高梨艦隊は、司令官高梨道一元帥の戦死と、三笠の呉鎮守府司令長官への
天城は、総秘書官として三笠に付き従った。
高梨艦隊の艦娘達は、それぞれの任地に別れた。
龍驤は佐世保鎮守府、最上は舞鶴鎮守府、木曾は大湊警備府、そして大和は横須賀鎮守府である。
それぞれ、
だが、
眼の前で、流れ弾の直撃により高梨
艦隊解散までは、常に一緒にいた
差し当っては、「司令長官補佐艦」として、待命中の扱いにした。
不知火は
それこそ前線に出したら、自ら進んで
艦娘では珍しい、
高濃度用量の、抗精神病薬・抗鬱薬を用いた投薬療法と、艦娘
艦娘の
ただ、まだ前線に立てるほどには回復していないようにも思えた。
三笠は、第二次人事案を見ながら暫し思案を続けていた。
このまま、不知火を無役で側に置いておくのも、限度がある。
現在は、療養も兼ねて側に置いているが、司令長官の職務は多忙を極めていた。
何しろ突然の補職辞令で就任し、
天城と二人で状況を把握して、混乱している呉管内を鎮める必要があった。
三笠ならずとも、「あの
不知火も、三笠の手伝いをして、三笠と共に帰る日々を送っていた。
三笠は、これを機会に旧司令長官派を、纏めて軍艦組に戻す人事を断行した。
横須賀鎮守府管内では、現状維持でそのまま進めているのとは、対照的である。
道一の先輩である、大村と連携を取りながら、周辺を道一に好意的だった後輩士官で固めた。
軍艦組どころか、陸空軍にも
そんな第一次人事は、『お友だち内閣』と謗られることもあったが、三笠はそんな誹謗中傷には、一切耳を貸さなかった。
本当ならば、『鉄壁の大垣城』大垣守も呼び寄せたかったが、彼は東北戦線の守りの要として
不知火の配属候補先の一つに、
そこには、湊の同期の高天原智子が情報・法務士官として在籍している。
娘とは、
ただ、法務士官は士官を取り締まる役目でもある。今の彼女には、ストレスでは無かろうか。
不知火の『
不知火を何処に配置するか。呉鎮守府の第一次人事リストを見ながら、思案に耽っていると、
『呉鎮守府司令長官付』という役職の士官を発見した。
名前は安藤龍、階級は中佐。ついこの間まで持病の為、入院・予備役編入をしており、快癒した為現役復帰した士官である。
彼もまた、まだ前線に出してはいけない人材である。
「安藤も不知火も、どこに配置すべきか……?」
人事案を何度も作っては、ゴミ箱に丸めて捨てることを繰り返す三笠に、天城が声を掛ける。
「三笠様、如何でしょうか?まだ空席で、私が兼任中の後方勤務担当課長を安藤中佐に任せて、不知火をその補佐にお付けしては?」
両名を前線から遠ざけて、尚且つ不知火を手元に近い場所に配置する為には、事務方と言うポジションが適当だろう、とは考えていたが、
「それは考えていたけど、安藤にはもっと良いポストがあるのではないか、と思うのよ」
「三笠様、
三笠は、その天城の提案を受け入れることにした。
「失礼します」
「入りなさい」
ノックと共に不知火の声がすると、三笠は入室を促した。
不知火は、入って来るなり敬礼する。
「不知火、入ります」
「堅苦しいのは抜きでいいわ。それより、あなたの配属先を決めたわよ」
その言葉に、不知火の目は一瞬揺れ動いた。
「どこの泊地の配属になりますか?」
「後方勤務担当課長補佐、今度のあなたのポストよ」
不知火は一瞬唖然としたが、すぐに鋭い表情になり、
「不知火は、
そう、食って掛かるように問うて来た。
「そうではないわ。あなたは、人間で言えば
そう諭すように言うと、不知火は申し訳なさそうな顔になる。
「不知火のことを考えての人事とは知らずに、失礼しました。不知火の落ち度です」
「落ち込まなくていいわ。
「はい!」
不知火は緊張した面持ちで、敬礼で応えた。
「今、安藤を呼んだところよ。きちんと挨拶なさい」
「はい」
ノック音がして、男の声が外から聞こえると、不知火は三笠の脇に控える。
「安藤龍中佐、参りました」
「入りなさい」
この時入室した、痩せ型の眼鏡の男――安藤龍中佐が、後に
そして、自身の心の傷や鬱症状を、もっと
あの、
高梨湊は、葬儀の後病院に戻り、別の病院に転院していた。今度の入院先は、都内の精神科病院の
現在の湊の肩書は、横須賀鎮守府司令長官付・
名古屋では多くの戦災孤児が出た、とニュース報道やインターネットで情報が入っている。
だがその恨みは、全て矢部の言う『抵抗勢力』にぶつけられていた。
そんな反面、
「あーあ、民衆に袋叩きにされる役回りは私の筈だったんですけどねぇ」
お見舞いに来ていた
「馬鹿なこと言ってないで、あんたは精々
湊を嗜める未来。湊の入院中に、
「父さんを看取ることは出来ませんでしたし、葬儀場で血を吐いて倒れるし。まあこれも、天罰覿面なんでしょうけど」
そう自虐的に言う妹の額を、ペシッと叩く。
「あいたっ」
「あなたも責任を感じてたんでしょう?もっと強く引き止めれば父さんは死ななかったと」
「いやぁ……そうなんですけどね?」
軽く目を伏せながら、未来に答える。
「ま、そんな事聞くような人じゃなかったわ。あなたが悔やむ必要も、自虐的になる必要も無いのよ」
――そうだよ、未来さんの言うとおりだよ。
睦月も心の中で慰める。
(ありがと、むっちゃん)
湊は、心の中で
「ありがとう、姉さん」
姉にも礼を言うと、未来がふっと笑った。
「不思議なものね。
「お互い意地っ張りだったんですよ。失敗作としては負けたくなかったですし」
「私もよ。
その言葉に沈黙が流れる。
「マスコミ攻勢はまだ苛烈なようね」
未来は、窓の外を眺めながら話題を変える。
「そのようですね。いやあ、世間では私はまだ、
未来がお土産に持って来た長崎カステラをひとつまみしながら、呑気に答える湊。
都内で一番セキュリティの高い病院に彼女を入院させたのは、『英雄にふさわしいポスト』がないことと、マスコミ攻勢により『置けるポストも無い』ということで、
いっそのこと、半年間くらいは休暇を取ってもらおう、と湊は予備役に編入されていた。
これは、山本中将の提案であり、裏では大村大将や矢部総理大臣も糸を引いている。
マスコミは
『名古屋大侵攻で父を失い、自身も深い傷を負いながら民間人を救ったヒロイン』となっていた。
湊にとっては、
ただし、食品持ち込み自由、風呂もトイレも個室に付いている、テレビもあればインターネットも繋がる。
湊はパソコンを持ち込んで、再び戦術戦略シミュレーションに明け暮れる日々を送っていた。
「あーあ、こんなことになるんだったら、軍人なんかなるんじゃなかった」
そうぼやきながら……
――いい加減諦めたら?もう逃げられないよ、『不敗の女神様』
そのボヤキに、心の中で睦月の笑い声が聞こえて……
そうして、名古屋大侵攻から半年後、湊は横須賀鎮守府作戦参謀・大尉として軍務に復帰した。
この時は、更にその半年後に勃発する第二次名古屋攻防戦で、想い人を親友に掻っ攫われるとは思いもしなかった湊である。
多分明日はお休みします