そして、墓参り時の謝罪の真意とは
艦娘日和第6話『宝探し』より
奈緒「しかし、どんなマジックを使ったのさ?」
湊「ふふ、ナイショですよ」
不知火が、安藤と共に事務作業に勤しんでいる間に、二年が経過した頃、
色んな部署を経験し、再び海軍幕僚監部情報部に舞い戻って来た高菜結衣が、呉に赴任してきた。
三笠も、出撃を繰り返し、深海棲艦を撃破し、第二次名古屋攻防戦にて増援艦隊を率いた功績を認められて、大将に昇進していた。
三笠が書類に目を通していると、扉がノックされる。
「失礼します。高菜結衣中佐、入ります」
「入りなさい」
高菜結衣がドアを開け中に入ると、ビシッと敬礼をする。
「お久しぶりです」
「直接会うのは、
そう。
これは、失脚した松本一派の報復を防ぐ為の、大村源一郎大将と三笠の相談の上での人事であるが、
その間三笠は、結衣と連絡を取り合い、結衣は公安の力で松本一派の所在を確認し、
三笠は、呉に存在していた「特殊部隊」を用いて、
娘を失脚させようとした連中に対しては、三笠も容赦するつもりはなく、
結衣の
「喧嘩の後始末の一件では、お世話になりました」
「軍大学と
「いやー、
その言葉で三笠は、彼女が
三笠はハッとなった後、青褪める。それまでは、珍しい名前だ、としか認識が無かったのだ。
軍や世間に傷つけられた男、高菜直樹。
「もしかして、高菜中佐は高菜直樹准将の……?」
「はい。高菜直樹は、父です」
「……それは申し訳……」
両手をついて、頭を下げようとした三笠を、結衣は笑顔で制した。
「ダメです、閣下。今私達は現役の軍人であり、私はあなたの部下です。
「……そうね、分かったわ。その時まで、上司と部下を踏み越えないようにするわ」
「ありがとうございます」
結衣がにへらっと笑うと、三笠にも笑みが戻る。
結衣も、待たせに待たせた結果が、あの謝罪に繋がるとは、この時は思っても見なかった。
「まあ、そこにある椅子を持って来て座りなさい」
「遠慮なくそうさせてもらいますよ」
そう言うと、壁に立て掛けてあったパイプ椅子を持って来て、執務机の前に置いて座る。
「さて、着任早々ですが、
「バグとは?」
結衣が話を切り出すと、三笠も真顔に戻る。
「はい。室戸泊地の武藤廉也准将ですが、ちょっときな臭いです。内偵捜査をすべきかと思います」
「物資の横流しかしら?」
「それが、奇妙なんです。戦果と消費量が
安藤から上がった補給報告書を見ると、室戸泊地
「いやー、前線ですから、多少のロスや持ち出しくらいは、前線の役得でいいんですよ。この武藤提督の室戸泊地はちょっと
「分かった、安藤と高天原と不知火を差し向けるわ。そろそろ彼等にも、前線で役に立ってもらいたかったもの」
その言葉に、結衣はにへらっと笑う。
「はい。安藤先輩なら、安心して任せられます」
こうして、安藤と不知火と智子が派遣されて行ったが、すぐに智子から入った報告により、三笠は頭を抱えることになる。
曰く『安藤中佐は、武藤准将を監禁して泊地を乗っ取った。室戸泊地の戦果は、全て海兵旅団のもの』と。
三笠は、すぐに結衣に出頭するよう、連絡を取った。
「いやー、ここまで酷いとは思っていませんでしたね」
結衣が智子からの報告を聞くなり、にへらっと笑って椅子に腰掛ける。
「高菜、どう思う?」
「そうですねぇ、ちょっと
「草の者?」
訝し気に問うて来る三笠に、結衣はヘラヘラした笑みを崩さないまま、
「キヨシ―、入っておいで」
そうドアに呼びかけると、扉が開いて駆逐艦清霜が入って来る。
「失礼します。はじめまして三笠大将閣下、駆逐艦清霜です」
清霜が、結衣の側に立って一礼する。
三笠は清霜に、
「よろしく。貴女も隣に座りなさい」
そう言うと、清霜は壁に立てかけてあった折りたたみ椅子を持って来て、結衣の隣に座る。
「キヨシ―、室戸泊地で安藤中佐が何をやっているか見てきて頂戴」
「喜んで」
数日後、清霜は情報を持って呉に戻ってきた。
司令長官執務室には、天城も加えた四人が揃っていた。
「どうやら安藤中佐は、腑抜けた艦娘達の叩き直しを行ってる模様です。不知火と、
三笠は、
「きっと安藤先輩は、不知火に立ち直ってもらいたい、と思ってるんですよ。あんな
と言う言葉に宥められ、続く清霜の報告を聞く。
「出撃に伴う訓練で、物資が急激に減っています。このままでは、物資が足りなくなります」
その清霜の言葉に、三笠は腕を組んで考える。
「物資をこちらから送る、という方法はダメなのかしら?」
「いけません。こちらが介入したら、表沙汰になります。それでは、安藤中佐の意図が無駄になります」
三笠の提案は、天城が反対する。その天城の言葉に、結衣と清霜も頷く。
「安藤先輩は、まずは経費削減に乗り出すでしょう。カットできるのは食費、食費を安くすれば、資材をどこかから
「そういえば、安藤中佐から一度、在日米軍のMREのロスが問題になっていて、こちらでも期限のチェックを行うよう、進言が為されていました」
その結衣の言葉に、天城が思い出したように言うと、結衣がにへらっと笑う。
「そういうことなら、沖縄の
そう言って、結衣は単身沖縄に向かった。
清霜は結衣の不在の間、何度も室戸泊地に偵察に行って、報告を持って来る。
「無事、沖縄からのMREの搬入が終わったのを確認しました。物資も、ブラック泊地の余剰在庫から買い付けた模様です。安藤中佐自身の給与も注ぎ込んでいるようで、安藤中佐の給与口座の預金が、ごっそりなくなっています」
「………」
「安藤中佐は賢そうに見えて、案外
清霜の報告に三笠は呆れ返り、天城も唖然としながら今までの認識を改めた。
「それが安藤先輩ですよ。
沖縄から帰ってきた結衣は、先輩らしい、とにへらっと笑っていた。
「汚れてる?」
その三笠の怪訝そうな言葉に、結衣は「気にしないでください」そう言い、
「差し当り、監視を続行します」
そう言って、清霜と共に退出した。
こうして一月ほどは、三笠は自身の司令長官としての業務に追われていた。
再び彼女の元に現れたのは、清霜だった。
「どうやら不知火さんは、鬼になった模様です。泣き喚く艦娘を引き摺り出して出撃して行きました。
その言葉に、三笠はふっと笑みが零れる。
「ありがとう、監視を続けて頂戴」
「喜んで」
こうして、清霜は何度も室戸泊地に内緒で足を運び、智子も
安藤も、功績により大佐に昇進していた。
そうして、更に数ヶ月が経った頃、結衣が深刻な顔をして入って来た。
「失礼します、閣下。武藤提督が『戦死』しました」
「なっ……?」
「もしかして……安藤大佐が……?」
三笠は絶句したが、天城はピンと来たのか、その言葉を口にした。
「はい、安藤大佐が殴り殺したそうです。武藤提督は、余剰物資を見返りもなく、
「それは……?」
「はい、横須賀鎮守府管内、第13泊地」
「………片桐准将のところか……」
三笠は、今でも道一と共に彼を騙した、という罪悪感を持っている。
「おそらく、横須賀の監察部は片桐とグルですね。山本の爺様も、襲来してくる深海棲艦対策で、そこまで目が届いてなかったようですね?」
結衣の報告に、脇に控えていた天城が口を挟む。
「三笠様、ここは高天原中尉に横須賀の監察部に行ってもらっては如何でしょう?ここまで全容を把握できれば、あとは彼女の仕事はないでしょう」
天城の助言に、三笠は頷いた。
「分かった、大村大将経由で人事を捩じ込もう」
「それでは、清霜も第13泊地に送り込みましょう」
「わかったわ」
結衣の提案に、三笠は頷いた。
数カ月後、
第13泊地には、
その
もちろん、悔やむだけではなく、この数カ月の間で安藤のやったことを、全て揉み消した上で、その泊地の司令官を内々に『特殊部隊』を送り込んで『戦死』させ、新しい司令官に自身の周辺の人物を充てる、という改革を断行していた。
それから少し経ったある日の夜。
執務を終えようとした頃、携帯電話に着信が入った。
発信元は湊。娘からである。
「久しぶりね、どうしたの?貴方が掛けてくるなんて珍しい」
『お久しぶりです母さん。一つお願いがあって電話しました』
「お願い? 貴方の頼みなら喜んで聞くけども……」
電話の先の湊は、少し沈黙してから、
『実は現在、第13泊地の物資が逼迫しています。庁舎内に片桐准将の隠し財産を発見しました。……まあ、この出処は大方見当が付いてますけど。で、大村大将にこの資産をこちらで運用できるよう、手を回してはもらえませんか?』
予想はついていたが、不正に得た物資は軍で没収される。第13泊地は前線の為、すぐ物資が足りなくなるのだ。
「分かったわ。もしかして、
『当たりです。周囲には、「サラ金から借りた」と誤魔化してます』
娘の言葉に、三笠は頭痛がする思いだった。
「分かったわ。そっちの方も経費処理するように、手を回しておくわ」
『できれば、母さんには頼りたくなかったですが』
「………」
『言い過ぎました、すみません。それではお願いします』
「分かったわ、たまには呉にも顔を出しなさい」
『手が空いたら考えますよ』
その言葉で、電話が切れた。
三笠は、すぐに大村大将に連絡を取り、手配した。
それから直ぐに、湊からメールで、「ありがとうございます」と連絡が届いた。
三笠は、それからすぐに深海棲艦の巣窟であるハワイへの総攻撃の計画に取り掛かる為、室戸泊地の始末の全てを、結衣達に任せることになった。
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それから数年後のこと。
退役した三笠は、BISTRO KIYOSIMOの開店から少し経った頃に、店に顔を出していた。
カウンターで、智子と足柄が飲んでいた。
「お久しぶりね、開店おめでとう。それに高天原大佐に足柄、久しぶりね」
「いらっしゃいませ、三笠元帥」
その姿を見かけると、清霜は笑みを浮かべて一礼する。
智子と足柄も、立ち上がって敬礼しようとするのを、手で制する。
「これは開店祝いね」
カバンから取り出した祝儀袋を、カウンターに差し出しながら智子の隣に座ると、
「これは申し訳ありません。ありがとうございます」
清霜は受け取って、大事にしまう。
「高菜大佐は元気?」
「はい。今は統合幕僚監部情報部から、陸軍に出向していると聞きました」
その日は、結衣の話で大いに盛り上がった。
その時酔っていた智子が、ぽろっと結衣の小中学校の頃の
それを聞いてしまった三笠は、翌日舞鶴に飛んで、結衣の対番である上原中佐に会いに行った。
上原中佐は、真摯に教えて欲しいと頼む三笠に、結衣から聞いた話を全て教えてくれた。
その話を聞いた三笠は、人目を憚らず涙した。
次に会った時は、結衣に精一杯の謝罪をしよう。そう決意を胸に秘めて……