そして片桐の本格的に腐る原因となった高梨艦隊単独突破事件。
第三世代艤装計画で傷ついた二人を支えたのは、高梨艦隊の面々だった。
天城は、二人の専属秘書艦として、任務を支えることになる。
「高梨提督、三笠様、お茶が入りましたよ」
執務室に明るい声が響く。
「ああ、すまないね」
「ありがとう、いつも助かるわ」
高梨少将と三笠が、差し出されたお茶を飲む。
この明るい声で、塞ぎ込んだ二人もずいぶん救われていた。
独立艦隊「高梨艦隊」は出撃を繰り返しているが、
こういった書類仕事も、任務の内である。
あの第三世代艤装計画以後、
時折顔を出したり、知人に様子を見てもらったりしていた。
彼等二人も「湊に合わせる顔がなかった」のだ。
先日、大村少将が顔を出した時には、戦術のことを訊いていたという。
家ではお手伝いさんを雇うが、
晶のことは覚えていない筈だが、
そして買ったパソコンで、戦術戦略シミュレーションゲームに精を出している、とのことだった。
二人は、
そんな二人に、「娘」として接していたのは、駆逐艦不知火だった。
「提督、三笠さん。訓練報告持って来ました」
「ああ、ありがとう。あとで目を通すわ」
三笠が笑顔を浮かべ、報告書を持ってやって来た、不知火の頭を撫でる。
不知火は照れ隠しに、
「問題ありません。不知火に落ち度はありません」
等と言う。
不知火は、真面目に訓練をこなしている、
艦隊一の頑張り屋さんである。
「提督、お昼持ってきたで」
そう言って入ってきたのは、龍驤である。
彼女は、艦隊のムードメーカーを一手に引き受けてくれている。
お盆には二人分のお好み焼きが載せられている。
「ああ、ありがとう」
「もうそんな時間なのね。ありがとう、龍驤」
二人は、思い思いの礼を龍驤に伝える。
「二人共、根を詰め過ぎたらあかんで」
とかくオーバーワークになる二人を、何かと気遣ってくれる。
定時になると再び現れて、「定時やで」と声を掛けてくれる。
二人が、
とにかく、二人の前では明るく振る舞ってくれている。
二人にとっては、それが救いなのだ。
「
艦時分の影響もあって、大和は料理が得意だった。
特に艦娘の戦意を高揚させる甘い物が大好きで、いつもレシピを見ては、
訓練の合間にお菓子作りをして、こうやって二人に持ってくる。
もちろん訓練は手を抜かず、三笠が現場を離れている間の旗艦も務めている。
穏やかで優しい人柄で、いつも
艦隊の皆にも、おやつを振る舞っている。
三笠が
今日持ってきてくれたのは羊羹である。
天城が緑茶を持って来て、お茶会になると皆やって来る。
いつもポジティブな最上に、
そして
こうして
艦娘達は夜遅くまで訓練に明け暮れる。
艦娘達にも第三世代艤装計画の心の傷は深く、自分達がしっかりして、二度と
その為、戦果はどの艦隊よりも上げており、数日陸に帰らないことも多い。
その頃には後方支援艦も開発され、高梨は
艦娘運用の第一人者である高梨提督は、現場に拘り続けた。
常に、戦死の危険のある前線に共に立って出る。
艦娘達は、戦果を上げるのはもちろんだが、高梨が乗っている後方支援艦を守ることも、大事な任務だった。
何度も前線から離れるように、大村少将から忠告も受けたが、その全てを断った。
その姿に、「
高梨も、
艦娘達は、
東京都島嶼部奪還作戦においては、海兵旅団の多数の屍の上に青ヶ島村までの島嶼部を奪還することに成功した。
もちろん高梨艦隊は上陸し、艦娘自らが上陸戦を繰り広げた。
前に出ようとする高梨を押し留めながら、三笠もまたトマホークを振るい、島々を奪い返していった。
木曾と最上は、海上同様アタッカーとして、前線に躍り出る。
龍驤は、体格に見合わぬロングトマホークで、深海棲艦をばっさばっさと薙ぎ払う。
大和は、天城と共に高梨の護衛役として側に残る。
こうして、島嶼部の奪還と共に、青ヶ島に13番目の泊地を設立することとなった。
当初は、高梨をその司令官を任命する予定だったが、高梨はそれを固辞した。
高梨としては、今の独立艦隊の方が動きやすい、と判断したのである。
結果、第13泊地には、海軍幕僚監部情報部から転属となった、片桐英治大佐が准将に昇進して司令官職に就いた。
もう一つ、あの計画後変わったことがあった。
高梨は、もう二度と子供は作らないと決め、パイプカットを行った。
三笠も、その気持は一緒で、その決断に同意した。
手術は秘密裏に行われ、その事実は艦娘はもちろん、娘達すら知らないまま、二人の心の内に秘めることになった。
それでも、夫婦の仲は変わらなかった。お互いの傷を舐め合うように愛し合った。
お互い、明日戦死するかも知れない、
いつしか、お互いの左薬指に指輪が顕れるようになった。
これが、初めてのケッコンカッコカリリングとなったのだ。
それからである。頭打ちになっていた、三笠の練度がぐんぐん伸びていったのだ。
最新鋭の大和砲に積み替えて、主砲も副砲もブラッシュアップした。
練度が伸びると改造ができる。その手法を編み出したのは明石であったが、それに気づいたのは、高梨艦隊である。
試験的に、高梨艦隊で艤装改造を行うこととなった。
三笠には、改二艤装改造を施した。他の面々は改艤装改造を施した。
三笠の練度は、他の艦娘よりも飛躍的に高く、改二艤装もしっくり来ていた。
こうした生活を繰り返すうちに、娘達が十代半ばになった頃……
艦娘の数が増えて、あちこちに泊地や警備府が設立されるようになった。
もちろん、士官学校を首席で卒業した大垣も、今や佐官として大湊警備府に配属されている。
その頃だった、東北で大襲撃事件が起きたのは……
高梨艦隊も出撃を繰り返すが、関東と東北の間には姫・鬼クラスの分厚い層が築かれていて、突破は困難だった。
東北では、宮戸島が陥落し、石巻が壊滅等、悲劇的な連絡が届いていた。
「高梨、今なんとか陸路で艦娘を送っているが、戦況は怪しい」
中将に昇進して、艦娘本部次長に就任した大村が、高梨の執務室に芳しくない報告を持ってくる。
高梨も、連日連戦で疲弊し切っていたが、その報告を受け取ると麾下の艦隊に出撃を命じる。
「連中、どうしてウチ等を行かせへんのやろ?」
龍驤が疑問を口にする。
「わからん。だが東北を孤立させて、我等を関東に釘付けにするには、理由があるんだろう」
高梨も疲弊しきった中で、敵の戦術を考えていた。
どう突破するか、そう考えていた矢先だった。
「第13泊地より入電。応援部隊を出すそうです」
第13泊地は、戦果が優秀な泊地で、最新鋭の装備を揃えている泊地だった。
「感謝する、と返事を送ってくれ」
半年間出撃を繰り返し、第13泊地の支援があっても、まだ壁を突破できずにいた。
「どうしたものか……」
苦悩を抱えたまま、高梨と三笠は一度、東京の家に戻ることにした。
「おかえりなさい、父さん、母さん」
家では、湊が一人で家を切り盛りしていた。
学校にも行かず、大検を取って18で士官学校に行く、と言っている娘である。
趣味の戦術シミュレーションでは、全国強豪レベルの腕前を持っている
「どれ、父さんと戦術シミュレーションをやってみるか?」
「はい」
将官のみに許された、艦娘戦術シミュレーション端末を扱う権限を使って、娘とシミュレーションを行うことが、
戦術シミュレーションを通じて、高梨は自身の考えも再構築出来ていたのだ。
そんな時、ふと湊が呟くように言った。
「父さん、第13泊地艦隊を、
「……その間に、手薄になった部分を突破するというのか?非情な策ではあるが……」
「はい。目的が達成されれば、その手段は二の次です。その後は第13泊地艦隊にお任せして、父さんの艦隊は東北を救援なさればよろしいかと。その後のことは、
「……わかった、やってみよう」
「……ご武運をお祈りします」
湊の、人を出し抜くということに固執した戦術のセンスは、高梨の上を行き始めていた。
こうして高梨は、時折の娘との交流で
この、異常と言えるセンスも、高梨は最早
後に、片桐英治が高梨に騙され囮に使われたことにより、腐り始める
高梨は、片桐英治に全戦力を持って攻撃を行うよう依頼した。戦果は君に譲る、とも約束して……
「……という訳で、総力を持って事にあたってもらいたい」
『承知しました。第13泊地艦隊の総力を以て、援護に当たらせていただきます』
片桐准将との通信を終え、心の中で詫びつつも、第13泊地艦隊の出撃を待っていた。
第13泊地艦隊の長門等が出撃すると、高梨艦隊は単縦陣で敵突破を図った。
当然ながら、そのしわ寄せは第13泊地艦隊に向かって行く。
片桐は、その時点で高梨に騙されたことに気づくも、交戦状態にあってはそれを止める方法もなく、
何人も艦娘を沈めるという醜態を晒し、第13泊地に撤退するのだった。
もちろん、片桐は艦娘本部に抗議するも容れられず、逆に譴責処分を受けた。高梨提督は、敵の分断網を突破して東北救援に成功し、
その分断網の深海棲艦艦隊を、大湊警備府を立て直した上で、横須賀鎮守府の山本艦隊と連携して撤退に追い込んだ功績を以て、中将に昇進することとなった。
宮戸島では、二人の野生児が半年も戦い続けていたと言う報告を受け、各務原准尉と時雨、という知己を得ることとなった。
そんな二人の間に子供ができた、という相談を受けた高梨は大いに悩んだ。
世間では、艦娘基本法が制定された直後であり、
三笠の、
「極秘裏に出産させましょう。
という懸念と、15歳まで母親を伏せて欲しい、という時雨本人の願いもあり、
各務原准尉の同意を得て、極秘裏に出産を行わせるよう手配した。
その時の