめていたが、やがてニヤリと悪戯っぽく笑って言った。

 

 

「クス…冗談だよ。何を勘違いして気分出してるのかな?」

 

 

 ニヤニヤと愉快そうに彼女は笑った。

 からかわれただけだと分かった俺は、何だか力が抜けてしまった。

 だが、突然にこんなことを言われたら、たとえ俺じゃなくても平静を保つのは不可能だと思う。

 さすが前世が元男と言っていただけあって、女性のどういう仕草・言葉に男心がぐらつくかを知り尽くしている。

 しかも、佐倉の場合、明らかに平均以上の容姿を持っていることを自覚した上でこれを繰り出してくるのだから始末に負えない。もしも、本気で男心を弄ばさせるなら、彼女の右に出る者はおそらく存在しないと俺は思う。

 さっきから佐倉に翻弄され続けた俺は、ゲンナリとした溜め息を吐くと頭をテーブルに突っ伏した。なんだか凄まじく精神的に疲れた。

 そんな俺の状態に同情でもしてくれたのか、ユーノが労いの言葉を掛けてくれた。

 

 

「あの…なんていうか、色々と苦労してそうだね…」

 

「まあ、それなりにな…」

 

 

 テーブルに突っ伏したままユーノに答える。

 もっとも、こうした佐倉との他愛のないやり取りは、何だかんだで嫌いではない。

 俺にとっては、彼女とのこうしたやり取りも何気ない日常の一コマだと言える。

 だが、今の俺たちはこの日常が壊れるかどうかの瀬戸際にいる。

 

 

(まだ、死ぬと決まった訳じゃない…。なんとか上手いことやるしかない…)

 

 

 はっきり言って、この日常が壊れないようにするために自分たちに出来ることは、そう多くはない。

 実質的に俺達だけでは詰んでいる状態であり、もしも望みがあるとしたら俺達以外の『誰か』だろう。フェイルと名乗っていた昨日の女の子をはじめとして、俺達以外の他の転生者とも何とか協力できる態勢を作る以外に方法はない。

 だが、そこまで考えて、俺はふと気付いたことがあった。

 

 

(いや、待て…。他の、転生者…?)

 

 

 フェイト陣営側にもフェイルという転生者がいた。

 転生者たちの転生先というのは指定したヤツを除けば、おそらく死んだ時に出会った自称神とやらに適当に割り振られているんだろう。

 だとしたら―――

 

 

(『闇の書』の陣営…八神はやて側にも俺達みたいな転生者が居たりするのか…?)

 

 

 …というか、はっきり言って、この状況だと居てくれないとマズイ。

 現在の時間軸が原作の『PT事件』のタイミングだったから今まで頭から抜け落ちていたが、こんな事件が起こっていたら『闇の書』事件もどう転ぶか分からない。

 もはや日本に暮らしている人間で海鳴市で起こっている事件を知らない者はいないだろうし、八神はやての監視に当たっているはずのギル・グレアムやリーゼ姉妹も、海鳴市で起こっている事件は知っているだろう。

 グレアム陣営の立場で考えるなら、余計なイレギュラーの介入を防ぐ目的で、『闇の書』の凍結封印の計画を前倒しにしたとしても全く不思議じゃない。その場合、八神はやてに味方をしてくれる『誰か』がいなければ、八神はやては恐らく詰むことになる。

 

 

(マズい…! 最初に予想してた以上に状況が悪過ぎないか!?)

 

 

 考えれば考えるほど、状況が悪いことが分かって来た。

 現在の余りの状況の悪さに思い当たり、俺は突っ伏した姿勢から勢いよく顔を上げた。

 いきなり飛び起きた俺に対して、佐倉もユーノも一瞬驚いた顔をしたが、俺が飛び起きたまさに瞬間に『それ』は起こった。

 

 

「「「―――ッ!?」」」

 

 

 突然、俺達全員の脳内に感じられた異様な気配。

 この感覚は―――

 

 

「封時結界!?」

 

 

 気配の正体を看破したユーノが真っ先に反応する。

 ここから近い場所でかなり大規模な封時結界を発動させた『誰か』がいる。

 結界の範囲は海鳴市のほぼ全域であり、海鳴市に住んでいる者で魔力を持っている者ならば、おそらく全員がこれに気付いているはずだ。

 

 

「ど、どうしよう…?」

 

 

 見るからに動揺している様子の佐倉。

 何が起こっているか分からない以上、迂闊に動くのは危険だというのは間違いない。

 だが、何が起こっているかをある程度は把握していないと、それはそれで今後の方針や対策を立てようがなくなる。

 だから、ここは―――

 

 

「行くしかないだろ…!?」

 

 

 危険なのは確かだが、今後のことを考えればここは行くしかない。

 

 

「俺もついて行ってやる! いざとなったら一緒に死んでやるから、さっさと行くぞ…!」

 

 

 難色を示していた佐倉を自分も同行するからと何とか押し切る。

 ユーノの話では、封時結界の中心から複数の魔力反応を感じるという。

 こうして、俺達は、何が起こっているかも分からないままに現場へと向かうことになったのだった。

 

 





あとがき:

 追い詰められた時やピンチの時にこそ、その人間の真価が問われると思います。
 けれど、一部の「なろう小説」の主人公は、そもそもピンチになったり、追い詰められたりすることが無いんですよね…。
 正直、物語的に考えるなら、神様から貰った能力が通用しない絶望的な敵が現れてからが本番だと思います。神様から貰った能力が通用しないからこそ、その人の生来の『知恵』や『勇気』などのプラスαが問われることになるからです。
 なろう小説なんかだと、変にテンションが高くて、格下相手にイキってる主人公を偶に見掛けますが、ああいうのを見ていると、本当に追い詰められたときに毅然として行動できるのかどうか甚だ疑問です。
 他人から与えられただけの能力で解決できることだけを当たり前に解決していても、心に燃えるものは何も無いと思うんですがねぇ…。
 自分としては困難や絶望を『知恵』や『勇気』で乗り越える物語こそが至高だと思っているので、一部のなろう小説は余りにも温過ぎて、ホント溜め息しか出ませんわ。もっとも、なろう小説を支持している人は、そういう『燃え』をそもそも求めていないと言われればそれまでですが…
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