失踪したMeTuberという都市伝説に挑む。
しかしそれは恐怖の幕開けだった。
「消えたMeTuber……」
夜の九時半過ぎ。動画投稿を終えて、恵奈がいつものようにSNSのリプライ返しをしていると、
数件あった情報に目が止まった。
『突然失踪したMeTuberがいます。よかったら調べて見てください』
恵奈は、その情報のアカウントの動画を、見てみることにした。
動画は、二人組の高校生MeTuberのもので、四年前から投稿が止まっている。
都市伝説系MeTuberらしく、ネアンデルタール人やゾルダクスゼイアンやフリーメーソンやイルミナティ等の都市伝説を調べたり、
心霊スポットの検証をしているコンビだった。
その最後の動画の内容は、東京都の御蔵島の南部に、謎の建物がある、という内容のものだった。
二人組は、青ヶ島からモーターボートで御蔵島に上陸する予定で、そこまでの動画がアップロードされていて、
その日を境に、アップロードが途絶えてしまったのだ。
御蔵島は、旧第7泊地が置かれていた場所だったが、軍と島民の衝突が絶えなかった為、数少ない島民が去ってしまった結果、御蔵島村そのものが廃村となり、無人島と化している。
そして、湊ちゃん艦隊結成時に軍施設も放棄され、完全な荒れ地となっている。
安全性が確認できない為、
完全に立ち入り禁止となっている青ヶ島以南に次ぐ、立ち入り自粛という措置が取られている。
深海棲艦との戦争の疵痕により、危険地帯となっていた場所は、三段階に分けられる。
最上位の立入禁止区域。これは、深海棲艦が残っているのが確認できる場所で、軍関係者以外の立ち入りが禁止される。
現在は、小笠原諸島のみが指定されている。
二番目がこの立ち入り自粛区域で、これは深海棲艦との戦い等で、住民が皆去って廃村になった為、野生動物や深海棲艦、ならず者等の危険のある場所であり、御蔵島や、宮戸島、奥尻島等が該当する。
三番目は警戒区域であり、これには住民の居る島嶼部全てと太平洋側沿岸部が該当し、艦娘本部や海軍の施設が集中的に配置されている。
御蔵島の第7泊地は、解散後速やかに解体が行われている筈で、
南部は森になっていて、建物なんてありそうもない、と思われていた。
「恵奈、どうしたの?皆待ってるわよ」
寝間着姿の暁が、恵奈の部屋……和室の襖を開けて顔を覗かせる。
恵奈は、和室用のパソコンラックの、回転できる座椅子をクルッと回して振り向くと、
「実は………」
そう、消えたMeTuberの話をし始める。
暁は少し思案の後、ぽつりと話し始める。
「そう言えば、片桐と第7泊地の司令官ってツーカーで、御蔵島に何か隠している、って聞いたことが……」
その言葉に、恵奈は少し腕を組んで思案する。
「その司令官は今は……?」
「艦隊解散後閑職に回されたけど、何年か前に亡くなったって。おそらくは……」
結衣の仕業だろうと、言わなくても感づいている恵奈だった。
「情報部案件だったら、ちょっとまずいかな?安藤さんに相談してみるね」
恵奈は大きく溜息をつくと、パソコンを閉じて立ち上がった。
「そうね、また明日ね」
恵奈の手を引くと、美雪と杏子の待つ寝室へ二人で向かっていった。
エナツキの四人は、特注ベッドで四人仲良く寝るのだ。
翌日、エナツキチャンネルの動画がアップされたのは、ちょっと遅めだった。
先に、サブチャンネルのエナツキ日和のネタである、今日の夕飯ネタや、
仲のいいMeTuberに記録を塗り替えられた、杏子の早食い再挑戦企画がアップロードされていた。
その動画に、恵奈の姿はなかった。
―――――――ー
その日の動画は、いつもの軽快なものではなく、ホラー都市伝説系のものである。
「はい、どうも恵奈です。今日もエナツキ、頑張っていきましょう」
いつもの撮影部屋ではなく、エナツキハウスの応接和室での撮影である。
隣には安藤龍大将・艦娘本部長が座っている。
「えっと、都市伝説……ってことで、艦娘本部の安藤龍さんにお越し頂いてます」
「よろしく」
もう40代の安藤は、白髪が少し生えてきている。
「視聴者さんから何通か頂いている、消えたMeTuberのお話です。動画概要欄にリンク貼ってます」
テロップに赤字で、消えたMeTuberを追えという文字が出る。
「御蔵島に謎の人工建造物がある、という話だが、そういう噂は聞いていたものの、実際の調査は行われていない。私が主席監察官だった時点で閉鎖され、軍より『立ち入り自粛』指定がされ、それ以後手付かずになっている」
「という訳で、私達がその消えたMeTuberの足取りを追いたいと思うんです」
そう恵奈が言うと、安藤はメガネをくいっとあげ直す。
「わたしも都市伝説の類が好きでな、当時密かにチャンネル登録していてな。特に、各事件の陰謀論の……」
ここで、延々蘊蓄を語る安藤は、早回し処理される。
その間は、いつもの軽快なメインチャンネルのBGMに切り替わる。
テロップには、長すぎるんで飛ばします by恵奈 と。
「もちろん、君達エナツキも毎日欠かさず見ていたぞ。妻の不知火がアップされるたびに教えてくれていてな。始めたときにはこんなに小さかったのに、今では美人さんに成長して」
そう褒める安藤に、恵奈が照れ笑いを浮かべながら、話を戻そうとする。
「それじゃあ、本題に入り……」
「うむ。その前に、君にアシスタントをつけたいと思ってな?」
そう言い終わる前に、
恵奈の胸を鷲掴みにする。
「きゃあああああああああ!?」
恵奈は悲鳴を上げる。だが残念、現在他のメンバーは防音の効いている撮影ルームで、サブチャンネルの撮影中である。
「お久しぶり~結衣お姉さんだ……ぐふっ」
つい、条件反射で入れてしまった、霊子の籠った肘打ちが鳩尾に決まって崩れ落ちる結衣。
隣の安藤も、苦笑いを浮かべている。
安藤は立ち上がると、お腹を抑えてどこかの
変態撃沈 というテロップと共に「ちーん」という効果音が乗っかる。
「という訳で、結衣お姉さんに協力をお願いしました」
三人揃って座り直したところまでカットされたのか、場面転換エフェクトが入り、再び怖い系のBGMになる。
「うん。動画も確認させてもらって、青ヶ島村からボートをレンタルして御蔵島に向かった。というところまでは確認できているんだ。でもそこから先、ボートも何も見つかっていない。警察の話だと、転覆して海流に流されたんだろう、ってことで、行方不明のままで処理されてたよ」
『何かがおかしい』という、恐怖系の効果音と共にテロップが入る。
行方不明のままで、の件のところは、結衣がアップになっている。
「そもそも軍の記録には、御蔵島南部に何かを建設した記録は全く残っていなくって、森の中に何かがある、って考えにくかったから、調査対象から外されてたんだよね……
その『当時は』から、BGMが止まった。
恵奈がリモコンで部屋を薄暗くする。
「一つ、気になる報告書が上がってきてね。御蔵島南端に謎のコンクリートらしきものを見つけた、というものなの」
その言葉に、安藤がメガネをかけ直す。
「そういう訳だから、なにかあるらしい、というのは間違いないだろう。だが、もう少し彼等の動向を追いたい。もしかしたら、彼等の他の動画が原因かもしれぬからな」
「そういう訳で、皆さんも何か情報があったら、どしどし報告をお願いします」
安藤に続き、恵奈が締める。
「あ、御蔵島は安全が確認されてないから、あんまり立ち入らないようにね」
そう、結衣が釘を刺すと
情報お待ちしています。というテロップと共に、エンディングに入る。
―――――――――――
恵奈がアップロード後、いつものようにSNSのリプライ返しをしていると、
捨てアカウントらしきアカウントから、リプライが届いていた
『御蔵島、
それだけ書かれていた。
返事を送ったが、それ以後返事が返ることはなかった。
他の視聴者からは、悪戯扱いで叩かれていた。
そして数年ぶりに、消えたMeTuberのアカウントの動画が更新された。
その映像には、森の中に佇んでいる、朽ちたコンクリート製の建物、
更に、朽ち果てた車椅子が映し出され、
ホワイトノイズが被されて、
そして最後に、「お前達ノ世界ダケ幸セニナッテイイノカ」
と、テロップが現れるものだった。
深夜、それに気づいて動画を見ていると、港湾の方でサイレンが鳴り始めた。
「えっ!?」
慌てて屋上に上がり、持っていた暗視双眼鏡を覗き込むと、沖合の方に人工深海棲艦が現れていた。
――恵奈、スクランブル行ってくるぜ!
肩に乗っていたF-2妖精さんがぱっと消えると、基地航空隊の方から、次々と航空機が発進していった。
そして、艦娘達も……
「これは……?」
―――わたしへの挑戦状だね……
恵奈は、その沖合の様子を、鋭い目で見据えていた……
その頃、
次回から数話はSハウンドものの予定です。
この世界の「真理」とは一体