『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話   作:世紀末ドクター

4 / 30
第四話 『リリカルなのは』の世界で その3

 

 

(一体、何だったんだよ、アレ…?)

 

 

 自宅に帰った後、俺は自室のベッドに寝転がったまま思い出していた。

 帰宅途中に出会った白い少女と黒い男の二人組。自宅に帰った後も、何故か彼ら二人のことが俺の頭から離れなかった。

 ただ目が合っただけで自分の死をイメージさせられたのなんて、前世も含めて初めての経験だ。一度、前世で『死』を経験しているからこそ分かる。むせ返りそうな程に濃密な死の気配があの男からは漂っていた。

 男が放っていた絶望的な存在感。それは転生の際に出会った神様を名乗っていた奴すらも遥かに上回っていたと俺は確信を持って言える。

 具現化された死が服を着て歩いている。突拍子もない表現だが、俺にはそうとしか思えなかった。

 しかし、何より気になっていたのは、去り際にあの男が言い残した言葉である。

 

 

 ――命拾いしましたね。アナタは『対象外』だそうですよ――

 

 

 あの時、アイツは確かにそう言った。

 その言葉の裏を返せば、もしも俺が何らかの条件を満たす対象者であれば、俺は命を失うことになっていた、ということだ。

 

 

(アイツも…俺達と同じ、転生者なのか?)

 

 

 何となくだがそう思った。

 学校から帰る直前に友人の佐倉は、そろそろ『原作』の開始時期だと言っていた。

 そうであるならば、原作への介入を狙って現れた転生者だというのが一番ありそうな考えのような気がする。

 あの男が原作介入を狙う転生者で、介入の邪魔になりそうな転生者たちを殺してしまおうと狙っているということなら、去り際に奴が残した言葉も納得できるのだが―――

 

 

(けど、今の時点じゃ情報が足りな過ぎる…)

 

 

 あの白い少女と黒い男が何者で、何を目的としているのか。

 はっきりとした確定的なことはまだ何も分からない。いずれにしろ判断するには情報が少なすぎる。

 

 

(明日、学校で佐倉に相談してみるか…)

 

 

 俺はひとまず疑問を棚上げして、明日、友人に相談してみることにする。

 そして、俺がそんな悠長なことを考えていると、遂に『原作』の開始を告げるフェレットの念話が俺の耳に届いた。

 

 

<<――助けて――>>

 

<<――誰か……僕の声がきこえませんか――?>>

 

 

 エコーをかけながら囁かれたような感じの声。

 正直、聞こえるとは思っていなかっただけにびっくりした。

 しかし、この念話が聞こえるということは、俺にもリンカーコアという奴があるということだろうか。

 もしも、ここで念話の発信源へ見物にでも行ってしまえば、あるいは原作キャラとのフラグなり、何なりが立っていたのかもしれない。

 しかし―――

 

 

「……俺が知るかよ、そんなこと」

 

 

 助けを求めるユーノの念話を俺は無視した。

 俺が行かなくても、どうせ『原作』の主人公である「高町なのは」が居る。

 それに加えて、原作介入しようとする転生者どもが居るのだとしたら、放っておいても勝手に解決してくれるだろう。

 そして、何より俺が気掛かりだったのが、今日の昼間に出会ったあの『黒い男』と『白い少女』のことだ。

 

 

(恋愛フラグどころか、死亡フラグが立つのは御免だっつーんだよ)

 

 

 そう思い直して、俺は布団を被りなおした。

 原作の主人公「高町なのは」が魔法に目覚める運命の夜。

 この時の俺は知らなかったが、惨劇の舞台はすでにこの夜から始まっていたのだった。

 主人公「高町なのは」が初めて魔法少女へと変身し、ジュエルシードの怪物との戦いに挑む場面。

 当然、その場面に介入しようとする転生者というのも存在していた。しかし、彼ら転生者の命を狙う最強最悪の死神が既にその場に待ち構えていたことを、彼らは知らなかった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ―――端的に言って、その場所は地獄だった。

 

 主人公「高町なのは」が初めて魔法少女へと変身し、ジュエルシードの怪物との戦いに挑む場所となった夜の動物病院。

 そして、今、その現場で繰り広げられている光景はまさに地獄絵図としか言えないものだった。

 

 

「一体何人目ですか? 『王の財宝』とかいう能力を使って来たのは…」

 

「これまで渡り歩いた別のセカイの分も合わせて、今ので124人目だな」

 

 

 ユーノの前に居るのは『白い少女』と『黒い男』の二人。その二人の足元には過去に人間だったモノがバラバラになった状態で転がっている。

 そして、地面に転がっている部品の数から言って、この場で殺されたのはすでに一人や二人ではない。

 

 

(一体何なんだ、あの二人は…!?)

 

 

 ユーノはフェレットの姿のまま目の前の光景に全身を震えさせていた。

 一方的に殺されていく魔導師の子供たち。おそらくは自分の飛ばした広域念話に反応して来てくれた魔導師ということだろう。

 管理外世界であるこの世界に、こんなに多くの魔導師が存在していたことにユーノは少なからず驚いた。しかも、それらの魔導師は時空管理局が設定している基準から考えたら、いずれも天才レベルの魔導師ばかりである。

 しかし―――

 

 

「い、嫌だッ! 死にたくない!!」

 

「なんで!? なんで通用しない!?」

 

「ぎゃああああああああああああああ!!!」

 

「こ、殺さないでくれ!!」

 

 

 そんな天才クラスの魔導師たちが、あの男の前では何も出来ずに殺されていった。

 圧倒的という言葉すら生温い男の強さと残酷さ。人が紙屑か何かのようにバラバラに切り裂かれて死んでいく様子は酷く現実離れしており、ひょっとして自分は夢を見ているのではないかという気すらしてくる。

 しかし、これは紛れも無い現実だ。周囲にばら撒かれた血と臓物の匂い。むせ返りそうな程に鮮烈なその匂いが、これが夢ではなく現実であることを否応なくユーノに教えてくれていた。

 ちなみにジュエルシードの封印を手伝ってくれた「高町なのは」という少女は、目の前の凄惨な光景に耐えられず、とっくに気絶している。

 魔導師の子供たちが殺されていくのを眺めていることしか出来ないユーノ。

 

 

(やめて―――)

 

 

 ユーノは心の中で懇願するように呟く。

 けれど、惨劇は止まらない。

 

 

(やめてくれ―――)

 

 

 また一人、誰かの首が飛んだ。

 切断面から血が噴水のように吹き出し、血の雨が地面を濡らした。

 

 

(お願いだ、やめてくれ!!)

 

 

 ユーノは心の中で絶叫する。

 しかし、歯がガタガタと震えるだけで声になって出てこない。

 恐怖に竦んで動かないのは身体だけでない。もはや思考すらも止まりかけ、ほとんど何も考えられない。

 しかし、そんな止まりかけた思考でも、ユーノは考えていた。

 

 

(僕が助けを呼んだりしなければ――)

 

(彼らは死ななかった?)

 

(違う!殺したのはあの男だ!)

 

(僕じゃない!!)

 

(でも)

 

(僕が殺した?)

 

(僕の所為?)

 

(違う!!あいつらだ!!)

 

(でも、僕が――)

 

(助けなんて呼んだから――)

 

(彼らが、僕のせいで)

 

(でもでもでもでもでも―――)

 

 

 グルグルと自責の念が頭の中で渦を巻く。

 この夜だけで一体何人の魔導師の子供が殺されたのか。

 辺りは血の海と言って相応しい、おびただしい量の血液が流れている。

 そして、この地獄を作り出した『二人の死神』は、口元に薄い笑みを浮かべたまま血の海の中心に佇んでいた。

 もう周りの魔導師の子供たちは全員が殺され、生き残っているのは、ユーノ自身とジュエルシードの封印を手伝ってくれた少女しか居ない。

 

 

「さて…ひとまずこれで片付きましたか?」

 

「そうだな。―――いや、まだ二人ほど残っているか」

 

 

 ユーノの耳に二人の会話が聞こえた。

 二人ほど残っている? それは一体誰のことだ?

 猛烈に嫌な予感がユーノの背中を走り抜け、冷や汗が滝のように流れ出て来る。

 ユーノは今すぐここから逃げ出したかったが、足が動かない。自分の心臓の鼓動がやけにはっきりと聞こえる。

 

 

「そこのフェレット君―――」

 

 

 呼び掛けられると同時に彼らと目が合う。

 目が合った瞬間、ユーノは自分の心臓が鷲掴みにされる感覚に襲われた。

 いや、実際、自分の生殺与奪の権利が彼らに握られているという意味では間違ってはいない感覚だろう。

 

 

「クス、そんなに緊張しないで楽にして下さい。別にアナタ達二人に危害を加えるつもりはありません。少なくとも今はまだ、ね」

 

「ジャッカルの言う通りだな。そもそもキミ達も今回の仕事の『対象外』だ。必要以上に無駄に殺すつもりはない。もっとも、こちらの邪魔をするというのならその限りではないがね?」

 

 

 そう言って白い少女はニヤリと笑った。

 見た目には完全に幼い少女の姿でありながら、外見不相応に老成した口調。

 実際に魔導師の子供たちを皆殺しにしたのは男の方だが、男の方に負けず劣らず少女の方も不気味な存在だった。

 これだけの惨劇の中にあって、笑みすら浮かべて男の傍に侍る少女。明らかに少女の方も普通ではない。

 

 

「貴方、達は――…」

 

 

 唇が震えて中々言葉にならない。

 

 

「一体…、何者なん、ですか」

 

 

 絞り出すようにして、ようやくそれだけ訊けた。

 気になることや聞きたいことは、それこそ山ほどあったが、それがユーノの精一杯だった。

 

 

「ククッ、私達が何者か? 見ての通りのただの『狂人』だよ。だが、どうせなら自己紹介しておこうか。私は間久部。そこの黒い『運び屋』の雇い主だ」

 

「クス…それでは、私の方も自己紹介しておきましょう。私は赤屍蔵人。『運び屋』をしていますが、親しい人からは『Dr.ジャッカル』とも呼ばれていますね」

 

 

 白い少女と黒い男はそう名乗った。

 胸に抱いた恐れを押し殺しながら、何とかユーノは訊き返した。

 

 

「運び、屋…?」

 

「ええ、その名の通りクライアントに依頼されたモノを運ぶのが私の仕事です。今回の場合は、とある条件を満たす者を片っ端からあの世に運んでくれという依頼で動いています」

 

 

 とある条件を満たす者をあの世に運ぶという依頼で動いていると男は言った。

 つまり、ここで殺された魔導師の子供たちは、その条件に引っ掛かったということだろう。

 しかし、その条件が一体何なのかユーノにはさっぱり分からない。

 ユーノに考えられる可能性としては―――

 

 

「まさか、ジュエルシードを、狙って……?」

 

「ジュエルシード? ああ、あの宝石のことか。我々はあんなガラクタには一切興味はないよ。キミ達があの宝石集めを続けるのなら好きにしたまえ」

 

 

 間久部と名乗った少女はジュエルシードをガラクタと一蹴した。

 だが、次元震を起こす可能性すら秘めたロストロギアをガラクタと断言できる神経がユーノには全く理解できない。

 まるで自分の常識が通用しない異邦に迷い込んだような感覚。その異邦へと自分たちを連れ込んだ二人の死神に、ユーノは例えようのない恐怖を感じていた。

 恐怖に震えるユーノに白い少女は言葉を続ける。

 

 

「だが、キミ達があの宝石集めを続けるのなら一つ忠告しておこう。いや、忠告というよりは質問だが…」

 

 

 少女は限りなく残酷な笑みを浮かべたまま問いを投げた。

 

 

「キミ達が宝石集めを続ける過程で、次に私達の殺人現場に出くわしたら、その時、キミ達はどうする? 私達を止めようとするのかね? それとも、殺される被害者のことなど見捨てて逃げるのかな?」

 

 

 ユーノ達を試すような少女の視線。

 少女の問いにユーノは答えられなかった。

 彼女は少しの間、ユーノのことを見つめていたが、やがて息を一つ吐くとこう言い残した。

 

 

「まあ、命を大事にするなら後者をお勧めするが、次に会うときまでに一体どうするのかを決めておきたまえ」

 

 

 最後にそう言い残し、少女と黒い男は踵を返した。

 一方、ユーノは何も考えられず、しばらくの間、その場に呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。

 

 

 





あとがき:

 自分で書いてみてなんですが、こんな惨劇を目の当たりにしたら普通は間違いなく逃げます。
 ユーノ君やなのは嬢は責任感の強い子ですが、この状況なら逃げた方が良いよ、絶対。逃げても誰も文句は言わないよ、これ…。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。