続・みんなと艦娘日和   作:SAMICO

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最終回その1です。

Requiem~三笠の死~をリファインした内容となっています。



原初の提督達と三笠Epilogue~軍神のレクイエム《前編》~

それから、何年も経過した。

三笠は、高梨商事と言う会社を立ち上げ、復興支援や元艦娘福祉事業を積極的に行った、とされている。

 

実際は、実務を信頼できる部下達に任せ、悠々自適の生活を送っていた。

三笠は、あのハワイの戦い(ハワイ決戦)の後、完全に表舞台からは身を引いて、呼ばれた時だけ顔を出す、程度の関わり方をしていた。

本人曰く「漸く道一さんのお側で暮らすことができる」と。

そして、その事業も『(シンギュラリティ)ハウンド』のお陰で、完全な戦後を迎えた時点で、湊に譲り渡した。

それからというもの、三笠はしばしば、()()()()()を覚えるようになっていた。

「三笠様?」

「いや、何でもないわ。最近疲れているのかもしれないわね、もう年だもの」

「それなら良いのですが…」

使用人である天城にも気づかせないように、だが始祖の艦娘ともあろう者が、医者にかかるのも迷惑が掛かる。

それに、この手の腹痛は数年前から度々起こっていたのだ、大丈夫だ。と、自分に言い聞かせながら。

そういった()()()()()()()が、悲劇を呼ぶとは知らずに……

 

その日は、前触れもなくやって来た。

夕食の、サバの味噌煮と御飯と味噌汁という、質素だが美味しい天城の手料理を食べ終えると、天城は食器を片付けにキッチンに向かった。

その様子を見ながら、テレビのリモコンを操作して、『エナツキ日和』の生放送(配信)を見る。

この日は、エナツキが夕食を皆で賑やかに作っている様子が映し出される。

最新型のこのテレビは、MeTubeを見ることができる。

三笠にとっては、()とも言っていい、恵奈達のアスレチック等で活き活きと活躍している様を見るのが、最近の楽しみになっている。

「エナツキは、最近も活躍しているみたいね」

そう言いながら、スーパーチャット(投げ銭)機能でお小遣いを上げる感覚で、応援メッセージを入れる。

ハンドルネームはMrs.M。それに気付いた恵奈が、

「あ。Mrs.Mさん、いつもありがとうございまーす!」

なんて、手を振ってお礼をしてくれる。

その笑顔に、釣られてふふっと笑う。

今日は、身体が少しだるいから早めに休もう、と背を伸ばした瞬間、強烈な痛みが全身に伝わって、椅子から転げ落ちた。

「ぐ……ぁ‥…」

「本日のお夕餉はいかがでしたか?」

そう言ってダイニングに戻って来た天城が目にしたのは、三笠が腹部を押さえ苦しんでいる姿だった。

「三笠様!?」

直ぐに持っていたお茶を放り出して、三笠の元へ駆け寄る。

「腹が………痛い……」

「すぐに救急車を……」

天城が立ち上がろうとするも、三笠はぐっと腕を摑んだ。

「ダメよ。()()()ともあろう者が、救急車を使ったら他の者に迷惑がかかるわ。それに、この手の腹痛は何度もあったわ。大丈夫よ、すぐに車を出して?」

「いけません!天城は今、運転できる自信がありません、救急車を!」

「いいや、タクシーを呼んで頂戴。ここからなら、すぐ行ける筈だから……軍病院に」

「は、はい……」

天城は立ち上がると、すぐにタクシーを手配して、まずは横須賀地方総監の未来に電話を繋いだ。

『もしもし?』

「未来さん、三笠様が……お倒れになりました!今タクシーで軍病院に向かうところです!」

『はぁ?救急車呼びなさいよ!』

「三笠様が、この手の腹痛は何度かあったと。だからタクシーでと」

『…母さんがそういうならしょうがないわね、言って聞くような人じゃないし。分かったわ、軍病院の山本少将に電話しておくわね』

「お願いします!」

 

―――――――

「大変なことになったわ」

「ダーリン、どうしたのデース?」

横須賀地方隊総監部の総監室に、未来が電話を切ったところで戻って来た金剛は、険しい表情を浮かべている未来に声を掛けた。

「母さんが倒れたわ」

「ホワッツ!?」

「とにかく、軍病院に向かうそうよ、急ぎましょう。ああ、大和も連れて行かないと」

「車を回して来るついでに、大和ちゃんに電話をかけマース!」

二人は、執務途中だった業務を切り上げて、私用車で横須賀から、東京の軍病院へ向かうのだった。

金剛の運転で、助手席は未来。後部座席には、軍に残った大和が座っている。未来は、すぐに湊へ電話を掛ける。

「もしもし?湊?」

『はいはい。姉さん、どうしました?』

「母さんが倒れたわ……嫌な予感がするのよ。名古屋にいる木曾と最上、龍驤、あとは結衣さん、貴方の被保護者達(千里・真由・海来)も連れて来なさい」

『わ、わかりました!パーソナルヘリで直接向かいます。こっちでSハウンドの千里には連絡します』

「頼むわね。金剛、大急ぎで飛ばして!あと不知火にも電話しないと」

「わかったのデース!」

「もしもし、不知火?母さんが倒れたわ。今、家?」

『えっ……は、はい……』

「龍さんは?」

『龍は今日、視察で帰るのが遅くって……さっき電話したら電話に出ないので……』

「分かったわ、そっち寄る余裕ないけど」

『不知火は大丈夫です、免許持ってますから』

「ならいいわね、軍病院よ。急いで頂戴」

『は、はい!」

 

―――――――

湊は、丁度()()()()()()と平林虎子で、居酒屋鳳翔で女子会という名の、晩酌をしていた。

電話を受けたあと、さぞや青い顔をしていたのだろう、電と睦月が顔を覗き込む。

「「どうしたの?」です?」

「母さんが倒れました……」

「えっ……!?」

「ヘリを準備させてくるね!」

結衣が立ち上がると、軍払い下げの輸送ヘリの準備に向かった。

「電は、村上建設の皆を呼んで来るのです。むっちゃん、一緒に行くのです」

「う、うん!」

二人は慌てて立ち上がると、外に走って行く。

湊は、すぐに()()()()のエナツキハウスに向かって行った。

エナツキハウスのセキュリティカードで中に入ると、キッチンで生放送をしてる面々に、ダイニング&リビングから顔を出して、小さい声で、

「真由ちゃん、ちょっとちょっと」

と手招きする。

「あ、湊さん、どうしました?」

と恵奈と二人でやって来たので、二人に耳打ちをする。

「母さんが倒れました。悪いけど、真由を借りて行きますね?」

「は…はい…」

「三笠さんが……?わかりました」

 

龍驤と木曾と最上がやって来る頃には、三笠は病院に到着しており、()()()()とのことだった。

今日を越せるか越せないかという、医師の診断だった。

心配そうに、生放送を切り上げて様子を見に来てくれたエナツキにも、危篤状態ということを伝えると、マネージャーの仁美が、

「エナツキの皆さんは、こちらで三笠さんの無事を祈っています」

「何かお役に立てるかも知れません。私も同行しましょう」

エナツキを代表して湊に声を掛けると頷いて、同行する虎子等と共に、ヘリポートに向かった。

 

 

―――――――

「お待たせしました」

タクシーはすぐにやって来たが、三笠は立ち上がれずにいた。

運転手と天城が両肩を貸して、漸くタクシーに乗り込むことが出来た。

「救急車じゃなくて、良いんですかねえ?」

運転手が心配そうに声を掛けるも、

「大丈夫だ……軍病院に頼む」

「大急ぎでお願いします!」

天城の声に運転手も、

「わかりました。飛ばすので、ちょっと揺れますよ!」

そう答えて、大急ぎで車を走らせてくれた。

タクシーの自宅到着は短時間だったが、タクシーの中での三笠は、どんどん顔色が青白くなっており、

もう意識もほとんどない状態だった。

滑り込むように軍病院に到着すると、先に到着していた不知火や病院スタッフが、すぐに三笠をストレッチャーに乗せる。

「何で救急車を呼ばなかったんですか!?」

当直医師に天城は責められたが、意識の殆ど無い三笠に、

「いや……止めたのは私だ」

と言われれば、これ以上責めるべきではない、とすぐに処置室に搬送した。

 

間もなく未来達が病院に駆け込み、それから1時間半後に湊達と千里も、病院へと到着した。

その頃には、一時安定していた容態が、急激に悪化していた。

医師は、手術は間に合わないと判断して、痛みを和らげる方法に切り替えた。

大量の輸血を行って、血圧を保っている。

同行していた虎子も、軍病院からの申出で、延命処置の手伝いを行っていた。

彼女も()()()ながら、救命手段が無いことに、無念の臍を噛んでいた。

呼吸が荒くなり、意識が無くなっていた三笠の両手を、結衣と未来と湊が握り締め、他の高梨艦隊の面々も、三笠の側にいた。

艦娘達は涙を流し、天城に至っては、崩れ落ちるように座って自分を責めながら、泣き声を上げている。

その様子に、高梨艦隊の艦娘達や海来(みく)が気遣って、寄り添っていた。

その時、ふっと三笠の目が覚めた。

「湊……未来……それに結衣。私は十分に生きた……波乱だったが楽しい生だった……」

「お願い!死なないで!!」

「死ぬのはまだ早いでしょう!?」

「貴女は、殺しても死なない筈だよ!」

湊と未来、そして結衣が涙を流しながら叫ぶ。

「天城……こっちに来なさい……」

「は……はい……」

フラフラと、三笠の元に歩み寄る天城の手を握って、穏やかな笑みを浮かべる。

「世話を掛けたわね……」

「いえ、天城は……三笠様のお側に居られて幸せでした…」

「大和、最上、龍驤、不知火、木曾……今までありがとう」

天城に寄り添っている、高梨艦隊の皆にも、笑みを向ける。

「三笠さん……」

「高梨提督みたいに、死ぬような人間の言葉なんて…ボクは……」

「苦しいんやろ、じっとしときぃや……見てて辛いわホンマ…」

「三笠さん……お母さん…………」

「こう言った無理は、ほんと提督譲りだぜ」

艦娘達も、口々に言葉を掛ける。

「平林先生、世話を掛けたわね。済まないわ」

「いえ、お救いできずに申し訳ありません」

「無理なものは無理よ。無理なものを救おうとして努力するのは、技術と労力の無駄よ」

「……」

虎子は、涙を流さないように、ぐっと目を閉じている。

「死んだあと…病理解剖をお願いして頂戴」

「わかりました、手配させていただきます」

三人の『三笠の孫(湊の被保護者)』にも声を掛ける。

「千里……これからの軍は頼んだわよ」

「はいっ」

「真由ちゃん、いつも楽しい放送と動画ありがとう。いつも見てたわ」

「……はい、恵奈にも伝えます」

海来(みく)……ごめんなさい」

「……かあさん…かあさんは悪くなかった…」

「……ありがとう」

それぞれに声を掛け終わると、三笠はやり遂げたといった顔をする。

「思い返せば楽しい人生だったわ……これより提督のところに赴く……」

その言葉を最後に再び意識を手放し、バイタルメーターの心拍数も次第に弱くなって、ピー………という音が鳴り響く。

ここに、()()()()()がこの世を去った。

「母さん……そんな……」

「嘘でしょ!嘘だと言ってよ!」

「母さん!!!」

三人姉妹の慟哭に、全員が涙している。

「う……うああああ!!!三笠さまぁ……天城の……天城のせいで!!」

天城は自らを責めるように大きな声で泣いている。

それを気遣うように、虎子と高梨艦隊の艦娘達が優しく抱き締める。

バタンと扉が開かれ、安藤龍が入ってくる。

「……逝ってしまわれたか……」

「………」

不知火が、涙を流しながらコクリと頷いた。

「おそらくは急性心不全。激痛は大動脈解離ね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()わ。却って苦しかったでしょうね……」

「そうか………」

安藤も涙を流していた……

 

病理解剖室に運ばれる三笠の遺体を見送りながら、未来は皆に声を掛けた。

「悪いけど、お屋敷に戻ってもらえる?結衣さん、色々手配をお願い」

「わかったよ。湊ちゃんと未来ちゃんと()()()()()の三人っきりにしてあげよう」

「お願いします……」

そう言うと、安藤と不知火と未来の車に分乗して、皆は高梨邸に帰って行った。

 

すぐに病理解剖が行われた。それには虎子も立ち会った。

腹腔内に溜まったおびただしい血液、それに大動脈の解離……体中が、今までの無理が積み重なって、()()()()だった。

「救急車を呼んだとしても、救命不可能でしたね。《艦娘の強靭な身体と輸血で延命できた》、と結論付けます」

それが病理医の見解で、虎子もそれに頷いた。

その後、看護師に依るエンゼルケアを施された遺体は、霊安室へと運ばれた。

 

霊安室に二人で入ると、手を合わせてから三笠を挟むように座った。

顔に乗せてある、白い布を退けると、

「お疲れ様でした、母さん」

「苦労を掛けたわね、母さん」

そう労いの言葉をかける。

「………母さんには無理をさせ続けてましたね」

「もっと早く気づくべきだったわ。艦娘だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを。直ぐに、元艦娘に健康診断を受けさせるよう、通達を出すわ」

「……お願いします」

その言葉から、暫しの沈黙が流れる。線香の匂いの立ち込めた霊安室……

「私は、母さんのことが嫌いでした。一度だけ母さんを頼った時も、嫌でした」

ぽつりと湊が語り出す。

「……わかるわ。でも、私達を心配しなかった日はなかった、と思うわ」

「………ええ」

「でも―――許せてよかったでしょう?」

「……はい」

「屋敷は引き続き私が住むわ。天城にも、引き続きいてもらうようお願いするわね。……会社は任せたわよ」

「……はい。母さんのやってきた事業は、必ず()()()()()()()()()()()()

「……明日から忙しいわね」

「そうですね。お通夜とお葬式と、色々手続きをしないと」

「忙しければ悲しみも紛れるもの……」

二人の娘達は、三笠の顔を眺めながら、思い出話を朝方まで語り合った。

 




1話では終わりませんでした。

次回こそ最終回です。
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