すみません、そっちより先に温めてたこっちが出来てしまいました。
綾波が解体・退役を申し出た真意とは…
二年前のある朝。駆逐艦綾波は
「失礼します」
「お?どうした?」
ちょうど、他のデストロイヤーズメンバーもやって来て、モーニングコーヒーを始めようとしたところだった。
「綾波さん、よかったらコーヒーでも……」
現在の旗艦である神通が、そう声をかけようとしたのを遮って綾波は、
「お話があります」
真剣な顔で、目の前の草加を見やった。
「聞こうか」
真面目な顔になった拓哉に、綾波が口を開いた。
「結論から申し上げます。退役します。艤装を完全に解体したいです」
『………』
一同は長い沈黙の後、
『えええええええええええええっ!?』
と声を上げた。声を上げずに黙っているのは拓哉だけ。
「まあ、静かにしようや」
その言葉で、綾波をソファーに勧めると、他の面々も座り始めた。
「どういう心境になった?」
そう問われた綾波は、コーヒーを啜ってから、穏やかな笑顔を浮かべた。
「そうですね……私のここから先、
『…………』
沈黙しているデストロイヤーズの面々を見回しながら、拓哉が口を開く。
「綾波を見てると、どういう訳か、
『…………』
「彼を見てきた坂本龍馬は、こう言ったそうだ」
そう言うと、一息吐いて再び口を開く。
「最初のうちは必死で人を斬る。次第に其れが快感になり、やがては何も感じなくなる。そしてそのうちに、斬った人々の念が
その言葉に、那珂が心配そうに拓哉に問いかける。
「その後は………?」
「知らね。処刑されて死んじまったからな。もう一ついい例がある、海兵旅団だ。あいつ等の一定数は、今も精神科に通っている。肉体も精神も精強な、
海兵旅団の全てが、平穏な世界を受け入れた訳ではなかった。戦いこそが人生、と海外の外人部隊に行った者、中東のテロ組織に身を投じた者、村上社長の元で
平穏期に入り、緊張の糸が切れて精神を病んでしまった者も少なからずいる。村上建設にも、そういった社員は少なからず在籍しているが、彼等はまだ軽い症状の方だ。重い者は、日常生活すら満足に送れない者も、少数だが存在しているのだ。
そういった者は、各地の
「綾波さんは、そんなふうになって欲しくないよ」
心配そうな、川内のその言葉に、綾波が口を開いた。
「私は……確かに、最初の内は必死でした。そしてそのうちそれをスリルとして楽しむ様になって、海賊退治の頃には何も感じなくなっていました……やがて沈めた海賊達にも人生があるんだ、親もいれば兄弟もいる、子供も居るかもしれない。そう思った時、人を殺すのが怖くなりました。それでも、私の責務だから、任務を続けていました。そんな時に、名古屋からやってきた恵奈さんに言われました」
―――これ以上、苦しまなくて良いんだよ。
「私は、何も彼女に相談してませんし、エナツキの皆に呉の街を案内して、撮影協力した
再び、決意の籠った綾波の言葉に、拓哉は頷いた。
「それで、皆さんにお願いです。私は拓哉さんを独り占めすることは出来ません。ですから……
にっこりと浮かべた笑顔が綺麗過ぎて、ズキュウンッと
「できれば……その……拓哉さんの赤ちゃんが欲しいな……なんて」
恥ずかしそうに、指でツンツンしている綾波の姿に、川内と那珂と隼鷹のリミッターが振り切れてしまった。
「よし!
「きゃあああ!?」
「ちょっと!危ないですよ」
「あーあ、パンツ丸見えね」
三人に担ぎ上げられ、悲鳴を上げる綾波。それをおろおろと見上げている神通、苦笑いを浮かべて拓哉を見る翔鶴。
担がれている綾波の顔は真っ赤であり、スカートを押さえている
「しゃーねーな。今日は有給取っか?」
『おー!!!』
綾波は担ぎ上げられ、顔を真赤にしており、そのまま家へ連行されていく。
それを見て、笑いながら従いていく三人。
通りかかった日向と榛名に、「今日明日有給取るんで、長官代行よろ」と宣言する、一番後ろから歩いてくる拓哉。
日向は、明日までの業務量が五倍程になったと察して、溜め息を吐いた。
「まあ、そうなるな」
「あはは、お手伝いしますよ」
呉鎮守府の貧乏くじは、今日も貧乏くじを引いていた。
その日は綾波曰く、「皆さんに愛でられた」とのことである。
その後、布団に全員包まっている中、拓哉がぽつりと皆に、
「俺、考えたんだけどよ。
「えっ!?」
真ん中で、布団に包まっている綾波は、驚いた顔をして周囲を見回す。
皆、ニコニコと笑顔を浮かべている。
「……もしかして皆さん、承知だったんですか?」
少し困った笑顔を浮かべると、神通が代表で、
「綾波さんの言ったように、皆の奥さんだから妥当だと思います。皆、貴女のことが大好きですから」
「うんうん。皆、綾波さんのこと大好きなんだよ!」
そう言うと、その後に那珂も続く。
「そういうこった。草加の名字をつけてもらうけど、名前はどうする?」
その拓哉の問いに、綾波は少し考えて、
「そうですね……綾……が良いです」
こうして、綾波は草加綾となった。
翌日、艤装の解体封印が行われるのを見届けに、綾は工廠にやってきた。
作業準備をしていた明石は、真剣な顔で振り向いた。
「本当に、良かったのですか?」
「はい。できれば、コアも破壊してください」
綾の、不退転の決意に頷くと明石は、
「承知しました。ですが、コアと艤装は、預からせてください」
その時、初めて明石は、
その計画を聞いた綾は、ふふっと笑い、頷いた。
「喜んで。
こうして、艤装を解体した草加綾は軍を退役。
軍職員として、呉鎮守府庁舎の掃除や雑務に、
そして、デストロイヤーズハウスの家事を一手に引き受け、主婦としても頑張っている。
苦手だった料理は、鳳翔が忙しい社長職の合間を縫って教えに来てくれて、半年経った頃には、
和洋中の家庭料理をマスターするようになっていた。
今は、料理レシピ検索サイトの料理を再現してアップするのが趣味になっている。
現在はザ・デストロイヤーズのサブチャンネル、「Aya's kitchen」というチャンネルで、料理動画もアップするようになった。
軍職員もパートタイマーなので、家事をしてもまだ時間はあるのだ。
そうこうしているうちに、綾が漸く妊娠した。
他の五人娘が一番喜んで、毎日
「よく頑張ったな」
と、綾の頭を撫でる。
「いえ、頑張るのはこれからです。出産は大変、と聞きます」
と、神通がいうも、綾は笑顔を向ける。
「私は、あの数十年がありますから、怖いものは何もありません」
あの、地獄のような戦争すら糧にして、
岡田以蔵が見ることのなかった、『銃を置いたあと』の、平穏な生活を。
エナツキハウスが完成する頃には、妊娠五ヶ月目の妊婦だが、出張コラボ動画も撮影したりしている。逆にエナツキが、ザ・デストロイヤーズハウスにお邪魔することもある。
綾はエナツキが所属しているMCNにも所属して、食材や料理系のタイアップも引き受けるようになった。
触れ込みは「
逆に、活き活きと多忙に活動する彼女を心配して、他の艦娘達が家事も手伝うようになった。
いろいろな意味で、ザ・デストロイヤーズは、
今日も、キッチンに立って夕飯動画を撮影しているのを見ながら、拓哉は呟いた。
「ザ・デストロイヤーズって、
その言葉に、隣にいた神通は、口元に手を当てて笑っていた。
ある意味綾波のエピローグです。
といっても草加綾さんはエナツキ関係で出てきます。