ずーっと一緒に居たいなっ!
津島善子。
彼女は苦しんで居た。
ルビィと、ずらまると、リリーと…いや、Aqoursのみんなと仲良くなることを、怖がっていた。
いずれ来る別れが怖かった。
高校を卒業する。
あと三年で、全てとの別れがくる。
いや…三年も、ない。
堕天使は考えを改める。
マリー、ダイヤさん、果南。
彼女ら三年生は、今年で。
千歌、リリー、曜。
彼女ら二年生もあとを追うように。
別れを告げる時が来るのだ。
高校を卒業して、どうするのだろう?
そんなこと考えたくない、というように思考をリセットする。
マリーは小原家のために進学するだりう。
ダイヤさんも、また。
果南は…店を手伝うのだろうか?
千歌、曜もまた家業を。
リリーは進学だろう。ルビィはダイヤさんと同じだろうし。
ずらまるは女中作家になるって言ってた。
…私は?
雑誌には起業なんて言ってみたけど。
できっこないことなんか分かっていた。
私は。私は…
***
「善子ちゃん」
その声で気がつく。ずらまるが顔を覗き込んでいた。
「だ、大丈夫…?」
ずっと返事なかったんだよう…とルビィが泣きそうな顔をする。
「もう授業終わったずら。練習一緒に行こうかと思ったんだけど…」
「体調悪いなら、おやすみする?お姉ちゃんにはルビィたちが…」
二人とも心配そうな顔をしていた。
やめて。
どうして私なんかにそんな顔を向けるの。
「…大丈夫よ!なんてったって堕天使なんだからねっ!」
明るい声を出す。
二人が微笑む。
「じゃあ行こうか、ずら」
***
屋上
「ルビィ、花丸さん、善子さん!遅いですわ!」
ダイヤさんが大声を出す。
「ピギィ!ご、ごめんなさい、お姉ちゃ…」
「ごめんなさい、ずら…」
私も続いて謝る。
ユニット別で練習していますわ、行きなさい、と促され、二人と別れる。
「oh!ヨハネちゃんが来たデース!」
「遅れて、ごめんなさい…」
私が謝ると、リリーはいいのよ、と微笑んだ。
その日は、誰のことも見ようとせず、ただただ練習に打ち込んだ。
何も考えられないくらいに。
何も考えられないように。
***
家で布団に仰向けになる。
嫌だ。
時間が進むのが。
別れがくるのが。
みんなの時間が、止まればいいのに。
***
「ルビィが、行方不明…?」
朝一、この情報を聞かされた。
ダイヤさんは休みだった。
授業は短縮され、午前で帰らされた。
もちろん練習も、無かった。
***
トーク
ちかっち@ふつうかいじゅー☆
『善子ちゃん、起きてる?』22:44
22:45『千歌じゃない。どうしたの、こんな時間に。』
『いやぁ、同級生が行方不明なんて、不安かなぁ、って。』22:45
22:45『そんなこと言って、自分が不安なんでしょ?』
『バレたか。たはは』22:45
22:46『もう、千歌ったら』
『そうそう、明日学校休みらしいよ。』22:46
22:46『そうなの?』
『うん。明後日は全校集会だって。』22:47
22:47『へぇ。説明とかあるのかしらね?』
『多分ね。あ、お母さんが呼んでる。しいたけに餌やれーだって。また明後日ね。おやすみー^ ^』22:48
22:48『うん。おやすみー』
***
「おはよう、善子ちゃん。聞いた?千歌ちゃんも行方不明だって…」
「おはようずらまる。え…私、一昨日トークしたよ…?」
「それって、いつぐらい?」
「えと、10時40分くらいかな…」
「じゃあ、その直後ぐらいずら。11時に姿を消したらしいから。一応、警察の人に言っておいたほうがいいんじゃないかな?」
「そうね…」
一昨日のトークの後、私、なにしてたっけ…?
***
トーク
ダイヤ.S
『こんばんは、善子さん。』20:35
20:35『ダイヤさん!どうしたの?』
『ええ、早速ほんだいにはいりましょうか。』20:35
20:35『?』
『ルビィと千歌さんを返してください。』20:36
『あなたなのでしょう?善子さん。』20:36
20:36『待って!なんのこと?』
『あの夜千歌さんがどこにいたか知っていたのはあなただけですわ。認めなさい』20:36
20:36『そんな!私じゃない!』
『ルビィがいなくなった直後、走り去るあなたを見ましたわ』20:37
20:37『違う。違う。』
『…善子さん?このことはまだ誰にも言っていません。
返してくれたら、水に流します。
それと、父の知人の良い心療内科医を紹介しますわ』20:37
20:37『違う。私じゃない。』
『善子さん?』20:38
20:38『私はみんなと一緒に居たいだけ…』
『どうしました?』20:38
『着信☎︎』20:38
『電話出てください』20:38
20:38『ずっと』
トークを削除しますか?
はい ☜
いいえ
***
「ダイヤさんも…? 」
「そうずら。なんか、集まって相談するみたい。放課後屋上だって。」
「…分かったわ。」
体が重い。
筋肉痛のような痛みもある。
なんだろう。
***
「なんで集まってもらったか、わかるよね?」
果南さんとマリーは目を腫らしていた。
みんな不安そうだった。
***
・夜外に出ないこと
・部屋にいること
・常に誰かと会話すること※アプリでも可
***
グループ
Aqours(9)
マル☆『みんな、大丈夫?』17:59
既読・6/17:59『さっき別れたばかりじゃない。心配性ね、ずらまる。』
KANAN*『用心するに越したことはないよ。善子ちゃんも茶化さないで。』17:59
既読・6/16:00『ごめんなさい…』
marry♡『良いのよ、ヨハネちゃん♪不安だと茶化したくもなるわよね♪』16:01
YOU!!!『どうやら全員見てるみたいだね?』16:01
梨子『既読が6っていうのが、なんか悲しいね…』16:01
YOU!!!『うーん、体が疼く…私、走ってくる。』16:01
既読・5/16:01『え、大丈夫なの?」
梨子『既読つかないね…行っちゃったかな?』16:01
KANAN*『不安だね…』16:01
***
SNS
堕天使♡ヨハネ
不安。曜さん大丈夫かな
16:01 ↪︎ ♻️ ♡2
***
グループ
aqours(9)
マル☆『あれ、既読減っちゃった?』16:32
KANAN*『善子ちゃんじゃないかな。SNSに投稿してるし、そっちにいるんじゃない?』16:32
***
「…曜が…?」
果南は絶句する。
悲しみと悔しさに拳を固くする。
救えなかった。
幼馴染が二人、自分の前から消えた。
***
生存者
松浦果南
小原鞠莉
桜内梨子
津島善子
国木田花丸
***
海岸
「…五人になっちゃったね。善子ちゃん。」
善子は答えない。
「私ね、怖い。」
そんな善子を気にもとめず、花丸は続ける。
「次は誰だろうって。私かなって。善子ちゃんかなって。…梨子さんかな、鞠莉さんかな、果南さんかなって。」
一気に捲し立てる。波が岩を叩く。
二人とも辛そうだった。
夕日に照らされ、赤く染まっている。
「私、怖いよ。」
花丸はいつしかぽろぽろと涙を落としていた。
「怖いよ。善子ちゃん…」
ぽろぽろと落ちる涙は夕日に照らされ紅い。
善子はそっと花丸を抱きしめる。
腕の中で嗚咽をあげる幼馴染にどんな言葉をかけるべきか、津島善子は知らなかった。
***
SNS
marry
uum…気分転換にクルージング。
そんなことをしても気分は晴れなかったケド…夕日は綺麗だったわ。
↪︎ ♻️ ♡15
***
「今度は、鞠莉?」
果南は泣いていた。
ここ数日部屋から出ていない。
露骨に筋肉が鈍っているのを感じる。
後輩から電話が来て、鞠莉が行方不明だと教えてくれた。
「…もう、嫌…」
当たり障りのない話をし電話を切った後、ぽつりと弱音を吐く。
みんなの前では見せない顔だ。
ー先輩っていつも元気ですよね
ー先輩のそういうところ、好きです!
そんなことを言われて、弱音を吐けるはずもない。
溜め息。
「…鞠莉。」
カーテンを開ける。
海は安らかに波打っていた。
「…どこにいるの」
その時、背後に気配を感じる。
振り向こうとすると、頬に金属のひやりとした感触。
「会いたいの?」
ヘリウムガスを使ったような声。
一瞬戸惑う。
「…会いたい。」
でも、会いたくないはずもなかった。
「…分かった。」
頬に触れていた金属が無くなる。
何処にいるんだろう、と一瞬考える。
空気を裂く音がする。
「ぐっ…」
頭に強烈な痛みが走る。
床に倒れこむと、相手がしゃがみこむ。
「…え…?」
薄れゆく意識。
「…子…?なん…で…」
***
果南、梨子が行方不明になった。
二人の間には、重い空気が流れていた。
「善子ちゃん。」
花丸が口を開く。
「あなたなんでしょ?」
善子が反射的に花丸に目をやる。
その驚愕した顔とは対照的に花丸は微笑んでいた。
「オラも殺すの?」
花丸は善子の手を取る。
「果南ちゃん、通話切れてなかったんだよ。」
向かい合う形になる。
「いいよ?…オラは。」
花丸は頬を染める。
「善子ちゃんのこと、好き、だし。」
花丸がそっと善子の頬に触れる。
善子は抱き寄せる。
耳元で愛してる、と囁いた。
花丸は一瞬目を見開くが、すぐに満足そうに目を細めた。
善子はそっと離れる。バッグからナイフを取り出す。
首筋に当てた。
確かめるように花丸の顔を見た。
「善子ちゃん。」
花丸はそれでも尚微笑んでいた。
「さよなら。」
ー堕天使。
ぱたたっ、と道路に鮮血が迸る。
通行人のおばさんが悲鳴をあげる。
慌てて携帯を出し通報する。
しかし、そんなことは善子の目にも、耳にも入っていなかった。
見えているのは光を失った幼馴染の美しい顔だけ。
だらしなく開いた口すらも愛おしい。
***
「津島さん、どうなるんだろうねー?」
「さぁ?警察が決めるんでしょう?」
「もーつれないなー」
「でも、8人殺して無罪放免だったら、それこそおかしいよねぇ…」