アイアンボトムサウンド直前の智紀回です
室戸泊地の戦いのお話です。
智紀は夢を見ていた。
燃え上がる室戸泊地庁舎。
「た……高天原くん……私はもう……」
智紀に抱きかかえられた、息も絶え絶えな飯田少佐。胸には軍刀が突き刺さり、これを抜けば、大出血で忽ち死んでしまうだろう。
「薄雲!どういうつもりだ!?」
それを見下ろすように見つめている、薄笑いを浮かべた、
―――――――――
「新井田ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その怒りの絶叫で、がばっと飛び起きた智紀は、汗びっしょりの自分に気づいていた。
『如何なさいましたか、キャプテン?取り敢えず、保安主任を呼びました』
ぱっと、枕元のコンソール上に、ホログラムで現れるミナ。その表情は、少し心配そうになっている。
その少し後、外から電子キーが解除され、結有が中に入ってくる。
「智くん……いや、艦長!どうしました!?」
「いや。なんでもねえよ……」
余計なことしやがって、と言わんばかりの言葉に、ミナの表情はシュンとなる。
『申し訳ございません』
「ほら、尋常じゃない汗かいてるし、何かあったんでしょ?僕が聞いて良いことだったら、話してよ?」
そう言いながら結有は、近くに置いてあったフェイスタオルを智紀に手渡すと、ライティングデスクから、椅子を勝手に引っ張り出して、ベッドの横に腰掛ける。
ライティングデスクの壁面には、娘の紀子の写真が所狭しと飾られている。
その中に一枚、四人の幼い艦娘の写真もあった。
「いやな、あんまりいい話じゃねえぞ?」
『でも……心配です』
その言葉に、智紀は陽子の言葉を思い出す。「ベース人格のモチーフには智子と紀子を使った」……と。
「今、どの辺だ?」
『現在、サンタイサベル島の北を航行中です』
ミナが、現在地を地図表示させている。
「……OKOK……何と言っていいかな……?室戸の夢を見ていた」
『室戸……』
「………」
結有は他のハーレムズと違い、佐世保から瑞希と共に、佐世保鎮守府からの増援部隊を引き連れ、室戸泊地に赴いている。惨状は目の当たりにしている為、言葉を失う。
智紀は、ぽつりぽつりと話し始めた。
――――――――
高天原智紀は、栄光の超越者という二つ名と共に、シミュレーション勝率99%という成績で
鎮守府・警備府司令官の階級が少将・准将に定まり、中将である高梨未来・草加拓哉は、「例外措置」という扱いになっている為、
その麾下である各泊地も、任官階級が大幅に下げられ、司令官は少佐を以て充てられることになっていた。
その為、中尉である彼は、本来大尉を以て充てられる、副司令官に補職されたのだ。
卒業時に、「君ならその職責を全うできるだろう」と云う言葉と共に。
他に、副官や陸戦隊員がいた。
司令官は、飯田彩美少佐という若い女性だった。
艦娘本部には、女性が多めなのが特徴だ。艦娘が女の子というのもある為、共感しやすい人間が選抜された結果でもある。
これは、過去に発生した艦娘への性虐待事案の、反省の意味もある。
陸戦隊は、陸軍からの出向となっており、庁舎も別となっている。
元気のいい佐渡に、大人しい松輪、しっかり者の択捉、ちょっと不思議ちゃんの対馬。
そして、この姉妹は実に仲がいい。
「はぁ~士官学校を見ているみたいだぜ……」
結有ハーレムズを見ているような感覚に囚われた智紀だったが、これでも一児の父。
副官としてやってきた、同期の松ヶ崎奈々少尉共々、この泊地に溶け込んでいった。
智紀は、艦娘達に一番懐かれていた。
「高天原くんは、副司令官というより、艦娘達のパパだね」
そう、飯田少佐にもからかわれていた。
艦娘本部が、独立した第五軍として再編された頃、この泊地に
「………薄雲です」
智紀はその艦娘に、
「……どうしたの?智紀中尉……怖い顔」
側にいた松輪に見上げられると、智紀は笑顔を浮かべてしゃがみ込み、頭を撫でる。
「んや、なんでもないさ」
「あー!!!智紀中尉が松輪を『てごめ』にしてる!」
「だ、だめですよ!」
「智紀中尉はペドだったんですねぇ」
その様子を、佐渡が見て大きな声を上げ、釣られて択捉も続き、対馬が洒落になってないジョークをかます。
「手篭めにしてねえよ!ペドちゃうわ!娘もいる一児の父がちっちぇ娘に興味ねえわ!あるのは智子だけだよ!」
そうツッコミを入れるように近づいてきた対馬の頭に、軽くチョップを加える。
「あたっ……ところで、最近の夫婦の営みは……?」
チョップされても懲りない対馬は、ニヤニヤと智紀に訊く。
「そうだなあ、先週の休暇で名古屋に行った時に……言わすなアホ!」
再び、対馬にチョップを叩き込む。
「はぅっ!」
「つ……対馬ちゃん……大丈夫?」
頭を押さえてしゃがみ込む、対馬の頭を撫でる松輪。
「言ったのは智紀中尉だぜ?」
「……はぅ」
智紀にツッコミを入れる佐渡と、それだけで顔を赤くする純情な択捉。
その様子を、薄雲は無表情で見ていた。
やはり変だ。智紀は理論的には表せない、「カン」のようなもので、違和感を感じていた。
その夜だった。
たまたまやっていた、テレビの怖い話を見て震え上がった四姉妹は、寝るまでいて欲しいと、智紀にせがんだ。
四人が寝静まった頃だった。何か煙の匂いがする……
「智紀くん!大変よ!薄雲が放火を!!」
バタンと乱暴に扉を開けた松ヶ崎少尉に、「こいつ等頼む」
そう言いながら、司令官私室に走って行った。
扉を蹴り開けると、薄雲に軍刀で突き刺された、飯田少佐の姿が目に飛び込んだ。
「薄雲、てんめぇぇぇぇぇぇ!!!!」
怒りの形相になった智紀が、怒声を上げながら薄雲を殴りつける。
薄雲は、数度床に叩きつけられると、立ち上がって見下ろす。
智紀は直ぐに、倒れた飯田少佐を抱き起こすと、刺さったままの軍刀を抜こうとする。
「抜いたら、大出血で即死だぞ」
薄雲が、冷酷な笑みを浮かべて智紀を見下ろす。
飯田少佐が、
「た……高天原くん……私はもう……」
そう弱々しく言葉を発する。
「薄雲、どういうつもりだ!?」
「高天原智紀、お前を誘いに来た。高梨湊に妻が酷い目に遭わされたそうだな?私と共に復讐を……」
その言葉で、
智紀は卒業前に、結衣から
「手前ぇ、新井田博士か!?」
その言葉に、
「さすがはウィザード」
「……薄雲は一時期行方不明になって、漸く帰還したと聞いていたが……そうか……手前ぇ、第三世代艤装計画の同調を、自分にやりやがったな!?」
その智紀の言葉に、薄ら笑いを浮かべる
「………クソが!!今すぐぶっ殺し………」
「私に協力する気がないなら、ここで死ぬがよい。海を見てみることだ」
そう言うと、薄雲こと新井田博士は、窓を突き破り外へと逃げていった。
一度飯田少佐を壁に凭れさせて、それを追いかけると、走り去っていく先の近海に、大量の継ぎ接ぎ型深海棲艦が現れていた。
あの、数年前の名古屋の激闘で現れた
あの後も散発的に現れて、知性は一切ないということが確認されている、謎の物体である。
「そういうことか……いつぞやのアレも、新井田の仕業か」
次第に煙が濃くなっていく。智紀は、飯田少佐を立ち上がらせようとした。
「高天原君……私はもう無理だ……君を司令官代理に任命する……もう苦しいのは嫌……楽にさせて」
息も絶え絶えな飯田少佐に頷くと、智紀は刺さっていた軍刀を抜いた。
大きな血管が破れて、胸の傷や口や鼻から大量の血を流したまま、飯田少佐は数度痙攣した後動かなくなった。
「…………」
息絶えた飯田少佐に向かって敬礼すると、ドッグタグも兼ねている端末用IDタグを腰から取って、ポケットに入れた。
その直後だった。銃声と共に聞こえた、
「松ヶ崎少尉ぃぃぃ!!!!」
と、悲鳴のような択捉の声に軍刀を投げ捨てると、その声の方に走って行った。
択捉達と松ヶ崎少尉は、裏口から出て、燃える庁舎の近くにいた。
正確には、松ヶ崎少尉だった
松ヶ崎少尉の死体は、口や鼻から血を大量に流していて、右手には九ミリ拳銃が握られていた。
「……馬鹿やろうが……奈々」
それで松ヶ崎少尉は、近海の深海棲艦の群れを見て、希望を喪い衝動的に拳銃自殺したんだ、と察した。
「松ヶ崎少尉が……拳銃を口に咥えて……」
「そうか……択捉、松輪、佐渡、対馬……陸戦隊詰所に行くぞ」
智紀は、涙を流している択捉を見ることなく、海を見据えていた。
「えっ……?」
涙を流したまま、驚いて顔を上げる択捉に、智紀は強い意志の籠った目で四人を見下ろす。
「今から海に出ても、守り切れない。陸上戦だ!」
「……わかったぜ!」
「……中尉を信じてる」
「………死ぬなら一緒」
「……はい!」
佐渡、松輪、対馬、最後に択捉が答える。
戦闘は数日間に及んだ。
陸戦隊員は、真っ先に全員が戦死した。
嘗ての海兵旅団が、いかに異常だったかがわかる。
智紀達五人は、室戸周辺に避難指示を発令しながら、陸地に侵攻している深海棲艦を、協力して倒していた。
通信を傍受していると、中部警備府、横須賀鎮守府、佐世保鎮守府でも同様の攻撃を受けており、支援は厳しそうだった。
同様に、四国の真裏にある呉鎮守府も、瀬戸内海封鎖の突破に苦労していた。
陸軍は、独自に部隊を
「智紀中尉………もう……」
室戸市内の民家で、継ぎ接ぎ型深海棲艦に囲まれた時、絶望的な顔の択捉を見ながら、智紀は覚悟を決めていた。
持っている武器は既に壊れていて、
勝手に借用した包丁は、択捉達に持たせている。
「すまん……智子…紀子」
その直後だった。
『
その中国語の声と共に、迷彩服を身に纏った
『チャンか!?』
『智紀、無事だったか!?』
嘗ての友人であるチャンに、智紀も中国語で応える。チャンももちろん中国語だ。
彼は、中国では黒孩子と呼ばれる、戸籍のない中国人だった。
日本に密航した彼は、嘗てグレていた頃の智紀とつるんでいた、悪ガキグループのリーダーだった。
士官学校入学後は、連絡を断つつもりだったが、卒業後再会して、その時の結衣の提案で、PMCを起業したのだ。
もちろん、社員は元海兵旅団隊員やチャンの仲間達である。
『どうして……?』
そのまま中国語で会話している智紀に、何を言っているかわからない択捉達を見ると、チャンは日本語に切り替える。
「国防軍の安藤さんからの依頼だ。室戸の深海棲艦の駆除をしてくれ、ってな」
「そういうことか……助かる!お前達、こいつ等の仲間はあの、『怖~い』元海兵旅団だ!」
海兵旅団を知らない世代の艦娘である択捉達には、その言葉はもはや伝説になっている、
深海棲艦よりも強いという元海兵旅団の到来に、四人はぱあっと希望の笑顔を浮かべた。
「智紀、取り敢えずこれは貸しな?」
そう言うと、チャンは背中に背負っていた、特殊合金製トマホークを投げ渡す。
それを受け取ると、智紀はニィっと笑って、掛け声を上げる。
「打って出るぞ!」
「「「おー!!!」」」
智紀達は、再び戦いの渦に飛び込んでいった。
その頃、上空の輸送機には、結有と艦娘達が搭乗していた。
「まったく、
「全くよ。空は見上げるもので飛び込むものではないのに」
トマホークを手に持って、パラシュートを背負った龍驤と扶桑が愚痴を言う。
「あはは、これしか思いつかなくって。 ほら、ヘリだったら空母型にやられる危険もあったでしょ?」
同じくトマホークを持った結有も、パラシュートを背負っている。
『降下ポイント到着、グッドラック』
空軍のパイロットの通信での言葉に、結有は「了解。感謝します」と答えると、真っ先にダイブした。
「ああもう!脳筋娘め!!」
「ああ、不幸だわ……」
同じく、夜の空にダイブしていった二人の艦娘……
「この戦場は……地獄だ」
降り立った結有は、ポツリと呟いた。
逐次投入された、陸軍の兵士の死体や、PMCの死体、逃げ遅れた市民の死体が転がる、室戸市市街地だった。
だが結有は直ぐに意識を敵に集中し、トマホークを振るい始めた。
チャン等PMC、『士官学校最強の女』結有や、伝説の高梨艦隊の龍驤や扶桑、そして封鎖を突破してやってきた、『日向師匠とザ・デストロイヤーズ』等の活躍のお陰で、智紀や択捉達は生き残ることが出来た。
この戦場で、智紀と結有は出会うことはなかった。
智紀は重傷を負って入院し、結有達はフルトン回収システムで、空路佐世保に戻って行ったからだ。
この功績により、結有は中尉に、智紀は大尉に昇進した。
そして、安藤と高梨姉妹の推薦で、軍大学への入学が決まった。
それと同時に少佐に昇進した為、大尉の在任期間僅か四日間。戦死での特進を含めても、最短在任記録である。
軍大学入学決定と同時に、択捉達と共に艦娘本部長付きとなり、東京で択捉達と療養生活に入った。
傷が癒えると、智紀は安藤の手伝いをしながら、択捉達と軍大学入学までを過ごした。
何故か、智子や紀子にも択捉達は気に入られていた。
その結果、智紀の軍大学入学後は、中部警備府に配属されていた。
彼女達は、強くなったと確信したら部下にしてねと智紀と約束し、
Sハウンドの見送りには、敢えて行かなかった。
既に前日、高天原家で壮行会をして、泣くといけないからと、見送りは遠慮したのだった。
―――――――
『……そういう事だったんですね』
話を聞き終えたミナは、深刻な表情を浮かべていた。
「新井田博士は、智くんを引き込むつもりだったんだね……あの時は僕も救援に行ったけど、酷い戦場だったからね」
「そう言えば、結有も来てたんだったな。しかし、空挺降下で増援に来るとは思わなかったわ」
智紀の言葉にあははっと笑う結有。そして真剣な顔になる。
「智くんは僕の大事な親友だ。だから智くんが苦しんでるなら、半分分けて欲しいな」
『私もです。皆で共有すれば、苦しくはありません』
結有とミナの言葉に、智紀はふっと笑みを浮かべた。
「ありがとな。明日からの、鉄底海峡の調査任務の為に寝るわ」
再び布団に潜り込んで、寝息を立てるのを、結有とミナは見守っていた。
次回は予定通り日曜投下予定
ロリ海防艦4人衆はまた登場予定です。