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仕事も始めたし
結有が激しい戦闘の末、上陸してきた深海棲艦を一体残らず倒す頃には、
深海棲艦達は、この島を避けるようになっていった。
そうなると、艦娘でも何でもない彼女は手出しができず、折れた刀と共に、
血塗れの服で戻ってきた。
「ただいま。陸上の敵は皆、叩っ斬って来たよ」
「お、おう」
その、青い血塗れの軍服で笑う結有に、智紀はドン引きした顔で答える。
「なにさ?僕がバケモノみたいな顔してさ」
「取り敢えず着替えて来い。風呂はこの司令室の隣にあって、水もお湯も出るぞ」
大量の資料を確認している智紀は、視線を資料に戻すと、結有も、
「へいへい。ちょっと行って来ますよ」
刀をポイッと捨てると、両手を頭に組んで、隣室に歩いて行ってしまった。
――――
返り血を洗い落とし、さっぱりとして新しい服――ちょうど置いてあった白露型の制服――で戻って来ると、
智紀は、書類から顔を上げた。
「取り敢えず、この世界の相違点は色々あるが、各務原大尉は第十三泊地戦で戦死。
そう言うと、ポケットから電子煙草を取り出して咥える。
「あー、智子さんに言いつけるよ?」
「これは、
そう言われると、結有は肩を竦め、腰掛けてから続きを促した。
「これ、どう見ても………楊 文里って、
士官プロフィールの写真を見て、結有も動きが固まった。
楊 文里という士官の顔は、どう見ても
「結衣さん……だよね?」
「そうなるな。俺の見立てでは、コイツは
険しい智紀の顔に、結有の顔も心なしか曇っていく。
「だよね」
「取り敢えず、
そう言いながら、首から下げた写真入りのロケットペンダントを見る。
中には、紀子と智子の写真が入っている。
「智子さんや紀ちゃんに連絡できなくて、寂しくない?」
意地悪そうに言う結有に、智紀は
「まあな。もう一人くらい、子供欲しいからな」
二人目を孕ませておいて、そんなことを言う智紀に、結有はくすくすっと笑った。
「紀ちゃんに見られたんだって?
紀子から、
「まーな。いつかは覚えるんだし、大人になったらするんだよ、って性教育したしいいだろ。小学校では今、モテモテらしいぜ?」
くつくつと笑いながら、小学一年生にして、娘のボーイフレンド達を思い浮かべる。
ちなみに、エナツキの美雪の弟である。この兄弟姉妹は、春と冬に因んだ名前を付けている。
長姉は美
そしてその次に美
娘の話によると、双子兄弟はいつも自分を取り合って、喧嘩になっているらしい。
その様子を思い浮かべながら、その話を思い出す。
―――――――
「ねー、パパぁ~」
艦長私室に常に繋げている、リビングの
ちょうど書き物をしていた智紀は、顔を上げて笑みを零す。
「おー、どうした?」
「紀子ね、ボーイフレンド出来た」
その言葉に、智紀は一瞬複雑な気持ちを覚えながら、ウィスキーを飲んでから、
「彼氏出来たのか。どこのどいつだ?そんなけしからん奴は」
「春陽くんと冬夜くん」
にっこり笑って答える紀子に、飲んでいたウィスキーを噴き出しかけた。
「ど……どういうこった?」
「あのねぇ……シュンくんとトーヤくんが、紀子のこと独り占めしたいって喧嘩してたから、三人で仲良くしましょ!って言ったの。そしたら良いよ、って」
その、嬉しそうに『私のために喧嘩しないで』パターンになっているのを話す紀子に、画面の前に手を出して頭を撫でるポーズをすると、紀子も撫でられるポーズをする。
「おー、そうか。それで、紀子はどっちが良いんだ?」
そう問いかけると、紀子はキョトンとした顔をする。
「どっちって?紀子、二人共カレシにしたいよ?」
「………」
智紀は心の中で、お前も
周囲が
「まあ、仲良い事はいいことだからな。仲良くするんだぞ?」
「はーい!!」
紀子が元気よく返事すると、遠くからの、
「紀子~、お風呂入るわよー」
という智子の声に、「はーい!」と元気よく答えて、フレームアウトして行った。
――――――――
「という訳で、紀子は
そんなことを言いながら、水蒸気を吐いている智紀に、
「でも、お嫁に行くと泣いちゃうタイプじゃない?」
「んー……俺達、親死んじまったからな」
その答えに、はっとなった結有は、申し訳無さそうな顔をするが、智紀にぺしっとおでこを叩かれる。
「別に、申し訳ない顔をせんでもよろしいわ」
「ごめん」
そう言われると、苦笑いで一言謝ると、結有は真顔に戻った。
「それで。例の地下室、探る?」
「………お前、グロ耐性あるか?」
「え?」
キョトンとしている結有に、智紀が苦々しい顔をする。
「地下工廠で行われていたのは、
「『完全』?」
まだわからない結有に、智紀は予備のPCに、動画を再生させる。
映し出されていたのは地下の工廠。手術台に乗せられた、一糸纏わぬ漣。
両手両足が完全に拘束され、手術着を身に着けた男が、メスを手に取って、
「や……やめて………嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ガッシャアアアン
結有の拳が、ノートパソコンを貫いていた。
「おーお、やると思ったぜ、直情娘。サブパソコンで開いてよかったわ」
冷静な顔をして智紀が言うと、結有はまだ怒りを孕んだ声で、
「こんなの、誰だって怒るよ。要するに
「そう。その艦娘の臓物――コア――と共に建造すると、
投げやりのような智紀のその言葉に、結有は納得できず、壊したノートパソコンを、床に叩き付けた。
「でも、解体はそれほど
その言葉に、結有はハッとなって叫ぶように答えた。
「
その回答に、智紀は満足そうに答えた。
「そう。深海棲艦化と人工深海棲艦は、
その時、始まった
どこから現れたかわからない艦娘達が、第十三泊地の沖合で、深海棲艦と戦い始めていた。
「お前は、
「………そういうやり方は、僕は嫌いだよ」
結有は、知っていながら話してくれなかった事に不満げな顔をするも、智紀は涼しい顔をしている。
「お前が嫌いなやり方だからな。まあ一つ、面白いことを教えてやろうか?新井田博士の
新井田は、俺の
智紀は、
「多分、
その言葉に、何も言うべき言葉が見つからず逡巡している結有に、水蒸気を吐き出しながら、智紀は続けた。
「ここからは、俺の推測だから話半分で聞いてくれや。特異点ってのは二つあって、こっちでは存在しない結有や恵奈は
再び水蒸気を吐くと、智紀は椅子に凭れ掛かった。
「
その名前は、智紀の世界では人気を博している、スペースオペラの登場人物である。
不敗の魔術師と、常勝の英雄を中心とした、遠い未来の群像劇。
あまり、読み物は読まない結有が首を傾げていると、智紀が笑いながら立ち上がる。
「さあ、俺達はポイントに着いた。さて―――」
―――新井田、チェックメイトだぞ?
心の中で、
――――
「うわぁ、すごい!!」
汎用武装を身に着けた恵奈と、護衛の為に出撃した中部警備府の面々は、御蔵島の下調べに乗り出していた。
指揮艇に乗っている、中部警備府連合艦隊司令長官の電や結衣や安藤は、海を滑って燥いでいる恵奈を微笑ましく見ているが、結衣は内心、恵奈に心から詫びていた。
ゴメンね、
「何か、一雨来そうね……」
中部警備府総旗艦の加賀が、ポツリと漏らす。
そう。新井田博士こと薄雲が、怒りの形相で御蔵島に向かっているのだ。
二つに分かれた世界の、