続・みんなと艦娘日和   作:SAMICO

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名古屋の悲劇後の『妹達』



原初の提督達と三笠Ⅶ~不知火と湊~

高梨艦隊は、司令官高梨道一元帥の戦死と、三笠の呉鎮守府司令長官への任命(補職)により、解散した。

天城は、総秘書官として三笠に付き従った。

 

高梨艦隊の艦娘達は、それぞれの任地に別れた。

龍驤は佐世保鎮守府、最上は舞鶴鎮守府、木曾は大湊警備府、そして大和は横須賀鎮守府である。

それぞれ、()()を失った深い傷から、立ち直りつつあった。

 

だが、()()の中で一番深い傷を負ったのは、不知火だった。

眼の前で、流れ弾の直撃により高梨提督(元帥)を死なせてしまった自責の念は強く、葬儀までに何度も自殺企図騒ぎを引き起こし、幻覚が見えるほどのパニックに陥ったりもしていた。

艦隊解散までは、常に一緒にいた()()もそれぞれの任地に別れて、天城と三笠の二人が面倒を見ることになった。

差し当っては、「司令長官補佐艦」として、待命中の扱いにした。

 

不知火は()()()()――死にたいという気持ち――が強く、とてもじゃないが、前線勤務に就かせる訳には行かなかった。

それこそ前線に出したら、自ら進んで戦死(撃沈)でもされかねない。三笠には、その懸念があった。

艦娘では珍しい、()()()()

高濃度用量の、抗精神病薬・抗鬱薬を用いた投薬療法と、艦娘ならでは(特有)の甘い物でのストレスケアにより、希死念慮やパニック発作は、次第に少しづつ薄れていった。

艦娘の()()()()()()()()()()()()()療法だった。

ただ、まだ前線に立てるほどには回復していないようにも思えた。

 

三笠は、第二次人事案を見ながら暫し思案を続けていた。

このまま、不知火を無役で側に置いておくのも、限度がある。

現在は、療養も兼ねて側に置いているが、司令長官の職務は多忙を極めていた。

何しろ突然の補職辞令で就任し、()()()()()()()呉鎮守府管内を統括しろ、と言う命令なのだ。

天城と二人で状況を把握して、混乱している呉管内を鎮める必要があった。

三笠ならずとも、「あの総理大臣(若造)め!とんでもないものを押し付けやがって!」と言いたくなるものだ。

不知火も、三笠の手伝いをして、三笠と共に帰る日々を送っていた。

 

三笠は、これを機会に旧司令長官派を、纏めて軍艦組に戻す人事を断行した。

横須賀鎮守府管内では、現状維持でそのまま進めているのとは、対照的である。

道一の先輩である、大村と連携を取りながら、周辺を道一に好意的だった後輩士官で固めた。

軍艦組どころか、陸空軍にもオファー(スカウト)を掛けたが、皆喜んでオファー(ヘッドハンティング)に応じていた。

そんな第一次人事は、『お友だち内閣』と謗られることもあったが、三笠はそんな誹謗中傷には、一切耳を貸さなかった。

本当ならば、『鉄壁の大垣城』大垣守も呼び寄せたかったが、彼は東北戦線の守りの要として()()()()()()()となっていた為に、断念した。

 

不知火の配属候補先の一つに、情報部(海軍幕僚監部情報部)があった。

そこには、湊の同期の高天原智子が情報・法務士官として在籍している。

娘とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と聞いている。不知火を任せられるだろう。

ただ、法務士官は士官を取り締まる役目でもある。今の彼女には、ストレスでは無かろうか。

不知火の『()』としては、()がより良く働けるところを、と思い悩んでいた。

不知火を何処に配置するか。呉鎮守府の第一次人事リストを見ながら、思案に耽っていると、

『呉鎮守府司令長官付』という役職の士官を発見した。

 

名前は安藤龍、階級は中佐。ついこの間まで持病の為、入院・予備役編入をしており、快癒した為現役復帰した士官である。

彼もまた、まだ前線に出してはいけない人材である。

「安藤も不知火も、どこに配置すべきか……?」

人事案を何度も作っては、ゴミ箱に丸めて捨てることを繰り返す三笠に、天城が声を掛ける。

「三笠様、如何でしょうか?まだ空席で、私が兼任中の後方勤務担当課長を安藤中佐に任せて、不知火をその補佐にお付けしては?」

両名を前線から遠ざけて、尚且つ不知火を手元に近い場所に配置する為には、事務方と言うポジションが適当だろう、とは考えていたが、

()()()()()()()である安藤を、そのポストに置いて良いものか悩んでいた三笠は、

「それは考えていたけど、安藤にはもっと良いポストがあるのではないか、と思うのよ」

「三笠様、()()()()()()です。安藤中佐は、まだ発作を起こす可能性がゼロではない。なればこそ、今は療養ポスト、と位置付けては如何でしょう?士官学校主席卒業。曰く『万能型の天才』安藤中佐ならば任せられるでしょう。病気に倒れながら、あの『尉官最短の男(草加拓哉)』に及ばずとも、飛びつきで中佐(大尉からの軍大学卒業)まで昇進している逸材です。そのままセットで、何処かの泊地に送ることも可能かと思いますわ」

三笠は、その天城の提案を受け入れることにした。

 

「失礼します」

「入りなさい」

ノックと共に不知火の声がすると、三笠は入室を促した。

不知火は、入って来るなり敬礼する。

「不知火、入ります」

「堅苦しいのは抜きでいいわ。それより、あなたの配属先を決めたわよ」

その言葉に、不知火の目は一瞬揺れ動いた。

「どこの泊地の配属になりますか?」

「後方勤務担当課長補佐、今度のあなたのポストよ」

不知火は一瞬唖然としたが、すぐに鋭い表情になり、

「不知火は、()()()()()()()ということですか!?」

そう、食って掛かるように問うて来た。

「そうではないわ。あなたは、人間で言えば()()()()よ。本当はもっと休んでもらいたいけど、あなたも忸怩たるものがあるでしょう。同じく()()()()()として、安藤中佐が課長として赴任するわ。あなたが補佐してあげて」

そう諭すように言うと、不知火は申し訳なさそうな顔になる。

「不知火のことを考えての人事とは知らずに、失礼しました。不知火の落ち度です」

「落ち込まなくていいわ。()()()()()()()、なんて先例は少ないもの。その代わり、()()()()()()()しっかり働いてもらうわよ?」

「はい!」

不知火は緊張した面持ちで、敬礼で応えた。

「今、安藤を呼んだところよ。きちんと挨拶なさい」

「はい」

ノック音がして、男の声が外から聞こえると、不知火は三笠の脇に控える。

「安藤龍中佐、参りました」

「入りなさい」

 

この時入室した、痩せ型の眼鏡の男――安藤龍中佐が、後に()()()()()になるとは、夢にも思わない不知火だった。

そして、自身の心の傷や鬱症状を、もっと酷いショック療法(強制ペア出撃命令)で乗り越えることになろうとは、夢にも思っていなかった。

 

 

あの、名古屋の悲劇(名古屋大侵攻)から、数ヶ月が経過した。

高梨湊は、葬儀の後病院に戻り、別の病院に転院していた。今度の入院先は、都内の精神科病院の()()()

現在の湊の肩書は、横須賀鎮守府司令長官付・()()()大尉。

()()()()()()報道が過熱する中、面倒くさいマスコミ攻勢をシャットアウトするには、病院という場所は丁度いいもの(もってこい)だった。

親友(大村奈緒)は名古屋で妹を失い、その心の傷で海兵旅団へと身を投じてしまった。

名古屋では多くの戦災孤児が出た、とニュース報道やインターネットで情報が入っている。

だがその恨みは、全て矢部の言う『抵抗勢力』にぶつけられていた。

そんな反面、作戦立案者(ヒトゴロシ)の自分はぬくぬくと、病院の中で暮らしている。その現状に忸怩たる物がある湊だった。

「あーあ、民衆に袋叩きにされる役回りは私の筈だったんですけどねぇ」

お見舞いに来ていた(未来)に、そうぼやく湊。

「馬鹿なこと言ってないで、あんたは精々()()()()()()()()()()()ことね?『不敗の女神様』」

湊を嗜める未来。湊の入院中に、彼女の対番(高菜結衣)と、『楽しい国家転覆計画ごっこ(統幕監部情報部との抗争)』をしていた未来は、准将・分艦隊司令官に昇進していた。

「父さんを看取ることは出来ませんでしたし、葬儀場で血を吐いて倒れるし。まあこれも、天罰覿面なんでしょうけど」

そう自虐的に言う妹の額を、ペシッと叩く。

「あいたっ」

「あなたも責任を感じてたんでしょう?もっと強く引き止めれば父さんは死ななかったと」

「いやぁ……そうなんですけどね?」

軽く目を伏せながら、未来に答える。

「ま、そんな事聞くような人じゃなかったわ。あなたが悔やむ必要も、自虐的になる必要も無いのよ」

――そうだよ、未来さんの言うとおりだよ。

睦月も心の中で慰める。

(ありがと、むっちゃん)

湊は、心の中でもうひとりの自分(睦月)に礼を言い、

「ありがとう、姉さん」

姉にも礼を言うと、未来がふっと笑った。

「不思議なものね。()()()()()で、あなたともこんな時間を持てる様になった、なんて」

「お互い意地っ張りだったんですよ。失敗作としては負けたくなかったですし」

「私もよ。()()()()()()()()に負ける筈がない、って思っていたから」

その言葉に沈黙が流れる。

 

 

「マスコミ攻勢はまだ苛烈なようね」

未来は、窓の外を眺めながら話題を変える。

「そのようですね。いやあ、世間では私はまだ、()()()()()()()()()()()()ことになってますけどね」

未来がお土産に持って来た長崎カステラをひとつまみしながら、呑気に答える湊。

都内で一番セキュリティの高い病院に彼女を入院させたのは、『英雄にふさわしいポスト』がないことと、マスコミ攻勢により『置けるポストも無い』ということで、

いっそのこと、半年間くらいは休暇を取ってもらおう、と湊は予備役に編入されていた。

 

これは、山本中将の提案であり、裏では大村大将や矢部総理大臣も糸を引いている。

マスコミは()()()()()()()()()に報道し、世間では、

『名古屋大侵攻で父を失い、自身も深い傷を負いながら民間人を救ったヒロイン』となっていた。

湊にとっては、()()()()()である。……病室から出られない不自由さを除けば。

ただし、食品持ち込み自由、風呂もトイレも個室に付いている、テレビもあればインターネットも繋がる。

湊はパソコンを持ち込んで、再び戦術戦略シミュレーションに明け暮れる日々を送っていた。

「あーあ、こんなことになるんだったら、軍人なんかなるんじゃなかった」

そうぼやきながら……

――いい加減諦めたら?もう逃げられないよ、『不敗の女神様』

そのボヤキに、心の中で睦月の笑い声が聞こえて……

 

そうして、名古屋大侵攻から半年後、湊は横須賀鎮守府作戦参謀・大尉として軍務に復帰した。

この時は、更にその半年後に勃発する第二次名古屋攻防戦で、想い人を親友に掻っ攫われるとは思いもしなかった湊である。




多分明日はお休みします
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