始祖の艦娘であり、退役元帥でもある三笠こと高梨若奈が逝った。
その訃報は日本中を駆け巡り、日本国民は日本を守った軍神の死に涙した。
それと同時に、
三笠は終戦後、高梨商事の全権を娘の湊に渡し、
悠々自適な生活を送っていた‥…
そんなとある夜、夕食を終えたところだった。
「本日のお夕餉はいかがでしたか?」
天城がキッチンから戻って来ると、三笠が腹部を抑えて苦しんでいる。
「ぐ……あ………」
「三笠様!?」
直ぐに持っていたお茶を放り出して、三笠の元へ駆け寄る。
「腹が………痛い……」
「直ぐに救急車をお呼びします」
立ち上がろうとした時に、ぐっと腕を摑む三笠。
「元艦娘ともあろうものが、救急車を使ったら他の者に迷惑がかかる。タクシーを呼んでくれ」
「は、はい………」
天城は、タクシーの手配をしてから、娘である結衣と未来と湊に電話を入れた。
タクシーは直ぐに来てくれたが、タクシーの中での三笠は、どんどん顔色が青白くなっており、
到着後、天城は「なぜ救急車を使わなかった!?」と責め立てられるも、
「いや……止めたのは私だ」と三笠が言うと、医師も何も言えなくなる。
即入院となり、手術の準備が始まった。
都内にいる未来と大和と不知火は、直ぐに病院に急行し、結衣と湊は、最上と木曾、そして今は村上建設入りした龍驤と共に、パーソナルヘリで緊急移動をして駆け付けた。
千里はいずも改二リペアから、ヘリコプターで飛んできたのだ。
最後に、龍驤が輸送ヘリで到着した時には、容態が急変していた、
医師は、手術は間に合わないと判断して、痛みを和らげる方法に切り替えた。
名古屋から、ちょうど休みだった平林虎子も湊に同行していたが、彼女も専門外ながら救命手段が無いことに、無念の臍を噛んでいた。
呼吸が荒くなり、意識がなくなっていた両手を、結衣と未来と湊が握り締め、他の高梨艦隊の面々も、三笠を囲んでいた。
「お願い!死なないで!!」
「死ぬのはまだ早いでしょう!?」
「貴女は、殺しても死なない筈だよ!」
湊と未来、そして結衣が涙を流しながら叫ぶ。
その時、ふっと三笠の目が覚めた。
「湊……未来……それに結衣。私は十分に生きた……波乱だったが楽しい生だった……これより提督のところに赴く……」
その言葉を最後に再び意識を手放し、バイタルメーターの心拍数も次第に弱くなって、ピー………という音が鳴り響く。
ここに、
「母さん……そんな……」
「嘘でしょ!嘘だと言ってよ!」
「母さん!!!」
三人姉妹の慟哭に、全員が涙している。天城に至っては、自分を責めるように泣いていた……
虎子は、天城を優しく抱き締めて、慰めの言葉を掛けている。
バタンと扉が開かれ、安藤龍が入ってくる。
「……逝ってしまわれたか……」
「………」
不知火は涙を流しながらコクリと頷いた。
「おそらくは急性心不全。激痛は大動脈解離ね」
「そうか………」
安藤も涙を流していた……
天城にとって、唯一の救いは病理解剖の結果、死因が急性大動脈乖離で、救急車でも間に合わなかっただろう、と医師が診断したことだった。
艦娘達を龍と結衣に任せ、お屋敷に引き揚げさせると、
霊安室に、湊と未来がふたりだけで残った。
「………母さんには無理をさせ続けてましたね」
「もっと早く気づくべきだったわ。艦娘だって、
「……お願いします」
その言葉から、暫しの沈黙が流れる。線香の匂いの立ち込めた霊安室……
「私は母さんのことが嫌いでした」
ぽつりと湊が語り出す。
「……わかるわ。でも、私達を心配しなかった日はなかった、と思うわ」
「………ええ」
「でも―――許せてよかったでしょう?」
「……はい」
お通夜は、周囲の者達だけで行うこととなって、
通夜のあとの食事会は、三笠の前で皆、三笠の思い出を語っていた。
「最初はひどい母親だと思っていましたよ」
と、言うのは現当主の湊の言葉。
「自分にも他人にも厳しすぎる人だったわ」
これは、家を相続する未来の言葉。
「結衣にとっては、
「不知火もです」
穏やかに話す結衣の言葉、それに不知火も同意する。
「兎に角自分に厳しいお方でした」
最後まで、側で前線で戦い続けた大和の言葉。
「天城は最初専属秘書艦でしたが、お家では優しい妻であり母親でした」
そう天城が懐かしそうに語る。
「訓練は厳しく、その後のアイスは自分持ち。艦隊の母だったぜ」
「僕もそう思うよ」
「せやな」
木曾と最上と龍驤が口々に語る三笠の思い出。
「優しい かあさんでした」
小さく呟くように言った、六歳までの
葬儀は政府・軍部葬として盛大に行われた。
大淀総理を始め、大垣大臣、軍部の高官等、多数が出席していた。
国民の一部も、葬儀会場である築地本願寺に詰め掛けて、軍神の死を悼んでいた。
天皇陛下もご臨席されて、ご弔辞を賜り、
正二位・大勲位菊花章頸飾が授与された。
そして、高梨
矢部晋太郎は、彼女をこう評した。
「正義に生き、愛に生き、誠に生きた人生だった」と。
―――――
三笠は、ふと目を覚ました。背後に川が見えて、もう
眼の前には、あの時と同じく、高梨提督がニコニコと笑みを浮かべている。
「提督っ!!!」
飛び込んで抱き締めると、高梨提督は優しく頭を撫でた。
「今までよく頑張ったね。私の愛する妻であり、艦娘の母としてのお役目、ご苦労さま」
「はいっ……!」
「さあ、行こうか」
二人は手を握り合って、モヤのかかる方へと歩いて行き、姿が見えなくなった。
きっと
―――――
会社は湊が、高梨のお屋敷は未来が、それぞれ相続して、残った資産は相続放棄を申し出た結衣を除いて、権利者に均等に分配された。
全国一斉に行われた、元艦娘の健康診断のおかげで、
病気の兆候がなかったり、健康体なのに、突然大動脈が裂ける、
全国の循環器外科・内科の名医が結集して、治療を行った為、艦娘病による死亡者は1%を下回る数になっていた。
三笠の死因も、正式に艦娘病と認定され、彼女の病理解剖のデータも、大いに役立ったという。
艦娘であっても、病気にかかるし病気で亡くなるのだ……
なぜなら、もう