Requiem~三笠の死~をリファインした内容となっています。
それから、何年も経過した。
三笠は、高梨商事と言う会社を立ち上げ、復興支援や元艦娘福祉事業を積極的に行った、とされている。
実際は、実務を信頼できる部下達に任せ、悠々自適の生活を送っていた。
三笠は、あの
本人曰く「漸く道一さんのお側で暮らすことができる」と。
そして、その事業も『
それからというもの、三笠はしばしば、
「三笠様?」
「いや、何でもないわ。最近疲れているのかもしれないわね、もう年だもの」
「それなら良いのですが…」
使用人である天城にも気づかせないように、だが始祖の艦娘ともあろう者が、医者にかかるのも迷惑が掛かる。
それに、この手の腹痛は数年前から度々起こっていたのだ、大丈夫だ。と、自分に言い聞かせながら。
そういった
その日は、前触れもなくやって来た。
夕食の、サバの味噌煮と御飯と味噌汁という、質素だが美味しい天城の手料理を食べ終えると、天城は食器を片付けにキッチンに向かった。
その様子を見ながら、テレビのリモコンを操作して、『エナツキ日和』の生
この日は、エナツキが夕食を皆で賑やかに作っている様子が映し出される。
最新型のこのテレビは、MeTubeを見ることができる。
三笠にとっては、
「エナツキは、最近も活躍しているみたいね」
そう言いながら、
ハンドルネームはMrs.M。それに気付いた恵奈が、
「あ。Mrs.Mさん、いつもありがとうございまーす!」
なんて、手を振ってお礼をしてくれる。
その笑顔に、釣られてふふっと笑う。
今日は、身体が少しだるいから早めに休もう、と背を伸ばした瞬間、強烈な痛みが全身に伝わって、椅子から転げ落ちた。
「ぐ……ぁ‥…」
「本日のお夕餉はいかがでしたか?」
そう言ってダイニングに戻って来た天城が目にしたのは、三笠が腹部を押さえ苦しんでいる姿だった。
「三笠様!?」
直ぐに持っていたお茶を放り出して、三笠の元へ駆け寄る。
「腹が………痛い……」
「すぐに救急車を……」
天城が立ち上がろうとするも、三笠はぐっと腕を摑んだ。
「ダメよ。
「いけません!天城は今、運転できる自信がありません、救急車を!」
「いいや、タクシーを呼んで頂戴。ここからなら、すぐ行ける筈だから……軍病院に」
「は、はい……」
天城は立ち上がると、すぐにタクシーを手配して、まずは横須賀地方総監の未来に電話を繋いだ。
『もしもし?』
「未来さん、三笠様が……お倒れになりました!今タクシーで軍病院に向かうところです!」
『はぁ?救急車呼びなさいよ!』
「三笠様が、この手の腹痛は何度かあったと。だからタクシーでと」
『…母さんがそういうならしょうがないわね、言って聞くような人じゃないし。分かったわ、軍病院の山本少将に電話しておくわね』
「お願いします!」
―――――――
「大変なことになったわ」
「ダーリン、どうしたのデース?」
横須賀地方隊総監部の総監室に、未来が電話を切ったところで戻って来た金剛は、険しい表情を浮かべている未来に声を掛けた。
「母さんが倒れたわ」
「ホワッツ!?」
「とにかく、軍病院に向かうそうよ、急ぎましょう。ああ、大和も連れて行かないと」
「車を回して来るついでに、大和ちゃんに電話をかけマース!」
二人は、執務途中だった業務を切り上げて、私用車で横須賀から、東京の軍病院へ向かうのだった。
金剛の運転で、助手席は未来。後部座席には、軍に残った大和が座っている。未来は、すぐに湊へ電話を掛ける。
「もしもし?湊?」
『はいはい。姉さん、どうしました?』
「母さんが倒れたわ……嫌な予感がするのよ。名古屋にいる木曾と最上、龍驤、あとは結衣さん、
『わ、わかりました!パーソナルヘリで直接向かいます。こっちでSハウンドの千里には連絡します』
「頼むわね。金剛、大急ぎで飛ばして!あと不知火にも電話しないと」
「わかったのデース!」
「もしもし、不知火?母さんが倒れたわ。今、家?」
『えっ……は、はい……』
「龍さんは?」
『龍は今日、視察で帰るのが遅くって……さっき電話したら電話に出ないので……』
「分かったわ、そっち寄る余裕ないけど」
『不知火は大丈夫です、免許持ってますから』
「ならいいわね、軍病院よ。急いで頂戴」
『は、はい!」
―――――――
湊は、丁度
電話を受けたあと、さぞや青い顔をしていたのだろう、電と睦月が顔を覗き込む。
「「どうしたの?」です?」
「母さんが倒れました……」
「えっ……!?」
「ヘリを準備させてくるね!」
結衣が立ち上がると、軍払い下げの輸送ヘリの準備に向かった。
「電は、村上建設の皆を呼んで来るのです。むっちゃん、一緒に行くのです」
「う、うん!」
二人は慌てて立ち上がると、外に走って行く。
湊は、すぐに
エナツキハウスのセキュリティカードで中に入ると、キッチンで生放送をしてる面々に、ダイニング&リビングから顔を出して、小さい声で、
「真由ちゃん、ちょっとちょっと」
と手招きする。
「あ、湊さん、どうしました?」
と恵奈と二人でやって来たので、二人に耳打ちをする。
「母さんが倒れました。悪いけど、真由を借りて行きますね?」
「は…はい…」
「三笠さんが……?わかりました」
龍驤と木曾と最上がやって来る頃には、三笠は病院に到着しており、
今日を越せるか越せないかという、医師の診断だった。
心配そうに、生放送を切り上げて様子を見に来てくれたエナツキにも、危篤状態ということを伝えると、マネージャーの仁美が、
「エナツキの皆さんは、こちらで三笠さんの無事を祈っています」
「何かお役に立てるかも知れません。私も同行しましょう」
エナツキを代表して湊に声を掛けると頷いて、同行する虎子等と共に、ヘリポートに向かった。
―――――――
「お待たせしました」
タクシーはすぐにやって来たが、三笠は立ち上がれずにいた。
運転手と天城が両肩を貸して、漸くタクシーに乗り込むことが出来た。
「救急車じゃなくて、良いんですかねえ?」
運転手が心配そうに声を掛けるも、
「大丈夫だ……軍病院に頼む」
「大急ぎでお願いします!」
天城の声に運転手も、
「わかりました。飛ばすので、ちょっと揺れますよ!」
そう答えて、大急ぎで車を走らせてくれた。
タクシーの自宅到着は短時間だったが、タクシーの中での三笠は、どんどん顔色が青白くなっており、
もう意識もほとんどない状態だった。
滑り込むように軍病院に到着すると、先に到着していた不知火や病院スタッフが、すぐに三笠をストレッチャーに乗せる。
「何で救急車を呼ばなかったんですか!?」
当直医師に天城は責められたが、意識の殆ど無い三笠に、
「いや……止めたのは私だ」
と言われれば、これ以上責めるべきではない、とすぐに処置室に搬送した。
間もなく未来達が病院に駆け込み、それから1時間半後に湊達と千里も、病院へと到着した。
その頃には、一時安定していた容態が、急激に悪化していた。
医師は、手術は間に合わないと判断して、痛みを和らげる方法に切り替えた。
大量の輸血を行って、血圧を保っている。
同行していた虎子も、軍病院からの申出で、延命処置の手伝いを行っていた。
彼女も
呼吸が荒くなり、意識が無くなっていた三笠の両手を、結衣と未来と湊が握り締め、他の高梨艦隊の面々も、三笠の側にいた。
艦娘達は涙を流し、天城に至っては、崩れ落ちるように座って自分を責めながら、泣き声を上げている。
その様子に、高梨艦隊の艦娘達や
その時、ふっと三笠の目が覚めた。
「湊……未来……それに結衣。私は十分に生きた……波乱だったが楽しい生だった……」
「お願い!死なないで!!」
「死ぬのはまだ早いでしょう!?」
「貴女は、殺しても死なない筈だよ!」
湊と未来、そして結衣が涙を流しながら叫ぶ。
「天城……こっちに来なさい……」
「は……はい……」
フラフラと、三笠の元に歩み寄る天城の手を握って、穏やかな笑みを浮かべる。
「世話を掛けたわね……」
「いえ、天城は……三笠様のお側に居られて幸せでした…」
「大和、最上、龍驤、不知火、木曾……今までありがとう」
天城に寄り添っている、高梨艦隊の皆にも、笑みを向ける。
「三笠さん……」
「高梨提督みたいに、死ぬような人間の言葉なんて…ボクは……」
「苦しいんやろ、じっとしときぃや……見てて辛いわホンマ…」
「三笠さん……お母さん…………」
「こう言った無理は、ほんと提督譲りだぜ」
艦娘達も、口々に言葉を掛ける。
「平林先生、世話を掛けたわね。済まないわ」
「いえ、お救いできずに申し訳ありません」
「無理なものは無理よ。無理なものを救おうとして努力するのは、技術と労力の無駄よ」
「……」
虎子は、涙を流さないように、ぐっと目を閉じている。
「死んだあと…病理解剖をお願いして頂戴」
「わかりました、手配させていただきます」
三人の『
「千里……これからの軍は頼んだわよ」
「はいっ」
「真由ちゃん、いつも楽しい放送と動画ありがとう。いつも見てたわ」
「……はい、恵奈にも伝えます」
「
「……かあさん…かあさんは悪くなかった…」
「……ありがとう」
それぞれに声を掛け終わると、三笠はやり遂げたといった顔をする。
「思い返せば楽しい人生だったわ……これより提督のところに赴く……」
その言葉を最後に再び意識を手放し、バイタルメーターの心拍数も次第に弱くなって、ピー………という音が鳴り響く。
ここに、
「母さん……そんな……」
「嘘でしょ!嘘だと言ってよ!」
「母さん!!!」
三人姉妹の慟哭に、全員が涙している。
「う……うああああ!!!三笠さまぁ……天城の……天城のせいで!!」
天城は自らを責めるように大きな声で泣いている。
それを気遣うように、虎子と高梨艦隊の艦娘達が優しく抱き締める。
バタンと扉が開かれ、安藤龍が入ってくる。
「……逝ってしまわれたか……」
「………」
不知火が、涙を流しながらコクリと頷いた。
「おそらくは急性心不全。激痛は大動脈解離ね。
「そうか………」
安藤も涙を流していた……
病理解剖室に運ばれる三笠の遺体を見送りながら、未来は皆に声を掛けた。
「悪いけど、お屋敷に戻ってもらえる?結衣さん、色々手配をお願い」
「わかったよ。湊ちゃんと未来ちゃんと
「お願いします……」
そう言うと、安藤と不知火と未来の車に分乗して、皆は高梨邸に帰って行った。
すぐに病理解剖が行われた。それには虎子も立ち会った。
腹腔内に溜まったおびただしい血液、それに大動脈の解離……体中が、今までの無理が積み重なって、
「救急車を呼んだとしても、救命不可能でしたね。《艦娘の強靭な身体と輸血で延命できた》、と結論付けます」
それが病理医の見解で、虎子もそれに頷いた。
その後、看護師に依るエンゼルケアを施された遺体は、霊安室へと運ばれた。
霊安室に二人で入ると、手を合わせてから三笠を挟むように座った。
顔に乗せてある、白い布を退けると、
「お疲れ様でした、母さん」
「苦労を掛けたわね、母さん」
そう労いの言葉をかける。
「………母さんには無理をさせ続けてましたね」
「もっと早く気づくべきだったわ。艦娘だって、
「……お願いします」
その言葉から、暫しの沈黙が流れる。線香の匂いの立ち込めた霊安室……
「私は、母さんのことが嫌いでした。一度だけ母さんを頼った時も、嫌でした」
ぽつりと湊が語り出す。
「……わかるわ。でも、私達を心配しなかった日はなかった、と思うわ」
「………ええ」
「でも―――許せてよかったでしょう?」
「……はい」
「屋敷は引き続き私が住むわ。天城にも、引き続きいてもらうようお願いするわね。……会社は任せたわよ」
「……はい。母さんのやってきた事業は、必ず
「……明日から忙しいわね」
「そうですね。お通夜とお葬式と、色々手続きをしないと」
「忙しければ悲しみも紛れるもの……」
二人の娘達は、三笠の顔を眺めながら、思い出話を朝方まで語り合った。
1話では終わりませんでした。
次回こそ最終回です。