実際に起った2つの事故を語り合う。
瑞鶴は、軍在籍時に操縦士免許を取得しており、グライダー等での飛行を、趣味としていた。
航空機を直接操る空母は、パイロットの素養もあるようで、
加賀と違い、訓練等は受けている瑞鶴は、完全な終戦後、軍を退役し、副操縦士として航空会社に入社した。
その航空会社は、
今日も夜のフライトだ。乗務員オフィスでコーヒーを飲んでいると、沢山の物が入ったフライトバッグを抱えた機長がやってくる。
澤柳機長と言って、深海棲艦の侵攻時、国際線が寸断される中、唯一飛べた北回りルートの飛行経験が長い機長だ。
一度ならず、深海棲艦の艦載機に追われても、
「おはようございます」
「ああ、おはよう瑞鶴さん」
それぞれ手帳を開いて、フライトスケジュールを確認する。
その後は、キャビンアテンダントや
乗客が乗り込む中、機長と瑞鶴は、たくさんあるリストチェックを、手分けして行っていく。
自動化が進んだと言っても、操縦が
今は、航空機関士の役割をコンピュータが手助けしている為、燃料計算やら何から何まで、パイロットがやらなくてはならない。
そして、管制官の指示に従い、
今回は、副操縦士の瑞鶴が訓練の為に操縦を行い、機長が交信を担当する。
「こちら新日本航空758便。離陸許可願います」
『758便、離陸を許可します』
澤柳機長の交信と共に、瑞鶴はスロットルレバーをゆっくりと動かす。
飛行機はぐんぐん加速して行き、離陸決心速度になるが、大きなトラブルは発生していない。
「V2」
柳澤機長の指示で、離陸体勢になる。
「離陸」
瑞鶴の言葉と共に、航空機は
巡航高度に達すると、
操縦士は、注意深くその状況を見極める。
特に、夜で何も見えない為、計器に頼る他ないのだ。これを、計器飛行という。
「そう言えば瑞鶴は、両方のエンジンが止まっても、死者を出さずに着陸させたパイロットを知っているかい?」
「いえ……」
その問いに、コーヒーを片手に瑞鶴が答える。
澤柳機長は、
「君よりは、長く生きているつもりだから、仕方がないか。あれは、40年前の話だったか。カナダ・モントリオールからエドモントンへのフライト中に、
「燃料切れ……燃料漏れが発生したんですか?」
「いいや。当時カナダでは、
その言葉にまさか?と、瑞鶴は思った。澤柳機長はフフッと、
「そう。我々は
「その時、
驚愕の声を上げてから恐縮する瑞鶴に、機長はふふっと笑った。
「いいよ、私のときはフランクで。そんな訳で、
「なんてこと。もう、助からないわ」
愕然とした瑞鶴に、
「管制官もそう思ったそうだよ。でも、航空機はエンジンが停まった
「凄い………」
瑞鶴の言葉に、ふふっと笑った機長は、
「まだこれからだよ。結局、ウィニペグでは間に合わない。もっと近い、ギムリーに着陸することにしたんだ。
しかし、まだ高度が高い。……近過ぎる。そのまま下がると空港を飛び越える、急降下だとオーバーランだ。そういう場合、どうする?」
「そうですね、360度の旋回を行って高度を下げる……ですか?」
瑞鶴の言葉に、機長は首を振った。
「
「はいぃ!?」
グライダーの飛行機会の多い瑞鶴は、
「ははは。もし君なら、スリップの決断をするかい?」
「……出来ないと思います」
正直なこの元艦娘に、澤柳機長は笑いながら続けた。
「その機長は、グライダー経験も豊富で、フォワードスリップを行って速度を維持した
「凄い…………」
「ちなみに、給油に向かった給油車も、途中で
「………」
機長は、管制からの交信をこなしながら説明をして、ちゃんと実際に発生した
まだ飛行機は、夜の太平洋上を飛んでおり、機内の乗客は、寝ていたり起きていたりしているだろう。
「もう一つ、凄まじい事故があってね。これも奇跡的だった。今度は、飛行中に天井が吹き飛ぶ事故が起きていた。ヒロからホノルルへのフライト時に、ことは起こった。事故の原因は、短距離フライトを繰り返した為の金属疲労。奇跡的だったのは、
「………」
壮絶な機長の言葉に、絶句している瑞鶴に、機長は続ける。
「壁まで損傷して、床が皮一枚残った状態で、機長と副操縦士はマウイ空港まで飛行機を飛ばすことが出来た。こっちは燃料があったから逆噴射を行ったが、普段と空力特性の違う飛行機を降ろしたのは奇跡と言えよう……一人チーフパーサーが吹き飛ばされ、遺体も見つからなかったがね」
「………」
黙り込んでいる瑞鶴に、機長はぽんと肩を叩く。
「そろそろ着陸だ。ホノルルには、そのチーフパーサーのメモリアルガーデンがある。見て行こうか?」
「はい。着陸リストチェックを開始します」
こうして、ホノルル空港への着陸交信や、高度下降等で慌ただしくなる。
瑞鶴は冷静に、操縦桿や計器を使って、
機長昇格には、こう言った実地訓練を、何度もこなさなくてはならない。
いずれは瑞鶴も、機長へとなっていくだろう。
自分達が守った太平洋で就航が始まった旅客機を、今度が
別の道で、空を飛ぶことにした親友加賀のことに思いを馳せながら、明日もフライトに乗務するだろう。
もちろん、メモリアルガーデンには立ち寄り手を合わせながら、今後も無事安全に操縦することを誓った瑞鶴だった。
何も言わず突然逝ってしまったチーフパーサーは、ホノルルの守り神として、今後も空を見守り続けるだろう。
……戻り便では、高梨商事の社員旅行の帰りの、湊等懐かしい面々を乗せていることを、知らずにいた瑞鶴だった。
ビジネスクラスの客席で、電が睦月と、
「これで、瑞鶴が副操縦士だったら、大笑いなのです」
「まさかぁ‥…」
等と会話を繰り広げているが、瑞鶴は知らない。
彼女は今、管制との交信等で忙しいのだ。
今日も、瑞鶴は空を飛んでいる。
後に渡されたお土産で、何便に乗ってたか聞いた
それを認識すると、より気を引き締める瑞鶴だった。
今回も朝活出来たので投稿しました
この人の戦後が見たい というのがありましたら
遠慮なくメッセージ等をお願いします。