『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話   作:世紀末ドクター

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第二十三話 『リリカルなのは』の世界で その22

 

 

 

 漆黒の闇空を覆い尽くす星の洪水。

 その星々の下、崩壊したビルの跡地で向き合っている二人の少女が居た。

 いや、正確に言うなら、二人のうちの一人は、少女の姿をしているだけの別の『何か』だろう。

 少なくとも、笑みすら浮かべて血の海の中心に佇んでいるような相手が、普通の女の子であるわけが無い。

 

 

「確か、キミとは以前に会ったな…。私に何か用かな…?」

 

 

 相手の少女―――間久部博士は、外見と不相応に老成した口調でなのはに訊ねた。

 彼女の足元にはスライスされた誰かのパーツが転がっているのに、彼女はそれを気にした様子も無い。

 そんな余りにも残酷な態度を見たなのはは思わず叫んでいた。

 

 

「どうしてあなた達は…!! どうして、こんな酷いことが出来るの…!!?」

 

 

 怒りで肩を震わせながら絶叫するなのは。

 しかし、そんな悲痛な叫びも相手にとっては大して価値のあるものではない。

 

 

「何だ。そんな下らんことか」

 

 

 興味なさげに溜め息まじりで相手の少女は答える。

 その言葉になのはの感情は一瞬で沸騰していた。

 

 

「くだらない…!?」

 

 

 一体、コイツらはヒトの命を何だと思っているのか。

 これまでに殺された人にだって、家族や友人などの大切な人がいたはずだ。

 それなのに何で平気な顔でそんな酷いことが出来るのか、なのはには全く理解できなかった。

 

 

「死んだんですよ!? いっぱい人が死んだんですよ!!? 死んだ人達にも、きっと大切な人はいた筈なのに…!! それを、それを…こうも簡単に失っていくなんて…!」

 

 

 もはや悲鳴に近かった。

 普通の人間の道徳・倫理観からすれば、こんな簡単に人を殺すなんてことが許される訳が無い。

 しかし、そんななのはの叫びに返ってきた言葉は、よりによってこうだった。

 

 

「これでも、見境なく殺している訳じゃないんだがね…。我々が殺して回っているのは、原則的には『ある特定の条件を満たす者』だけだよ。事実、キミのことは一度見逃しているだろう?」

 

 

 彼女の言う条件とは何なのか。

 その条件が一体何なのか、なのはには分からない。

 だが、これまでに殺された人間たちが、殺されてもいい人間だとはなのはには到底思えない。

 むしろ、そんな人間が存在するとしたら、それはなのはの目の前にいる悪魔たちの方ではないか。

 

 

「そんなの…! あの人たちが殺されなきゃならない何をしたって言うんですか!?」

 

「…別に、彼らに恨みがある訳じゃない。ただ、彼らの魂に刻まれた力の欠片に用がある。その力の欠片を回収することが我々の目的だ。これまでに殺した者も、同じ理由で死んで貰った」

 

 

 魂に刻み込まれた力の欠片。

 そう言えば、これまでに殺されたのは全員が何らかの力を魔導師だった。

 だが、彼女の言う魂に刻み込まれた力の欠片というのは、単純に魔導師としての才能とは違うのか。

 

 

「魔導師としての才能=(イコール)殺される条件ではないよ。もしもそうであるなら、キミが今も生きている訳が無いだろう」

 

 

 もしもなのはがその条件に当て嵌まっていたなら、なのはもあの時に殺されていた。

 しかし、魔導師としての才能=殺される条件でないというのなら、なおさらその条件が何なのか分からなかった。

 そんななのはの心情を察してか、ウサギの人形を抱いた少女はさらに詳しい事情を説明する。

 

 

「…そうだな。かつて我々の出身世界で、ある組織が『人工的な神』を創造することに成功した、と言ったら信じるかね?」

 

 

 かつて『ブレイントラスト』によって作り上げられた人工の神。

 当時最高レベルの科学技術と魔導技術の粋を集めて作られたそれは『アーカイバ』と呼ばれ、セカイの秩序と運命の流れを望むとおりに調整することが出来た。

 そのレベルは、その気になれば、既存のセカイを消去して、新たに別のセカイを創造することさえ可能なレベル―――正に全能の領域に達していた。

 

 

「それの何の関係が…」

 

「まあ、話は最後まで聞きたまえよ」

 

 

 困惑するなのはに対して、少女は淡々と話を続ける。

 そこで語られたのは、一見は荒唐無稽な与太話としか思えない内容だった。

 だが、彼女の語る言葉は間違いなく真実だ。確証は無いし、根拠もないがなのははそう確信できた。

 

 

「我々の組織の人間は、その『アーカイバ』を使って『クオリア計画』と呼ばれる恒久的世界平和を実現させるためのプランを作った。だが、結局は途中で計画は頓挫し、『アーカイバ』自体も廃棄され、そのまま朽ち果てるのを待つだけの筈だった」

 

 

 筈だった、という過去形。

 つまり、そうはならなかったということだ。

 

 

「廃棄されたアーカイバは、次元の狭間の中を漂流していた。そして、こことは違う別の次元で漂流していたアーカイバの『残骸』の一部を手に入れた者達が何人か存在した」

 

 

 残骸とはいえ、かつては神に等しかった存在の一部だ。

 たとえ、手に入れたのがその神の力が一部、一端であったとしても、人間の身には十分に過ぎた力だろう。

 その者たちは、普通の人間からしたら、神にも近しい全能の力を手に入れた―――つまり、およそ人間が考える『神』の概念に近い存在になったと言える。

 

 

「その者達は自ら『神』を名乗って、自分の好きなことをやり始めた。その中の一つが、人間の生死の操作と輪廻転生への介入だ」

 

 

 本来なら死ぬ運命にない人間を交通事故に遭わせたり、病死させたり、犯罪者の精神を操作してその者に殺害させたり、それで死んだ者たちの魂に特別な能力を付与して別のセカイに転生させたりしてきた。

 何故、アーカイバの残骸の拾った自称神たちがそんな意味のないことをしようと思ったのかは今となっては分からない。本来ならその世界に存在しないはずだった人間を送り込むことで、その世界の流れや運命……物語がどう変わるのを見てみたかっただけなのかもしれない。

 あるいは、気紛れや遊び、何かの実験のつもりだったのかもしれないが、そんなことは今更どうでもいいことだし興味もない。

 

 

「だが、そうした自称神たちによって別のセカイに送り込まれた人間―――転生者たちは何らかの『力』を与えられていることが多かった。そして、当然その『力』の元になっているのは、自称神たちが拾ったアーカイバの『残骸』だ」

 

 

 かつての神になるはずだったものの残骸。

 そして、転生者たちに分け与えられた力とは、アーカイバ……神の力の欠片であり、森羅万象の根源。

 

 

「つまり、私たちの目的は、アーカイバの『残骸』とその『力の欠片』の回収だ。すでに神を名乗っていた連中は全員ジャッカルが狩り終えて、残骸の方は回収している。今は、自称神たちがバラまいた転生者たちから『力の欠片』を回収している途中だよ」

 

「で、でも、回収するだけなら殺す必要なんて…!」

 

「いや、残念ながら転生者たちに与えられた力の欠片は魂に深く刻み込まれている所為で、死んでもらわなければ回収できない。だからこそ我々が殺して回っている」

 

 

 自分たちがやっていることはある意味では、自称神たちがやらかしたことの『後始末』だと彼女は言った。

 確かに語られた内容が正しいのなら、彼らのやっていることは後始末という側面もあるのだろう。

 彼らの事情は分かった。でも、だけど、それは、人を殺してまでやらないといけないことなのか。

 

 

「――ッ!!!」

 

 

 その時、少し遠くの場所でまた流星が落ちた。

 なのはがそちらを振り向いた瞬間、目に飛び込んで来た光景。

 流星の着弾で発生した衝撃と爆風によって巻き上げられた瓦礫。その宙に浮いた瓦礫の間隙をジグザグに駆け抜ける赤い閃光と黒い影があった。

 空中に投げ出された瓦礫さえを足場にして飛び回りながらの空中戦。赤い閃光と黒い影の二つが空中で激突する度に赤い燐光が火花のように弾け飛び、舞い散っている。

 あそこで誰が戦っているのか、今さら考えるまでも無かった。

 

 

「片腕で、良くやるものだが…」

 

 

 その光景を見ながら博士は呟いた。

 おそらく手は抜いているだろうが、あの赤屍とあれだけ戦えた人間はこれまでに一人だって存在しなかった。

 ましてや片腕を失った状態となると、普通の人間はそもそも立ち向かおうという気さえ起らない。戦闘能力だけでなく、精神的な強さにおいても間違いなく別格の強さだった。

 その時、空中で激突した赤い閃光と黒い影が互いに反対方向に弾け飛び、両者の距離が開いた。

 瞬間、黒い影を飲み込むように、またもいくつもの流星が落ちる。

 

 

「彼女だけでなく、この『星空の魔法使い』も相当だな…」

 

 

 今も空の全てを覆い尽くしている億兆の星々。

 この星空を作り出した魔導師のことをなのはは知らない。

 だが、少なくとも、なのはよりも圧倒的に実力が上の魔導師であることは明らかだった。

 空から降る流星の一つ一つが、なのはの砲撃を遥かに上回る威力。それに加えて速さと正確性が桁違いだった。

 仮になのはが、赤屍とフェイルの二人が戦っている所に援護射撃を撃とうとしても、余りにも速過ぎてまともに照準をつけることさえ不可能だろう。

 天から降り注ぐ流星のような魔力砲撃。流星の雨によって破壊され、崩壊していくビルの群れ。そして、そんな流星が降る中を掻い潜り、所々で火花のように舞い散る赤い光。

 その残酷なほどに美しい破壊の光景を見ながらなのはは思った。

 

 

(レベルが違い過ぎる…!)

 

 

 この光景を作り出した者たちの圧倒的な実力。

 先程の少女の語った内容が正しいとしたら、あそこで戦っている者達は、神に近しい存在から『力』を与えられている。

 そして、それを裏付けるかのように、彼らの戦場は常人の立ち入れるような領域ではなかった。天才という形容すら生温い、真に選ばれた強者たちにのみ許された神の領域。あの星が降る戦場で戦うことが出来るのは、きっと本当に選ばれた人間だけだ。

 しかし、そうした神に選ばれた人間たちを殺すために、この少女が用意したのが『あの男』だというのなら―――

 

 

(勝てるわけない…!!)

 

 

 そもそもの話として、彼らの『力』の大元になっている神に近しい存在すら、この二人はすでに殺して来ているという。

 それが事実であるなら、あそこで戦っている者達には最初から勝ち目など無いということになる。たとえ、今のなのはがあの戦場に行ったとしても、レベルが違い過ぎて出来ることは何も無いだろう。

 だから、あそこで戦っている人達のために今のなのはが出来ることは、一つだけだった。

 

 

「今すぐ、やめさせて…!!!」

 

 

 なのはは目の前の白い少女へデバイスを突き付けていた。

 だが、そんないつ撃たれてもおかしくない状況であるにも関わらず、相手の少女は全く動じた様子はない。

 

 

「…何のつもりかな?」

 

「あの黒い人に依頼したのはアナタなんでしょ!?」

 

「…そうだが、それがどうしたのかね?」

 

「だったら、アナタがやめさせてよ!! これは脅しじゃない!! そうでないなら…!!!」

 

「私を撃つと?」

 

 

 凄まじく冷静な表情で訊き返された。

 恐ろしいまでに無機質に語る彼女は、まるで人間じゃないみたいだった。

 

 

「確かに、私はジャッカルほどの戦う力は無い。ジャッカルを止めるなら、ヤツを倒すよりも私を殺す方が簡単だよ。奴が仕事をするのは『依頼人』が存在してこそだ。依頼人である私がこの世からいなくなれば、ジャッカルが今の仕事を続ける意味も無くなるだろう」

 

 

 もしかしたら、この少女は、他人どころか自分の命にさえ一切の価値を見出していないのではないか。

 仮定の話とはいえ、自分が殺されるという話をしているのに彼女は眉一つ動かさない。

 

 

「キミが彼らを助けたいというなら、遠慮なく私を殺しに来るといい。実際ジャッカルを倒すよりも、私を殺す方が余程可能性はあるだろう。だが、私の今の話を聞いたのなら分かったはずだ。本来的に、キミは今回の我々の仕事には何の関係も無い。むしろキミは巻き込まれただけの第三者だ」

 

 

 それは紛れもない事実だった。

 本来ならば、この世界はこんなどうしようもない事態にはなっていない。

 この世界が本来の流れから逸脱した直接の原因は、言うまでもなく赤屍と間久部博士がやって来たことだろう。

 だが、この二人を呼び寄せることになった根本の原因は、転生者を創り出しこのセカイに送り込んだ神々、そして転生者の存在それ自体だ。

 

 

「転生者である彼らが存在しなければ、我々がこの世界に来ることすら無かった。我々は勿論そうだが、転生者である彼らも、本来的にはこの世界にとっては『異物』……不要な存在だと言える」

 

 

 つまり、今の状況は、この世界にとっての異物同士が勝手に争っているだけだ。

 はっきり言って、この世界の元からの住人にとっては、完全なとばっちりであり、迷惑以外の何物でもないだろう。

 白い少女は、まるで試すような表情で、なのはに問い掛けた。

 

 

「そんな彼らを助けるために、キミが命を賭けてまで我々と戦う必要があるのかな…?」

 

 

 その問い掛けになのはは即答できなかった。

 満天の星空と、流れ落ちる流星。流れ落ちた星々によって破壊されていくビルの群れ。

 そんな現実離れした光景を背景にして、少女はなのはのことを真っ直ぐに見つめて来る。

 なのはにとって、目の前の白い少女の存在自体が完全に理解の外だった。そんな余りにも得体の知れない少女の姿になのはは例えようのない恐怖を感じていた。

 

 

「さて、キミの勇気がどれだけのものか…」

 

 

 言いながら白い少女は、なのはに向かって歩き出した。

 一歩一歩ゆっくりと、なのはが突き付けたデバイスなど全く構わずに近付いてくる。

 

 

「止まれ…!!」

 

 

 普段のなのはからは考えられないような荒い口調。

 しかし、相手の白い少女は止まらない。止まってくれない。

 少女の姿をしているだけの、得体の知れない『何か』が自分の方へゆっくりと迫って来る。

 まるで出来の悪いホラー映画が現実になったような感覚だった。

 

 

「止まれって言ってる…!!!」

 

 

 一歩一歩、距離が縮まる毎になのはの心は恐怖に染まっていく。

 もうすでに手を伸ばせば触れる距離だ。デバイスの先端が相手の少女の胸元に触れそうなくらいの至近距離になって、彼女はようやく止まった。

 そこで白い少女は、なのはの瞳を真っ直ぐに見つめたまま訊いてきた。

 

 

「…どうした? 撃たないのかね?」

 

 

 その言葉が限界だった。

 

 

「あ、ぉう、嗚呼あああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 もはや完全なパニック状態だったと言っていい。

 恐怖を振り払うかのようななのはの絶叫。その絶叫と同時に放たれた桜色の魔力砲撃。

 その光は、本来の原作においては、幾多の困難を粉砕して来た希望の光だった。しかし、この世界においても、それが希望の光となり得るかは、誰にも分からなかった。

 

 

 

 






あとがき:

 ネットでのSSを読んでると、原作に巻き込まれたくないとか言ってるチート転生者をよく見掛けます。
 そのスタンス自体は別に否定するつもりはありませんが、何故、彼らは逆の可能性を考えないのか分かりません。
 逆の可能性というのは、つまり、チート転生者側の事情に原作キャラを巻き込む可能性です。今回の自分の作品では、高町なのはやユーノなどの原作メンバーは、特典持ちの転生者達の事情に巻き込まれた形になります。
 チート転生者であるキミの存在そのものが致命的な『何か』を呼び寄せた。その結果、取り返しのつかない事態を引き起こしたとしたら――…


「―――お前は、その責任を取れるのか?」


 これも自分がチート転生者の連中に叩き付けてみたい言葉の一つです。
 フェイルや有希は、そうした責任を果たそうと出来る・戦える人間としてデザインしたキャラクターですね。
 本編のような状況に置かれても、なおも諦めずに、そうした責任を果たそうと出来る人間なら、物語の英雄・オリ主として活躍するだけの資格があると自分としては思います。
 本当にそうした責任を果たそうと出来る善性を持った人間なら、特定の原作キャラを過度に貶めたり、格下への弱い者いじめをしたりということを、そもそもしないだろうからです。
 自分としては、そうした『資格のある』と思えるような転生者たちまでアンチしたい訳ではありません。むしろフェイルを登場させてからの中盤以降は、そうした『資格がある』と思えるような転生者たちを肯定するためにこそ、この作品を書いていると言っても良いくらいです。
 いうなれば、赤屍には『資格のある転生者』と『資格のない転生者』を篩に掛ける役割をして貰っています。だから、この物語上での赤屍と間久部博士の役割は、相手が善人や悪人に関わらず『平等』に殺しに掛かって来る舞台装置というのが一番正確かもしれません。

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