『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話   作:世紀末ドクター

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第六話 『リリカルなのは』の世界で その5

 

(ここは―――)

 

 

 目が覚めた時、なのははベッドの上だった。

 だが、彼女がベッドから起き上がって周りを確認してみると、いつもの自分の部屋ではない。

 

 

(病院?)

 

 

 どうも記憶がはっきりしない。どうして自分はこんな所で寝ているんだろう。

 ぼんやりと記憶の糸を手繰るなのは。霞が掛かったような頭の中の光景を順に思い出し、そして―――

 

 

「―――っ!?」

 

 

 なのはは全てを思い出した。

 ユーノという名前の喋るフェレット。

 そのフェレットから手渡された『レイジングハート』という魔法のデバイス。

 目覚めた魔法の力。その力を使って『ジュエルシード』の生み出した怪物と戦い、そして、封印した。

 その際、自分の他にも魔導師の子供たちが現場に来ていたみたいだ。おそらくユーノが飛ばした広域念話に反応して来ていたんだろう。

 正直、自分の身近にこんなにも多くの魔導師が存在していたことになのはは驚いた。しかし、その場に現れたのは、ユーノの助けに応えようとする善意の魔導師だけではなかった。

 

 

 ――現れたのは『白い少女』と『黒い男』の二人組み――

 

 

 その二人は夜の闇の中から、まるで浮かび上がるように現れた。

 そして、その二人は口元を残酷に歪めながら、その場の魔導師の子供たちを皆殺しにしてのけたのだ。

 昨夜のことを思い出した途端、その時の光景がなのはの脳裏にフラッシュバックする。

 

 

「~~~~~~~~ッ!!!」

 

 

 記憶に焼き付いた血と臓物の匂い。

 その匂いを思い出しただけでなのは強烈な吐き気と眩暈に襲われた。

 

 

「げぶぶ……ごえっ、ぐえぇ゛ッ………が、ぶ、ッ!?………うげええぇ゛え゛えぇえええッっ゛っっ!!!」

 

 

 胃の中のものを残らず吐いた。

 食物も胃液も、泣きながら吐いた。

 

 

「なのは!」

 

 

 なのはが嗚咽に身体を震えさせていると、病室の扉が勢いよく開いた。

 そして、そこから飛び出してきたのはなのはの良く見知った顔だった。

 士郎、桃子、恭也、美由希の4人。

 

 

「なのは、良かった…! 本当に…!」

 

 

 母親である桃子に抱きしめられた。

 触れ合った皮膚を通して伝わる温かさ。

 

 

「お母さん…?」

 

 

 抱きしめられ、なのははそこでようやく落ち着きを取り戻した。

 はっきり言って、自分が生きているということにすら、そこでようやく気付けたと言っていい。

 

 

(わ…、私、生きてる…?)

 

 

 正直、絶対に死んだと思った。

 魔法に目覚めたばかりの自分よりも遥かに強いと思えた魔導師の子供たち。

 そんな魔導師たちが、あの男の前では何も出来ずにバラバラに切り裂かれて殺されていった。

 魔導師の子供たちが無差別に、そして理不尽に片っ端から殺されていく状況。はっきり言って、あの状況なら絶対に自分も殺されると思ったし、むしろあの虐殺の中で自分だけ見逃されて生き残っていることの方が不思議だった。

 

 

「なのは、一体何があった?」

 

 

 父親である士郎がなのはに訊ねた。

 

 

「あなた、目が覚めたばかりでいきなりそんな…」

 

 

 士郎を嗜めようとする桃子と美由希の女性陣二人。

 だが、そんな二人に士郎は頭を振った。

 

 

「現場の惨状を知っているか?俺もさっき警察の人から少しだけ事情を聞いたが、あれは尋常じゃないぞ…。昨日の今日ですぐに思い出せというのは俺だって酷だとは思う。だが、犯人を捕まえるための協力はするべきだ」

 

 

 耳聡く事件を聞きつけたマスコミによって、すでに昨夜の事件は全国ニュースになって流れていた。

 小学生くらい児童が合計で27人。その27人が全身をバラバラにされた状態で発見されたという残虐すぎる殺人事件。

 余りにも凄惨な虐殺現場に、一番最初に現場に到着した警官はそれが本物であるとは思えず、誰かの手の込んだイタズラだと勘違いしそうになったほどだと言われている。

 当然、現場一帯はすでに警察によって封鎖され、現場の検証が続けられていた。

 そして、事件が発覚したのはまだ昨夜に過ぎず、当然ながら犯人はまだ捕まっていない。

 

 

 ――現代によみがえった『切り裂きジャック』――

 

 

 朝の緊急ニュースではそのように報道されている。

 だが、かのイギリスの『切り裂きジャック』が犯行に関わったと言われているのは多くても8~20人。

 それに対して、今回の事件は昨夜だけで27人だ。単純に犠牲となった被害者の数だけで言うなら、『切り裂きジャック』などとっくに超えている。

 そして、生き残りなどいるはずもないと思われた虐殺現場に、ただ一人無傷のままで残された少女。無論、言うまでもなく、なのはのことであり、現場を目撃しているであろう彼女の証言に警察が期待を寄せるのも無理からぬことであった。

 士郎はなのはに目線を合わせながら、話し掛ける。

 

 

「警察の人から身元確認のために来てくれと連絡があった時は、本当にびっくりしたぞ。27人の子供が殺された虐殺現場にただ一人無傷で残されたのが、まさかお前だったなんてな」

 

 

 努めて穏やかに話す士郎。

 だが、目尻には涙が浮かび、声も心なしか震えている。

 桃子と美由希もそれに気付いたからこそ何も言えないでいた。

 

 

「27人も殺されて、お前だけが助かった状況で、これ見よがしに喜ぶのは不謹慎と言えば不謹慎なのかもしれん。だが、殺された27人の中にお前が入っていたらと思うと――…」

 

 

 消え入りそうな士郎の声。

 なのはは抱き締められた腕の中から父を見上げ、はっとした。

 普段は威厳溢れる父親の目は赤く、顔には深い心労の色が浮き出ていた。

 なのはは理解する。お父さんは、本気で私のことを心配してくれていたんだ、と。

 だから、自然と口から謝罪の言葉が漏れ出た。

 

 

「心配かけてごめんなさい……」

 

 

 愛おしそうに娘の頭を撫でた後、再び士郎は問うた。

 

 

「なのは、何があったか教えてくれ」

 

 

 なのははコクリと頷くと、ポツリポツリと語り出した。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 なのはから話を聞き終えた後、士郎と恭也は病院のデイルームへ移動していた。

 病室のなのはの付き添いは桃子と美由希の二人に任せて、今後の方針について話し合うためだ。

 

 

「なのはのさっきの話をどう思う?恭也」

 

「嘘は言っていないと思うよ。流石に27人も死んでるような状況で嘘を言うような奴じゃない」

 

 

 二人はテーブルを挟んで座り、なのはから聞いた話について考えていた。

 だが、常識的に考えたら、とても信じられるような話ではない。

 

 

「魔法に魔導師、か…。とても警察には話せんな…」

 

「ああ。どうせ話しても信じてくれないだろう。……頭がおかしいと思われるのがオチさ」

 

 

 なのはの話では、昨夜、助けを求める声が頭の中に直接響いたのだという。

 助けを求める声に誘い出された先で出会ったのは、ユーノという名前の喋るフェレット。なのはと同様、助けを求める声に反応して来ていたと思われる魔導師の子供たち。

 そして、それらの魔導師の子供たちを皆殺しにしてのけた『白い少女』と『黒い男』の二人組み。

 士郎はなのはの話を踏まえた上で、警察から聞いた話を改めて思い出していた。

 

 

「恭也―――」

 

 

 ふと士郎は恭也に声を掛けて訊ねる。

 

 

「刀で27人の子供をあそこまでバラバラに解体することが、お前や美由希の剣の技量で出来るか…?」

 

 

 27人のバラバラ死体。

 しかもそれは検死官の判断では、鋭利な刃物で一瞬の内にやられたもので、切り口の数から言って一つの死体につき最低でも5太刀以上の斬撃が加えられていたそうだ。

 一人につき5太刀以上を一瞬で、それを27人もだ。一体どれだけの剣の技量が必要な行為だというのか。

 倫理的なことを抜きにすれば今の彼らの技量でも或いは可能なのかもしれない。

 しかし―――

 

 

「いや、俺と美由希じゃ、とても無理…だろうな」

 

 

 恭也は無理だと言った。

 27人の子供をあそこまで残酷に殺すのは恭也と美由希にはとても無理だ。

 どうしても倫理的にブレーキが掛かるだろうし、その迷いが太刀筋にも現れるだろう。

 あそこまでの太刀筋の鋭さを以って27人もの子供を虐殺するというのは、剣の技量もそうだが、精神的な問題も大きい。

 ある意味、精神的に超越している者でなければ、今回の凶行は不可能だろう。

 

 

「剣の技量もだけど、間違いなく精神的にもイカレてるよ。今回の事件の犯人は」

 

「ああ…俺も同感だ」

 

 

 恭也の言葉に士郎は同意の言葉を返した。

 なのはの話では、今回の虐殺を起こした『白い少女』と『黒い男』の二人は口元に薄い笑みを浮かべたまま血の海の中心に佇んでいたという。

 実際に魔導師の子供たちを皆殺しにしたのは男の方だったそうだが、少女の方も明らかに普通ではない。

 どう考えても、ぶっちぎりにヤバい奴らである。

 

 

「父さんは、犯人の目的は何だと思う?」

 

「なのはが言っていた『ジュエルシード』が目的……という訳ではないだろうな」

 

 

 もし、そうなら、ジュエルシードを封印したなのはが真っ先に殺されている。

 ジュエルシードを独占するために邪魔になりそうな魔導師を殺したのだとしても、なのはだけが見逃されたのは余りにも不自然だ。

 

 

「…となると、いわゆる無差別殺人。殺すこと自体が目的なのか?」

 

「いや、だったら尚更、なのはが殺されてないのは不自然だ」

 

 

 正直、なのはから事情を聞いた今ですら分からないことや不可解なことが多すぎる。

 はっきり言って、魔法や魔導師なんて存在だけで、すでに自分達の常識など超えている状態である。

 魔法や魔導師がどのような物であるかは詳しくは士郎や恭也には分からない。だが、なのはの話では、殺された魔導師たちは、魔法に目覚めたばかり自分よりも遥かに強いと思えたという。

 ひょっとしたら、いつもの道場で剣術の稽古をしている恭也や士郎、美由希よりも―――

 

 

「父さん」

 

 

 今度は恭也の方から士郎に訊ねる。

 

 

「父さんは、今回の事件、警察に解決できると思うか?」

 

「いや…、恐らく無理だろう…」

 

 

 士郎は恭也にそう答えた。

 不本意極まりないことではあるが、今回の事件の犯人は警察に捕まえられるような相手ではない。

 実際に見た訳ではないが、残された死体の状況となのはの話を聞いただけでそれが分かる。

 だから、士郎は恭也に念を押して言った。

 

 

「恭也、言っておくが下手なことは絶対に考えるな。もちろん、俺だって思う所が無い訳じゃない。だが、実際に戦えば恐らくお前でも殺されるぞ」

 

「ああ…」

 

 

 酷く苦々しい顔をして恭也は頷いた。

 不本意であるのは事実だが、父親の言うことを無下にして心配を掛けさせるつもりも恭也には無かった。

 

 

「今回の事件、俺は絶対に家族を関わらせん。今回ばかりは反対は許さんぞ、恭也」

 

「いや…俺も父さんに賛成だ。今回の事件はあらゆる意味で普通じゃない」

 

 

 今回の事件の犯人は間違いなく、狂人や外道の類だ。

 笑みすら浮かべて27人もの人間を殺すような外道が何の罰も受けず、のうのうと生きていることに思う所が無い訳がない。

 だが、今回の事件は、そんな安い正義感で下手に関わるには余りにも危険すぎる。士郎と恭也はそう判断していた。

 そして、恭也と士郎の意見が一致したところで、士郎はぼやくように言った。

 

 

「しかし、差し当たっては警察への説明をどうするかだな…。魔法や魔導師なんて、なのはが話したことをそのまま説明しても信じてくれないだろうしな…」

 

 

 今回の事件は警察に解決できるレベルを間違いなく超えている。

 だが、だからと言って、それは警察に協力しない理由にはならない。少なくとも事件の証言を求められたら、それに答えなければならないだろう。

 警察に一体どこまで説明するべきかと、士郎と恭也は大きく溜め息を吐いたのだった。

 

 

 

 




あとがき:

 さすがにこの状況だったら、なのはさんも魔法や魔導師のことも含めて、少なくとも家族には全部ゲロすると思う。30人近くも殺されてる状況で、それでも魔法や魔導師のことを秘密のままにしておくような子ではないでしょう。
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