病院から帰った面々は、皆一様に重く暗い表情だった。
天城に至っては、車から立ち上がることも出来ないほど憔悴し切っており、
最上と木曾が、抱き抱えて邸内に連れて行くくらいであった。
結衣は高梨邸に戻ると、すぐ艦娘達に、天城を寝かし付けるよう頼むと、
不知火と虎子が皆のお茶の準備を、
そんな中、安藤と結衣は各所に連絡をせねばならなかった。
まず、葬儀屋に連絡を取った。
高梨
「お通夜くらいは、家族や周辺だけでやりたいよね?」
二人の心情を慮った結衣が「葬儀は政府・軍と相談、通夜は親しい者たちだけで」
そう手配したのだ。
すぐに駆け付けてくれた葬儀屋と、簡単な打ち合わせを終えてリビングに戻ると、
安藤は電話すべきリストを作って、電話を掛け始めていたところだった。
「もしもし。夜分遅くに申し訳ありません、大垣大臣」
『…安藤くんか、何があった?』
「昨夜23時42分、三笠退役元帥がご逝去されました」
『なっ!?それは本当か!?』
「はい、死因は大動脈解離の一種だとか。今、病理解剖をしているところです」
『分かった。こちらから、大淀総理には伝えておこう。一緒に顔を出させてもらう』
「はい、わかりました」
「天城はん、漸く寝てくれたで。今、最上と木曾と大和が様子を見てくれてるで」
電話を終えた頃に、リビングに龍驤が戻って来た。
それから、更に関係各所に電話をすることになった。
それと共に安藤は、三笠の書斎に入り、抽斗を開けて
『遺言状』だった。
「もし、私が寿命とやらになった場合、必要なことは書いて置くから、遺漏なく執行して欲しい」
と、冗談めかしてその存在を、安藤と不知火に伝えていたのだ。
「これか……」
古典的な和紙に包まれた遺言状。
「
一緒にいた不知火が、ポツリと漏らす。
「あの人は義理堅く、周囲に気を遣われる方だ。何があってもいいように、万全を期していたのだろう」
「開封は、
「もちろんだ。私は
「……はい」
二人が遺言状を携えて戻って来ると、リビングに虎子と大垣守と大鳳、それに大淀がやって来ていた。
「龍、病理解剖の結果、やはり大動脈解離だったわ。今まで無理をされてきたんでしょう。《艦娘特有の症状かもしれない》、と医師として、所見を述べさせてもらうわ」
「安藤くん、この度はなんと言ったらいいか……」
「安藤長官、差し当り明日の臨時閣議で、政府・軍部葬にすることにさせてもらうことになるでしょう」
その言葉に、結衣が待ったを掛ける。
「それ、遺言状でしょ。ちょっと未来に電話を掛けるから、待ってて」
結衣は
「もしもし、未来?結衣だけど、遺言状、開けていいかな?それによっては、通夜も考えないといけないから」
『ええ、お願いするわ』
「分かった」
電話を切ると、天城も起きて来た。
もちろん、木曾等も一緒だ。
「天城さん、大丈夫?」
「はい……」
結衣の気遣いに、天城は暗い顔ながら頷いた。
「天城さん。病理解剖の結果、救急車を呼んでも間に合わなかった、と判断付けられたわ」
「……そうですか……」
それだけでも、天城にとっては救いだろう。
木曾がぽんと肩を叩くと、天城は部屋の片隅に座った。
「それでは、遺言状を開けるね」
結衣がそう言うと、艦娘達も卓袱台の周りを取り囲んだ。
遺言状には、こう書かれていた。
『通夜は近親の者のみで執り行うこと。葬儀は大淀総理大臣と大垣防衛大臣に相談の上行うこと。
また通夜にはメディアを中に入れず、大ファンのエナツキに通夜・葬儀の配信を依頼したい。
遺産は、未来に屋敷の権利を、湊には生前贈与した会社を託す。
残りの遺産は、高梨
高梨艦隊六娘に、残りの半分を分配するものとする。
後はお願いになるのだが、天城には引き続きこの家で未来の手助けをして欲しい。
残りの詳細は以下に示す』
その内容を上げた後、半年前の日付が書かれており、三笠のサインが
その内容を結衣が読み上げると、天城が涙を零した。
「亡くなってまで天城のことを思ってくださって……天城は………」
「恵奈達を呼ばないといけないですね?」
「そうだね」
真由の言葉に結衣が同意すると、真由は部屋を出て恵奈に電話を掛け始める。
朝方、三笠の遺体と共に、未来と湊が帰って来た。
三笠にとっては、無言の帰宅である。
家に待機してくれていた葬儀屋と共に、元帥礼服に着替えさせ、布団に寝かせる。
家に帰った頃には、結衣と安藤と不知火が起きており、
大垣と大淀は、一旦辞して早朝に緊急閣議を開く、とのことだった。
葬儀屋に準備を任せて、通夜が行われる大広間を後にすると、リビングに戻った。
「安藤先輩、色々ありがとうございました」
「いや、生前
「結衣姉さん、色々助かったわ」
「よかよか。今遺言で、エナツキを呼び寄せてるところだから」
「「遺言?」」
その言葉に、二人で遺言に目を通した。
「母さんらしいわね」
「そうですね」
バカ真面目で、ちょっぴりユーモアのある遺言に、二人でフフッと笑った。
扉が開かれる音がすると、数人の足音が屋敷に木霊した。
「失礼します」
エナツキの面々である。矢部のレクサスと、仁美が運転する結衣のヴェルファイアとに分乗して、連れられて来たのだ。
学生組は制服で、元艦娘達は艦娘の制服を身に着けている。
「この度はご愁傷さまでした」
エナツキを代表して、お悔やみの言葉を述べる恵奈。
「遠くから有難うございます。お通夜もあるし、皆離れで休んで」
湊の気遣いに、恵奈は「いいえ、MUMU東京オフィスの和室を借りましたので、そこで仮眠を取ります」
そう答えて、首を横に振った。
「気を遣わせて済まないわね」
未来が、恵奈の頭をポンと撫でた。
「それでは、またお通夜で」
早朝、エナツキアカウントのツイッターで、三笠こと高梨若奈逝去の一報が発信された。
その後、政府が公式発表し、早朝からテレビでは特番が組まれることになった。
政府からの、通夜のメディア
他に、週刊誌等の記者が通夜に訪れたが、元海兵旅団日下部退役大佐等
お通夜の様子は、MeTube Liveで、エナツキメインチャンネルとして放送した。
この放送での投げ銭の収入は、全て慈善団体に寄付する、と高梨家・MeTube社・エナツキが連名で明言した為、いつも以上にスーパーチャットが賑わう事になった。
「エナツキ恵奈です。これからお通夜が始まります。コメントにはお返事できませんので、ご了承ください」
お通夜が始まる前に、それだけ固定カメラの前で喪服姿の恵奈が語ると、一番うしろの座布団に腰を下ろす。
通夜はしめやかに行われ、通夜の後、食事会になった。
恵奈達は離れを借りて、エナツキニュースで仁美を含めた11人で、追悼特番を行っている。
食事会には、喪主を務める湊・未来。
それと結衣に、高梨艦隊六娘、
盟友である大村退役大将、山本元帥、そして大垣守、その妻大鳳。
大淀に夕張の
皆口々に、思い出を語り始める。
はじめに、大垣が口を開く。
「私と三笠元帥の出会いは忘れもしない、横須賀だったな。その頃俺は暴走族のヘッドでな、抗争の最中に現れたのが、
その言葉にあっ、と声を上げたのが、黒井夫人だった。
「そういえば、有希は三笠元帥の警護官を務めていたことがあったな?」
黒井退役大将が、思い出したように夫人の顔を見る。
旧姓村上有希少尉はその後、大尉まで佐世保に所属し、独身だった黒井と結婚して退役し、黒井夫人となっていたのだった。
「思い出しました。大垣長官は、あの時三笠元帥と血だらけになるまで殴り合った、あの暴走族のヘッドの…
「ああ…黒井夫人があの時の警護官でしたか。いやあ、俺も喧嘩では負けたことがなかったが、あの頭突きは未だに覚えてますよ」
その言葉に、当時
「私達がお腹にいる時に、喧嘩してたんですか!?」
「そりゃあまあ…無茶するわね」
その言葉に、天城が腰に手を当てる。
「血だらけの三笠様が帰ってきた時には、びっくりしましたよ」
「天城に叱られた三笠さんは、シュンとなっていたな」
天城の言葉に、木曾が続ける。
「不知火は、三笠さんには無茶なところがあると常々思っていましたが、ここまで無茶だとは思っていませんでした……
「まあ、それが三笠はんって
龍驤がそう言うと、
「そんな
「いやあ、俺にも意地があるんで、やってやる!と思ってやってきた結果がこれで、我ながら呆れるくらいの意地の張り方だったな」
大和の言葉に大垣が続けると、皆に笑みが零れる。
「最初は儂と、高梨くんと、三笠、それに明石と夕張で艦娘本部が始まったものなぁ」
山本元帥がしみじみというと、大村退役大将も、
「私も、後輩の無茶振りに東奔西走させられたものだったよ」
懐かしそうに、思い出を語る。
「あの頃は、艦隊運営のいろはを模索している時で、手探りの毎日でしたね。そんな私が、今では行政の責任者になるとは、思いもしませんでした」
そう語るのは大淀総理大臣。
「私は、亡き高菜少将と三笠さんに憧れて軍に入ったのだ」
「先輩はよく言ってたもんね」
安藤の言葉に、結衣も懐かしそうに語る。
そして、娘達が母親像を語り合う。
「最初はひどい母親だと思っていましたよ」
と、言うのは現当主の湊の言葉。
「自分にも他人にも厳しすぎる人だったわ」
これは、家を相続する未来の言葉。
「結衣にとっては、
「不知火もです」
穏やかに話す結衣の言葉、それに不知火も同意する。
「兎に角自分に厳しいお方でした」
最後まで、側で前線で戦い続けた大和の言葉。
「天城は最初専属秘書艦でしたが、お家では優しい妻であり母親でした」
そう天城が懐かしそうに語る。
「訓練は厳しく、その後のアイスは自分持ち。
「僕もそう思うよ」
「せやな」
木曾と最上と龍驤が口々に語る三笠の思い出。
「優しい かあさんでした」
小さく呟くように言った、六歳までの
「そう、やさしい母さん。
その、海来の頭を撫でながら続ける湊。
「バカまじめで、許すって言ってるのに謝りに来るくらい、ちょっと鬱陶しいほどの愛情を注いでくれたと思うわ」
湊の言葉にもっと不器用よ、と言わんばかりの未来。
「私は、
「私もよ」
その晩は、朝まで語り合う事になった。
エナツキ特番に、時折通夜の面々が顔を出しながら、翌朝の出棺まで生放送が続くことになって……
その番組で、矢部晋太郎は彼女をこう評した。
「正義に生き、愛に生き、誠に生きた人生だった」と。
その日の葬儀は、政府・軍部葬として盛大に行われた。
大淀総理を始め、大垣大臣、軍部の高官等、多数が出席していた。
国民の一部も、葬儀会場である築地本願寺に詰め掛けて、軍神の死を悼んでいた。
天皇陛下もご臨席されて、ご弔辞を賜り、正二位・大勲位菊花章頸飾が追贈された。
そして、高梨
―――――
三笠は、ふと目を覚ました。背後に川が見えて、もう
眼の前には、あの時と同じく、高梨提督がニコニコと笑みを浮かべている。
「提督っ!!!」
飛び込んで抱き締めると、高梨提督は優しく頭を撫でた。
「今までよく頑張ったね。私の愛する妻であり、艦娘の母としてのお役目、ご苦労さま」
「はいっ!」
「三笠様、本当にご苦労様でした」
その隣には、田伏晶が笑みを湛えて控えていた。
「有難う、晶……あと、ごめんなさい」
「いいえ。わたくしはお嬢様達をお守りできませんでした。こちらがお詫びせねばならないところです」
「いいの、時代が悪かったのよ。貴方の仇は十分に取ったわ」
「さあ、行こうか」
二人は手を握り合って、晶はそれに付き従ってモヤのかかる方へと歩いて行き、姿が見えなくなった。
きっと
―――――
深海棲艦がいなくなり平和になり。
三笠と高梨提督が逝ってしまったこの世界、今日も変わらぬ日常が続くだろう。
きっとこれからもいい艦娘日和になるだろう。
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それから10年後…
人が過ちを繰り返す限り艦娘
今度こそ『続・日和』は完結しました。