そこに乗り込む人々の想いとは。
船出の朝、恵海は大井と北上の訪問を受けていた。
中部警備府で見送りに来なかったのは、既に呉に向かっていたからだ。
呉で見送りをしたい、と言う二人の希望を湊が許可し、「呉の明石に艤装の総点検を依頼する」という口実で、二人を送り出したのだ。
「恵海っち、毎日電話してね」
「そうよ、もちろんテレビ電話よ」
その言葉に、恵海はちょっと拗ねたように言う。
「そうやって、二人のラブラブなところを見せつけるんでしょう?」
その言葉に、二人はぶんぶんと首を横に振る。
「違うよ、恵海っち。私は恵海っちも大井っちもダイスキだよ」
「そうよ、恵海も北上さんも愛してるわ」
その言葉に恵海も顔を赤くする。
「もぅ……行ってきますね。たまには来てくださいね」
いずも改二は、
追加資材は大型輸送ヘリで運び込む。そしてそこには人間や艦娘も輸送可能なのだ。
艦娘達も、顔見せに来ることは
いずも艦内の規則は「司令官及び艦長」の専決事項てある。
そのまま、三人抱きついてキスをしようと……
その様子を、ニヤニヤしながら覗き込んでる五人。
その様子を、朝風呂を済ませたいずも艦長高天原智紀は、ジト目で見ていた。
「……」
ポケットから端末を取り出して、恵海にメールを送ると、速やかにその場をUターンして、いずもに戻っていく。
「メール……そうですか……」
メールが届いたバイブレーション音に、端末を取り出してメールを確認すると、一旦、キスをしようとする二人を手で制して、入り口を向く。
右手には
対人兵装の、30ミリガトリングガン(AP弾)や、汎用誘導ロケット弾は、メンテナンスモードでも
ちなみに、HEIAP弾は恵海の意向で下ろしている。
「はい、どうぞ中にはいって、結有さん達。でないと
にこっと、凄みのある笑みを向ける恵海に、結有達はすごすごと中に入ってくる。
「結有……あんた達……」
「出歯亀は良くないよ」
二人のジト目を受けるのを横目で見ながら、恵海はカードを引き抜いて艤装を解除する。
「そうですよ。見たいなら見たい、と言ってください」
『ふぇ?』
予想外の言葉に、変な声がでている五人に
二人は、当然顔が真っ赤である。
「め……恵海っち……ちょっと恥ずかしいよ……」
「め……恵海……人が見てるわよ……」
その言葉に、ふっと笑みを浮かべる。
「どうせ、船内では
どうやら、この六年半で恵海も大分、強気になる時は強気になっている。
『あははは………』
その恵海の言葉に、五人は苦笑いを浮かべるしかなかった。
船の中枢部……CICには所狭しと、コンピュータ類が設置されている。
そこに、智紀と陽子と明石がいる。
「これで、最終調整は完了です。起動させますか?」
明石の言葉に、陽子が無言で頷く。
「分かりました。ヘルズゲート・レプリカ、『
明石がコンソールを叩くと、ブゥン……とコンソール横に、小さい
『おはようございます。
「……よろしく頼むわ。不敗の女神」
陽子の言葉に、『不敗の女神』はコクリと頷いた。
『はい。ですが、『不敗の女神』は
「わかったぜ、ミナ。次の航路を入力する。行き先は南シナ海。次の寄港地はミャンマーだ」
智紀の指示に、ミナは敬礼をする。
『了解しました。キャプテン。全員の乗り込みが完了次第出航します』
「さて……明石さん、良いんだな?」
智紀は、明石の方を見て、真剣に確認するように問うた。
「……はい、決めました。私はいずも改二のメカニックとして、乗艦を希望します。草加長官と安藤本部長の了解は頂いています」
その真っ直ぐな目をした明石に、コクリと頷いた。
智紀は暫し考え込む。明石に関しては、新井田の逆恨みの対象であり、DSキラーの優先ターゲットの可能性もある。
「………危険は、承知の上での、決断なんだな?」
「はい……」
その智紀の言葉に、即座に答える明石に、陽子が真剣な顔をして智紀に告げる。
「こと艦内スタッフに関しては、艦長の判断に任せる」
「……分かりました。工作艦明石、貴官の乗艦を許可する」
智紀が、そう明石に告げると、明石はぱあっと笑顔になる。
「日向さんに伝えに行くと良い、今は艦内のラウンジにいるんじゃないか?」
「はい!行ってきます!!」
走ってCICを出て行く明石を、二人は見送っていた。
―――――
その頃、いずも改二の物資格納庫には二人の艦娘が潜入していた。
当然ながら大井と北上である。
もちろん、そんな許可は湊から得ていない。
呉で見送りをしたいと言った
資材箱に入って、隠れて搬入資材と一緒に紛れ込んだのだ。
事情を聞いた倉庫担当者が、気を利かせてスルーしてくれたのだ。
発覚したら、当然懲戒処分不可避である。
「なんとか、潜り込めたわね…………」
「でも、これ、どうやって出るの?大井っち」
『……あ』
そう、事情の知らない別の作業員が施錠してないことに気づき、外から南京錠で鍵をかけてしまったのだ。
「北上さん、私達餓死するかも…」
「うん……そうだね……大井っち…」
真っ青な二人は、開かない蓋を見上げて、絶望に沈んでいった。
―――――
その頃、主要メンバーはデッキに上がっていた。
埠頭には、呉鎮守府の皆が、見送りに立ってくれている。
『ただ今、全員の乗り込みを確認しました』
「よし、出港だ!帽振れ!」
一人ブリッジに残っている智紀の命令に、ミナは『了解』と答える。
一同が帽子を振りながら、皆の見送りに応える。
AIによる自動航行システムにより、智紀一人で操船が可能なのだ。
こうして、脱出不能のまま、資材箱に詰め込まれた二人を載せたまま、艦は呉鎮守府を出発し、南シナ海に向かい、どんどんと海を進んでいく。
「嫌な予感がする………」
恵海は、左手薬指で輝く指輪を見ながらボソリと呟いた……
その嫌な予感が的中したのは、瀬戸内海を出て沖縄近くまで出た時だった。
突然、ブリッジのホログラフ装置に、ミナの姿が現れる。
「どうした?何かあったのか?」
それに気づいた智紀が、声を掛ける。主要のメンツもブリッジにいる。
『キャプテン、格納庫ですすり泣く声が聞こえたので、X線及び赤外線スキャンを行いました。格納庫の物資箱の中に、艦娘と思われる人物が二名入っているのを確認。霊子パターンから、重雷装巡洋艦大井および北上と推測。キャプテン、アドミラル、密航者です。対処命令を』
ミナの言葉に、恵海が大きな溜め息を吐いた。
「……行ってきます」
「おーぅ。こっちは、湊さんに掛け合っておくわ」
格納庫に向かう恵海を見送りつつ、まずは東京の安藤に電話をかける智紀だった。
「もしもし、安藤本部長っすか?」
―――――
中部警備府では、安藤からの連絡により、大井と北上が密航を働いたことが判明していた。
「……そうですか……重雷装巡洋艦二隻が抜けるのは、かなり痛いですが……ええ、わかりました。それでお願いします」
電話を切った湊は、大きく溜め息を吐いた。
「どうしたのですか?」
「どうしたの?湊」
二人の秘書艦が、両サイドに立って、湊の顔を覗き込んだ。
「いやあ。大井と北上が、いずもに密航しました。よって、『予備兵員』として送ることにしました。取り敢えず、志摩泊地から足柄と那智に、こちらへ来てもらいます」
『やっぱり……」なのです』
三人揃って、大きな溜め息を吐いた。
中部警備府も、今や新しい艦娘の着任等があり、フル四個艦隊を常備し、更には基地航空隊も、二個航空隊を備える最新鋭拠点となっている。
翼妖精さん率いる哨戒・迎撃機部隊と、ルーデル妖精さん率いるJu87G改二攻撃隊の二つである。
そして、改二甲改装を終えた赤城と共に、艦娘同士のケッコンカッコカリを行って、霊子量を拡充させた加賀にも漸く、F/Aー18Eスーパーホーネットが配備され、中部警備府の守りの要となっている。
「湊さん、電さん、睦月さん、お茶入ったよー!」
にこやかに、お盆を持って入ってくる恵奈に、三人の視線が集中する。
「どうしたの?」
首を傾げる恵奈に、湊が笑顔を浮かべて、声をかける。
「大井と北上の件、
「発覚するの、早っ!?」
正直過ぎる反応の恵奈に、三人は再び、大きな溜め息を吐いた。
「わたしは
両肩に乗っている、Fー2妖精さんとルーデル妖精さんと共に、溜め息を吐く恵奈。
「まあ、今頃恵海にお仕置きされているでしょう。あの子、怒るととても怖いから」
『だね』
「なのです。あ、いずもに、『予備兵員としての転属了解』と、
湊の言葉に同意する、睦月と恵奈。そして電が、電文を送り始める。
――――――
その湊の予想通り、大井と北上は、ラウンジの床に正座させられて、説教を受けていた。
まずは、陽子の説教が10分、艦長としての智紀の説教が1分未満「お前等アホだろ、馬鹿なのか?死ぬのか?お前等の馬鹿は、マリアナ海溝クラスか?艦娘が軍艦に密航とか、ねーよ」という、嫁から嘗ていつも聞かされてきた言葉を
そして、
説教が始まってから、早三時間が経過している。
周囲の一同は可哀想なものを見るように、大井と北上を見ている。
二人は、割とマジ泣きしている。
智紀はスマホのタイマーで測り始めて、スマホを弄りながら三時間……都合三時間半ほど経過した頃に、声をかける。
「まあまあ。中部警備府からは、予備兵員として転属了承してもらってるし、その辺にしとけや」
「……艦長がそう言うなら」
まだ説教し足りないのか、不満げな恵海とは対照的に、漸く解放された、という顔になる二人。
恵海はしゃがみ込むと、二人の耳元に囁いた。
「……明日は、三人休暇にしてもらいます。『お仕置き』です。朝まで寝かせません」
『ひ……ひゃいっ』
その、氷のような言葉に、二人はサァァァっと青ざめる。
恵海の、ドSな一面が表に出てしまったのだ。さすがは元
その夜二人は、足腰が立たなくなるまで、メチャメチャお仕置きされた。
「しかし、単身赴任には目の毒だぜ。
お仕置きが始まった頃、智紀は艦長室で、中部警備府にテレビ電話を繋いでいた。
通信衛星を利用して、携帯電話が艦内で使えるようになっている。
片手にはウィスキーグラス。私物のウィスキーを飲みながら、妻に愚痴を零している。
「良いじゃないの。貴方はこうやって、電話できるんだから」
「ぱぁぱ。紀子ね、今日パパの船の絵を書いたんだよ」
紀子が、スケッチブックを画面越しに見せる。
紀子も小学一年生。楽しく、学校に通い始めている。
「おー、綺麗にかけてるな、偉いぞ。紀子、ママや湊さんや恵奈姉ちゃんの言うことを、ちゃんと聞くんだぞ」
「うんっ!今度、長門お姉ちゃんの応援に行くんだ!」
長門は、現在はアマチュアレーサーとしても活躍している。
異名は、『鈴鹿のビッグセブン』。鈴鹿サーキットを主戦場として、定期的にレースに参加している。
ライセンスも国際A級を保有しており、プロのワークスチームからもお誘いが来ているらしいが、現在は断っている。
第1艦隊の旗艦も正式に陸奥に譲って、今は気楽な一艦娘として二足のわらじを履いている。
これも軍から認められた広報活動の一種であり、賞金は特別に受領を許可されている。
チームメカニックには、夕張と恵奈も関わっている。やっぱり工業や科学大好き理系女子に育った。
もちろん、大きいレースは『エナツキ』がレポートもしている。
今、従卒見習いをしているが、名古屋工業高等専門学校を受験して工業を極めるか、正式に従卒になるか悩んでいる最中らしい。
何れにせよ、恵奈は軍から「暁のパートナー」として正式に認められて、ずっと艦娘寮にいられる。
暁と恵奈、雷と響でそれぞれ二人部屋に別れて生活している。響の出歯亀盗撮がとうとうバレたのだ。
進学の件は半年の間に結論を出すそうだ。
「そうかー。長門さんにもよろしくな」
「うんっ!」
「それじゃあ、頑張ってね、あなた」
「おう」
智子が、スマホの画面に手を伸ばしたところで映像が途切れる。
「さて、明日も良い艦娘日和になりますように。寝るか」
次回は来週以降になります。
あと、今週末で
社会復帰しながらの連載になるので、
間違いなく日刊は無理になりますので
次話は気長にお待ち下さい。
次回は艦隊か内陸か考え中です。
次回も19時投稿予定