『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話   作:世紀末ドクター

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第二十一話 『リリカルなのは』の世界で その20

 

 

 はやてと有希に出会ってから数ヵ月が経った。

 はやてにとっての有希は、まさに「近所に住んでいる気のいいお姉さん」といった風情で、はやてのことを何かと気に掛けてくれた。

 お互いの自宅に遊びに行ったり、一緒にお菓子を作ったり。

 

 

(もしも私にお姉さんがいてくれたら、こんな人が良かったなー…)

 

 

 そう思ってしまう程に、はやては有希に懐いていた。

 有希の方も両親を亡くしたはやてに気を遣ってか、自分の実家の両親に引き合わせてくれて、いつしか家族ぐるみの付き合いが始まっていた。

 特に有希の母親などは、はやてのことを本当の実の娘みたいに可愛がってくれており、はやてにとっても有希とその家族は、本物の家族と同じくらいに大切な人になっていた。

 こんな温かな時間がいつまでも続いて欲しいと思ったし、続くと思っていた。

 だけど―――

 

 

(なんや、これ…)

 

 

 ある日、朝にテレビを点けた時、ニュースで流れていた目を疑うような大事件。

 一夜のうちに27人の子どもが虐殺されるという事件の報道を聞きながら、はやては自分の背中が凍り付いて行くような感覚を感じていた。

 

 

(ちゅーか、これって、けっこう近所やんか…!?)

 

 

 ニュースで話題になっている海鳴市というのは、間違いなくこの街のことだ。

 自分たちの住んでいる街で、こんなとんでもない事件が起こるなんて、はやても想像すらしていなかったし、想像できる方がどうかしてる。

 はやてがテレビから目を離せないでいると、突然、家の電話が鳴った。

 

 

『はやてちゃん!? そっちは無事だよね!?』

 

 

 受話器を取ると慌てたような有希の声が聞こえて来た。

 どうやら例の事件についての報道を見て、心配して電話してくれたらしい。

 有希の方がはやての予想以上に切羽詰まった様子だった所為か、はやての方は逆に少し冷静になれた。

 

 

「あ、うん、こっちは大丈夫やで。だから有希さんも落ち着いてや」

 

 

 はやての声を聞いて心底安堵したと言うような様子の有希。

 だが、原作を知っている人間ならば、これが絶対に起こり得るはずのない事件だということは分かる。

 もちろん、はやてにはそんなことは知る由もないことだが、原作の流れを根本からぶち壊すほどの『何か』が起こったと有希の方は考えていた。

 現在の時間軸が『PT事件』のタイミングだから、はやてに危害が及ぶことは無いはずだと楽観的に考えられるような状況ではなくなった。

 

 

『…はやてちゃん、しばらくの間、私がそっちに泊まっても良い?』

 

 

 事件が落ち着くまで、誰かがはやての傍にいた方が良い。

 そう考えての有希の提案だったが、はやてにとっては余り予想していない提案だった。

 

 

「え? いや、そりゃ私としては有難いけど、有希さんはええの?」

 

 

 心配してくれるのは嬉しいが、有希がそこまでする必要があるのだろうか。

 確かにとんでもない事件だとは思うが、普通に家で大人しくしていれば巻き込まれるようなことにはならないだろう。

 心のどこかではやてはそう思っていたし、現時点でのはやてにとって、今回の事件も所詮は自分とは関わりの無い『他人事』だとしか感じていなかった。

 

 

『取り越し苦労ならそれが一番いいんだけどね…。ちょっと嫌な予感がするんだ』

 

 

 多くの人間は、根拠もなく『自分は大丈夫』だと都合よく思い込む。

 この時のはやて自身もまさにそうだったし、有希がその場に居てくれなかったら、巻き込まれた最初の時点で終わっていたはずだ。

 そして、この日からわずか2日後、はやては自分の日常が根本から壊れる事態に見舞われることになる。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 二日後、はやての自宅マンションで鳴ったインターホン。

 その呼び出し音と共に訪れたのは、仮面を被った二人の魔導師。

 

 

(リーゼ姉妹…!)

 

 

 本来の『原作』の事情を知っている有希は、すぐさまその正体を看破する。

 ギル・グレアムの使い魔であり、原作においては『闇の書』の完成を手助けするために暗躍していた人物である。

 しかし、とても海鳴市を騒然とさせている虐殺事件の犯人となるような相手ではないだろうし、おそらくこの場合は、想定外の事態が起こる前にはやての身柄を確保しに来たというところだろう。

 実際、仮面を被った二人の魔導師は、こう言ってきた。

 

 

「大人しくその少女をこちらに渡して貰おう。素直に従うなら手荒な真似はしない」

 

 

 はやてを後ろに庇いながら、有希は自らの戦闘準備を整える。

 しかし、戦うにしても部屋の中では狭すぎて、普通に戦うだけでも戦闘の余波ではやてを傷付けかねない。

 だから、ここは―――

 

 

「舌を噛まないように気を付けてッ!!」

 

 

 はやてを抱きかかえて、即座にその場から離脱する。

 次の瞬間にはすぐ近くの窓をぶち破り、一気にマンションの外へと飛び出していた。

 

 

「魔導師だったのか…!?」

 

「関係ない! 追うぞ!!」

 

 

 即座に追跡へと向かう仮面の魔導師。

 空を飛びながら追っ手が来ていることを確認し、有希は内心で舌打ちしていた。

 だが、事情を知らないはやてにとっては、今の状況は分からないことだらけだった。

 

 

「有希さん…!?」

 

「…悪いけど、説明は後でする」

 

 

 自分を狙っての襲撃者がやって来たこともはやての想像の外だった。

 だが、それ以上に、自分の憧れの人が、特別な力の持ち主であったことにも、はやては驚いていた。

 しかも、今の彼女は、明らかにはやてを守るために、その身体を張ってくれている。

 

 

「――ッ!」

 

 

 突然に感じた耳を劈くような衝撃と轟音。

 後ろから追ってきた仮面の襲撃者たちの放った魔力弾と、オート発動の防御術式がそれを防いだ音だった。

 自分のごく身近に危険が迫っていることを実感し、パニックになりそうになるはやて。

 

 

「…大丈夫」

 

 

 必ず守る、と。

 そんなはやてを落ち着かせるように有希は声を掛けた。

 今のはやては、ただその言葉を信じるしかない。無意識のうちに有希にしがみ付く腕の力が強くなる。

 しばらくの間、飛行の魔法を使っての『追い掛けっこ』が続いていたが、やがて有希は高層ビルの屋上に着地し、後ろから追ってきた二人の魔導師へと向き直った。

 

 

「鬼ごっこは終わりか?」

 

「ええ…そっちが追うのを諦めない以上は、逃げ回っても仕方ないでしょう」

 

 

 自分の後ろにはやてを後ろに庇いながら、小規模な結界魔法を発動させてはやてを隔離する。言葉には出さなかったが、後ろをチラリと見た有希の視線がそこから出るなとはやてに言っていた。その視線にはやてが頷いて返したのを見ると、彼女は今度こそ本気でリーゼ姉妹と対峙する。

 

 

「どうして、はやてを狙うの…?」

 

 

 何のためにはやてを狙ったのか。

 原作の事情を知っている有希からしたら、何となく予想はついているとはいえ、それでも一応は訊いてみる。

 視線を強めながら相手側へと問いを投げた有希だったが、碌な答えは返って来ない。

 

 

「…答える必要は無い」

 

「…だろうね」

 

 

 お互いに退くつもりがない以上、もはや衝突は避けられない。

 そう判断した有希はどこからか分厚い書物を取り出していた。

 

 

 ―――『アステル』―――

 

 

 ギリシャ語で『星』の意味を持つ有希の本型のデバイス。

 表紙には六芒星の模様をメインに据えた魔法陣が描かれており、いかにも魔導書といった雰囲気だ。

 デバイスの起動と同時に展開されたバリアジャケットのデザインは、白色がメインカラー、青色がサブカラーとして配色された袖無しのワンピースのような格好。

 腰には黒いリボンが巻かれ、靴は太ももまで覆ったハイヒールブーツ。両手を覆う紺色のグローブは、左右で長さが違っており、左手のみが肘より上まで覆うロンググローブとなっている。

 髪飾りやブローチなどの小物の装飾は金色で、衣装のカラーリングのアクセントとして彼女の美しさを引き立てていた。

 

 

 ―――綺麗だ、と。

 

 

 はやては場違いにもそう思った。

 色々なことが立て続けに起こり過ぎて感覚が麻痺しているのか。あるいは、襲われた恐怖から来る「吊り橋効果」でそう感じているだけなのか。

 だが、はやてを守るように立つ有希の後ろ姿と僅かに見える横顔は、これまでにはやてが見たどんな人よりも美しく感じた。

 

 

「手荒な真似はしたくなかったが…」

 

「…貴様を倒さねばならないというのなら仕方ない」

 

 

 そう言って、二人の仮面の魔導師は一歩前に出る。

 状況的には2対1で、数の上では明らかに向こう側が有利。

 そして、基本的に「追う者」と「追われる者」では、前者の方が強いことが多い。

 だから、このときの仮面の魔導師からすると、自分たちが相手を追い詰めているという認識だった。

 そして、そんな二人の魔導師に対して有希は言った。

 

 

「言っておくけど、別に私は追い詰められて外に逃げた訳じゃないよ」

 

 

 何かが始まる。いや、それは既に始まっていたのか。

 彼女を中心にして微弱な風が起こり始め、彼女が手に持っている分厚い魔導書のページがひとりでに捲られていく。

 同時に彼女の足元に青色の輝きを放つ魔法陣が浮かび上がった。

 

 

「…Astro-Logia」

 

 

 有希が静かに呟いたその一言。

 その言葉が響いた瞬間、周りの世界そのものが塗り替えられた。

 

 

「「「―――ッ!!?」」」

 

 

 その驚愕は、有希以外のその場に居た全員の物だった。

 海鳴市の全域を覆うほどの大規模な結界魔法の単独行使。

 それだけでも驚愕に値するが、それ以上に凄まじかったのが、その魔法の内容だった。

 突然、空が夜のように暗くなったかと思えば、星々の輝きが一瞬で闇空を覆い尽くしたのだ。

 そして、それを見た瞬間、はやては自分の全身の毛が逆立つのを感じた。

 

 

 ―――星空を操る魔法使い―――

 

 

 一番最初にはやてがプラネタリウムの星空の下で有希と出会った時、彼女のことをそう思った。

 その時に思ったことが、比喩でも何でもなく、真実であることをはやては知った。満天の星空の下、その光に照らし出された彼女の後ろ姿は、神々しさすら感じた。

 まるで星空を司る女神か何かを見たような気持ちであり、それを目の当たりにした時のはやての息が止まりそうな感動は、とても言葉では言い尽くせない。

 

 

「まさか…!?」

 

「あの全てが『矢』なのか…!?」

 

 

 漆黒の闇空を、一瞬にして覆い尽くした星の洪水。

 たった今、有希によって生み出された満天の星。漆黒の夜空を埋め尽くす億兆の星々。

 信じがたいことだったが、そのすべてが魔法による『矢』だった。

 

 

 ―――『星の言伝(Astro-Logia)』―――

 

 

 星空そのものを形にした有希の唯一にして最強の攻撃魔法。

 天球を模した大規模な封時結界を展開し、遥か上空に埋め尽くすほどの魔力弾が待機状態でセットされている。

 

 

「「―――ッ!!!」」

 

 

 その時、天上から流れ落ちた一つの星が仮面の魔導師のすぐ近くに着弾した。

 反応さえ許さない亜光速という規格外の速度で撃ち出される魔力弾は、まさに流星としか言いようが無かった。

 この星空の見える場所の全てが攻撃範囲。そして、天上から降る星の一発一発がなのはのディバインバスターすらを上回る威力を有している。

 もしも仮に、上空の星々の全てを一度に降らせたとしたら、その威力はもはや想像を絶する。

 

 

「…ここで逃げてくれるなら私からは追わない。けど、逃げないのなら次は当てる」

 

 

 有希から警告が告げられる。

 やろうと思えば、ここでリーゼ姉妹を消し炭に変えることも出来るが、当然そんなことをするつもりは有希にはない。

 だが、彼女の本音を言えば、一秒でも早くリーゼ姉妹にはこの場から撤退して貰いたかった。

 何故なら―――

 

 

(この魔法は規模が大きすぎるから、絶対に気付かれる…!)

 

 

 海鳴市に住んでいる者で魔力を持っている者ならば、間違いなく全員がこれに気付いている。

 おそらく例の虐殺事件を起こした犯人も気付いているし、最悪の場合、その犯人をこの場に呼び寄せる結果になりかねない。

 有希がそうしたリスクを承知でこの魔法を使ったのは、彼女がまともに使える攻撃魔法が、これしか無かったから仕方なく使っただけだ。

 そのため、有希本人としては、致命的な『何か』を呼び寄せる前に、現在のリーゼ姉妹とのイザコザを一秒でも早く終わらせたい気持ちでいた。

 だが、彼女のそうした気持ちとは裏腹に、結果的に多くの人間がこの場に呼び寄せられることになる。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 呼び寄せられた者達の中には時空管理局のアースラのクルーもいた。

 地球に到着してから程なくして突然に観測された桁違いの規模の魔法に、クロノ達は驚愕していた。

 魔法文明の存在しない管理外世界で、こんな規模の魔法を使える人間が存在するのか。

 

 

「…どうしますか、艦長」

 

「…確認しに行くしかないでしょう」

 

 

 常軌を逸した広範囲の魔法を目の当たりにして愕然とするクロノとリンディであったが、時空管理局の局員である以上、これを無視する訳にはいかない。

 結局、アースラからは執務官であるクロノが先行する形で魔法の発生元に向かうことになった。

 

 

「…気を付けてね、クロノ君」

 

「ああ…、分かってるよ」

 

 

 心配そうにするオペレーターのエイミィに答えてから、クロノは現場へ向かったのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 当然、フェイト陣営の人間たちもこの魔法の発動には気付いていた。

 ジュエルシードの回収するために海鳴市を探索していた所で、結界魔法が発動したのだ。

 

 

「姉さん、この魔法って…」

 

 

 そう言って、自分の姉の様子を窺うフェイト。

 だが、フェイルの方は、黙り込んだまま星空をジッと睨みつけている。

 少しの間、自分たちがどう動くべきかを考えていたようだったが、やがて星空を見つめたままフェイルは口を開いた。

 

 

「…フェイトは先に戻ってて。ここは私だけで行く」

 

「え…?」

 

 

 姉からの言葉に戸惑うフェイト。

 そして、フェイトが戸惑いから立ち直る前に、フェイルはその場から飛び出していた。

 大地を蹴って、勢いよく空に舞い上がると、そのままフェイルもまた現場へと向かう。

 

 

「姉さん!?」

 

 

 先に戻れと言われたフェイトだったが、とても素直に従える訳が無い。

 通常ではあり得ないほどの大規模な魔法が展開されているという明らかな異常事態。

 片腕を失った姉をそんな異常事態の中に一人で向かわせるなんて、そんなことがフェイトにできる訳が無かった。

 

 

「一人で行かせられないよ…!」

 

 

 数瞬の逡巡はあったが、フェイトも後を追いかけてその場を飛び立つ。

 着々と役者が揃いつつあったが、現場へ向かったのは彼女たちだけではなかった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 現場へ向かった者ということなら、高町なのはもその中の一人だった。

 その時のなのはは、ちょうど病院から退院して自宅に戻ったばかりのタイミングで発動した封時結界に取り込まれる形になった。

 魔力を持たない家族から引き離される形になったため一瞬パニックに陥り掛けるが、その次の瞬間に目の当たりにした億兆の星々になのはは思わず目を奪われていた。

 

 

「―――!」

 

 

 言葉を失うとは、まさにこのことだった。

 闇空を彩る星々の美しさになのはは息を呑んでいた。

 星空に目を奪われたまま動けないでいるなのはに対して、レイジングハートがこの星空そのものが誰かの発動させた魔法なのだと教えてくれる。

 そうして、なのはが星の海を見上げていると、ふと、その星空の中を横切る『何か』があった。

 まるで闇空を切り裂くかのように空を横切った赤色の閃光。

 

 

(フェイルさん…!?)

 

 

 それは間違いなく、なのはが昨日出会った女の子だった。

 フェイル・テスタロッサと名乗っていた片腕の少女。あの日、なのはの目に焼き付いた蠍座のアンタレスを思わせる赤色の魔力光。

 振り返ることさえ間に合わないくらいの速さだったから、なのはに見えたのは一瞬だけだ。けれど、その中で一瞬だけ見えたフェイルの横顔と眼差しは、どこまでも前だけを見据えており、間違いなくこの魔法の中心へ向かっていた。

 

 

 ―――命の掛かった修羅場の中であっても、自分のできること・自分の力を尽くす―――

 

 

 言葉にするのは簡単だが、本当の命懸けの場面においてそれをできる人間は、きっと殆どいない。

 なのははそれを思い知った。だけど、きっとあの女の子は、それが出来る本物の英雄だ。はっきり言って、今も動けないままでいる自分とは何もかもが違う。

 あの人に追いつくためには、実力も意志の強さも、何もかもが足りていない。

 彼女と同じレベルで戦えると考えるなど思い上がりも良いところだ。

 だけど、せめて―――

 

 

「お母さん、お父さん、ごめんなさい…」

 

 

 せめて、彼女たちが戦うことを手助けしたい。

 たとえ、肩を並べて戦うことは出来なくても、それでも矢面で戦う彼女たちのために何か自分に出来ることがあるのなら――…

 

 

「レイジングハート、力を貸して…!」

 

 

 いつの間にか心に火が灯っていた。

 その心に宿る火を何と呼ぶのかは知らないし、今はどうでも良かった。

 なのはは、レイジングハートを起動し、バリアジャケットを展開する。

 

 

(戦うのは怖い…。だけど…!!!)

 

 

 迷いと恐怖を意志の力で捻じ伏せて、なのははその一歩を踏み出した。

 力強く地面を踏み切って宙へと飛び出すと、なのはもフェイルを追い掛けて現場へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 舞台の役者が揃いつつある中、当然のことながら、この『二人』も同じ星空を見ていた。

 一人は切れ目の入った帽子を被った全身黒ずくめの長身の男で、もう一人はウサギの人形を抱いた白い少女。

 あるビルの屋上に立っている二人は、天上の全てを覆い尽くした星々の輝きを見つめながら、面白そうな笑みを浮かべている。

 

 

「クス…中々に面白い魔法を使っている方がいるみたいですねぇ」

 

「…そうだな。これだけ美しい魔法の使い手なのだから、とても綺麗な人間なのだろうと思うよ。…きっと、その心もね」

 

 

 天上の星々の美しさに目を細めながら二人は言った。

 

 

「なかなかどうして、この世界の転生者たちは見込みがありそうな人が多いですね。あくまで、これまでの他のセカイの連中に比べたら、ですが」

 

 

 これまでにセカイを渡り歩く中で、赤屍たちが殺してきた転生者たちは既に数百人を超えている。

 その中で、まともに赤屍に立ち向かうことが出来た人間など殆ど存在しなかったが、このセカイでは比較的に見込みのある人間が多い気がする。

 二日前、赤屍に左腕を切り飛ばされても立ち向かって来た少女もそうだ。

 

 

「…確かにそうだな。だが、結局は全て無意味だ。我々が全て殺して、それで終わりだ」

 

 

 相手がどれだけ優しくて素晴らしい人間であっても関係ない。

 たとえ、どれだけ死ぬのが惜しいと思えるような人間であっても、それが今回の仕事の対象であるのなら最終的には全員殺す。そこに例外は存在しない。

 

 

「さて、これだけ美しい舞台ですし…」

 

「ああ、折角だ。招待された訳ではないが、我々も挨拶くらいしに行こうじゃないか」

 

 

 そう言って、最強最悪の死神たちも、その場から動き出したのだった。

 

 

 




あとがき:

 面白い作品というのは魅力的なキャラクターがあってこそだと思います。
 しかし、そうしたキャラクターの魅力を与えられた転生特典だけに求めるのは、自分にとっては全く意味が分かりません。
 たとえば、銃を与えられて、それを撃つだけなら誰にでも出来るように、与えられた力をただ振り回すだけなら誰にでも出来ることです。
 ようするに、読者側から見ると、ただ力を振り回しているだけのチート転生者・主人公がやっていることは本質的には誰にでも出来ることでしかなくて、全然大したことじゃないんです。


「いや、それだけの能力が与えられたら、別にキミじゃなくても誰でもその程度のことは出来るよね? その力を与えられたのが、キミでなければならなかった理由は何なの?」


 全然大したことはしていない・誰にでも出来ることをやっているだけなのに、周りからチヤホヤされるとかいうふざけた状況が反感を買うのではないでしょうか?
 転生特典それ自体が悪いとは言いませんが、本当にそれが「キミのために正当に与えられた力」だというなら、しっかりとそれを使いこなす描写をして欲しいと自分は思います。
 その主人公以外には早々思い付けないような能力の応用をしてみせる・その主人公ならではの機転を利かせて絶体絶命のピンチを切り抜ける。あるいは、何らかの心の素質の証として能力が与えられているというのであれば、自分としては割りと納得できるんですけどね…。
 そのため、この作品の転生者で強キャラに分類されるのは、原則的に全員が与えられた転生特典『以外』の部分で何らかの光るモノ・突出するモノを持っている人間たちです。

『神杖』フェイル・テスタロッサ
『魔拳』怪人バッタ男
『星術』天音有希
『龍剣』クリス・アークライト(未登場)

 彼らは、その生来の心の素質と地力の証として、他の転生者とは一線を画す強さを有しています。もしも、このセカイに赤屍が来なければ、彼らは時空管理局でも二つ名が付けられるくらいの最強エースとして活躍していたのかもしれません。
 ただ、ここで誤解しないで欲しいのですが、決して何の取り得も無い平凡な主人公が悪いと言っている訳ではなく、むしろ物語的にはその方が美味しく出来る可能性もあるはずなんですよ。
 何故なら、取り得の無い・弱い主人公というのは、それ自体で『成長できる素質』があるからです。成長の光というのは、それ自体が美しいですからね。与えられた力に見合った心の成長を見せてくれるのならば、平凡な主人公も大いに結構だと思います。

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