プロとして壁にぶち当たっている長門に謎の黒い86(
今回もショートショートです
長門がプロドライバーとして、本格的に活動を始めてから数ヶ月。
愛車のWRXSTiで、陸奥とドライブをしている時だった。
レースで使用する車は別にある為、
そして暇な時間があると、こうして陸奥をドライブに連れて行く。
「何か、悩みがあるの?」
その日は、いつもと様子が違うことに気づいた陸奥が、長門に訊くと、
「それはだな………最近……」
と言い終わったところで、一瞬眩しさを感じた。
気づいたら、背後にピッタリ着けていた車が、パッシングしていたのだ。
悪質な車だ、と判断した長門は、会話を切り上げると、
「取り敢えず、振り切る」
レース用の四点ベルトを着けると、峠へ向かってアクセルを踏む。
背後の黒いトヨタ
「あの黒い86、私に勝負を挑もうとしているのか!?」
「そうみたいね」
この車の外装には、艦娘達でデザインした長門のパーソナルマークや、協賛企業名がでかでかと塗装されている。
後ろからでも、スバルワークスチームの長門だ、ということは判っている筈だ。
後ろの86のドライバーを陸奥が見遣ると、サングラスを掛けた
長門は、持てるドライビングテクニックを駆使して、
相手は、反対車線でドリフトしたりと、やりたい放題で追い縋っていく。
そして、遂に並ばれてしまい、追い抜かれてしまった……
「……」
追い抜かれたことに、唖然となった長門は、道路脇に車を停車させた。
「どうしたの?」
陸奥が心配そうに顔を覗き込むと、長門は冷静さを取り戻したように、溜め息を吐いた。
「いや、私が驕っていたのかもしれないな。
その言葉に、陸奥がフォローする。
「相手はレコードラインを走ってたし、こっちはなるたけ車線をはみ出さないようにしてたから、その差が出たのかも?」
「いや……あれは……手加減していた気がする」
「………」
それ以来毎週、あの黒い86は、長門と陸奥のドライブに現れては、追い抜いていった。
長門も、次第にムキになって追いかけるも、やはりあの黒い86には勝てなかった。
「あれは、名のあるドライバーに違いない。トヨタワークス関係者で洗って……」
「本当に、プロドライバーかしら?」
少し頭に血が上っている長門に、陸奥は冷静に、その言葉に疑問を投げ掛ける。
「いずれにせよ、
その長門の言葉で、陸奥は察した。
デビュー戦は鮮烈な優勝で飾ったものの、その後は二位、三位と順位を落としていき、
最近では、上位グループに残ることが精一杯になっている。
スバルのワークスチームは、自身等の開発不足だ、と長門に詫びていたが、
長門は
翌日、エナツキハウスにやってきた長門は、応対に出た恵奈と暁に、前後のドライブレコーダーの画像解析を依頼した。
冷静に見ると、黒い86は、丁寧なドライビングでドリフトをしたりしていた。
決して、危険運転をしているようには見えなかった。
そして解析をした恵奈は、その運転手が
「長門さん。解析した動画がこれなんですけど、長門さんに足りないのは、やっぱり
「それだ!!」
「ふぇっ!?」
長門は、自分の抱えている壁に気づいた時、バッと立ち上がって叫ぶと、
恵奈は、声を上げて目を丸くしていた。
「す、すまん……」
申し訳なさそうに長門は座ると、恵奈は少し苦笑いをして続ける。
「誰が乗ってるか?は、振り切ったら、いずれ判ると思いますよ」
と云う言葉に、長門は若干の疑問を感じていた……
その日から、長門の猛訓練が始まった。
湊の趣味で、旧軍港を更に埋め立てて作られた、
艦娘寮は、名古屋から通える場所に配属・就職した元艦娘用に、アパートになっていて、
殆どの艦娘が、そこで暮らしている。
士官寮も、
唯一、営舎や訓練施設だけが取り壊され、サーキットの一部となっている。
外部にも貸し出しており、ミニレース大会等を観戦できるように、スタンドも設置されている。
それを旧庁舎……高梨商事本社の
そしてある日、長門は峠の入口に車を停めていた。
そしてやってくる黒い86……
長門は、敢えて追い抜かせてから、猛追撃が始まる。
予め駆動比率を変えて、テールスライドを駆使しながら、ピッタリと食らいつく。
そのまま、引き離されて停車していたロングストレートに差し掛かると、アクセルを一気に踏み込む。
その先は、四連続ヘアピンの下りだから、その前に追い抜いておきたい。
馬力の違いで一気に抜き去ると、その速度でヘアピンに差し掛かる。
「ちょっと!速過ぎるわよ!?」
「大丈夫だ!」
溝を利用してのグリップ走行で、一気に差を引き離す。
盛大にテールをスライドさせながら…………パワースライドで追い抜きを妨害する。
そして、ヘアピンを抜けた先のストレートで、ハザードランプを点けて停車させると、
後ろの黒い86もその後ろに停車し、三枚のドアが開いて、乗っていた女性達が降りて来た。
乗っていたのは、湊に電に睦月だった。
「やっぱり湊さんだったか………」
「うふふ。壁を乗り越えたみたいですね?」
湊は、湊なりに心配で、わざわざ東京に保管していたセカンドカーをフルチューンナップして、長門の予定を把握している陸奥に、睦月がそれとなく聞いて、毎回追い掛けていたのだ。
なぜなら、陸奥も
余談だが、奈緒は
「わざわざありがとう。私も楽しかった」
「私達もですよ」
そう言って笑い合って、握手をする深夜の峠だった。
それからというもの、長門は一皮剥けたかのように連勝を重ね、
ついにはスーパーGTや、24h耐久等といった、大きなレースでも優勝できるようになって、
付けられた二つ名が、「スバルのビッグセブン」
ついには、
もちろんレースは、エナツキの完全サポートで、毎回取材が行われている。
現地の人達にも大受けして、海外の
こうして長門は、レースという名の海原で今日も戦い続ける。