そして唯一行われた士官学校での姉妹の対戦
時系列は前後することはあります。
第三世代艤装計画。それは、関係者の心を深く傷つけた。
姉の未来は、計画破棄の後も軍の管理下に置かれた。
これは海軍幕僚監部の「監視」と「活用」の、両方の意図を満たす為だった。
第三世代艤装計画にも協力的だった彼女に伍長の階級を与え、艦娘と共に暮らさせることで
いずれは、第三世代艤装計画を
幼いが大人びた彼女は、毎日積極的に戦果報告の閲覧や、特別に許された戦術シミュレーションに明け暮れるようになった。
そんな彼女も、10歳の時には艦娘運用の才能を発揮して、金剛と共に戦果を積み重ね大尉となり、
曰く「常勝の天才」、金剛一隻をより良く指揮し、時には何倍も年上の相手に意見する、気の強さも持っていた。
最初は「高梨提督の
「言いたいやつには、言わせておけばいいわ」
心配する金剛にそう言って、結果と実績でそういった声を黙らせて来た。
もっと手酷く、暴行に及ぶ輩もいたが、
艦娘ハーフであり、初雪と
その一件以後、彼女には憲兵が手配され、周辺をガードされることになった。
「レディに付き纏うなんて無粋なこと」
自身をガードしてくれる憲兵に、そんな皮肉を漏らしながら……
10代の半ばには、彼女を指揮官とする遊撃隊が編成され、少佐に任官した彼女に艦隊が与えられた。
編成時のメンバーは、金剛に日向、それに榛名だった。
「ヘイ、テートク!お昼の時間デース!」
「あら、もうそんな時間なのね」
書類に目を通していた未来は、顔を上げると笑みを浮かべる。
「ところで。頼んでおいた書類はできた?」
「オゥ……それが、まだ終わってないネ」
その言葉に、大きな溜め息を吐く未来。
金剛は、前線能力に特化していて秘書艦としての才能は、お世辞にも豊かとは言えない。
日向は、明石と仲が良く、明石の趣味に付き合わされている。僚艦である榛名も同様である。
結局、書類仕事は自分がやる他無いのだ。
「オーケイオーケイ。後で、こっちに回してちょうだい」
「ソーリー……」
立ち上がって、金剛と共に食堂へ向かう。
彼女の所属している佐世保鎮守府は、黒井司令長官と武蔵が率いる、南の守りの要であり、九州・沖縄を防衛していた。
この佐世保鎮守府は、未来達のような遊撃隊が多く編成され、
その中で勇名を馳せているのは、未来率いる遊撃隊と、我那覇中佐率いる遊撃艦隊である。
我那覇陽三中佐は高梨道一の後輩でもあり、沖縄出身の陽気な士官である。
中堅士官の中での出世頭であり、副官の新垣大尉と共に、沖縄方面に出撃して
この佐世保鎮守府で、数少ない未来の理解者でもある。
そして遊撃隊で連戦連勝を重ねる功績で、未来が中佐に昇進した頃、半年前に宮戸島で行方不明になり、最近発見されたという時雨が加わった。
時雨は、未来をよく補佐してくれ、書類仕事も手伝ってくれた。
近年創設された秘書艦検定も、いきなり一級をパスし、秘書検定も取得した秀才の彼女のお陰で、
遊撃隊の運営は、より円滑に行われるようになっていた。
その間、両親である高梨提督と三笠は、時間があれば会いに来てくれた。
常々申し訳ないと言っている両親を、未来は内心許していた。
それと同時に、未来はそんな両親にうんざりしていた。一種の
「ねえ母さん、父さん」
「何かしら?」
「どうした?未来」
とある時、未来はまっすぐ二人の目を見て言い放った。
「贖罪の為に来るんだったら、もう来なくていいから。私はとっくに許してるわ。しょうがなかったのよ」
「………」
「テートク、言い過ぎデース!」
傍に控えていた金剛がそれを諌めるも、三笠は自嘲的な笑みを浮かべてそれを制した。
「良いのよ。未来の言うとおりだもの」
「……また来るよ」
それ以後、未来と両親の交流は一時途絶えることになった……
「テートク、良かったのデース?」
「良いのよ。きっと、
「………」
「それでも、あたしは許すと決めたわ。それで十分なのよ、今の段階では。今は戦時下で、そんな余裕はないわ。父さん達も高梨艦隊の運営に専念すべきよ。いずれ戦況が落ち着いたら、横須賀に転属願いを出すわ。そしたら、ゆっくり語り合いもできるでしょうよ」
こうして、軍務の忙しさの中で先送りした結果、父娘がゆっくり語らう機会が訪れる刻は永遠に失われた、と後に彼女は悔やむことになる。
未来が二十歳を迎える頃に、一度だけ士官学校へ視察に赴いた。
「常勝の天才」に、戦の何たるかを身をもって教える為に、士官学校の校長に就任した山本少将が呼び寄せたのだ。
授業の視察から始まり、戦術戦略シミュレーションの対戦が組み込まれていた。
対戦相手は、
「久しぶりです、姉さん。いえ、高梨中佐殿」
「湊も久しぶりね……」
対戦前に、そう軽く言葉を交わしただけだった。
対戦は3対1の変則マッチで行われた。
未来艦隊は、12隻の連合艦隊。対する士官学校候補生側は、6隻ずつの通常編成。
参加した候補生は、湊と最上級生二人である。
「三方から包囲殲滅しよう」
「それがいい」
「いいえ、包囲網が完成される前に突き崩される可能性もあります。ここはオーソドックスに、正面から迎え撃ちましょう」
湊がそれに異論を挟むが、上級生の二人は取り合ってくれなかった。
「……」
一方、未来のコンソールでは……
「包囲しようとしてるのデース!どうするのデス?」
金剛の言葉に、未来はふっと笑みを浮かべた。
「
そう言うと、シミュレーション上の艦娘に、全速前進を命令した。
一方、中央の第1艦隊の候補生は、混乱を来たしていた。
「どういうことだ!?あの「常勝の天才」は気でも狂ったのか!?
未来は、同時に通信封鎖も行った為、隣のブースと連絡が取れなくなっていた。
湊は、真っ先にそれに気づき、
第1艦隊を囮に使い、第2艦隊と連絡を取って、大回りで未来の艦隊の後ろに回り込み、待ち構えることにしたのだ。
「これで、五分以上の戦いができます。そこで、先輩……」
「えっ?分かった。高梨の言うとおりにしよう」
悠々と第1艦隊を片付けた未来は、じわじわと後方からやってくる艦隊に気づいて、全艦回頭して迎え撃つ形となった。
敵艦の編成は、連合艦隊編成ではなく、単縦陣二列だ、と気づいた。
「バカね。中央突破戦法をしてください、と言わんばかりじゃないの」
そのまま、艦隊を突入させる命令を
士官学校生側の艦隊は分断して行き、チーズが裂けるように分かれていった。
「……何かがおかしい」
「テートク?」
「しまった!これは罠よ!湊め!!!謀ったわね」
分断された二つの艦隊は後方で反転し、連合艦隊形態を取ったのだ。
未来は、仕方なく更に前進し、敵連合艦隊の後方へ布陣する策を採った。
これは、一種の消耗戦である。
敵の後方に食らいつく前に、何
「なんとも無様な陣形をしてしまったものね……撤退よ」
「先輩、相手の呼吸を見ながら撤退しましょう。今なら残り艦艇数で戦術的勝利が狙えます。このままでは、消耗し尽くしてしまいます」
「わかった」
未来艦隊が撤退するのに呼吸を合わせて、士官学校側も撤退する。
判定・戦術的勝利
その表示が出た時、湊はふぅと溜め息を吐いた。
こうして、
それ以来、姉妹での対戦は行われていなかった。
――――――――――
それから十数年後……
戦争が終結して、
「ねえ、湊」
声を掛けた未来に、湊が顔を上げる。
「どうしました?姉さん」
「艦隊これくしょん、改めて勝負しましょう?」
「喜んで」
高梨邸に置いてある、アーケード筐体のローカルモードで、「常勝の天才」と「不敗の女神」の戦いが行われたが、
その結果については、二人共に、更には数少ない観戦者も、口を開こうとしなかった。
ただ、観戦していた智紀からは、
「凄い意地の張り合いだったぜ」
とだけ。