そこでのザ・デストロイヤーズとの再会。
綾波は新しい道を進み始めていた
この間は、深海棲艦等との遭遇はなく、接近情報は全て各泊地に通報して、各泊地の艦娘が対処を行う。
ブリッジは、他の先輩や吹雪達が船を降りて、補給物資や追加人員の受け入れを行ったり、
ザ・デストロイヤーズの面々との親交を温めている為、
残っているのは、艦長の智紀と、司令官の陽子、その護衛を兼ねる結有、そしてそれに付き従う、瑞希だけである。
そんな様子を見て、陽子が智紀に声をかける。
「艦長、ちょっと降りてきたらどうだ?それなら結有も
陽子の、笑みを含んだその言葉に、ふっと笑顔を浮かべて、艦長席から立ち上がった。
「そっすね。すんません。結有、瑞希。そんな訳だから、付き合えや」
腰のホルスターに護身用の九ミリ自動拳銃を仕舞うと、結有と瑞希にも笑みが浮かぶ。
「そうだね。
「感謝する」
二人の礼の言葉に、陽子は楽しく笑いながら、
「いいってことよ。まあそれより、草加長官によろしくな」
『はーい』
三人が軍港に降り立つと、『呉鎮守府教導隊』ザ・デストロイヤーズと艦娘達が、交流を温めていた。
綾波は、綾波型の制服で、その上にエプロンを身に着けている。
「お久しぶりです!中将」
結有が声をかけると、拓哉も軽く手を挙げる。
「よっす。聞いたぜ、また、いずもが活躍するときが来たな」
「はい。艦長として、身が引き締まる思いっす」
智紀が代わりに応える。
「お前には、
「いや。あれは、まさか行方不明だった『駆逐艦薄雲』が、
改めて、申し訳なさそうにする拓哉に、智紀は首を振る。
「ところで、相変わらず共同生活ですか?」
「そうだな。綾波が今、
結有の問いに、拓哉が答える。
綾波は二年ほど前、
いずも改二は、そのコアと霊子結晶装甲で、対深海棲艦の防御性を高めている。
突然の退役だった。ある朝いきなり、『退役します。艤装を完全に解体したいです』と、言い出したのだ。
その頃には、
それからの彼女は、鎮守府職員として、掃除等雑務を担当しながら、ザ・デストロイヤーズの
漸く妊娠が確認でき、もう少ししたら、お腹も大きくなるだろう。
退役した時に拓哉は、綾、という名前を与えた。それと同時に、
もちろん、他のザ・デストロイヤーズの皆も同意の上で。
拓哉にも綾にも、そしてザ・デストロイヤーズの皆にも、『一つの
「綾さん、戦いのない生活はどうですか?」
デストロイヤーズの一番後ろで、綾波こと草加綾は、拓哉の横に静かに佇んでいた。
結有の問いかけに、ふんわりとした穏やかな笑顔を向ける。
「そうですね。よく……分からない。というのが、正直な気持ちです。まだ、主婦三年生ですから。でも、『ああ、もう死ななくていいし、
軍職員とは、戦闘に携わる軍人
完全に退役してしまった今、
そういった境遇の人間の積極採用は、艦娘基本法に明記されている。その採用枠で、呉鎮守府職員として、働いている。
「それも、出産までです。今四ヶ月目で、妊娠後期に入ったら、退職して、ザ・デストロイヤーズの家で皆さんに、『行ってらっしゃい』『おかえりなさい』を言って、送り迎えをしながら、子育て、家事、色々勉強しないといけないことは多いですが、
綾の心の底から幸せそうな笑顔に、結有はつい口にしてしまった。
「心の闇は、晴れましたか?」
「おい、結有」
隣りにいた智紀が肘で小突くと、ハッとした顔になる結有。
「ごめんなさい。僕、無神経でした」
綾は、ふっと笑顔のまま、首を横に振る。
「私の過去は消せません。
――そうだよ、過去は乗り越えるものだよ。
混じり合った、
「そうですね。拓哉さんは幸せものですね」
その言葉に、笑いを堪え切れずに、綾が笑い出す。かつての彼女には見られない、生の感情からの笑顔だ。
「何を言ってるんですか?結有さん。貴女にもいらっしゃるじゃないですか。吹雪さんに、杏奈さん、千里さんに瑞希さん」
「そうだぞ。このハーレム百合ップルめ」
綾の言葉に追い打ちをかけるように、ツッコミを入れる智紀。
「そ、それは、父さんが悪いんだ。あれだけ男を遠ざけてくれるから」
「それな」
結有は、その言葉に不貞腐れるように言って、そっぽを向いた。
その父は、陸軍に戻った。現在は、特殊作戦部隊の教官を務めている。
今でも、訓練の鬼は健在で、テロなどの非・深海棲艦事案に対して、強固な日本の国防を担う人材を、今も育成している。
おそらくは、ノンキャリア最高位である、准将に昇進できるだろう、とは安藤龍本部長の言である。
「よっしゃ。今夜は居酒屋鳳翔で飲むか!」
拓哉が楽しそうに言う。いずも改二は、
そんな訳で、何かあれば、すぐに戻ってこれるし、そもそも
出国前の羽伸ばしに、司令官も呼んで飲もう、と拓哉は言ってくれているのだ。
居酒屋鳳翔・呉店には、もちろん鳳翔の姿はない。
というより、鳳翔は既に、現場から離れている。
名古屋の駅ビルに、本社を構えている持ち株会社、『鳳翔ホールディングス』の社長となっており、今は子会社を統括する企業の
清霜はその逆で、その頃に専務を退任。今も、BISTRO KIYOSIMOのオーナーバーテンダーとして、鳳翔HDグループの一員となり、中部地区に数店舗を構える、ビストロバー部門運営会社の社長として、現場にこだわり続けている。
今鳳翔は、居酒屋鳳翔を中心とした居酒屋や定食屋等、いろんなジャンルに挑戦し続けている、名古屋再生の象徴とも言える経営者となっている。
村上建設もそのグループの一員である。村上社長は、艦娘が多いこの会社を、鳳翔HDグループの傘下に入れる決断をしたのだ。
常務である最上や木曾も、その提案には大いに賛成した。
社会に戻った艦娘達は、好んでこの会社の傘下企業に集まった。
こうして鳳翔も、戦争から決別し、自分の為の人生を謳歌している。
時々『居酒屋鳳翔金城埠頭本店』の『
彼女も現場を、思い出の地を、愛しているのだ。
「そうだ。恵海さん」
飲み会の席上、綾が思い出したように、ポケットからカードを取り出した。
『綾波改二零改二』の艤装カードである。
「私の艤装の
その、穏やかな表情の綾に、恵海は真剣な顔で受け取った。
「はい。綾波さんの『
「……私は、この呉の地で、皆さんの無事を祈っていますから」
だが、この、しんみりとしたシーンの
「結有!脱ぐな!脱ぐ前に帰れ!」
「まだ
「結有!それは、
羽交い締めされている結有へツッコむ智紀に、酔ってないと主張する結有。
そして、話しかけてる
そんな様子を、にまにまと一頻り眺めると、吹雪と瑞希が立ち上がって、結有をお持ち帰りする。
「こりゃあ、結有には、
「だな」
それを見送る、
そう。ここで乗り込んだ人員の中には、『居酒屋鳳翔・いずも改二店』のスタッフも含まれている。
最前線に、民間人を送り込む訳には行かないので、『軍のフランチャイズ』と言う形で、軍人に居酒屋鳳翔の研修を受けさせて、居酒屋鳳翔の
そう。結有に酒を飲ませれば、
「あはは、そうですよね」
「それね」
その会話を聞いていた、杏奈と千里も苦笑いを浮かべる。
「大人になれば酒強くなると思ったけど、下戸だったな。ついでに酒癖悪い」
智紀の、毒の入った愚痴に二人も頷いた。
「まあ、楽しければそれで良し。厳しい戦いになるけど、明るさを忘れなければやっていけるさ」
そう。
まずは、第二次世界大戦の激戦地、深海棲艦が寄り付きそうな場所で、遊撃を始める予定なのだ。
敵は、DSキラーだけではなく、通常の深海棲艦や、新井田率いる人工深海棲艦軍団もいるのだ。
此処から先は、『戦場』なのだ。
次回は数日空けるかも知れません。