『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話   作:世紀末ドクター

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第七話 『リリカルなのは』の世界で その6

 

 

 

 警察に発見されて病院へ搬送されたなのはであったが、別に彼女自身は目立った外傷などは一つもなかった。

 念のため頭部CT検査まで行われているが、診察した医者の判断では身体的には至って健康体だったそうだ。

 目を覚ました以上、退院しようと思えば今日にでも退院可能ではあったのだが、さすがに2~3日は療養のために入院することになった。

 

 

「じゃあ、私は着替えとか取りに一度帰るから。戻ってくるまで、なのはの付き添いをお願いね。美由希」

 

「うん、分かってる」

 

 

 桃子が病室から出て行き、残されたなのはと美由希の二人。

 なのははどこか現実感が希薄に感じられ、窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。

 窓の外の空は場違いな程に晴れ渡っており、昨日のことは本当は夢だったんじゃないかという気すらしてくる。

 

 

(だけど、本当なんだよね…)

 

 

 すでになのはもニュースで報道されている程度の内容は知っていた。

 

 

 ―――隠そうとしても、どうせいつかは知られることになる。

 

 

 士郎はそう判断したし、実際それは正しい。

 だから、なのはが知りたいと言えば事件のことは隠さずに伝える方針だった。

 なのはにとっては辛いことかもしれないが、長期的にはそれが最善だろうという判断だった。

 当然、なのは以外の生き残りがいなかったことも彼女は知っている。

 しかし、それでもなのははもう一度訊かずにはいられなかった。

 

 

「美由希お姉ちゃん」

 

「何…?」

 

 

 なのはは視線を窓の外に向けたままで美由希に訊ねた。

 

 

「本当に、私の他には助かった人は居なかったの…?」

 

 

 窓の外に顔を向けているなのはの表情は見えない。

 一瞬、美由希はどう答えるべきか迷ったが、結局は事実をそのまま伝えることしか出来なかった。

 

 

「うん…無事な状態で発見されたのはなのは一人だって…」

 

「そう…」

 

 

 悲しげに一言だけ返すなのは。

 それっきり、二人の間に沈黙が流れる。

 窓の外をぼんやりと見つめ続けるなのはに美由希も何を話せば良いのか分からない。

 心ここに在らずという感じで窓の外を眺めていたなのはだったが、ふと彼女は何かに気付いた。

 

 

「…!」

 

 

 気付いた瞬間、なのははベッドから飛び降りていた。

 

 

「なのは!?」

 

 

 美由希が止める暇もなく、なのはは裸足のままで病室を飛び出して行った。

 ここが病院だということも忘れて、なのはは全力で走る。途中ですれ違った他の患者がポカンとした顔をして見ていたが、彼女はそんなことを気に留める余裕は無かった。

 そして、彼女は息を切らせながら病院の敷地の中庭に飛び込んだ。

 

 

(病室から確かに見えた…! 絶対にここに居るはず…!)

 

 

 キョロキョロと周りを見回すなのは。

 

 

「ユーノ君!?」

 

 

 なのはは切羽詰った様子で呼び掛ける。

 すると、茂みの中から小さなフェレットがひょっこりと姿を見せた。

 ユーノの姿を確認したなのはは、少しだけ安堵の表情を見せる。

 

 

「…良かった。ユーノ君も無事だったんだ」

 

「うん…」

 

 

 フェレットの表情というのも良く分からないが、その表情はやはり暗い。

 昨夜の出来事がトラウマとなっているのは何もなのはだけではない。

 お互いに一体何から話せば良いのか分からないくらいだったが、まずはユーノは意を決したように口を開く。

 

 

「なのは、昨夜は『ジュエルシード』の封印に協力してくれてありがとう。本当にキミには感謝してる」

 

 

 そう言って、ユーノは頭を下げる。

 しかし、なのはは力なく首を振った。

 

 

「ううん…確かにジュエルシードは封印出来たけど、私、何も出来なかった…」

 

 

 現れた『黒い男』と『白い少女』の二人による魔導師の子供たちの虐殺。

 なのはもユーノもそれをどうすることも出来ずに、ただ恐怖に竦んでいただけだった。

 

 

「なのはが自分を責める必要は無いよ…。一番悪いのは考えるまでもなく実際に殺した犯人だし…」

 

 

 ユーノの言う通り、一番悪いのは実際に殺した犯人の二人組だ。

 だが、正直、昨夜の『あの二人』のことは、今思い出しただけでも身体が震える。

 文字通りの地獄絵図を作り出した『黒い男』と『白い少女』の二人。

 

 

「ユーノ君、あの二人は一体何だったの…? 魔導師の中には、あんなのも居るの…?」

 

 

 なのはは声を震わせながらユーノに訊いた。

 だが、実際のところ、ユーノにも分からないことだらけだった。

 

 

「ゴメン、なのは。正直、僕にも分からない…」

 

 

 ユーノにもそうとしか答えられない。

 普通、戦闘用の魔法にだって『非殺傷設定』というモードがあるし、時空管理局の局員などが使う魔法はそのモードが前提となっている。

 そんなモードなど知ったことかという犯罪者だって存在するが、あそこまで愉しんで殺すような人間は普通はいない。

 普段、ユーノが目にする新聞などで話題になるような次元犯罪者と比べてすら明らかに一線を画していると言えた。

 

 

「いわゆる次元犯罪者だとは思うけど…。あんなの、今まで見たことも聞いたこともないよ…」

 

 

 言いながら昨晩の二人のことを思い出すユーノ。

 現れた『黒い男』と『白い少女』は、それぞれ『運び屋』と『雇い主』だと言っていた。

 ユーノがそのことを話すと、聞きなれない言葉になのはが反応する。

 

 

「運び屋…?」

 

「…うん。なのはが気を失った後のことだけど、僕はあの二人と少しだけ話が出来たんだ」

 

 

 そう言って、ユーノは昨夜の二人と話した内容をなのはに語った。

 間久部と名乗った『雇い主』の白い少女に、赤屍と名乗った『運び屋』の黒い男。

 そして、彼ら二人が『とある条件を満たす者をあの世に運ぶこと』を目的に動いていると言っていたことを。

 

 

「彼らの言っていた『条件』が何なのかは僕にも分からない。けど、あの二人は言ってたんだ…。僕たち二人は『対象外』だって…」

 

 

 なのはとユーノが見逃されたのは、偶然に『対象外』だったからに過ぎない。

 だが、彼らの言う条件が何なのかユーノにもなのはにもは全く分からなかった。

 

 

 ――君子危うきに近寄らず――

 

 

 そんな諺が日本にはある。

 危険を避けるためにはそれに近づかないのが一番だという表現の言葉だ。

 あの死神二人の言っていた『条件』が何なのか分からない以上、彼ら二人と接触する可能性のあるような行動は最初から避けるのが無難である。

 しかし―――

 

 

「これからユーノ君はどうするの?」

 

「一人で探すよ。残りのジュエルシードを」

 

 

 ユーノは迷いなく言い切った。

 正直、なのははユーノがそんなことを言うとは思っていなかった。

 だから、思わずなのはは驚いた顔でユーノを見る。

 

 

「本気なの…?」

 

 

 なのはがそう聞き返したのも無理もない。

 だが、この世界に持ち込まれた『ジュエルシード』も危険度で言えば相当なレベルだ。

 正体不明のイカれた殺人狂が暗躍している状況であったとしても、そのまま放置していいものではない。

 だから、ユーノはなのはに頷いて答える。

 

 

「ジュエルシードだってれっきとしたロストロギアだからね。そのまま放置していい理由にはならないよ」

 

 

 それに―――

 

 

「それに、昨日、僕は何も出来ずに彼らを見殺しにした…。もしかしたら、助けられた命だったかもしれないのに…。いや、そもそも僕が助けなんて呼ばなかったら――…」

 

 

 俯きながら、消え入りそうな声でユーノは言う。

 今となっては意味の無い仮定の話だが、そもそもユーノが助けなど呼ばなければ、或いは彼らは死なずに済んだかもしれない。

 そうした殺された者達への罪悪感。そうした罪悪感がユーノを立ち止まらせなかった。少なくとも、自分の所為でこれ以上の犠牲者が増えるのはユーノには御免だった。

 

 

「けど、自分の力じゃ、到底あの殺人鬼二人は止められないと思う…。だったらせめてジュエルシードによる被害がこれ以上増えないようにしないといけない」

 

 

 それが自分が最低限しなきゃいけないことだと思う、とユーノはなのはに語った。

 彼ら本人も言っていたことだが、少なくともあの二人は『ジュエルシード』には何の興味も持っていない。つまり、『彼らの仕事』と『ジュエルシード』は、本来は何の関連もない別立ての問題だということだ。

 実際、『彼らの仕事』と『ジュエルシード』が別立ての問題ということなら、彼らの暗躍と無関係にジュエルシードによる被害は発生する可能性がある。最低でもそうした『ジュエルシード』による被害拡大だけは防ぐ責任があるとユーノは考えていた。

 ユーノが『ジュエルシード』の捜索を続けるという話を聞いたなのはは、恐る恐るといった風に訊ねる。

 

 

「ユーノ君は、怖く、ないの?」

 

「……」

 

 

 怖いか怖くないかで言えば、当然、怖いに決まっている。

 けれど、それを口にしないユーノになのは泣きそうな顔で叫んだ。

 

 

「だって! ユーノ君はジュエルシード探しを続けるって言うけど、もう一度あの二人に出会ったらどうするの!?」

 

 

 昨夜出会った二人の狂気に満ちた残酷な笑みは今でもなのはの脳裏に焼き付いている。

 確かに『彼らの仕事』と『ジュエルシード』が本来は何の関連もない問題ということなら、ジュエルシード探しを続けてもあの二人と出会う可能性は低いのかもしれない。

 だが、それは可能性が低いというだけであって、『ジュエルシード』を捜索する過程であの二人と出くわす可能性が無い訳ではない。

 なのはの叫びながらの言葉に、あの二人が去り際に残した言葉がユーノの脳裏によみがえる。

 

 

『キミ達が宝石集めを続ける過程で、次に私達の殺人現場に出くわしたら、その時、キミ達はどうする? 私達を止めようとするのかね? それとも、殺される被害者のことなど見捨てて逃げるのかな?』

 

 

 あの時の、少女の試すような視線と問いにユーノは何も答えられなかった。

 もしも、昨夜のような状況にもう一度出くわしたとしたら、自分は一体どうするべきなのか。

 勝てないと分かっていても正義のために立ち向かう? それともまた同じように見殺しにするのか? 正直、今でも正しい答えは出ない。

 しかし、それでも、今この時、自分がすべきことだけは決まっていた。

 

 

「なのは、さっきも言ったけど、昨日は協力してくれてありがとう」

 

 

 ユーノは、フッと優しげに笑った後でなのはに答えた。

 ユーノにとって、彼女は偶然に巻き込まれただけの一般人だ。

 偶然に魔法の才能を持ってはいても、それ以外は普通の女の子と同じ。

 そんな彼女をこれ以上、自分の都合に巻き込むつもりはユーノには無かった。

 

 

「ジュエルシードだけは僕が命に代えても回収する。だから、なのは―――」

 

 

 ユーノは意を決した表情で言った。

 

 

「昨夜のことは早く忘れて、キミは元の日常に戻るべきだ」

 

「忘れるって…!」

 

 

 そんなこと出来る訳がない。

 あの時、何も出来ずに魔導師の子供たちを見殺しにしたのはなのはも同じだ。

 恐怖に震えるなのはを見てユーノは本当に申し訳なさそうに言う。

 

 

「なのは、巻き込んで本当にゴメン…。そのお詫びって訳じゃないけど『レイジングハート』は置いて行くよ。ジュエルシードの怪物ならともかく、あの殺人鬼に意味があるかは分からないけど、身を守るための力として持っていた方が良い」

 

 

 そう言って、ユーノは赤い宝石をなのはに渡した。

 暗躍する『殺人鬼』と『ジュエルシード』という二つの厄介事がこの街に存在している以上、最低限の自衛の力は持っていても良いだろう。

 

 

「レイジングハート、なのはのことを守ってあげてね」

 

 

 赤い宝石に言い残し、ユーノはその場を後にする。

 そして、走り出す直前、ユーノはくるりとこちらに振り返った。

 

 

「さようなら、なのは」

 

 

 待てとは言えなかった。

 止める暇もなく、次の瞬間、ユーノは自分の前から走り去っていった。

 

 

「ユーノ君…」

 

 

 呼んだところでもうどうしようもないその名が、自然と口からこぼれたのだった。

 

 

 

 





あとがき:

 どうして転生者(笑)の方々は、自分が存在することで逆に悪い方向に転がるかもしれないと考えないんでしょうかね?
 今回の自分の作品では、『異物である転生者の存在自体』が、思いっきり悪い方向に転がったパターンを描いている訳なんですが、何で転生者の多くがあんなに楽観的なのか自分には不思議で仕方ないです。
 また、物語の世界では『特別な力は、特別な力を呼ぶ』というのが、世界観的な原則・理屈であることが多いです。もしも『特別な力は、特別な力を呼ぶ』というのが、世界観的な原則だというのなら、チート転生者の持っている力こそ、まさにその『特別な力』だと自分は思うんですよねぇ…。個人的には型月系の能力を持ち込んだ神様転生の作品で多い印象ですが、上から目線で『特別な力は、特別な力を呼ぶ』的なセリフを言ってるチート転生者を見ると、正直、自分は変な笑いが出そうになります。

「『特別な力は、特別な力を呼ぶ』って、お前が言うかぁ!? 神様転生で『特別な力』を持ち込んだのなら、それに対しての『特別な力』を呼び寄せないとテメェの理屈に合わねえだろうが!? だったら、俺がテメェらにとびっきりの『特別な力』を呼び寄せてやるよ、このクソ共がぁ!?」

 そんな風に考えて、自分が考え得る最強最悪の『特別な力』を、チート転生者の方々に対して呼び寄せて差し上げたのが本作だと言えます。物語の構造的には、特典持ちの転生者の存在こそが赤屍蔵人という最強最悪のラスボスを呼び寄せてしまったという構図になるわけですが、このあたりも神様転生への皮肉のつもりで書いています。
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